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O plus E誌 2020年9・10月号掲載
 
 
『TENET テネット
(ワーナー・ブラザース映画)
      (C)2020 Warner Bros Entertainment Inc.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [9月18日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開中]   2020年8月31日 大手広告試写室全(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  このVFX軽視は,当初からの計画通りなのか?  
  こちらも待ち遠しかった作品だ。何しろ,いま最も観客を呼べるクリストファー・ノーラン監督の最新作である。当欄では,監督デビュー作の『フォロウィング』(98)以外は,全作品を取り上げている。映画界に確固たる地位を築いたのは,バットマン新3部作の『ダークナイト』シリーズの成功である。それ以降のアメコミの実写化作品はすべて影響を受けていると言って過言ではない。その後も,『インセプション』(10年8月号)『インターステラー』(14年12月号)『ダンケルク』(17年9月号)と,テーマや趣向を変えて楽しませてくれた。
 このコロナ禍では,劇場公開しても観客が少なく,大作は興行的にペイしないため,ハリウッドメジャーは公開をどんどん遅らせ,来年まで待たせているケースも少なくない。そんな中で,ディズニーのようにネット配信にせず,予定通り劇場公開してくれるのは嬉しいことだ。ワーナーのこの姿勢は拍手ものだ。前人気を煽るためか,この夏は過去のノーラン作品も劇場で再公開されて,人気を呼んでいた。IMAX等の大スクリーンに適した大作が多いから,いい企画だったと思う。
 新作のテーマは,第3次世界大戦による人類滅亡を阻止するという危機回避サスペンスと,時間逆行のSFを絡めたものだという。『メメント』(01年10月号)以来,時間軸を切り刻んで自在に扱うのは,この監督の得意技だ。きっとVFX的にも斬新なビジュアルを見せてくれるだろうと,大いに期待していた。ところが,本作も衝撃のニュースが舞い込んできた。この映画でCGを使ったシーンは,普通のラブコメ並みで,たった280カットだという。当欄が取り上げる最近のVFX大作では,1,000カット以上はざらで,中には2,000カットを超える映画もある。280カットとは,おいおい本当かよと驚き慌てた。
 VFX専門誌Cinefexの12月号に,本作が掲載されることは,既に予告されている。となると,数ではなく,質で勝負なのか? それなら,CG/VFXを使わざるを得なかった280カットは,相当レベルが高いに違いない。そう考えて,該当シーンを熟視することにした。
 主演は,『ブラック・クランズマン』(19年Web専用#2)で初主演したジョン・デヴィッド・ワシントン(写真1)。あのデンゼル・ワシントンの息子である。同作の相棒は白人のアダム・ドライバーだったが,本作の共演は『トワイライト』シリーズ(08∼12)のロバート・パティンソンで,2人が第3次世界大戦阻止のミッションを受けて行動を共にする。またしても定番の黒白バディものだ(写真2)。助演陣では,ケネス・ブラナー,マイケル・ケインといったノーラン作品に既出演の名優が登場する。
 
 
 
 
 
写真1 主演のJ・D・ワシントンは,デンゼル・ワシントンの息子
 
 
 
 
 
写真2 相棒は、新バットマンに抜擢されたR・パティンソン
 
 
  未来では「時間の逆行」装置が開発され,人や物を過去に送れるようになっている。未来からやって来た敵と戦い,「時間のルール」から脱出して,時間に隠された秘密を解き明かし,人類の危機を救うのがミッションで,そのキーワードが「TENET」という設定だ。元はラテン語の回文「SATOR AREPO TENET OPERA ROTAS」の一部で,他の「SATOR」や「ROTAS」等も人名や社名に使われている。マニア向きの趣向だ。
 以下,当欄の視点からの感想と論評である。
 ■ 未来から来訪者と言っても『ターミネーター』シリーズのような単純なタイムワープではなく,時間を逆行する事物と普通に順行する事物を同じフレーム内に混在させているのがミソだ。即ち,主人公たちの目に前のシーンの一部に時間が逆行した事物が登場する。映像を逆回しにして合成するだけなら,技術的にさほど難しくはない。この概念を最初に説明するシーンは,素材として拳銃の銃弾を使っているが,これは実弾の落下の逆回しではなく,恐らくCGだろう。主演の2人を大型のパチンコのような装置で空中に放り出し,ビルの中層階に運ぶ場面は,言うまでもなくCG/VFXの産物だ。二転三転して炎上するクルマはCGか実物か,すぐに識別できないが,いずれであっても不思議はない(写真3)
 
 
 
 
 
写真3 二転三転して炎上するクルマも実物か?
 
 
  ■ ジャンボ機を空港の格納庫に激突させるシーンでは,CGを使わず,実機を購入して実写撮影したことをウリにしている(写真4)。ただし,現役機ではなく,解体寸前の引退機で,空港内を自走できなかった代物らしい。衝突対象の格納庫を大破させる訳には行かないためか,ここは余り迫力のないシーンに留まっていた。これなら,全部CGで描いた方が遥かに迫力ある演出になったはずだ。なるほど,これじゃ並みの映画だ。
 
 
 
 
 
 
 
写真4 CGでなく,ジャンボ機を購入して激突させた
(C)2020 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved
 
 
  ■ アクションシーンでの時間逆行は,かなり分かりにくかった。見慣れていないための違和感というだけでなく,ここは見せ場の映像的演出が不十分だと言わざるを得ない。ノーラン監督なら,観客をあっと言わせる大掛かりなスペクタクルで,時間逆行の不思議さを描いてくれてしかるべきだ。大手DNEG社担当のVFXが,こんなに平凡な出来のはずがない。そこで気がついたのだが,今年に入っての仕上げ期にウイルス騒動となったため,作業要員不足で計画していた派手なビジュアルが達成できず,最低限の後処理で済ませたのではないか。ラブコメ並みのVFXという監督発言は,そのカムフラージュに過ぎないと考えるのは,邪推だろうか?
 
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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