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O plus E誌 2016年6月号掲載
 
 
デッドプール』
(20世紀フォックス映画)
      (C) 2015 Twentieth Century Fox Film Corporation
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [6月3日よりTOHOシネマズ日劇他全国ロードショー公開予定]   2016年5月10日 GAGA試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  ちょっと異色の新ヒーローの登場,VFXも上質  
  またまた新しいアメコミ・ヒーロー映画の登場である。この数年間に当欄で何本紹介しているのか,すぐには数えられないほどだ。一見すると,主人公は冴えないヒーローだ。スパイダーマンを真似たような赤いコスチュームだが,少し安っぽい。予告編を観ても,何やらおふざけ調で,『キック・アス』(10年12月号) のようにスーパーヒーローに憧れる青年が主人公で,これはパロディ映画かと思った。ところが,彼はれっきとしたマーベル・コミックが生み出した人気キャラなのである。
 最近 『X-Men』シリーズ,『アベンジャーズ』シリーズが契機となって,日本でもアメコミ・ファンが急増しているらしい。映画だけでなく,元のコミックを入手したり,タイアップしているビデオゲームを心待ちしているファンも少なくないようだ。映画を追うだけで精一杯の筆者は,このキャラの名前を知らなかったが,既にアメコミ・ファンの中では親しみやすいキャラとして人気が高いそうだ。マスコミ試写会には,取材記者らしき人物が,このデッドプールのTシャツを着て来場していた。既に日本でこのTシャツを売っているということだ。
 元は特殊部隊の傭兵だったウェイド・ウィルソンは,ある日末期ガンで余命僅かとの宣告を受ける。そのガンを治す人体改造実験を受けたところ,キャプテン・アメリカ級の運動能力(写真1),ウルヴァリン並みの傷の治癒能力をもつことになる。空を飛べる訳ではないが,人体改造で超人的な能力が備わったという点では,スパイダーマンやハルクに近い。とはいえ,通常のヒーローたちとは違って,特に人類の平和と正義のために戦う訳ではなく,あくまで自己都合や報酬目的で行動する。かなりいい加減な性格のキャラで,口数が多く,時には読者や観客にも語りかけてくる。
 
 
 
 
 
写真1 人体改造で,こんなジャンプも可能に
 
 
  監督は,これが長編作品デビューとなるティム・ミラー。CG/VFX分野の出身で,CM,ゲーム,映画のタイトルバック映像等を手がけてきた。主演は,筋肉マンのライアン・レイノルズ。同じくアメコミ・ヒーローを演じた『グリーン・ランタン』(11年9月号)は大失敗作であった。当欄では「主演のライアン・レイノルズが貧相で魅力に乏しい」とまで書いている。本作でそのリベンジを期した訳だが,剽軽な役柄であったことも味方して,北米の興行収入では見事な結果を残している。
 後で知ったのだが,本作以前に彼はこの役を演じている。『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』(09年9月号)のDVD を見直したら,冒頭シーケンスで,特殊部隊の一員ウェイドとして登場し,敵の本拠地内で二刀流の刀技を披露し,銃弾をはじき飛ばしていた。ファンには,これが後のデッドプールと分かる役柄である。原作コミックでもX-Menらとの交流は多く,本作も『X-Men』シリーズのスピンオフ作品として企画されたものだ。
 以下は,CG/VFXを中心とした感想である。
 ■ 前半はコメディタッチの演出で,オマージュやパロディも満載だった。堂々とセリフの中に他の映画名,ヒーロー名が登場し,俳優名まで出て来る。カメラに向かい,観客にも語りかけてくるが,大して面白くない。中盤で,末期ガンの手術を受けるあたりから俄然面白くなる。人体改造後は,さすがに見応えのあるシーンの連続で,こうなると所々のギャグも生きてくる。
 ■ CG/VFXの主担当はDigital Domainで,他には Atomic Fiction, Blur Studio, Luma Pictures, Rodeo FX, Weta Digital, Ollin VFX, Image Engine等が参加している。その数に見合うだけのVFXシーンが用意されているが,特徴的なのは顔の扱いだろう。マスクを脱いで素顔を見せるシーンは本物のマスクだが,他のシーンの大半は,俳優はマスクなしで演技し,CGでマスクを描き加えている。一方,手術の後遺症でマスクの下の顔は醜い面相となるが,これは顔面への物理的な特殊メイクと電子的な顔面加工が半々のようだ。
 ■ 敵かと思った大男はミュータント仲間で,コロッサスというらしい。高いヒールを履き,マーカー付きスーツを着用しての演技にCGを描き加えている(写真2)。男女不祥に見える子供は,少女ミュータントのネガソニック・ティーンエイジ・ウォーヘッドである。彼女の武器である火炎の描写は秀逸で,見せ場の1つだ。2人とも今後の『X-Men』シリーズに登場するのだろう。
 
 
 
 
 
 
 
 
写真2 大男コロッサスはMoCap演技をCGで上書き(上:撮影画像,下:完成映像)
 
 
 
  ■ VFXの印象的なシーンを2つ上げておくなら,まずは回想シーンでも再三登場する高速道路上のチェイス,SUVの横転シーンだ(写真3)。ほぼ丸ごとCG描写だろう。もう1つは,終盤の攻防に登場する廃品処理工場の場面だ(写真4)。建物がCGであるのは当然として,上から見下ろした瓦礫のCG描写は圧巻だった(写真5)
 
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写真3 何度も登場する印象的な高速道路上の光景(右の2枚が完成映像)
 
 
 
 
 
 
 
写真4 3人で廃品処理工場へと向う。撮影時には2人だけ。(上:撮影画像,下:完成映像)
 
 
 
 
 
 
 
写真5 何度見ても,高架下の瓦礫の描写は圧巻(上:撮影風景,下:完成映像)
(C) 2015 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.
 
 
  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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