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O plus E誌 2003年9月号掲載
 
 
『HERO』
(ワーナー・ブラザース配給)
 
       
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    2003年8月7日 ワーナー試写室
 
  [8月16日より全国松竹・東急系にて公開中]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  スケールは大きいが,少し淡泊な宮廷料理の味  
   この欄を本格的に連載するようになってから約4年。試写会が短期間で海外出張とぶつかってしまい,取り上げ損ねて残念だった一作がある。スケールの大きなワイヤーワークとヨーヨー・マ奏でる主題曲が印象的だったアン・リー監督の『グリーン・デスティニー』(00)だ。この映画でブレークしたチャン・ツィイーの美貌には世界中の男性が魅了された。遡って観たデビュー作『初恋のきた道』(99)での可憐な笑顔もいじらしかった。その後ハリウッドで『ラッシュ・アワー2』(01)のチョイ役があったが,もっと本格的な出演作を待ち望んでいたところに,『初恋…』のチャン・イーモウ監督の初の武侠大作映画に出演し,再び華麗なカンフー・アクションを披露すると聞いた。おまけに『マトリックス』のチームがCGを担当しているという。これは見逃せない。
 主演は『ロミオ・マスト・ダイ』(00)『ザ・ワン』(01)等でハリウッド人気スターとなったジェット・リー。久々に北京語映画への里帰り凱旋出演だ。やはり中国服がよく似合う。他にトニー・レオン,マギー・チャン等の中国・香港のスター俳優が競演し,音楽監督は『グリーン…』でアカデミー賞に輝いたタン・ドゥン,アクション監督は『少林サッカー』のトニー・チン・シウトンとくれば,話題性は十分だ。2002年の製作だが,中国・台湾などでは中国語映画史上最大のヒットとなった。
 時代は,秦の始皇帝がまだ全国統一する前の紀元前200年。名だたる暗殺者3人を殺した証拠をもって秦王(チェン・ダミオン)に謁見を得たのは,ひそかに王の暗殺を期す武術師の無名(ジェット・リー)。彼は,一騎打ちで1人目の刺客,長空(ドニー・イェン)を倒し,次に恋人同士であった残剣(トニー・レオン)と飛雪(マギー・チャン)を嫉妬心を利用した策略で討ったと語る。以下は,その嘘を見破った秦王と無名の間で,想像と回顧で真実を探る虚々実々の駆け引きが続く。気になるチャン・ツィイーは,残剣を慕う侍女,如月として再三登場し飛雪と対決する。
 随所で黒澤明の影響が感じられる。真実を巡る様々な解釈は,誰もが『羅生門』(原作は芥川龍之介の「薮の中」)を思い出す。想像と回顧シーンは分かりやすく色分けされていて,その衣装をワダエミが担当しているのは『乱』(85)の影響だろう(写真)。黒=神秘,赤=激情と嫉妬,青=浪漫,緑=回想,白=真実,を意味しているそうだ。同じ色の衣装でも,微妙に色合いが違えてある。赤だけで54色に染め分けたというのが凄い。衣装やセットだけでなく,映像のトーンが淡い赤,青,緑に着色されているのは,ディジタル処理の結果だろう。
 もう1つのウリは,ワイヤー・ワークを駆使したアクション・シーンである。特に,超大型クレーンを用いた残雪と無名の湖上の対決シーンが白眉だ。香港映画で多用されたワイヤー・アクションが,『グリーン…』で一挙に世界的注目を集めたのもVFXと無縁ではない。ワイヤー消しは言うまでもなく,クレーンや滑車も撮影後のディジタル処理で消去できるゆえ,構図の自由度が増し,超ワイド・アングルでの撮影も可能になったからだ。
 CG映像担当は,マトリックス・チームといっても,主力のマネックスやESC社ではなく,豪州のアニマル・ロジック社だった。水滴や多数の槍,矢など,一見してCGと分かる初歩的な使い方である。韓国の『火山高』,日本の『陰陽師』ほどではないにしても,迫力よりもマンガ的な滑稽さを感じてしまう。コストの安い中国ゆえに,秦王の軍は大人数のエキストラを使っている。それでも驚くばかりの大群集や大軍団は,ディジタル複写の賜物だろう。技術的にそう評価できるものではないが,中国映画のスケール感には寄与していると言える。
 黒澤作品の影響は,様式美とも言える演出に表われている。半面,血の扱いが全く違う。討たれて吹き出すどころか,体内から流れ落ちるシーンすらない。これは意図的だ。この監督は血が怖いのかとすら思ってしまう。布に染み入る赤い血の色くらいはあった方が効果的と思うのだが,それすらないのは淡泊すぎる。ロケも構図も壮大で,アクションが秀逸なだけに,それに見合う死の緊迫感が欲しかった。食傷気味と言いながら,ハリウッド流のコクのある映画作りに慣れすぎたのか,少し満腹感にかける思いがした。
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写真 一段と凄みを増したワイヤーアクションと強烈な「色の記憶」がセールスポイント
(c)2003 Elite Group Enterprises Inc.
 
     
   
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