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O plus E 2020年Webページ専用記事#2
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   新型コロナウイルス騒動で公開延期作品が相次ぐ中,各映画館は限られた作品を何度も上映するなど苦慮していたが,政府の緊急事態宣言により,大都市の映画館は休業に入ってしまった。この間,一気に勢いを増したのは自宅で楽しめるネット配信サービスである。Amazon Prime VideoやTSUTAYA動画配信等で見逃した旧作を楽しむのも悪くないが,未見の映像作品の宝庫は,何と言ってもNetflixオリジナル作品だ。同社が現在の地位を築いたのは,TV番組形式の複数話シリーズのドラマを一気視聴するスタイルだが,最近は一話完結の「映画」ジャンルのコンテンツも月数本のペースで独占配信している。そんな中から,比較的最近公開された作品をいくつか紹介しておこう。
 『スペンサー・コンフィデンシャル』:まず気になったのは,ピーター・バーグ監督,マーク・ウォールバーグ主演の本作だ。これが5度目のタッグというから,よほど相性がいいのだろう。過去4作の内,『ローン・サバイバー』(14年4月号)『バーニング・オーシャン』(17年5月号)『マイル22 』(19年1・2月号)の3作を当欄で取り上げている。紹介し損ねた『パトリオット・デイ』(16)が一番出来が良かったが,本作はそれには少し劣るものの,クライム・サスペンスとしては十分楽しめる映画に仕上がっている。主人公のスペンサーは元ボストン警察の警官だったが,上司への暴行で逮捕・投獄され,5年の刑期を終えて出所するところから物語は始まる。タフで,正義感の強い主人公はM・ウォールバーグの当たり役だ。警察内部の腐敗,汚職警官や麻薬カルテルと闘うというのも,警察ものアクションの定番中の定番である。相棒となるのは,大男の黒人ルームメイトで,格闘家志望のホーク(ウィンストン・デューク)だ。曲者同士の白人黒人のバディものというのも,『48時間』『リーサル・ウエポン』両シリーズ以降,頻繁に登場するパターンである。米国の人気作家ロバート・B・パーカーが生んだハードボイルド小説「スペンサー」シリーズが原点であり,同作家の死後,このシリーズを引き継いだエース・アトキンス作の「Robert B. Parker's Wonderland」が原作だという。この白黒コンビは,なかなか好感が持てた。シリーズ化してもいいと思うが,Netflixの営業政策次第だ。
 『ロストガールズ』:次なるは実話ベースの未解決殺人事件がテーマで,2013年発行のノンフィクション「Lost Girls: An Unsolved American Mystery」の映画化作品とのことだ。中年女性が主人公で,『ゴーン・ベイビー・ゴーン』(07)のエイミー・ライアンが疾走した娘の行方を探す母親役を演じている。娘の安否を気遣って奔走し,真剣に捜査しようとしない地元警察の怠慢を激しく糾弾する様は,『スリー・ビルボード』(18年2月号)を思い出すが,展開や結末はだいぶ違う。娘シャナンの行方を追う内,売春婦4人の白骨死体が発見され,24歳の娘シャナンも売春婦であったことが判明する。それじゃ,警察も熱心に捜査しなかったのも無理はないと,妙に納得してしまう。後に,被害者が10~16人に達する「ロングアイランド連続殺人事件」の一部とのことだ。疑わしい人物は登場するが,結局,犯人は捕まらない。ミステリー映画に分類されているが,最後にスカッとすることもない。冒頭で実話の未解決事件の映画化であると断っているので,仕方がないのだが……。死体で見つかった4家族との交流が描かれ,売春婦にも人権があると訴えるので,中盤以降は社会派ドラマ風の演出となる。妹2人と母親メアリーの関係を巡っては,ヒューマンドラマの様相も呈していて,映画としての中身は濃い。警察にとっては,激しい,実に厄介な母親の印象で,E・ライアンの奮戦振りばかりが印象に残った。監督は,女性監督のリズ・ガーバスで,彼女自身の想いを投影させているのだろう。警察側の責任者は『ユージュアル・サスペクツ』(95)のガブリエル・バーンで,なかなか渋い。彼の役は,吹替え版では「警察委員長」と呼ばれていたが,字幕版では「警視総監」となっていた。そんなに偉い感じはしなかった。 原語では「Commissioner」で,ロンドン警視庁のトップもそう呼ばれているが,本作では地元警察の「警察署長」クラスに見えた。最後にメアリー・ギルバート本人の映像が流れる。その後の一家の出来事を知って,衝撃が走った。
 『タイガーテール -ある家族の記憶-』:ほぼすべての新作映画が公開延期となる中で,新聞や週刊誌の映画評欄はどうしているのだろうかと思ったら,公開予定日はかなり先なのに,延期発表が出る前に書いてしまおうと駆け込んでいるか,当欄と同様,ネット配信映画を中心に紹介している。旧作の名作のDVD観賞を勧めたり,映画評欄をなくしている雑誌まである。さて,当欄の3本目は4月10日配信開始のNetflixオリジナル作品だ。犯罪ものの2本の次は,副題通りのヒューマン・ドラマである。台湾出身で米国在住の初老の男性が,歩んで来た人生を振り返る物語だ。監督自身がその境遇のアジア系米国人であるから,台湾と中国本土の違いはあるが,まずゴールデングローブ賞受賞作『フェアウェル』(20年3・4月号)を思い出す。映画は,国民党支配の少年時代(1955年頃)から始まるが,現在の主人公の姿を見て,既視感に襲われた。それもそのはず,本作の主演は,『フェアウェル』で主人公の父親を演じていたツィ・マーである。即ち,『フェアウェル』では家族連れで長春に住む母を見舞い,本作では台湾の「虎尾」に残してきた母の葬儀に1人で帰国するという役柄である。『ラッシュ・アワー』(98)の頃は細身で精悍な感じがしたが,すっかり恰幅の良い体形になり,習近平に似てきた。年齢は明示されていないが,青年時代にダンスホールで踊る場面では加山雄三の「君といつまでも」が流れ,デート中の彼女がオーティス・レディングの代表曲「Dock of the Bay」を歌っているから,これは1960年代の後半で,現在は70歳前後の設定だと思われる。『フェアウェル』は女性監督ルル・ワンの実体験がベースで,独身女性ビリーが主人公だった。本作のアラン・ヤン監督も同年齢(36歳)だが,彼は自分の父親世代の経験を脚色して描いているようだ。美人の恋人には何も告げず,渡航費を出してくれる上司の娘と結婚し,夢をもって渡米したが,待ち受けていた現実は厳しかった……。想像とは違った世界で必死に生きていく中国人夫婦の姿が胸を打つ。とりわけ,夫にかまって貰えず,時間を持て余す妻の姿がいじらしい。やがて苦労をかけた妻は家を出て行き,娘との接し方もぎこちない主人公の姿が哀れを誘う。どう考えても身勝手な男で,父と娘は似た者同士である。人生を振り返り,選択を誤ったことを後悔する暗い物語なのだが,余り悲惨に感じないのはラストシーンに救いがあるからだろうか。1970年前後の米国社会の再現,庶民の生活がよく描けている。台湾人が韓国人を嫌う会話が面白かった。元妻とは中国語で話し,娘とは英語で会話するというキメ細かな演出の半面,夫妻も元カノも娘も,昔と今の俳優が全く似ていないのが,ちょっと残念だった。
 『セルジオ: 世界を救うために戦った男』:次なるは,4月17日から配信になったばかりのNetflixオリジナル映画だ。2003年イラクでのテロ攻撃で落命した国連人権高等弁務官セルジオ・ヴィエイラ・デメロ氏を追悼した伝記映画である。「国連高等弁務官」と言えば,緒方貞子氏を思い出すが,彼女は「難民高等弁務官」であり,本作の主人公は「人権高等弁務官」である。原題は単に『Sérgio』だが,原作は2008年に上梓された『Chasing the flame: Sergio Vieira de Mello and the fight to save the world』で,邦題はこの原作に基づく副題を付している。監督のグレッグ・バーカーは既にドキュメンタリー映画『セルジオ テロに死す 〜イラク復興を託された男〜』(09)を生み出しているので,よほどセルジオ氏に感銘を受け,再度,伝記ドラマとして描きたかったのだろう。映画が始まってまもなく,志願して滞在中のイラクのバクダッドで,現地国連本部がテロリストに爆破されるシーンが登場する。セルジオは地下に生き埋め状態となるが,瓦礫を取り除く重機が運び込まれず,出血多量の彼は意識朦朧となる。そんな意識の中で,外交官を志した頃,東ティモールの独立に奔走したこと,同僚のカロリーナとの大恋愛等がフラッシュバックし,充実していた人生を振り返るという構成である。何と魅力的な人物だろう。弁舌は爽やか,信念があり,各国の人民から慕われた人物であることが伝わってくる。主演は,同じブラジル人のワグネル・モウラ。当欄での紹介作品は,脇役で登場した『トラッシュ! -この街が輝く日まで-』(15年1月号)だけだが,本作では主役に大抜擢だ。セルジオ氏本人に少し似ているのが嬉しい。ヒロインの恋人カロリーナ役には,キューバ出身の人気女優アナ・デ・アルマス。『スクランブル』(17年9月号)ではスコット・イーストウッドの恋人役,『ブレードランナー 2049』(同11月号)では巨大なホログラムで登場する妖艶な美女,『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』(20年1・2月号)では物語の鍵となる可憐な家政婦役を演じた,あの女優である。本年11月に公開延期となった『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』では,いよいよボンド・ガールとして登場する。実在のカロリーナ・ラリエラ氏もかなり美形だが,本作のアナ・デ・アルマスは魅力的過ぎる。このため,真面目な伝記映画のはずが,恋愛映画のファクターが強くなり,少し薄っぺらな印象を与えてしまうことが本作の欠点と言えようか。上述のドキュメンタリーは,NHKで放映されただけで劇場未公開だったが,現在はこちらもNetflixで観られる。救出が失敗に終わるまでの描写は,同作での関係者の証言の方がリアルだ。両方を併せて観ると,この人物を深く知ることができる。
 『タイラー・レイク -命の奪還-』:さらにNetflixオリジナル映画を続けよう。5本目は,4月24日配信開始の最新作だ。同社の作品を片っ端から紹介している訳ではない。今年になってから「ドラマ映画」の分類で配信されたのは,これが20本目だ。既に紹介した『 アンカット・ダイヤモンド』(20年Web専用#1)を含めて6本だから,1/3弱である。平均的にはハリウッド・メジャーより少し落ちるレベルの作品群の中で,比較的見応えのある作品を選択しているつもりだ。さて,裏社会の傭兵が主人公の本作は,十分合格点のアクション映画だった。製作は,『アベンジャーズ』シリーズの最後の2作『…/インフィニティ・ウォー』(18年Web専用#2)『…/エンドゲーム』(19年Web専用#2)の監督で大成功を収めたルッソ兄弟だ。弟のジョー・ルッソが参加したグラフィック・ノベル『Ciudad』が原作で,彼自身が本作の脚本を担当している。映画の原題は『Extraction』だが,邦題には主人公の名前が使われている。監督のサム・ハーグレイブはスタント演出者出身で,これが初監督のようだ。主演は,アベンジャーズのキーメンバー,ソー役のクリス・へムズワース。『マイティ・ソー』シリーズの4作目『Thor: Love and Thunder』が,2021年11月公開予定から2022年2月公開に延期されたので,その前に本作ともう1本Netflix映画で肩慣らしといったところだろう。インドの麻薬王の息子オヴィ(ルドラクシェ・ジェイスワル)が敵対する麻薬王に誘拐され,その救出を請負った主人公タイラーはバングラデシュのダッカに向かう。隠れ家からの救出にはすぐに成功するが,警察と組織の追手からの両方に追跡され,激しい銃撃戦とスリル満点のチェイスが全編で展開する。助演陣には,タイラーに指示を出す傭兵チームの女性リーダーのニック役にイラン人女優のゴルシフテ・ファラハニ,オヴィの守り役だったサジュ役にインド人男優のランディープ・フッダーが配されている。前半の約20分間の逃走中の攻防は,手持ちカメラでの長回し中心で,かなり見応えがあった。終盤の橋の上での銃撃戦も,ラストバトルとして相応の出来映えだ。アクション一辺倒を避ける味付けは,我が子を亡くしたタイラーがオヴィの救出に拘るメンタリティの描写だが,まあこんなものだろう。エンタメとして当然予想する結末からは少し外してあるが,たまにはこうしたオチも悪くない。
 
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