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O plus E誌 2010年6月号掲載
 
    
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『書道ガールズ!! −わたしたちの甲子園−』 :四国中央市で開催される「書道パフォーマンス甲子園」を描く,女子高校生たちが主役の青春映画。音楽に合わせて,巨大な紙に字を書くイベントだ。紙の生産高日本一のこの市もこのイベントも知らなかった。2004年に4市町村合併で生まれた市で,愛媛県の東端に位置しているそうだ。同市とイベントのTV放映権をもつ日本テレビの宣伝臭がぷんぷんする。脚本も演技も素人芸の域を出ず,同じ愛媛県の女子高生を描いた『がんばっていきまっしょい』(98)の足元にも及ばない。類似テーマの秀作『フラガール』(06)とは,比ぶべくもない出来だ。それでも,終盤の競技会でのパフォーマンだけは面白かった。この部分は演技ではなく本物だ。
 ■『ローラーガールズ・ダイアリー』:こちらは米国版のガールズ・ムービー。1970年代に流行ったローラーゲームを題材にしている。主演の少女は『JUNO/ジュノ』(08) のエレン・ペイジ,監督はこれが初作品となるドリュー・バリモア。一瞬「あれっ!? 今までも監督してなかったっけ?」と感じるが,そういえば,これまでは製作だけだった。彼女は,若い複数人の女性と共演する映画だと輝き,才能を発揮する。本作はまだまだ小手調べで,将来素晴らしい作品を多数撮ることだろう。母親役のマーシャ・ゲイ・ハーデンの存在感が抜群で,この映画を引き締めている。
 ■『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』 :製作会社が同じで,表題は『ALWAYS 三丁目の夕日』にあやかったそうだが,何たる長い副題だ。でもこれだけで,熟年男性が人生を見つめ直す心暖まる物語だと分かる。主人公(中井貴一)がリストラされた惨め男でなく,絶頂期のエリートサラリーマンという設定がいい。少し説教じみた臭いセリフや,「どう? いい映画でしょ」というスタンスが少し気になるが,それでもしっかりと感動させるくれる。島根県の出雲地方を走る一畑電車の車両や運転手教育のシーンには,鉄ちゃんならずとも魅せられてしまう。エンドロールに流れるユーミンの主題歌もなかなかご機嫌な曲だ。
 ■『ヒーローショー』:『パッチギ!』(05)の井筒和幸監督の最新作。この監督らしいバイオレンスと青春群像の組合せだが,賛否両論で,作品の評価は分かれることだろう。前半は不愉快極まりない若者たちの会話と生態で,余りの暴力沙汰に辟易する。主演はお笑いコンビ「ジャルジャル」の後藤淳平と福徳秀介だが,中盤以降,やっとこの2人が主役らしい役割に落ち着く。ようやく彼らに感情移入し始め,面白くなった頃に,突き放したような結末で放り出す。監督は描きたいように描いたのだろうが,これじゃ大抵の観客は消化不良をおこす。映画そのものよりも,ポスターの出来が素晴らしい。Webサイトも同じデザインだ。
 ■『マイ・ブラザー』:デンマーク映画『ある愛の風景』のリメイク作品。実直な兄(トビー・マグワイア)と前科者の弟(ジェイク・ギレンホール)の賢兄愚弟の関係が,アフガン戦争での出来事で一変する。その後の展開を予想しつつ,ハラハラしながらこの家族の行方を見守ってしまう。美しい兄嫁役のナタリー・ポートマンを含めた3人とも,それぞれ存在感のある好演だ。とりわけ体重大幅減でこの役に挑んだT・マグワイアの鬼気迫る演技が印象に残る。これが,あのスパイダーマンとはとても思えない。そういえば『サイダーハウス・ルール』(99)の頃は,若手の演技派だった。役柄は逆だが,感動度は同作品といい勝負と言える。
 ■『孤高のメス』:いい映画だ。文句なしの感動の医療ドラマだ。地方の市民病院で脳死肝移植の難手術に挑む孤高の外科医の物語で,本年度の邦画No.1だろう。堤真一主演の『クライマーズ・ハイ』(08)で脚本担当だった成島出が,今度は監督として,さらに一回り骨太の作品を生み出した。手術シーンがリアル過ぎるくらいリアルだが,これがなかったら,この映画は薄っぺらな絵空事に見えたに違いない。原作者・大鐘稔彦が「ああいう外科医になりたい,と思う人がたくさん現れ,そして地域に散っていったとしたら,この映画は成功だと思う」と語っている。全く同感だ。そう書くつもりで観ていたのに,先を越されてしまった。
 ■『シーサイドモーテル』:名前とは似ても似つかない山奥のさびれたモーテルが舞台で,4室で繰り広げられる騙し合いの群像コメディだ。登場人物がインチキなセールスマン,コールガール,ギャンブラー,ヤクザ,安売りスーパーの店長,キャバクラ嬢と多彩なら,出来事も売春,借金取り立て,交通事故,不倫,拷問,暴力団の資金着服……という訳で,丁々発止の演技と息もつかせぬ物語展開を期待する。ところが,前半のドタバタ劇に今一つキレがなく,これじゃ後半のヒューマンドラマも生きてこない。何やら,演技をつける監督も,演じる俳優も気恥ずかしく,遠慮気味に見える。こういう映画は強引な破壊的パワーが必要だが。  
 ■『告白』:昨年の本屋大賞を受賞した同名小説の映画化作品。教え子に愛娘を殺された中学校教師の復讐を描いたミステリーだが,原作よりも数段レベルが高い佳作に仕上がっている。『孤高のメス』と並ぶ本年度の邦画の代表作で,東宝公開作品と思えぬコクがある。監督・脚本は,『嫌われ松子の一生』(06)の中島哲也。原作と同じく,主要登場人物の告白を中心とした展開だが,構成も語りのセリフも素晴らしい。観賞後に原作を読むと,その文体の稚拙さが気になるくらいだ。ヒロインの松たか子のクールな演技も,中学生役の少年・少女の熱演も印象に残る。音楽にも力が入っている。クライマックスの爆発シーンの逆回し映像が秀逸で,主人公の最後の一言がキマっていた。テーマそのものには賛同できないが,映画としてはお見事です!  
 ■『クレイジー・ハート』:アルコール依存症で破滅型のシンガーソングライターの愛と再生を描くヒューマンドラマだ。小説の映画化なのに,実在の歌手の物語かと思わせる。かつて一世を風靡した初老の男の孤独な生活は『レスラー』(09年5月号)を想い出す。カントリー・ソングに彩られた映画のタッチは,『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』(05)にも似ている。それもそのはず,音楽監督のT=ボーン・バーネットは同じだ。本作で主演男優賞を得たジェフ・ブリッジスは,確かにオスカーに相応しい堂々たる演技を見せてくれる。共演のコリン・ファレルの歌の上手さにも驚いた。2人のデュエットシーンでのハモりも素晴らしい。主題歌「The Weary Kind」の美しい調べも特筆ものだ。そうだ,アカデミー賞ではオリジナル歌曲賞も獲ったのだった。  
 ■『ダブル・ミッション』:実に他愛もない映画だ。映画の冒頭にジャッキー・チェンの代表作の名場面が流れる。若き日のスリムな彼は実にカッコイイ。今やアクションスターには見えないデブ男で,代わり映えしないB級ハリウッド作品ばかりだ。最近そんなジャッキーが結構好きだ。本作も,敏腕CIAエージェントの主人公だけが活躍し,他の出演者は2流,3流という典型的なヒーロー・ムービーだが,屈託のない娯楽作品と割り切れば,痛快で楽しめる。もはや身体能力だけに頼るカンフー・アクションは無理なのか,様々な小道具を駆使した楽しいアクションを堪能させてくれる。シネコンに出かけたが大して観たい映画がない時,小難しい映画は嫌でスカッとするビデオが観たくなった時,この映画の題名を思い出すと良いだろう。  
 ■『瞬 またたき』:『花のあと』(10年4月号)を観て,一気に凛々しい主人公を演じた北川景子のファンになった。今年がブレイクの年か,立て続けの主演作である。恋人を交通事故で亡くし,心の傷に苦しみながらも事故の真相を知らんとする女性を演じる。ミステリータッチの展開に意外な結末を期待するが,さほどの物語性はない。原作は「涙でページがめくれない」と話題を呼んだ河原れんの同名小説だというが,さほど泣けない。邦画の平均水準はこんなものか。観るべきは北川景子だけで,何やら大女優に成長しそうな予感がする。  

 
  (上記のうち,『告白』はO plus E誌には非掲載です)  
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