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O plus E誌 2014年7月号掲載
 
 
オール・ユー・ニード・イズ・キル』
(ワーナー・ブラザーズ映画)
      (C) 2013 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BMI) LIMITED
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [7月4日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開予定]   2014年6月10日 梅田ブルク7試写室[完成披露試写会(大阪)]
       
   
 
トランセンデンス』

(ポニーキャニオン&松竹配給)

      (C) 2014 Alcon Entertainment, LLC.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [6月28日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開予定]   2014年6月4日 松竹試写室(大阪)  
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  SF映画ラッシュの中から,生き残ったのはこの2本  
  神話も魔法使いもある種のSFだと言えなくもないが,その他に今月は全うなSFだけで4本もあった。さすがにこれ全部をメイン欄で長く語る訳には行かない。色々吟味した結果,メイン欄には,近未来社会が舞台で,トム・クルーズ,ジョニー・デップという当代の人気男優が登場する主演作品2本を残すことにした。ともに北米での公開週の興業成績は余り芳しくなかったが,本邦では,ネームバリューだけで結構ヒットすることだろう。
 無論,当欄の関心事は主演男優や興行成績ではなく,SFとしての着想,未来社会の描き方,そのビジュアル表現の斬新さ,CG/VFXの駆使方法を総合的に評価している。片や死んでも死んでも生き返り,何度も戦闘を繰り返すという新感覚のバトルもので,もう一方は,死んだ天才科学者の頭脳を電脳化して甦らせるというアイディアに基づいている。まさに名実ともに生き残った2本だが,それぞれの配給会社はこの夏のイチオシ作品と気合いが入っているようだ。ただし,出来映えに関しては,両作品でかなり差があると感じた。
 
 
  斬新なタイムループ表現で,SF映画史に残る傑作か  
  まずはトム・クルーズ主演作だが,何とも冴えない題名で,当初は食指が動かなかった作品だ。原題は『Edge of Tomorrow』。それが何でこんな邦題になるのかといえば,「日本原作,トム・クルーズ主演!」のキャッチコピー通り,ルーツは日本国内にあった。原作は桜坂洋のライトノベル「All You Need Is Kill」で,その映画化権をハリウッドが買い取り,原作の英題がカタカナになって再上陸したという訳だ。
 21世紀になってデビューしたこの作家も,2004年に発表された原作も,筆者の世代は全く知らなかったが,国内でもさほど話題になっていない原作を,よくぞハリウッドに,しかもメジャー系に売り込んだものだと感心する。版権をもっていたビズメディア社は,サンフランシスコにあり,日本の漫画・アニメの翻訳出版と映像販売を行う企業とのことだが,小学館や集英社の系列会社らしい。こんな形で日本の現代文化を世界発信して行こうと試みるのは,大したものだ。
 本作の監督は,『ボーン・アイデンティティー』(02)『Mr.&Mrs. スミス』(05)のダグ・ライマン。これまで「リーマン」と呼ばれていたが,本作では「ライマン」と表記されている。『ジャンパー』(08年4月号)では,スピード感溢れるSFアクションを披露してくれたが,本作はそれ以上のジェットコースター・ムービーである。身体能力抜群のトム・クルーズは,スピード感溢れるこの映画の主人公にぴったりだ。
 ヒロインの女戦士役は,『プラダを着た悪魔』(06)『ヴィクトリア女王 世紀の愛』(10年1月号)のエミリー・ブラント。割れ顎の少しいかつい顔立ちだと思っていたが,少し見ぬ間に随分痩せて,綺麗になった。『アジャストメント』(11年6月号)『LOOPER/ルーパー』(13年1月号)等のSF映画に出演していたが,抜群の戦闘能力をもつ女戦士役がよく似合っていた。
 もの凄い銃火器を身に付けた戦闘スーツ姿の2人のスチル写真で,激しいバトル映画だと予想できた。報道担当の軟弱なケイジ少佐役のトム・クルーズは,一兵士として異星人との戦闘に駆り出されるが,何と映画が始まって10分かそこらで,彼は戦死してしまう。かと思いきや,彼は戦闘前夜にタイムスリップして覚醒する。それ以降,タイムループにより何度も何度も生と死を繰り返し,その都度戦闘能力が増して行くという設定だ。SF作品の中では「ループもの」と呼ばれるジャンルに属するが,ここまで目まぐるしいループは珍しいし,それを見事に映像化している。まるでビデオゲームでリセットボタンを押す感覚だ。
 VFX的にも見どころは多く,以下その要点である。
 ■ まずは前半から登場し,ループして何度も描かれるビーチでの戦闘シーンである(写真1)。地上に重装備した無数の兵士,上空に多数のヘリが飛び交い,爆発と噴煙は,まさにVFXの塊りで,200m × 150mのオープンセットに550mのグリーンスクリーンを配したというだけのことはある(写真2)。既視感を与えつつ,各ループで次々と別アングルの映像を登場させる編集も見事だ。
 
 
 
 
 
 
 
 
写真1 繰り返し何度も登場するビーチでの戦闘場面
 
 
 
 
 
 
 
 
 
写真2 上記の撮影風景。この戦闘スーツでの演技は大変だったろう。
 
 
 
  ■ ギタイと称するエイリアンのデザインも,醜悪でいい出来だ。じっくり眺める余裕もないが,しっかり造形されていることを感じ取れる。3D上映を意識し,かなりの飛び出し感で迫って来る。彼らの内部構造を透明立体表示するホログラム・ディスプレイは目新しくないが,コンテンツ的には悪くなかった(写真3)
 
 
 
 
 
写真3 異星人の脳の構造をホログラム風の透明表示
(C) 2013 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BMI) LIMITED
 
 
  ■ CG/VFX演出で最も楽しめたのは,リタがケイジを鍛える屋内戦闘訓練エリアだ。この訓練のスピード感が素晴らしい。紙幅がなく詳しく語れないが,ロンドンのトラファルガー広場や戦時下のパリの描写も素晴らしいVFXシーンだ。主担当はSony Pictures Imageworksで,Framestore,MPC,Rodeo FXも参加している。
 
 
  好素材なのに,ビジュアル表現が追いつけず後一歩  
   タイムループで幻惑され,計算し尽くした印象的な映像が迫ってくると,上記はクリストファー・ノーラン作品かと感じてしまう。実は次なる『トランセンデンス』こそ,C・ノーラン製作総指揮によるSF大作だ。
 主演は,その名前だけで女性ファンを呼び込めるジョニー・デップだ。ところが,最近のトム・クルーズ主演作がいずれも娯楽作品として高水準なのに対して,ジョニー・デップ主演作には当たり外れが多い。素直な二枚目ではなく,彼には一癖も二癖もある個性的な人物を演じさせたがるためだろうか。『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズのJ・スパロウ船長は当たり役だった。その後,『アリス・イン・ワンダーランド』(10年5月号)の狂気の帽子屋,『ダーク・シャドウ』(12年6月号)のヴァンパイア,『ローン・レンジャー』(13年8月号)ではインディアンのトント役等々,いずれも似合ってはいたが,映画自体は今イチだった。
 本作では,人工知能を研究する天才科学者ウィルの役だが,反テクノロジーを標榜するテロリストR.I.F.T.に襲撃され,落命してしまう。公私にわたるパートナーのエヴリン(レベッカ・ホール)が,彼の死を惜しみ,スーパーコンピュータPINNにウィルの頭脳をインストールしたことから,彼はサイバー空間内で生き続け,人間を超越した存在に進化するという設定だ。何やら,発端は『ロボコップ』(14年4月号)に似ているが,コンピュータが意識と人格を持ち,人間社会を支配する強大で邪悪な存在になるという設定は,これまで数々のSF作品で採用されてきた定番の1つだ。
 監督は,一連のノーラン作品の撮影監督を務めてきたウォーリー・フィスターだ。『インセプション』(10年8月号)でアカデミー賞撮影賞を得ているが,監督としてはこれがデビュー作だ。助演陣は,ウィルを見守る恩師役にモーガン・フリーマン,級友の神経生物学者役にポール・ベタニー,FBI捜査官役にキリアン・マーフィと悪くないキャスティングだ。
 表題の「Transcendence」とは,「超越」の意で,サイバー空間の「超頭脳」が,人間の枠を超え,神の領域にまで進化することを言いたいようだ。最近の技術進歩を解説するかのようなシーンも多々登場するが,どうも筆者にはしっくり来なかった。色々理由を考えたのだが,一言で言えば,ビジュアルセンスが悪い。着想的には好素材であるのに,それを近未来を描いたSF映画として昇華し切れていない。『ノア 約束の舟』にも同様の発言をしたが,ある意味では似ている。
 例えば,(写真4)はウィルがPINNにインストールされて2年が経過した後の存在を示す映像だ。巨大な存在,神秘的な存在を表現したかったのだろうが,これじゃまるで一昔前の大型計算機室だ。ウィルの顔をありきたりのモニター上に表示するのは,あまりに無策過ぎる(写真5)。彼の存在は,もっと斬新な映像表現で,感じさせて欲しかったところだ。技術的には,マイクロマシンの大群が微粒子のように振る舞う表現は悪くないのに,背景となるソーラーパネルの描写が凡庸だ(写真6)。再生医療で目の手術をするシーン(写真7)は見せ場なのだから,もっとこの種のシーンに時間を割いても良かったと思う。即ち,CG/VFXの主担当Double Negativeの責任ではなく,魅力的なSF映画にする上での基本的な美術デザインにコストをかけず,煮詰めが甘いのだと感じた。
 
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写真4 一昔前の大型計算機室を彷彿とさせる光景
 
 
 
 
 
写真5 透明の棚は未来風だが,モニター表示は安直
 
 
 
 
 
 
 
 
写真6 地中から湧き出してくるマイクロマシン。この表現自体は悪くない。
 
 
 
 
 
 
写真7 ロボットアームでの眼科手術のシーン。もっと長くても良かった。
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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