head
titlehome略歴表彰学協会等委員会歴主要編著書論文・解説コンピュータイメージフロンティア
| INDEX | 年間ベスト5 | DVD/BD特典映像ガイド | SFXビデオ観賞室 | SFX/VFX映画時評 |
title
 
O plus E誌 2011年7月号掲載
 
    
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『さや侍』:ダウンタウンの松本人志の監督第3作だ。食指は動かなかったが,初の時代劇というので足を運んだ。刀を捨てた脱藩浪人と父を蔑視する娘の葛藤を独特の感性で描いた作品というが,まとまりのない猥雑な映画だった。明らかに北野武を意識している。海外映画祭が目当てなのは勝手だが,これを本気で入場料をとって映画館で見せる気か? 書きなぐっただけの書,好き勝手に塗りたくった絵を見せられて,「個性的でしょ? 才能あるでしょ?」と言われているかのようだ。大吉本興業の庇護の下にこんな道楽が許されるとは,漫才芸人も結構なご身分だ。映画監督を志すが,道が拓けない若者には,漫才師に転身することを勧めよう。
 ■『デンデラ』:姥捨山に捨てられた老婆たちが生き延び,共同体「デンデラ」を営み,村人への復讐を企てるという異色の物語だ。主演の浅丘ルリ子は実年齢通りの70歳だが,倍賞美津子,山本陽子,草笛光子,山口果林らのベテラン女優陣が老けメイクで85~100歳の老女を演じる。脚本・監督の天願大介が『楢山節考』の今村昌平監督の子息というのも因縁めいている。山形県庄内地方の豪雪地帯でのロケには息を飲むし,演出も美術セットも素晴らしい。そのリアリティゆえに,後半の中心となる熊との闘いや雪崩シーンの表現力に限界があるのが残念だ。様々な特撮で対処している努力は分かるが,最先端のCG/VFXを利用できない日本映画の実力をまざまざと感じてしまう。
 ■『ビューティフル BIUTIFUL』:主演は『ノーカントリー』(07)で殺人鬼を演じたハビエル・バルデム。原案・共同脚本・監督は『バベル』(06)のA・G・イニャリトゥ。惜しくも今年のアカデミー賞は逃したものの,カンヌ国際映画祭とゴヤ賞で主演男優賞受賞と聞くだけで,シリアスで重厚な演技を想像する。実際,ほぼ全編に出ずっぱりで,スペインの裏社会に生き,前立腺癌で余命2ヶ月を宣告された男の生きる様を熱演する。精神不安定で薬物依存の妻と2人の子供たちとの崩壊した家庭は重苦しく,またこんなつらい映画を見せられるのかと思ったが,この演技には脱帽だ。ラスト30分が魂を打つ。宗教画のような陰影のある映像,フラメンコ・ギターの調べ,そして長く静かなエンドロール。観客がこの映画の余韻に浸る時間まで計算している。
 ■『ハングオーバー!! 史上最悪の二日酔い,国境を越える』:米国では大ヒットした前作を,当欄では「脚本はよく練れているが,やはり日本人とは笑いの感性が違うのだろう」(10年7月号)と評した。続編の本作の期待度もその程度だった。即ち,前作が肌に合う観客以外には,所詮,クソ面白くもない米国流のドタバタだろうとの想いだった。嬉しいことに,この予想は見事に外れた。結婚式前夜の男たちの大騒動という設定も,監督も主要出演者たちも同じなのに,前作よりずっと面白い。1つには,登場人物のキャラ設定が分かっていて,ギャグも素直に溶け込んでくるせいだろう。もう1つは,脚本にもセリフにも明らかに進歩の跡が見られ,笑いの質もタイミングも実によく計算されている。バンコックの風景描写も美しく,観光映画としても合格だ。本作からスタートの読者には,まず前作をビデオで予習してからの観賞を勧める。
 ■『ラスト・ターゲット』:ジョージ・クルーニー主演の最新作。原作はマーティン・ブース作の「暗闇の蝶」(新潮文庫)で,裏社会で生きてきた孤高の暗殺者が引退を決意し,最後に精巧な狙撃ライフルの製作を引き受けるという設定だ。ハイテンポで迫り来る危機を切り抜ける主人公を想像するが,この映画には迫真の銃撃戦も派手なカーチェイスもない。イタリアの古い街で若く美しい娼婦と恋に落ちて行く様を丁寧に描いている。監督のアントン・コービンは本職が写真家だけあって,中世の面影を残す美しい街並みや山々を見事に捉え,詩情溢れる物語に仕上げている。サスペンス度は高くないが,欧州テイストは満喫できる。
 ■『小川の辺』:藤沢周平原作の小説の映画化8作目だが,主演の東山紀之は『山桜』(08年6月号)に続く2度目の出演だ。北の小国・海坂藩の下級武士が,剣の腕を見込まれ,藩命で脱藩した元藩士を討つという設定は平凡だが,その妻が共に剣を学んだ実の妹(菊池凛子)というのが本作の鍵である。美しい日本の風景,庶民の暮らしを描いた映像は,NHK番組『小さな旅』を見るかのようで,音楽までが似ている。ところが,ただ美しいだけであって,この物語は淡泊過ぎる。もっと人間関係や剣戟シーンを膨らませなければ,僅か40ページの短編を100余分の映画に引き伸ばすのは苦しい。物足りなさを感じたままで終わってしまったが,東山紀之主演の藤沢作品はもっと見たいと感じた。
 ■『アイ・アム・ナンバー4』:『トランスフォーマー』シリーズのマイケル・ベイが製作,監督は『イーグル・アイ』(08年11月号)のD・J・カルーソ,VFXの主担当はILMで,Entity FX, Hammerhead等の各社が約800ショットのCGシーンを披露するSFアクション・アドベンチャーとくれば,本来メイン欄で紹介すべき作品なのだが,試写を観たのが締切前日だったので,長めの短評しか書けなかった。滅亡寸前の異星から地球に送り込まれた9人の幼児が,若者に育つにつれて超能力に目覚め,彼らを追う邪悪なエイリアンたちと戦うという設定は,典型的な『スーパーマン』の亜流であるし,表題からは『ファンタスティック・フォー』シリーズのような超能力集団ものを想像してしまう。実際には,9人中のNo.4たる主人公(アレックス・ペティファー)と女性のNo.6(テリーサ・パーマー)しか登場しない。前半は,学園ものラブ・ロマンスとして悪くない出来だったし,懐中電灯にも念力発射装置にもなるパワー光線の威力も小気味よかった。後半は予想通りエイリアンとの大バトルだが,このエイリアンが滑稽過ぎるし,恐竜風のモンスターの登場は余計だった。相変わらず,ILMは作品に恵まれない。
 ■『サンザシの樹の下で』:予想通り,期待通りの映画だった。文化大革命時代の農村を舞台に,若い男女の美しく切ない純愛をチャン・イーモウ監督が描くとなれば,当然『初恋のきた道』(99)を思い出す。『HERO』(02)のような大作は向かないこの監督も,彼の原点たる農村ものでは見事な語り口を見せてくれる。ただし,文革そのものは滑稽かつ時代錯誤的に描いて,こき下ろしている。毛沢東が金正日に見えてくるほどだ。コン・リー,チャン・ツィイーに続き,彼のヒロインに抜擢された新星チョウ・ドンユィは,スチル写真で見るよりずっと魅力的だった。相手役の男優ショーン・ドウの笑顔もいい。2人の清楚な恋愛は実話ベースだというが,その結末は韓流ドラマ風で,少し興醒めだった。
 ■『大鹿村騒動記』:阪本順治監督・脚本作品。騒動記というから,「大馬鹿村」かと思ったが,「おおしかむら」だった。長野県南部にある実在の村で,日本一美しい村だそうだ。この村に伝わる「大鹿歌舞伎」がしっかり物語に組み込まれている。村で飲食店を営む主人公(原田芳雄)に,18年前に駆け落ちした妻(大楠道代)と幼なじみ(岸部一徳)の三角関係が滑稽かつ絶妙だ。三国連太郎,佐藤浩市,松たか子,石橋蓮司という豪華共演陣がそれぞれにいい味を出している。名優たちを実力派監督が使って撮ったら,こうも引き締まった映画になるという見本である。伝統ある村歌舞伎の舞台は少々退屈だったが,エンドロールに流れる故・忌野清志郎の主題歌が見事に決まっていた。素晴らしい。
 ■『デビル』:『シックス・センス』(99)で大成功を収めたM・ナイト・シャマラン監督は,その後『サイン』(02)『ヴィレッジ』(04)等の駄作で評価を落し,『エアベンダー』(10年8月号)に至っては,当欄の予想通り,ぶっちぎりで昨年度のラジー賞に輝いた。もう彼の作品は2度と観るまいと思ったのだが,今後は彼の原案を,将来性のある監督たちが映画化するのだという。それならまだ可能性はあると感じたが,これは正解だった。高層ビルのエレベーターに閉じこめられた5人の男女が巻き込まれる連続殺人事件がテーマだが,ホラーとしても密室ものミステリーとしても,水準以上の出来に仕上がっている。ただし,最後の車の中での会話は余計だ。
 
   
   
  ()  
   
  Page Top  
  sen  
 
back index next
 
     
<>br