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O plus E誌 2014年5月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   『レイルウェイ 運命の旅路』:主演のコリン・ファースとニコール・キッドマンが演じるのは,第2次世界大戦中の捕虜生活がトラウマとなっている初老の男性とその妻だ。精神的に不安定な夫を献身的に支える妻の姿は,『ビューティフル・マインド』(01)を思い出す。彼の過酷な捕虜生活の舞台は,日本軍がタイとビルマの国境に付設しようとした泰緬鉄道や鉄橋の建設現場で,まさに名作『戦場にかける橋』(57)と同じである。同作がフィクションで有るのに対して,本作は従軍将校エリック・ローマクスの自叙伝「The Railway Man」に基づいている。残念ながら,この題から鉄っちゃん達が期待するほど列車や線路走行のシーンが多くなかった。一方,実話と分かっているだけに,拷問シーンは観ていて辛く,日本軍の振る舞いが悲しい。オスカー男優C・ファースの演技は予想の範囲内だが,50年後の永瀬中尉を演じる真田広之が光っていた。もはや,押しも押されぬ国際俳優だ。若き日のローマクス兵士を演じるジェレミー・アーヴァインも,負けずに好演だと言える。
 『とらわれて夏』:殺人犯の脱獄囚が母子家庭に押し掛けて,不思議な共同生活へと入る。やがて男の子は彼に父性愛を感じて慕うようになり,男女はやがて互いに惹かれ合うようになる…。この設定だけ聞くと,そのまんま山田洋次監督の『遙かなる山の呼び声』(80)ではないか。違うのは,母親は未亡人でなく,こちらは離婚した母子家庭だ。さらに,高倉健と倍賞千恵子のストイックな恋に比べて,主演のケイト・ウィンスレットは豊満でセクシーであり,全編でフェロモンを撒き散らす。逃亡犯役のジョシュ・ブローリンは,『メン・イン・ブラック3』(12)でトミー・リー・ジョーンズの若き日を演じて「似ている!」と驚いた。本作でその彼の青年時代を演じるトム・リピンスキーは,もっと生き写しだ。このため,余計な説明を加えずに,フラッシュ・バック技法を何度も効果的に使っていた。手法は少し違うが,最後に少し幸せな気分になれるのも嬉しい。
 『ネイチャー』:1月号の『ウォーキング with ダイナソー』は,子供だましの物語を酷評し,3D映像だけを褒めた。「BBC EARTHチームに期待したのは,大自然をバックにした良質のドキュメンタリーである。(中略)落ち着いた声のナレーションを被せれば,遥かに素晴らしい作品になったのではと思われる」と記したのだが,題名どおりの得意分野に戻ってくれば,本領発揮だ。デジタル3D撮影機材が,深海から標高5千米超の山頂,灼熱の砂漠や大滝まで,地球上を舐め回し,そこに棲む動物たちの生態を見事なビジュアルで描いている。大自然を扱ったIMAX 3D作品は何本も存在するが,本作はユニークなアングルから動物たちをアップで捉え,貴重な映像を見せてくれる点に特長がある。筆者のお気に入りは,海中都市に棲むライオンフィッシュの華麗な姿,オグロヌーを襲うナイルワニの圧倒的な迫力だ。日本語ナレーションは,滝川クリステル。東京五輪を呼び込んだ丁寧な語りは,本作にぴったりだ。
 『ブルージャスミン』:ケイト・ブランシェットが個性的な主人公を演じて,今年のアカデミー賞主演女優賞に輝いた話題作だ。この映画は2度観たが,セレブ生活からどん底に落ち込みながらも,プライドが高く,心を病んで行くこの女性を,最初は好きになれなかった。2度目は,K・ブランシェットの繊細な演技に魅了され,この高慢ちきで嫌味な女性が次第に可愛く見えてきた。それ以上に,妹ジンジャー(サリー・ホーキンス)と,どうしようもない彼氏の下品さや,庶民性溢れる生活ぶりがよく描けていると感心した。主演女優,助演女優の各種映画祭での活躍に目を奪われていて,2度目のエンドロールを観るまで,監督が誰かに気がつかなかった。監督・脚本は,何とあのウディ・アレンだった。彼なら,コメディ・タッチで人生の機微を見事に折り込むことは当然だと思う半面,脚本賞にノミネートされていただけのことはあるとも感じた。
 『人生はマラソンだ!』:経営が苦しくなった町工場を再建するため,オーナーを含む中年男性4人がスポンサーを見つけ,初出場のマラソンに出場し完走をめざす。その練習風景や悪戦苦闘振りは,男性ストリッパーを目指した『フル・モンティ』(97)を彷彿とさせる。あちらは英国製だが,本作はオランダ映画で,実際のロッテルダム・マラソンのシーンを活用している。ど素人集団が次第に成長して行く様が,4人の個性の差を利用して,巧みに語られている。実力もつき,開催直前になって,家庭の事情から脱落者が出るが,当日彼は……。というところまでは,観客の誰もが予想できる展開だが,レース結果は予想とは全く違っていた。その後のコメディ・タッチの意外な行動や結末からは,別の感動が込み上げてくる。インデペンデント系映画の愛好者にオススメのハートフルドラマである。
 『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』:コーエン兄弟の最新作にして,カンヌ国際映画祭のグランプリ受賞作。どの作品でも音楽に凝っている彼らが,1960年代のシンガーソング・ライターを取り上げた音楽映画。というだけで食指が動くのに,「ボブ・ディランが憧れたミュージシャン」というキャッチコピーまで付いている。ただし,本作の主人公ルーウィン・デイヴィスは,実在のシンガーではなく,モデルとなったデイヴ・ヴァン・ロンクをはじめ,同時代のフォーク・シンガーたちを象徴する存在として描かれている。ニューヨークのグリニッジビレッジを舞台とした音楽活動,ライブハウスの内外の描写などは,ビートルズ伝説のキャヴァーン・クラブを思い出す。国もジャンルも違えど,この時代の熱気溢れるミュージシャンたちに共通するものがあるのだろう。数々の名曲の中で最も印象的な「Hang Me, Oh Hang Me」が,映画の冒頭とラスト近くで,2回流れる。映像も既視感溢れると思ったら……。この締めくくり方は絶妙だ。上手い!

 
   
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