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O plus E誌 2016年4月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   『砂上の法廷』:キアヌ・リーヴス久々の主演作で,敏腕弁護士役で,父親殺しの容疑者である17歳の少年の弁護を引き受ける。全編ほぼ法廷劇だが,「94分,あなたは騙され続ける」「この結末,他言無用」とのキャッチコピーからは,終盤のドンデン返しが予想される。そこで思い出すのは,リチャード・ギアが,エドワード・ノートンを弁護した『真実の行方』(96)の衝撃のラストだが,同作は育ての親たる大司教殺しの容疑であったし,途中で被告人が行う衝撃の告白の内容も酷似している。そこまで似ているとなると,当然結末は違うだろう。となると,結末はアレしかない……。それで当たった人は爽快だろうし,見事に騙された観客も,法廷での弁論は楽しんだはずである。被告人の母親役がレニー・ゼルウィガーだとは,エンドロールで確認するまで分からなかった。あの『ブリジット・ジョーンズの日記』(01)の頃に比べて,随分痩せて渋くなったためだ。
 『あやしい彼女』:韓国映画の『怪しい彼女』(14)のリメイク作品だ。翌年,中国やベトナムでもリメイクされて大ヒットし,タイ,インドネシア等でも製作予定だという。73歳の老女・瀬山カツ(倍賞美津子)が,突然20歳の女性(多部未華子)として若返り,大鳥節子として失われた青春を謳歌するという物語が魅力的なためだろう。女手1つで息子を育てたという設定が,娘に変更されているが,母と娘の涙を誘う話の方が断然好い。独立した青春コメディとして観てもいいが,原作映画と逐一見比べるのも一興だ。水田伸生監督が意図的に些細なシーンを真似ているし,イケメンの音楽プロデューサ(要潤),写真館の店主(温水洋一),カツの幼なじみの次郎(志賀廣太郎)等に,原作と似たルックスの俳優を起用しているのも嬉しい。次郎の若返り対象をジェームズ・ディーンでなく,グレゴリー・ペックにし,バイクでなく,2人をスクーターで走り去らせるラストも上手い。挿入曲の昭和歌謡の選曲は見事だが,主演の多部未華子の歌唱力が今イチなのが惜しまれる。
 『見えない目撃者』:こちらも元は韓国映画だが,日本では劇場未公開(2014年にDVD発売)の『ブラインド』(11)をリメイクした中国映画である。主演は美人女優のヤン・ミーと若手イケメン男優のルハンで,ルックスに関してはオリジナル以上に韓国映画風だ。自らの責任で弟を事故死させた盲目の女性が轢き逃げ事件に遭遇し,もう1人の目撃者の青年と共に犯人に命を狙われるという骨格は同じだが,犯人の人物設定と動機は少し変更されているようだ。韓国版のアン・サンフン監督が再びメガホンを取っただけあって,事件の発生から逃避行に至る過程など,物語の盛り上げ方は手慣れたものだ。オードリー・ヘップバーン主演の『暗くなるまで待って』(67)へのオマージュと思しきシーンも盛り込まれている。サスペンス映画としての完成度はかなり高いとした上で贅沢を言うなら,ラストの攻防がくどい上に,屋敷が火事で燃え落ちないのが不思議だ。
 『ルーム』:誘拐され,7年間監禁されていた女性が主人公の物語と聞くと,新潟少女監禁事件の9年間を思い出す。オーストリアでは8年間と24年間の監禁事件があり,後者の「フリッツル事件」に着想を得た小説「部屋」の映画化作品とのことだ。小さな納屋に監禁中に,強姦され,妊娠・出産し,生まれた息子が5歳になった時に脱出を試みたという設定である。前半50分間は,天窓しかない部屋での母子の生活が痛々しく,観ている側も閉所恐怖症になりそうな感覚を覚える。息を飲む脱出劇後の後半は,初めて外の世界に触れた少年の戸惑い,社会的適応に悩み,心を病む母親の心理描写の表現力に圧倒される。筆者の場合,このような母子を迎え入れた祖父母の視点で,自分ならどう接することができるかと共感しながら観てしまった。母親役のブリー・ラーソンは本作でアカデミー賞主演女優賞を受賞したが,天才子役ジェイコブ・トレンブレイの瑞々しい演技は,それ以上に印象に残った。
 『さざなみ』:結婚45周年を迎える夫婦の絆と愛情の微妙な変化を描いた映画で,邦題が示すように,文学的香りがする逸品だ。主演は,ベテラン英国女優のシャーロット・ランプリング。本作の繊細な演技で,ベルリン国際映画祭銀熊賞受賞を始め,各国映画祭で高い評価を得,70歳にしてアカデミー賞主演女優賞にも初ノミネートされた(受賞は逃した)。夫役のトム・コートネイ共々,セリフは少なめだが,表情での演技が素晴らしい。演技,演出には感心しつつも,この映画をあまり面白く感じなかったのは,山岳事故で死んだ昔の恋人の想い出に浸る夫の心情に筆者が同化し,自分もきっとこうなると,後ろめたさを感じつつ観ていたからだろうか。脚本・監督はアンドリュー・ヘイで,プラターズの「煙が目にしみる」,タートルズの「ハッピー・トゥゲザー」等,1960年代の名曲が美しく響く。
 『ボーダーライン』:女性FBI捜査官が,麻薬カルテル撲滅の特別チームに召集され,極秘任務に就くという設定だ。主演は筆者のお気に入りのエミリー・ブラント。『プラダを着た悪魔』(06)の頃に比べるとかなり痩せたが,すっかり筋肉質になり,最近はアクション映画づいてきた。作戦リーダー役のジョシュ・ブローリンは,まずまず無難でイメージ通りの助演だが,正体不明のチーム・メンバーを演じるベニチオ・デル・トロの個性が強烈だ 。メキシコ国境付近で起こる麻薬戦争の描写は,スティーヴン・ソダーバーグ作品風の社会派ドラマを彷彿とさせる。秘密トンネルを使っての組織的な麻薬密輸は,来年,米国の新大統領が長い壁を築いても防げないだろう(笑)。中盤少し退屈だが,残り30分強,カルテルの拠点に突入する辺りから俄然緊迫感が増し,手に汗握る展開となる。終盤は,E・ブラントよりも,B・デル・トロの存在感に圧倒された。
 『モヒカン故郷に帰る』:助演で好い味を出す松田龍平だが,最近主役を張ることも多くなった。本作は,モヒカンヘアーのロック・ミュージシャン役だ。恋人との間に子供ができた報告に,広島県,瀬戸内海の小さな島の実家に戻るが,ここで登場するのが柄本明が演じる父親だ。『南極料理人』(09)『横道世之介』(13)の沖田修一監督のオリジナル脚本で,この2人の飄々とした親子会話が絶妙の味を出している。前半は,父親が指揮する中学生の吹奏楽部の描写がたまらなくおかしい。後半は,癌が判明し,余命を宣告された父親をめぐる家族ドラマだが,少しシリアスになり過ぎたのが残念だ。地元の英雄,矢沢永吉にまつわるエピソードが再三登場するが,それなら彼自身の歌を何曲か流して欲しかったところだ。母親役はもたいまさこ,恋人・由佳役は前田敦子だが,本作では,由佳の母親役が美保純であることはエンドロールを観るまで分からなかった。こちらは随分デブになったためだ。もう55歳か,なるほど。
 『孤独のススメ』:ちょっと珍しいオランダ映画のヒューマンドラマだが,世界各国の映画祭で高い評価を得ている。いかにもインディペンデント系の良作で,人物設定も映像も印象に残る一作だ。妻を亡くし,息子とも疎遠で,田舎町で孤独な生活を送る初老の男性フレッドが,言葉や過去を失った不思議な男テオと出会い,奇妙な共同生活を始める。既製の宗教的教義に反発し,次第に築かれて行く2人の絆の描写が心地よい。監督は,これが長編デビュー作となるディーデリク・エビンゲ。素晴らしい人間讃歌だ。わずか86分の短めの映画だが,頗る美しいシーンが3つある。オランダの明るい田園風景を走るバス,クライマックスで熱唱される歌「This Is My Life (La Vita)」,そして主人公のフレッドが遂に再訪した名峰マッターホルンの雄姿だ。
 『スポットライト 世紀のスクープ』:米アカデミー賞6部門にノミネートされ,作品賞・脚本賞を受賞した話題作だ。米国ボストン・グローブ紙が2002年にカトリック教会の醜聞を告発したスクープ報道の模様を映画化している。社会派ドラマの典型で,テーマも真剣,物語展開も真剣そのもので,1点の遊びもなく,全編2時間余が緊迫感を維持したまま進行する。カトリック神父による男児への性的虐待は『真実の行方』(96)でも描かれていたが,これほど大規模に日常化していたとは知らなかった。この虐待が判明した都市の一覧表が最後に登場するが,その数は衝撃だった。本作がアカデミー賞を得たことで,再度広く知れ渡ることだろう。マイケル・キートン,マーク・ラファロ,レイチェル・マクアダムスら,記者のチームワークの描き方が秀逸で,トム・マッカーシー監督の語り口にも感心した。突破口となったのはある裁判記録の情報公開で,米国社会の公明正大さと訴訟社会の恐ろしさを同時に感じた。
 『グランドフィナーレ』:ギャガ配給作品には,動物ものドキュメンタリーと音楽映画の良作が少なくない。本作もまたある種の音楽映画であるが,偉大な演奏者や歌手の伝記映画ではなく,引退した指揮者兼作曲家を主人公にした全くのフィクションである。かなりシニカルなセリフの連続で,通好み,評論家好みの異色作品であり,万人受けはしないかも知れない。主演はマイケル・ケイン,親友の映画監督役はハーヴェイ・カイテルで,この2人の掛け合いが絶妙だ。レイチェル・ワイズ,ポール・ダノら豪華助演陣の中で,御年78歳のジェーン・フォンダの貫録に圧倒された。セレブが集うスイスの高級ホテルが舞台で,アルプスの景観,豪華スパでの眼福など,凝りまくった映像美に,至福の音楽がぴったりと結びついている。クライマックスは,まさしく邦題通りの大舞台で,オペラ歌手スミ・ジョーが高らかに「Simple Song #3」を歌い上げる。
 
   
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