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O plus E 2018年Webページ専用記事#5
 
 
ヴェノム』
(コロンビア映画 /SPE配給)
     
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [11月2日よりTOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー公開中]   2018年10月11日 TOHOシネマズ梅田[完成披露試写会(大阪)]
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  一見二重人格,実はパラサイトのダークヒーロー登場  
  アメコミ・ヒーロー大作は,かつてはGWと夏休み前後が多かったが,作品数が多くなり,それでは収まらなくなってきた。今年はマーベル・ヒーロー映画が既に3本されたが,さらにこの時期にもう1作残っていた。ただし,ヒーローではなくヴィラン(悪漢)が主人公のスピンオフ作品である。その名は「ヴェノ厶 (Venom)」。スパイダーマンの宿敵で,原作コミックのファンには人気No.1の悪役だそうだ。
 ソニーピクチャーズ配給の「スパイダーマン」シリーズが,ディズニー傘下の本家マーベル・スタジオ製作となり,マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)作品群として扱われるようになったことは既に述べたが,本作はその扱いを受けていない。どうやら,複雑な契約上の問題があるようだ。アンチヒーローのヴェノムを主役とした映画は,サム・ライミ監督担当の第1期『スパイダーマン』シリーズのスピンオフ作品として計画されていたらしい。ところが,同シリーズが6作中の3作で終わってしまったため,本作は無期限延期となってしまった。続く『アメイジング・スパイダーマン』シリーズでも4作目に予定されていたが,こちらはわずか2作でシリーズ打ち切りとなって,本作は再度オクラ入りしてしまったという訳だ。そして,何やら消化試合のような感じで,この秋にようやく新登場である。
 この悪役キャラ自体は 既にトビー・マグワイア主演の『スパイダーマン3』(07年5&6月号)に登場していたようだ。「ようだ」というのは,実のところ,全く記憶にないからである。同シリーズの敵役は,1作目のウィレム・デフォーが演じる「グリーン・ゴブリン」が格調高く,2作目の『スパイダーマン2』(04年8月号)の「ドクター・オクトパス」も個性的な悪役で,両方ともよく覚えている。 3作目は3人のヴィランが登場という触れ込みだったが,内1人はグリーン・ゴブリンの息子でピーター・パーカーの親友のハリーが「ニュー・ゴブリン」として敵役で登場した。途中で誤解が解け,クライマックスではピーター/スパイダーマンを助け,残る2人の敵と戦う。1人は巨大な砂男の「サンドマン」だが,どうやら残る1人が「ヴェノム」だったらしい。当時の紹介記事中でも全く触れていない。2:2のタッグマッチの一番地味な役で,スチル画像も全く提供されなかったため,印象が薄かったのだろう。どうやら,同作で少しだけ顔見せしておいて,次なるスピンオフ作品で主役に据えるつもりが,計画倒れに終わってしまった話だ。
 さてさて,積み残し作品とはいえ,晴れて単独の主役として登場する以上,それなりの俳優を配するはずだと思ったが,何と人気俳優のトム・ハーディだった。『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(15年7月号)『レジェンド 狂気の美学』(16年6月号)等,主演作が続き,いま最も売れっ子男優の1人である。これじゃ,現スパイダーマン役のトム・ホランドより,かなり格上だ。ただし,MCUとの契約上の関係なのか,本作にはその新生スパイダーマンは全く登場しない。
 ヴェノ厶は,意志を持った液体型の地球外生命体(写真1)であり,地球上の人間に寄生して超人的な能力を発揮するという設定だ。エイリアンとは呼ばずに,このパラサイト生物は「シンビオート」と呼ばれている。正義感が強いジャーナリストのエディ・ブロックが,人体実験中の被験者と接触し,シンビオートに寄生されて,凶暴なヴェノムに変身する。彼にはヴェノムの声が聞こえ,時にエディ,時にヴェノムとして振る舞う。他人から,二重人格者のように見えるのは,2人の人格が1つの身体に共存しているからだ(写真2)。このため,クランク・ケント=スーパーマン,ピーター/パーカー=スパイダーマン,トニー・スターク=アイアンマンのような関係ではない。
 
 
 
 
 
写真1 ライフ財団の実験室の登場したシンビオート。液状で,クネクネと形を変える。 
 
 
 
 
 
写真2 共生しているエディとヴェノ厶。時々こうやってヴェノ厶が顔を出す。 
 
 
  監督は,『ゾンビランド』(10年8月号)『L.A.ギャングストーリー』(13年5月号)のルーベン・フライシャー。完全に変身したヴェノ厶の姿は勿論CGで描かれているが,声はT・ハーディの声を電子的に加工している。一方,日本語吹替版は,エディに声優の諏訪部順一,ヴェノムに中村獅童を配している。中村獅童がヴェノムの声とは,『デスノート』シリーズで,死神リュークが藤原竜也の夜神月に語りかけるシーンを思い出させる作戦なのだろう。うまい手だ。
 ヒロインは,エディの彼女アンでミシェル・ウィリアムズが演じている。こちらも売れっ子俳優だが,一作毎に美醜がかなり異なる。本作は,さほどチャーミングでない方のミシェルだった(笑)。敵役は,人体実験を行なっていたライフ財団のリーダーのカールトン・ドレイクで,リズ・アーメットが演じている。いや,正確に言えば,彼に寄生したシンビオートのライオットが真の悪役で,クライマックスは,ヴェノム対ライオットの闘いとなる。
 スパイダーマンの宿敵といってもスパイダーマンは出ないし,ヴィランとして徹底して凶悪な訳ではない。主演にT・ハーディを選んだ以上,彼の魅力も出さなくてはならない。そのため,エディの正義感溢れる態度とヴェノムの凶暴さを対比させているが,どことなく中途半端だ。エディの性格が勝って,強盗を撃退するシーン(写真3)もあれば,ライオットを倒して結局は地球を守るのだから,これじゃヒーローではないかと思えてしまう。よって,ヴィランというより,本作に関しては「ダークヒーロー」と言った方が適している。
 
 
 
 
 
写真3 コンビニの強盗を懲らしめる痛快な行動も 
 
 
  以下,当欄の視点での評価である。
 ■ まず語るべきは,ヴェノムの外観だ。予告編で見ただけでかなり醜悪だ。原作コミックの姿(写真4)をかなり忠実に反映し,かつ3D-CGに向いたルックスに仕上げている(写真5)。剥き出した鋭い歯,醜悪そのものの長い舌,漆黒の光沢感のある頭部の質感等々,良い出来だ。一見すると,つるんとした頭部は『エイリアン』シリーズのゼノモーフ成体と似ているし,目鼻立ちはスパイダーマンにも似ている。蜘蛛の巣のような格子を出して戦うのもしかりだ。これは,原作コミックでは,まずスパイダーマンに寄生し,その後エディに棲み替えたため,スパイダーマンのDNAも引き継いでいるためである。本作ではそういう由来ではないので,胸の白く大きな蜘蛛マークがながなく,白い血管が透けて見えるようなデザインになっている。
 
 
 
 
 
写真4 原作コミックでは,胸の大きな白い蜘蛛がトレードマーク 
 
 
 
 
 
写真5 3D-CGでデザインされたヴェノ厶。醜悪ではあるが,どことなく愛嬌がある。 
 
 
  ■ 演出の要は,液状生物であることを活かした変身やアクションデザインだ。液状と言っても,粘性は高く,タールのような感じだ。『ターミネーター2』(91)の液状金属ロボットT-1000をかなり意識しているが,もっと素早く,自由自在に変形する。見どころの1つは,エディからヴェノ厶への変身中の共存する描写だ(写真6)。最近のCG/VFX技術なら何の問題もないが,やはりこの変身は何度見ても楽しい。何本もの触手が出ることを利用したダークコメディ(写真7)も嬉しいし,ヴェノムの動きも意図的に人間らしくなく描いている。逆に,何を言えば,動きが目まぐるし過ぎて,じっくり楽しみないという恨みだがある。  
 
 
 
 
写真6 エディからヴェノムへの変身の途中 
 
 
 
 
 
写真7 身体が自由に変形できると,こんなギャグシーンも可能に 
 
 
  ■ シンビオートは4体作られたが,勿論,ヴェノムについで力が入っているのは,カールトンに寄生したライオットだ(写真8)。鎌のような長い手をもっているのは,ヴェノムとの違いを強調したデザインにしたためだろう。クライマックスの2人の闘いは,言うまでもなく,CG/VFXのオンパレードである(写真9)。映画全編では約1,200ショット,質的には全く問題はないが,当欄としては少し不満が残った。個々のシーンに不満はないのだが,全体として同じようなパターンの演出が多く,少し退屈してしまう。ヴェノムも敵のライオットも同じシンビオートであるため,アクションデザインのバリエーションも限られてしまうのだろう。物語の展開もクライマックスの盛り上げも,すべてが想定内だ。これだけの大作で,アンチヒーローを主役にしたなら,もう少し斬新で,ワクワクするような切り口が欲しかったところだ。
 
 
 
 
 
写真8 カールトンに寄生したライオット
 
 
 
 
 
写真9 クライマックスのバトルは,ほぼ予想通りのクオリティ
 
 
  ■ CG/VFXの主担当はDNEGで,大半を1社で請け負っている。他には,One of UsとSony Picture Imageworksの2社が少しサポートしているだけだ。特筆すべきは,プレビズ担当は最大手のThe Third Floorの他に,MPC, Pixomondo, NVizage, Argon , Proofの5社も名前があったことだ。前の2社は普通のVGXスタジオであったのに,プレビズ分野にも進出している(技術的には十分可能だが)。3D変換作業も,専業のStereo D社ではなく,DNEGの3D部門が担当している。VFX業界内で,役割分担や業態の変化が起こっているように感じられる。  
 
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