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O plus E誌 2014年2月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   『ビフォア・ミッドナイト』:批評家からも観客からも飛び切りの高評価を得ている『ビフォア』シリーズの3作目だ。9年おきの製作だから,前2作で20代,30代だった2人は,既に40代になっている。前作の思わせぶりなエンディングの後,ジェシーは飛行機に乗らず,米国の妻と離婚し,セシリアと再婚してパリに住んでいるという設定だ。ウィーン,パリと,背景となる美しい町並みも楽しみだったが,本作では南ギリシャが舞台となっている。話し続けの長回しが定番だが,ドライブ中の14分間のテイクは凄い。老作家や友人たち夫婦との昼食時の会話も楽しいが,圧巻はその後のホテルでの夫婦喧嘩のやりとりだ。年齢や時代を反映したセリフの応酬で,よくぞこんな脚本を書き,それを丸暗記できたものだと感心する。前2作を観ていないと面白さ半減だから,DVDでしっかり予習(or 復習)してから本作の会話を愉しむのが,正しい観賞法だ。
 『ゲノムハザード ある天才科学者の5日間』:ビデオゲームの人気作かと思わせる表題だが,ゲームとは無関係で,原作は司城志朗作のミステリーの映画化作品だ。日韓共同製作のサスペンス・アクションで,監督・脚本は『美しき野獣』(06)のキム・ソンス,主演は西島秀俊だが,出演者,セリフ,舞台となる都市のすべてで日韓が入り乱れる。韓流映画お得意の記憶喪失ものの一種とも言えるが,主人公の記憶の謎を追う展開も,アクションの切れも良い。もう少し謎解き部分を面白くしてあれば,ハリウッド作品に負けない上質のエンターテインメントになっていたに違いない。イ・ビョンホン主演なら,さらに迫力は増したのにと贅沢を言いたくなったが,さすがに彼は日本語は少ししかできないから,この主人公は無理だっただろう。
 『小さいおうち』:80歳の山田洋次監督の80作目だが,中島京子の直木賞受賞作を脚色・映画化したというのがちょっと珍しい。ある青年(妻夫木聡)が,親族の老女タキ(倍賞千恵子)が晩年大学ノートに書き綴った自叙伝から,60年前の真実を紐解くという設定だ。物語は,タキがモダンなお屋敷の女中であった昭和10年代と現代を往き来する。山田監督は『母べえ』(08)とは別の視点で戦前の生活を描きたかったのだろう。出演者は,松たか子,吉岡秀隆の他,前作『東京家族』(13)やお馴染の山田組の面々が登場する。となれば,タキの若き日は蒼井優のはずなのだが,顔立ちが似た黒木華が抜擢された。まさかスケジュールが合わなかったゆえの代役ではないだろうが,より素朴で地味な彼女の起用は,女中役として大正解だったと思う。
 『アイム・ソー・エキサイテッド!』:スペイン映画で,監督は『オール・アバウト・マイ・マザー』(99)の鬼才ペドロ・アルモドバル,出演者にアントニオ・バンデラス,ペネロペ・クルス等の人気俳優とくれば,シリアスな文芸調の大作を想像したのだが,全く正反対のC級コメディだった。舞台は機体トラブルで旋回し続ける旅客機内,主役はビジネスクラス担当のオカマの客室乗務員トリオ,乗客にも癖のある呆れた連中ばかりというから,真剣な眼差しではなく,このバカバカしさを許すスタンスで眺めるべき作品だ。意図的だろうが,飛行機のCGも空港も実にチープな作りである。緩さがウリの映画で,映画館で楽しんでもいいが,ビデオを深夜に1人で眺める方が合っている気がする。
 『なんちゃって家族』:こちらもコメディだが,サエない麻薬密売人が,場末のストリッパー,万引き常習犯のホームレス少女,近所の童貞男を誘って,偽装家族を演じる物語だ。メキシコから米国への麻薬輸送を家族旅行に見せかける作戦の珍道中が描かれている。セリフは下ネタ満載だが,おふざけ一辺倒ではなく,ロードムービー仕立てで,結構良質のファミリー映画に仕上がっている。変な役柄ながら,女性陣がともに美人なので許せる。派手なアクションや意外な展開のサスペンスでなくても,この先どうなるのだろうと気になり,最後はしっかりハッピーな落しどころだ。原題は何の面白みもないが,この邦題をつけた担当者に拍手だ。
 『ROOM237』:スタンリー・キューブリック監督作の伝説のホラー映画『シャイニング』(80)に込められた謎を解き明かすドキュメンタリー作品である。表題は,舞台となるリゾートホテル内の老婆の幽霊が登場する部屋番号だ。キューブリック研究家として知られる5人の識者が立てた9つの仮説を,当該シーンの映像を交えて分析し,キューブリックの頭の中を垣間見る。何で最初にトム・クルーズが登場するのかと思ったら,遺作『アイズ ワイド シャット』(99)内の1シーンだった。キューブリック全作品から映像を引用しながら,「本作の視点や諸説は,キューブリックの家族やワーナーの関係者の承認を得ていない」と,わざわざ明記している。それだけユニークな説だと言いたいのだろう。なるほど,目から鱗の解釈もあれば,深読み,考え過ぎと感じる強引な珍説も含まれている。少なくとも,筆者もそうしたように,レンタルDVDでじっくり『シャイニング』を眺め直したくなること必至だろう。ここまでされて,幸せな監督だ。
 『ウルフ・オブ・ウォール・ストリート』:何とも凄まじい映画だ。マーティン・スコセッシ監督とレオナルド・ディカプリオ主演の5度目のタッグだが,そこには『タクシードライバー』(76)のスコセッシも『ロミオ+ジュリエット』(96)のディカプリオもいなくて,このタッグでの『ギャング・オブ・ニューヨーク』(02)の重厚さもない。もっとシリアスなドラマを想像していてGG賞のミュージカル/コメディ部門の主演男優賞受賞というから変だなと思った。なるほど,これはとてつもないコメディだ。原作は,1990年代にウォール街で大金を稼いだ株式ブローカー,ジョーダン・ベルフォートの回想録だという。その邦訳本の題名が<ウォール街狂乱日記 ― 「狼」と呼ばれた私のヤバすぎる人生>であるから,よほど強烈で破天荒な人物だったのだろう。それを思いっきり誇張して,まさに酒池肉林のやり放題の映画だ。とてもじゃないが,こんな人物に感情移入できないが,社員をアジる演説の上手さには感服する。相棒役のジョナ・ヒルの怪演ぶりも特筆ものだ。監督にやらせ放題を許したら,図に乗って2時間59分もの長尺にしてしまった。脂ギトギトの大盛り豚骨ラーメンのようなもので,同じ入場料なら,得した気分にはなるだろう。
 『アメリカン・ハッスル』:上記の『ウルフ…』を退けてGG賞作品賞を受賞し,第86回アカデミー賞でも,作品賞,監督賞,主演男優賞,助演男優賞部門でライバルとなっている(計10部門でノミネート)。時代はもう少し遡った1970年代後半で,全米のメディアを騒がせた収賄スキャンダル,アブスキャム事件が素材だそうだ。何しろ,豪華キャストである。主演級男女優5人に加えて,チョイ役にロバート・デ・ニーロまで登場する。天才詐欺師とその愛人が,FBI捜査官に脅され,カジノ利権に群がる政治家やマフィアを摘発する囮捜査に臨むサスペンスドラマというから,騙し合いの挙句に,最後はサプライズだと予想できる。本来大好きなジャンルであり,70年代のディスコ・サウンド満載なのも懐かしいのに,筆者はこの作品を好きになれなかった。ホンの僅かの違和感だが,少し演技が鼻につき,これがオスカー最有力とは認め難い。ただし,クリスチャン・ベールの激太り,太鼓腹は笑えるし,その妻役のジェニファー・ローレンスには恐れ入った。『ハンガー・ゲーム2』(14年1月号)で戦う少女役を演じたばかりの23歳の女性が,もうこんな役を演じ切るとは,どれだけの大女優に成長することだろう。最後に余談だが,市長役のジェレミー・レナーは,剽軽な役を演じると,濱田岳によく似ている。
 『ザ・イースト』:表題は環境破壊企業に報復テロを仕掛ける無政府集団の名称で,元FBI女性捜査官が調査会社に雇われ,この集団への潜入捜査に挑む。公害垂れ流し企業を社会的告発するだけでなく,返す刀でカルト集団の異常な共同生活にも厳しい視線を浴びせている。携帯電話やネット上での犯行声明がなければ,これは四半世紀以上前の映画かと感じてしまう。全編に緊迫感がみなぎっているが,終盤20分は手に汗握る展開だった。次第に集団の理念に共感し,リーダーと惹かれ合うようになった主人公が最後に選んだ行動は……。お決まりパターンのいずれにも属さない結末は,新たな女性像を描いていると感じた。欠点は,製作・共同脚本・主演を務めたブリット・マーリングが美人過ぎることだ。こんな美形じゃ,潜入捜査に耐え得るタフな女性には見えず,リアリティが低いじゃないか。
 『メイジーの瞳』: 素直に心暖まる好い映画だ。身勝手な両親の離婚に翻弄される少女の日常生活を描いているが,6歳の少女メイジーを演じるオナタ・アプリールの好演が光る。時代設定は現代だが,原作は19世紀末のH・ジェイムズの小説というから,その時代に既に離婚後の親権騒動があったのかと驚く。メイジーは父・母の都合でたらい回しにされ,それぞれの若い再婚相手と心を通わせて行く。(少しネタバレになるが)彼女にとって悲しい結末が待っていることを心配したが,幸せな気分で観終わったのが嬉しかった。ただし,こんな若い美男・美女が,我が侭放題のババアや嫌味な中年男と再婚するという設定が解せない。そのリアリティのなさが不満だったが,一晩考えて納得した。そーか,実は心優しい地味な男女だったのに,メイジーちゃんの目には美男・美女に映ったのだろう。
 『エヴァの告白』:こちらも良作だ。主演はマリオン・コティヤールで,祖国ポーランドを捨てて,米国に移住してきた女性エヴァ・シブルスカを演じる。時代は1921年,NYのエリス島に到着する。強制送還は免れたものの,無一文で,劣悪な環境の中を,逞しく生きようとする健気な姿に心を打たれる。少し派手めの女性役が似合う彼女が,凛とした威厳を保ちつつ,抑えた演技で輝いていた。彼女に好意を寄せる男性が,ホアキン・フェニックスとジェレミー・レナーという豪華共演陣である。とりわけ,H・フェニックスが素晴らしく,彼のために書かれたような個性的な役柄だと思う。1920年代のNYの再現も上出来だった。そして,この映画を香り高いものにしているのは,見事な邦題だ。この映画の要点を見事に凝縮している。どんな「告白」なのかは,観てのお愉しみとしておこう。
 『大統領の執事の涙』:『黒執事』は先月号で紹介した悪魔が主人公の邦画だが,こちらは米国南部の綿花畑の奴隷出身で,ホワイトハウスで7人の大統領に仕えたという「黒人執事」の物語だ。キューバ危機,ケネディ暗殺,ベトナム戦争等,彼の目から見たアメリカ近代史は,これまでの映画にない斬新さだ。公民権運動史も,闘士の視点で描くのでなく,大統領官邸から見たもう1つの視点が興味深い。フォレスト・ウィテカー演じる主人公セシルには実在のモデルがいる。一方,大統領や夫人はすべて実名で登場し,演じる俳優は結構表情や仕草を似せている。豪華助演陣と聞いていたが,物語に熱中する余り,エンドロールに名のあったマライア・キャリー,ジェーン・フォンダ,ロビン・ウィリアムズが,どこに登場したのか分からなかった。ハリウッド定番の父子の物語としても,良くできている。
 
  (上記のうち,『ROOM237』『ウルフ・オブ・ウォール・ストリート』『アメリカン・ハッスル』は,O plus E誌に非掲載です)  
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