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O plus E誌 2008年3月号掲載
 
 
『ノーカントリー
(パラマウント映画/
ショウゲート共同配給)
      (C) 2007 Paramount Vantage, A PARAMOUNT PICTURES company

 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [3月15日より日比谷シャンテシネほか全国東宝洋画系にて公開予定]   2008年1月24日 東宝試写室(大阪)
 
         
   
 
バンテージ・ポイント』
(コロンビア映画
/SPE配給)
         
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [3月8日よりサロンパス ルーブル丸の内ほか全国松竹・東急系にて公開予定]   2008年2月6日 SPE試写室(大阪)
 
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  評判通りの大傑作,『ファーゴ』より面白い!
 
   早くから話題の作品と締切り間際に飛び込んできた一作,いずれも抜群の面白さなので,まとめて紹介しよう。
 コーエン兄弟(イーサン・コーエンとジョエル・コーエン)と言えば,1コマ1コマ凝った表現技法で,批評家や他の映画作家たちを唸らせる玄人好みの監督だ。当欄では『オー・ブラザー!』(01年10月号)しか取り上げていないが,個人的には『ブラッド・シンプル』(84)『バートン・フィンク』(91)『未来は今』(94)『ファーゴ』(96)『ビッグ・リボウスキ』(98)『レディ・キラーズ』(04)など,かなりの数を観ている。それでいて,あまり好きでなかったのは,「どうだ,上手いでしょ」と言わんがばかりの表現が鼻についたからである。
 本作『ノーカントリー』も,世界各地の映画祭や批評家協会賞を総ナメにしていたから,「何んぼのものじゃい」と冷めた目で観てやろうと考えていた。ところが,いざ試写を眺めてみると,そんな想いは吹っ飛んでしまった。いや,面白い。これは紛うことなく彼らの最高傑作だ。『ファーゴ』より断然面白い。全編一分の隙もなく,かつ頗る面白い。
 原作はコーマック・マッカーシーの「血と暴力の国」で,1980年代のアメリカ西部のテキサスからメキシコが舞台である。ベトナム帰還兵の平凡な男モス(ジョシュ・ブローリン)が,偶然,麻薬密売に絡んだ危険な大金を手に入れ,これを持ち去って逃亡する。彼を追うのが,組織が派遣した冷酷な殺し屋のシガー(ハビエル・バルデム)と,モスの身柄を保護しようとするベル保安官(トミー・リー・ジョーンズ)である。
 初めからクライマックスまで,息つく暇もない緊迫感の連続だ。セリフはそう多くないのに,彼らの映像は多くの事柄を表現し,語りかけてくる。音楽に凝っているのも毎度のことだが,登場人物の人物造形やその所作の1つ1つを綿密にデザインしているからだろう。極め付けは,ガスボンベのようなエアガンやサイレンサー付きの銃で平然と人を殺すシガー(写真1)で,まるでエイリアンだ。映画史上,稀代の不気味な殺人マシーンとして記憶に残ることは間違いない。
 さて,当欄の話題であるVFXはといえば,実はあまり見当たらない。VFXの専門誌CinefexのサイトがVFX多用作品にリストアップしていたので,これ幸いと取り上げたのだが,いくつかのインビジブル・ショットだけのようだ。冒頭のテキサスの自然風景がことさら美しかった(写真2)。フルCGアニメ『カーズ』(06年7月号)に描かれていたような美しく懐かしい西部が登場する。合成よりも,ここで不都合な事物を消すのにデジタル技術を駆使していたのかも知れない。
 (以下ちょっとネタバレになるが)いつものコーエン兄弟流の臭みは少ないが,エンディングでベル保安官に多くを語らせるのは,もったいをつけるようで感心しなかった。これなら,殺し屋シガーが淡々と去って行くシーンで終わる方が好ましい。アカデミー賞には作品賞,監督賞など,8部門にノミネートされていて,この号が出る頃には結果が判明しているはずだ。作品賞という感じではないが,脚色賞,助演男優賞の本命で,監督賞を取ってもおかしくない存在だと予想しておこう。
 
     
 
写真1 ユニークな銃を駆使する驚くべき殺し屋   写真2 テキサスの荒野が美しい
 
 
(C) 2007 Paramount Vantage, A PARAMOUNT PICTURES company. All Rights Reserved.
 
     
  こちらは,『シークレット・サービス』より面白い
 
   以上を書き終えた後に,もう1本紹介したくなったのが,『バンテージ・ポイント』である。こちらも負けず劣らず面白く,娯楽作品として一級だ。
 世界首脳会議でスペインを訪れた米国大統領が狙撃される事件を,現場に居合わせた目撃者8人のそれぞれの視点で描くというのがセールスポイントだ(写真3)。と聞くと,黒澤明作品の『羅生門』(50)の手法を想像してしまうが,対立する視点を描くのではなく,マルチアングルが補い合ってパズルを埋める感覚を採用している。
     
 

写真3 狙撃と爆発の場面が別の目撃者の視点から繰り返される

 
   
   8人の視点毎に23分前に遡って事件の背景や周辺状況を見せる手口は秀逸だが,それだけの着想かと思いきや,後半思いもかけない展開となる。小型カーでのチェイス・シーンが素晴らしい。たった90分の映画ながら,息もつかせぬストーリー運びである。『ノーカントリー』が練りに練った玄人受けする映像表現だとすれば,こちらは大衆を魅了する脚本の仕上げ方のお手本だ。
 監督は,TV界出身の英国人監督ピート・トレヴィス。これが初メジャー作品だ。大統領護衛官の主人公トーマス・バーンズ役は,『オーロラの彼方へ』(00)『デイ・アフター・トゥモロー』(04年7月号)のデニス・クエイドが演じる。若き日のクリント・イーストウッドかハリソン・フォードに演じさせたかった役柄だ(写真4)。いわゆるヒロインはいないが,辣腕女性TVプロデューサー役で久々にシガニー・ウィーヴァーが颯爽と登場するのが嬉しい(写真5)。助演陣で最も光っていたのは,昨年『ラストキング・オブ・スコットランド』(07年3月号)のアミン大統領役でオスカーを得たフォレスト・ウィッテカーだ(写真6)。独裁者とは打って変わった人懐っこいアメリカ人観光客役で,彼の使い方が実に上手い。彼が手にするハンディカムも大活躍する。ただし,いくら親会社だとはいえ,SONYのロゴマークが再三登場するのは下品すぎる。
 VFXはといえば,爆発シーンやカーチェイス・シーンにさりげなく使われていた。むしろ,デジタル技術の活躍の場はPreVizだっただろう。多人数が交錯する大統領の演説&狙撃現場を,複数の目撃者の視点でプレーバックし,かつ効果的に補い合うように映像を構成するには,PreViz映像を利用して,事前に綿密な撮影計画が練られていたと想像できる。            
 
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写真4 もう少し若ければ,C・イーストウッドやH・フォードで観たかった映画だ

 
   
 
写真5 久々に凛としたキャリアウーマンで登場
 
写真6 独裁者でオスカーの後は,
陽気な観光客の役
 
   
  (画像は,O plus E誌掲載分から削除・追加してします)  
   
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