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O plus E誌 2017年12月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   『リュミエール!』:言うまでもなく「映画の父」として知られるオーギュストとルイのリュミエール兄弟の業績を讃えた作品だ。伝記映画ではなく,映画誕生から10年間の彼らの作品を紹介している。撮影機材や映写方式を開発しただけでなく,兄弟は映画制作を産業として定着させ,10年間で1422本もの作品を生み出した。その内の代表作108本が次々と紹介される。といっても,各々15秒から1分弱程度のものだ。観るに耐えない画質かと思いきや,残存しているフィルムをデジタル化して4K映像にしていて,驚くほど鮮明な画質である。当時は勿論サイレント映画だが,セリフがないだけで,既に効果音は入っていた。そこに巧みなナレーションが加わって,映画史における意義を解説してくれる。アングルが素晴らしい。初期の10年間で映画の基本がもう出来上がっていたことが理解できる。まさに至宝だ。映画人を目指す若者には,是非観て欲しい。
 『ローガン・ラッキー』:スティーヴン・ソダーバーグ監督の4年ぶりの映画界への復帰作だ。適任監督の紹介を依頼されたのに,シナリオが気に入ったので,自ら復帰する気になったという。それだけのことはある洒落たクライム・ムービーで,カーレース場からの売上金強奪計画がテーマである。同監督の『オーシャンズ11』シリーズの弟分という触れ込みなので,頭脳的で痛快な犯罪計画だと予想できる。残念ながら,オチは書けない。不運続きのローガン兄弟をチャニング・テイタムとアダム・ドライヴァーが演じる。特に,片腕を失った弟クライド役のA・ドライヴァーが印象的だ(まさか,ライト・セイバーで切り落とされた訳ではないだろうが(笑))。爆破のプロの囚人役に007のダニエル・クレイグ,強奪団を追うFBI女性捜査官役にヒラリー・スワンクという豪華助演陣である。音楽は騒々しいが,故ジョン・デンバーの名曲だけが印象的だった。
 『こいのわ 婚活クルージング』:低予算のお手軽恋愛映画だ。ただし,若者のラブロマンスではなく,初老&熟年男女のための婚活がテーマである。これを素直に映画館で観る若者はまずいないだろう。そう思ったら,しっかり広島県の行政とタイアップしていた。むしろ,広島県の広報映画と言った方が分かりやすい。広島カープ愛が前面に押し出され,ミスター・カープの山本浩二まで登場する。KADOKAWA映画なのに松竹作品の『男はつらいよ』シリーズの話題が劇中で再三登場し,その名場面までが流れる。両方のファンを当て込んでいることは明らかだが,寅さんファンだが,タイガース・ファンの筆者は少し複雑な心境だった。監督は金子修介,主演は風間杜夫で,女優陣は結構美女揃いだが,いずれも似た顔立ちで見分けがつかない。識別のコツは身長差と言っておこう。主人公の資産運用係役で登場する初老の男性は,かつてのアイドル歌手・城みちるだとすぐ分かった。広島県呉市の出身らしい。徹底してお軽く,バカバカしいが,それもここまでくると,それなりに面白い。
 『gifted/ギフテッド』:表題は「天賦の才」の意で,数学の天才である7歳の少女(マッケナ・グレイス)が主人公である。同じく天才であった母親が自殺したため,叔父(クリス・エヴァンス)と暮らしている。『キャプテン・アメリカ』シリーズとは全く性格を異にする役柄だが,髭面にして印象を変えている。そこに英才教育を望む祖母(リンゼイ・ダンカン)が登場し,少女の親権を巡る訴訟沙汰へと発展する。数学の天才ぶりの描き方は楽しい。叔父と姪の心の絆も大切だ。よって,天才教育と叔父との生活を何とか両立出来ないものかと案じさせる展開だが,予定調和の結末を期待する観客も多いことだろう。音楽が頗る心地よい。監督は『(500)日のサマー』(09)のマーク・ウェブ。法廷劇としてもファミリードラマとしても全く平均的なレベルだが,トータルでは顧客満足度大に仕上げている。
 『J:ビヨンド・フラメンコ』:当欄の定番の1つである文化・教養コースとしてのドキュメンタリー映画で,これまでにもフラメンコ映画を撮り続けてきたスペインの巨匠カルロス・サウラ監督の最新作である。監督の故郷は,独立問題で揺れるカタルーニャ州ではなく,その西隣アラゴン州だ。この地方に伝わる舞踊音楽「ホタ」に焦点を当てている。原題は「JOTA」だが,邦題は英題をカタカナにしただけだ。スペイン語の「J」は「ホタ」と読むらしい。ホタがフラメンコを超える存在というよりも,フラメンコの原点たる音楽ということのようだ。フラメンコ・ダンサーといえば,すぐに9月号で紹介したサラ・バラスを思い出すが,この映画でも主役の1人である。その他に,スペインを代表する歌手や多数のダンサーが登場する。何曲も歌い踊るオムニバス形式。最初の少年少女たちのホタ練習風景と最後に多数の人々が楽しそうなに踊る様が印象的だった。
 『永遠のジャンゴ』:原題は単純な『Django』で,またマカロニ・ウエスタン風の悪漢映画かと思いきや,むしろ流行のナチス関連ものだった。といってもホロコーストは出てこないし,迫害を受けるのはユダヤ人ではない。1943年のナチス占領下のパリ,主人公は当時の人気ギタリストのジャンゴ・ラインハルトだ。ジャズ・ギターの名手で,多くの後進に影響を与えた伝説の人物である。ちょっと谷村新司に似ている(前頭部の広さと髭だけだが)。左手の薬指と小指が不自由なため,親指を含む残り3本での独特の演奏スタイルである。彼と仲間のジプシー(ロマ人)たちがナチスの迫害対象で,山を越えて,スイスに逃亡するまでを描いている。先月の共産主義者の詩人の映画と瓜二つだ。ラストは戦後すぐで,劇中で彼が作曲していたジプシー仲間へのレクイエムがパリで演奏される。感動ものだ。劇中の音楽に関しては,別項のサントラ盤紹介を参照されたい。
 『最低。』:いかにも単館系映画の作りだ。KADOKAWAは準メジャーだが,題材も俳優も監督もインディペンデント魂で貫かれている。脚本も演技も決して「最低」ではなく,むしろ佳作の部類に入る。テーマは,ずばり「AV女優」だ。34歳,25歳,17歳の3人女性が登場する。1人は普通の人妻だが空虚な思いを満たすためAV出演を決意し,1人は独身の現役人気AV女優だが素人男性との淡い恋に胸をときめかせ,最後の1人は母親がAV女優であったことを嫌悪し,激しく対立する。三者三様の物語が同時並行で進行するが,その切り替え,編集が巧みだ。この3人の誰と誰がどこでどう交わるのかも興味の的である。テーマ上,当然それなりの裸身,性交シーンは盛り込まれているが,陰湿でも猥雑でもない。監督・脚本は『64−ロクヨン−』(16)の瀬々敬久。ピンク映画出身だけあって,AV撮影場面の演出は見事だ。最低といいながら,エンディングは爽やかで,味のある人間讃歌だった。別項の『8年越しの花嫁 奇跡の実話』も同監督の作品だが,本作の方に監督の思い入れがあると感じられた。
 『パーティで女の子に話しかけるには』:主演は,筆者のお気に入りのエル・ファニング。先月の広瀬すず,今月の別項のクロエちゃんと10代の天使3人が揃うと,もうご機嫌で,ニコニコだ。表題からは学園もののラブコメディを想像してしまうが,1977年の英国を舞台としたSF映画で,彼女は異星人役だという。監督・脚本は,ロック映画の名作『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』(01)のジョン・キャメロン・ミッチェル。となると,想像の範囲内のSFではないはずだ。筆者は,音楽としてのパンクは大嫌いだが,この監督のパンク愛は理解できる(だから,サントラ盤は紹介しない)。映画全体もしっかりパンクしている。エルや助演のニコール・キッドマンを,パンク・ミュージシャンのメイクで登場させるとは,かなりの見ものだ。パンク魂が炸裂しながらも,地球上の人間たちにしっかりメッセージを遺している。ラストも秀逸だ。少し痺れた。
 『希望のかなた』:名匠アキ・カウリスマキの最新作で,『ル・アーヴルの靴みがき』(11)に続く「港町3部作」の第2弾である。監督の母国フィンランドの首都で港町のヘルシンキが舞台だが,その後「難民3部作」と名称変更したように,主人公はトルコ経由で辿りついたシリア人の難民青年カーリドだ。実際にシリア出身でフィンランドに移り住んだシェルワン・ハジが抜擢され,これが映画初主演である。カーリドは難民申請したものの,却下され,強制送還扱いとなるが,脱出して不法滞在を続ける。ニュースでは分からない難民の実態や杓子定規な行政の冷淡な態度が丁寧に描かれている。映画の骨格は『ル・アーヴルの…』と相似形だ。この監督の視点は楽観的であり,物語は善良な人々が織りなすハートフルドラマである。淡々と描きながらも,ユーモアに溢れ,脚本はしっかり練り込まれている。入場料を払って映画を観るなら,かくあって欲しい。
 『否定と肯定』:こちらはナチス・ドイツのホロコーストを話題にした映画だが,直接ユダヤ人迫害を描いている訳ではない。実話に基づく法廷劇であるが,ナチス戦犯の弾劾裁判でもない。時代は2000年,ホロコーストの存在を否定する英国人教授と,彼の著作を批判した米国人女性教授の法廷闘争を描いた物語だ。主演の女性教授を演じるのは,レイチェル・ワイズ。知的で芯の強い女性役がよく似合う。今年で47歳だが,『ハムナプトラ』(99)の頃に比べ,『ナイロビの蜂』(05)『アレクサンドリア』(09)『愛情は深い海の如く』(11)等,年齢とともに演技派に転じ,魅力が増してきた。本作も,その彼女の魅力を前面に押し出した佳作だ。そうでありながら,裁判中に彼女はほとんど発言しない。被告側に無罪の立証責任がある英国での裁判であることがポイントで,弁護団チームの高等戦術が見どころである。
 『ビジランテ』:かなり濃厚なバイオレンス映画だ。舞台は埼玉県のとある田舎町。「救いのない地方都市」というが,登場人物も救いがたい連中ばかりだ。少年期に父親の暴力に堪えかねて家を出た長男が,父の死の後,30年ぶりに姿を表わし,次男,三男と再会する。徹底した暴力,目を背けたくなるセックス・シーンが,ヤクザによる地上げと風俗営業,人種差別,腐った行政の中で再三登場する。薬物中毒がないだけましと言うべきか。こういう映画ジャンルが存在することは理解していても,ほとほと心が寒くなる。そう感じながらも,思わず先の展開が気になり,演出は見事と言わざるを得ない。監督・脚本は入江悠で,自らのオリジナル脚本である。長男(大森南朋)の存在感がやや薄いが,次男(鈴木浩介),三男(桐谷健太)の描き分けが巧みだ。とりわけ,これが初主演となる桐谷健太の演技が鮮烈で,今後堂々たる俳優に育って行くことが期待される。
 『彼女が目覚めるその日まで』:NYポスト誌の若い報道記者が突然かかった難病の闘病記だ。題名からすると意識不明に思えるが,そこまでではない。原題は『Brain on Fire』で,主人公自身が著した原作の邦訳は「脳に棲む魔物」。この方が正確だ。突如物忘れが激しくなり,幻覚,幻聴が生じ,さらには全身の痙攣へと進行する。世界でまだ217人目という奇病で,「抗NMDA受容体脳炎」というらしい。主演はクロエ・グレース・モレッツ。雑誌記者にしては若過ぎるのが欠点だが,彼女の主演なら許せるし,思わず看守りたくなる。さしずめ,西洋版・広瀬すずと言ったところだろうか。たった89分の単純な物語だが,これが実話だという重みが感情移入へと繋がる。この手の実話は,最後に実在の人物の写真が登場し,現在の様子を知ることができるのが愉しみだ。原作者もなかなかの金髪美人だった。
 『8年越しの花嫁 奇跡の実話』:この邦画の登場人物やあらすじは知っていて,O plus E本誌での掲載候補にしておきながら,誤って上記の洋画を観てしまった。おかげで本作の試写を観るのが12月号の校了後になり,Webページだけでの紹介になった次第だ(その分,長めに書いておこう)。いや,なまじっか内容概略を知っていたゆえに間違えたとも言える。両作とも難病に冒された若い女性の闘病記であるが,本作の主人公(土屋太鳳)こそ意識不明となり,婚約者(佐藤健)は彼女の覚醒を6年間も待ち続け,ようやく8年越しで結婚するというラブストーリーである。結婚式の3ヶ月前に女性に異変が起きる。激しい頭痛,錯乱が続き,一旦心肺停止となった後,昏睡状態に陥る。彼女の病名は「抗NMDA受容体脳炎」。何だ,クロエちゃんの病名と同じじゃないか。これはてっきり,上記洋画の翻案ものかと思ったら,全く別のカップルで,こちらも実話だという。原作は回復後に2人で綴ったノンフィクション書籍で,その副題は「キミの目が覚めたなら」というから,紛らわしい。おまけに,ご丁寧にも全く同日(12月16日)に公開予定だから,これじゃ混同しない方がおかしい。内容は全くの純愛物語で,これが実話でなければ,気恥ずかしく逃げ出したくなるくらいだ。病状が重かった分,本作の方が感動度も大きい。日頃きゃぴきゃぴした役が多い土屋太鳳は,覚醒後は別人のように淑やかな美女だ。一方の佐藤健は,誠実な婚約者を好演しているが,やはり短髪の労働者役は似合わない。『るろうに剣心』(12年9月号)や『亜人』(17年10月号)のように,前髪を垂らした凛々しいアクションスターの方が好ましい。本作で残念だったのは,エンドロールに実在のカップルの映像が登場しないことだ。ネットで調べたら,2人の結婚式の模様がYouYubeにアップされていた。映画の後で観ると,尚更感動する。http://www.imishin.jp/waited-8yrs/
 『謎の天才画家 ヒエロニムス・ボス』:先月は4本,今月の当欄で取り上げるドキュメンタリー作品の3本目だ。本作もスペイン映画で,プラド美術館所蔵の三連祭壇画「快楽の園」に関する徹底的な考証がなされている。ただし,この極彩色で描かれた奇想天外な大作の作者は,15世紀にオランダで生まれた謎の画家ヒエロニムス・ボスだ。筆者はこの名前をしかと覚えている。今年観た「ブリューゲル『バベルの塔』展」で,このボスの作品2点が初めて日本で披露されていたからである。展覧会の副題が「ボスを超えて」であったように,P・ブリューゲルが最も影響を受けた画家とのことだ。「バベルの塔」も凄いが,「快楽の園」も凄い。異彩を放つ絵画に凄さは感じるものの,描かれた膨大な事物の意味は難解で,さっぱり分からない。ボスの創作の謎を,美術史家,ノーベル賞作家,哲学者,ソプラノ歌手,作曲家,写真家等が解き明かそうとする。上映時間は90分,恰も西洋美術史の授業1コマを受講した気分だ。
 『ヒトラーに屈しなかった国王』:またまたヒトラーものだが,本作で総統は声しか登場しない。しっかり第2次世界大戦中のナチス・ドイツの侵攻を描いているが,オーストリアやポーランドでなく,ちょっと珍しく,ノルウェーを舞台としたノルウェー製の映画だ。1940年4月,ナチスのノルウェー侵攻時の3日間の出来事を描いている。当時の同国は1905年にスウェーデンから独立したばかりの立憲君主制の新興国であり,国王ホーコン7世はデンマークからやって来た欧州貴族である。監督はオスロ生まれのエリック・ポッペで,スタッフの大半もノルウェー人だが,主演の国王役にはデンマーク人俳優イェスパー・クリステンセンを起用している。国王と皇太子の意見の対立,国王が孫たちと遊ぶ場面,ドイツ公使とその妻,戦場での少年兵等,緩急をつけた巧みな描き方だ。艦の撃沈,空爆,銃弾等々,CG/VFXもしっかり使われている。
 
 
  (上記の内,『こいのわ 婚活クルージング』『最低。』『8年越しの花嫁 奇跡の実話』は,O plus E誌には非掲載です)  
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