head
titlehome略歴表彰学協会等委員会歴主要編著書論文・解説コンピュータイメージフロンティア
| INDEX | 年間ベスト5 | DVD特典映像ガイド | SFXビデオ観賞室 | SFX/VFX映画時評 |
 
title
 
O plus E誌 2003年9月号掲載
 
 
『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』
(ウォルト・ディズニー映画/ブエナビスタ配給)
 
       
  オフィシャルサイト[日本語][英語]   2003年7月21日 大阪厚生年金会館(ジャパンプレミア)  
  [8月2日より全国松竹・東急系他にて公開中]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  質感十分,本物を見たくなるスタント・ショー  
 

 本作品も既に公開中だか,本映画時評としては見過ごして通れない一作だ。続編やアメコミの映画化ばかりの夏映画の中でオリジナル作品だというが,ちゃんと元ネタはある。言うまでもなく,デイズニーランドの人気アトラクション「カリブの海賊」だ。最近は,新登場のアトラクションに人気No.1の座は奪われたが,人形の質感や演出のクオリティの高さは今でも色褪せていない。
 アイデア貧困のハリウッドは,リメイクや昔のTV番組の映画化だけでは足りずに,テーマパークにまでネタ探しの矛先を向け始めたということだ。ユニバーサル・スタジオはヒット映画をアトラクション化するのが常態だが,ディズニーランドには長年のオリジナル・アトラクションがあるので,その逆ができるわけだ。製作は,辣腕プロデューサのジェリー・ブラッカイマー。いかにも,大衆の嗜好を知り尽くした彼の考えそうなことだ。商魂たくましいディズニーは,この映画の興行的成否を見るまでもなく,既にエディ・マーフィ主演で「ホーンテッド・マンション」の映画化にも着手しているらしい。
 現地でのプレミア・ショーは,LAのディズニーランドを貸し切りにして著名人を多数招待した。3,000万円かけた全長800mの赤絨毯で出迎えたというから,話題作りも徹底している。日本初公開の大阪でのジャパン・プレミアでも,上映前にスモークがたかれたり,爆竹と閃光を駆使した演出がなされて観客の度肝を抜いた。
 主演の海賊ジャック・スパロウ役には,『フロム・ヘル』(01)『ブロウ』(01)等主演作が続くジョニー・デップ。少しヤクザな役が似合うだけに海賊はぴったりだ。彼を超える重要なウィル・ターナー役に選ばれたのは,『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズで弓の名手レゴラスを演じて,一躍注目を浴びた美男俳優のオーランド・ブルーム。彼が恋するヒロイン,総督の娘エリザベス・スワン役は『ベッカムに恋して』(02)に出演していたキーラ・ナイトレイ。いかにも正統派美人の英国の新進女優だ。ブラッカイマーの術策にはまるのはシャクだが,少しスチル写真を見ただけでも,どんな映画に仕上げたのか気になるではないか。
 時代は18世紀。海賊に襲われ漂流していたウィル少年の首にあった1枚の金貨を,少女エリザベスがこれを奪い自分のものにする。この金貨が,8年後成人した彼らの運命を左右する。ブラックパール号で出没するバルボッサ船長(ジェフリー・ラッシュ)と手下の海賊たちは,永遠に死ぬことを許されない生ける屍の呪いをかけられている。この呪いを解くには,征服者コルテスの呪いの金貨の最後の1枚まで手に入れ,持ち主ターナーの血であがなう必要があるというわけだ。
 監督は,『ザ・メキシカン』(01)やハリウッド版『リング』(02)を撮った新進のゴア・ヴァービンスキー。明るいカリブ海をバックに,スケールの大きな活劇はいかにも欧米人好みの冒険譚だ。ジャック・スパロウが現われてエリザベスとからみ,バルボッサ船長の海賊船が登場するだけでワクワクしてくる。まさにディズニーランドのアトラクションの開演を待つ感じだ。この盛り上げ方は上手い。
 海軍船インターセプター号や海賊船ブラックパール号は,18世紀に建造された帆船の精巧なレプリカ船を見つけてきて,ロサンジェルス沖と実際にカリブ海まで航行してロケしたそうだ。この本物感がたまらない。それが「カリブの海賊」の真骨頂だ。その上で繰り広げられるスタント・アクションの躍動感もさすがだ(写真1)。日本映画に真似できる代物ではない。

     
 
 
 
写真1 本物の帆船を確保しての撮影と迫力あるスタント・アクションが魅力の源泉
(c)2003 Disney Enterprises, Inc. and JERRY BLUCKHEIMER, INC.
 
     
   この映画のVFX担当は,最大手のILMだ。船も海も海賊たちも,本物指向であるから安易なCG映像の出番はない。いくつかのシーンの背景がディジタル・マットなのは当然として,船のキールが激しく回転激突する場面で,そこに捕まっている人物はCGだろうか。ILMの重鎮ジョン・ノールがVFXスーパバイザを務めていて,この程度の視覚効果で終わるはずはないと不思議に思っていたら,後半見事な出番が用意されていた。
 見どころは,月夜になるとゾンビと化す海賊たちの骸骨姿だった。全くの骨だけをモーション・キャプチャ・データで動かすなら簡単だが,骸骨にミイラ状の皮膚を付け,それぞれの衣服の一部を残した姿で登場する。写真2のバルボッサ船長の変身などは序の口だ。各俳優を3Dスキャンして形状データを得るのは最近の定番だが,そこから俳優毎の骸骨(特に頭部)を推定し,その上に数層の皮膚を重ねているので,どの俳優のゾンビ姿なのか見分けがつく。これは凄い。『ハムナプトラ』シリーズのミイラで経験済みのテクニックとはいえ,何十,何百というゾンビたちが,実写の兵隊たちと入り乱れて戦うのだから手が込んでいる。『ハルク』『T3』が同時進行中に,別動チームがこれだけのVFXを軽々とこなすのだから,ILMのパワーは凄いなと改めて感心する。
 派手な前宣伝に見合うだけの豪華さは備えていて,エンターテインメントとしての期待を裏切らないが,全編2時間23分は長く,途中少しだれてしまう。これはオーランド・ブルームの売り出し映画だ。ジョニー・デップは3枚目風の引き立て役に回っているのが,彼のファンにとっては少し残念かもしれない。
 映画全体の印象は,海賊船を舞台とした見事なスタントショーだ。テーマパークのディズニーMGMスタジオにある「インディ・ジョーンズ・スタント・スペクタキュラー」,ユニバーサル・スタジオなら「ウォーターワールド」の類いのあのショーだ。今後これを生身のショーとしてディズニーランドに再導入するのだろうか? そちらの方も是非見てみたい。では,今までの「カリブの海賊」は引退させるのか? いやいやそれは残しておいて,ディズニーシーにこのアトラクションを作ればもっと似合うぞと感じる。うーむ,これは完全にディズニーの手の内にハマってしまったわい。
       
     
 
 
 
 
 
 
 
写真2 不死身のゾンビへの変身は単純なモーフィングではない
(c)2003Disney Enterprises, Inc. and JERRY BLUCKHEIMER, INC.
 
     
  ()  
   
  Page Top  
  sen  
 
back index next
 
     
<>br