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O plus E誌 2004年11月号掲載
 
 
オールド・ボーイ
(SHOW EAST
/東芝エンタテインメント配給)
 
 
      (c)2003 SHOW EAST  
  オフィシャルサイト[日本語]      
  [11月6日よりシネマスクエアとうきゅう,有楽町スバル座他にて全国公開予定]    2004年10月22日 ABCホール(大阪)  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  日本発の素材を韓流が見事に料理した一作  
   クエンティン・タランティーノが審査委員長を務め,柳楽優弥少年が『誰も知らない』で最優秀主演男優賞を受賞するなど,何かと話題が多かった今年のカンヌ映画祭のグランプリ作品である。ブッシュ大統領をこき下ろした『華氏911』が最優秀作品賞の「パルムドール」に輝き,この韓国映画『オールド・ボーイ』の「グランプリ」とは審査員特別賞のNo.2なのである。『華氏911』の受賞は多分に政治的話題性に引きずられたきらいがあるから,実質的にはNo.1だったと言えなくもない。
 このカンヌ映画祭参加作品からは香港映画の『2046』(ブエナビスタ配給)を紹介するつもりだった。トニー・レオン,チャン・ツィイーに加えて,日本のキムタク(木村拓哉)が登場するSFと来れば興味が湧かないわけはない。ところが,未来社会はCGで描かれているものの出番はわずかで,何とも不可解な映画だった。あまり褒める点もないので,取り上げないことにした。
 さて,グランプリの『オールド・ボーイ』はというと,結論を先に言えば,全くVFXとは無縁なのだが,いま絶好調の韓流の充実ぶりを感じさせる秀作だった。当映画時評の対象ではないはずだったのに,こうなったのには原因がある。韓国出身の某大学助教授が「日本のコミックが原典で,CGが満載」と紹介してくれたからである。このR先生は一体どこを観ていたのだろう?
 土屋ガロン[作]嶺岸信明[画]で,1996年11月から98年7月まで「漫画アクション」に連載された同名の劇画が原作である。それが翻訳されて韓国で出版され,こうして映画化されて大きな賞を受賞し,早速ハリウッド大手が目をつけて,ユニバーサルがリメイク権を得た。
 監督・共同脚本は『JSA』(00)を大ヒットさせたパク・チャヌク(朴賛郁)。理由も分からず私設監獄に15年間も監禁され,突如解放された中年男オ・デスを演じるのは,『シュリ』(99)に北朝鮮兵隊長役で登場した名優チェ・ミンスク(崔岷植)。人生を賭けて15年待った不思議な男イ・ウジンに,『リメンバー・ミー』(00)『リベラ・メ』(00)のユ・ジテ(劉智泰)。そして,キャスティングでの最大の収穫は,オ・デスの若き恋人ミド役に抜擢されたカン・へジョンの可憐かつ大胆な演技だ(写真3)。まだ22歳で,かなりの美形だから,今後も多数の映画でお目にかかることになるだろう。
 
     
 
 
 
写真1 なぜか中年男を慕うこの美少女
(c)2003 SHOW EAST
 
     
   こんな若い娘がなぜ小汚い中年男を慕うかの答えは,映画の中に隠されている。この映画の魅力の第一は,15年間(原作は10年間)の監禁の理由とそれを突き止める復讐劇のプロットだ。通常の映画2本分以上を詰め込んだという脚本は,じっくり考える暇を与えないミステリー仕立てのサスペンスで,主人公の当惑をうまく表現している。そして,原作とはかなり違うという結末もまた衝撃的だ(ネタバレになるので,書く訳には行かないが)。不思議な余韻が残る映画である。
 このストーリーが気に入り,早速原作コミック全8巻を購入して一気に読んだ。原作の方がハードボイルド・タッチで,謎を突き止める過程,ミドに迫る危機の描写は上だが,約2時間の映画なら止むを得ないところだろう。むしろ,原作とはかなり趣きを変えた監禁理由や結末は,映画の方がよくできている。猥雑な韓国の風景は,この映画のテーマである「復讐」「罪」「悲劇」とマッチし,コミック,映画ともに好い味を出している傑作だ。
 かつて漫画雑誌7誌を欠かさず購読していた筆者も,この原作は知らなかった。いや,一部のファンを除いてそう大きな話題になった作品ではないらしい。それが韓国での映画化で発掘されるとは,つくづく日本のコミックは素晴らしいストーリーの宝庫なのだと再確認した。
 それを映画化の対象にできない日本映画界の非力さを改めて情けなく思う。これは業界構造が悪い,有能な人材が映画企画陣にいないからとしか言いようがない。いつまでも「××製作委員会」などという危険分散方式でお茶を濁しているようでは,韓国に大差をつけられる。
 カルト的作品までは発掘できなくても,コミックの名作だけでも実写映画化できないものだろうか。自前で無理なら,人材は韓国に,資本はハリウッドに求めて共同製作でいいではないか。手塚治虫の『火の鳥』は,S・スピルバーグやP・ジャクソンが製作・監督すれば,壮大なファンタジーシリーズになるだろう。白土三平の『忍者武芸帳』をジョン・ウーやマイケル・ベイが最新の VFXを駆使して映画化すれば,大スペクタクルの歴史アクションになると思う。
 そんな想像まで膨らませつつ日本映画の低迷を嘆いてみたが,ともあれ,この韓国映画は観て損はない。
 
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