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O plus E 2020年Webページ専用記事#2
 
 
グッド・オーメンズ』
(アマゾン・スタジオ)
      (C) Amazon Studios
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [2019年5月31日よりAmazonプライム・ビデオにて配信中]   2020年5月3日 Amazon Prime Video観賞完了
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  この一両年,ハリウッド・メジャーのCG大作は,O plus E本誌よりも,このWeb専用ページでの紹介の方が主たる紹介場所になってしまった。世界同時公開が大半で,本誌掲載に丁度いいタイミングの公開作品の方が少なくなったためである。ところが,今回のウイルス騒動で大作の公開延期続出で,メイン欄の該当作品が全くなくなってしまった。短評だけでは淋しいので,TVドラマシリーズにまで枠を広げて,メイン欄も埋めることにした。
 短評欄ではNetflixオリジナル映画ばかり紹介したので,こちらはライバルのAmazonオリジナル作品を取り上げる。2013年頃からTVシリーズを始め,2015年頃から映画相当のオリジナル作品の配信も始めている。当初のラインナップにはあまり上質の作品はなかったが,さすがに資本力にものを言わせて,最近急速にレベルアップしている。
 
 
  ブラックユーモア満載の英国流神話コメディ  
  厳密にはAmazonオリジナルではなく,英国BBC Studiosとの共同製作となっている。全6話(各回は51∼58分)が2019年5月末にAmazonプライム・ビデオで配信開始され,その後,2020年1月15日からBBC twoで放映されたようだ。Amazon Prime会員なら,今でも無料で視聴できる。
 最近はTVドラマでも一部にCG/VFXを駆使したものは少なくないが,Amazon作品でCG/VFXの多用を前面に打ち出したのは,本作が最初である。VFX専門誌Cinefexでは,no.165(2019年6月号)で解説されている。『アベンジャーズ/エンドゲーム』(19年Web専用#2)『X-MEN:ダーク・フェニックス』(19年Web専用#3)と同じ号での掲載だから,それなりの存在感のある作品としての扱いである。
 題名からは,てっきりオカルトものかと思ってしまった。言うまでもなく,同ジャンルの大ヒット作『オーメン』(76)からの連想である。こちらは英国が舞台となるコメディで,全くオカルト性はなさそうだ。英単語"omen"は単に「予兆」という意味に過ぎないから,それにちなんだ物語かと思ったら,誰もが知っている『オーメン』の設定を踏襲したパロディ作品のようだ。即ち,米国外交官夫妻の新生児と,同時刻に生まれた「反キリスト」である悪魔の子をすり替え,彼にハルマゲドンを起こさせようとする物語である。産院が火災で焼失するのも,「ヨハネの黙示録」が意味をもつのも『オーメン』と同じである。
 ただし,本作の「悪魔の子」の名前は「ダミアン」ではなく,「アダム」だった。エデンの園の「アダムとイブ」のあの「アダム」の生まれ変わりだ。おまけに,外交官夫妻に押し付けるつもりが,すり替え間違って,無関係の一般人ヤング夫妻の新生児と入れ替えてしまう。
 原作は,1990年に出版されたニール・ゲイマン,テリー・プラチェット著のファンタジー小説で,邦訳は2007年に出版され,既に文庫化されている。物語の設定は,人間世界は6千年前に創造され,天使たちと悪魔たちがそれぞれ,予言書通りに地球上のハルマゲドンを準備しているが,創世記以来6千年もの間,地上の生活に慣れ親しんだ「天使のアジラフェル」と「悪魔のクロウリー」は,協同してこれを阻止しようとする。かつての魔女や魔女狩り軍の子孫,黙示録の四騎士も登場して,敵味方が複雑に絡み合うファンタジー・コメディとなっている。「グッド」がついているように,さほどの悪人は登場せず,悪魔のクロウリーまでが善人だ。最後は主人公らが勝利して「この世界も悪くない」となる物語である。そもそも単発の映画ではないので,この種のシリーズドラマには,ラストで強烈なドンデン返しやタネ明かしはない。
 キリスト教文化をベースにしているのは同じだが,ダン・ブラウンのベストセラーを映画化した『天使と悪魔』(09年6月号) とは直接関係がない。天上世界の思惑や指示で,地上に送られた使者が翻弄されるのは『マイティ・ソー』シリーズや『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々』シリーズを思い出すが,オリンポス十二神のような名のある神々は登場しない。最も印象が近かったのは,韓国映画の『神と共に 第一章:罪と罰/第二章:因と縁』(19年5・6月号)だ。仏教文化とキリスト文化の違いはあるが,世界観が近く,パロディ度,現代社会を皮肉るコメディ度も似たレベルだと感じた。
 監督は,ダグラス・マッキノン。当欄にとっては,初めて聞く名前だが,主にBBCのドラマシリーズの演出を担当してきたディレクターのようだ。脚本は,原作者の1人,ニール・ゲイマンが執筆している。主人公の1人,天使のアジラフェル役にはマイケル・シーン。『クィーン』(07年4月号)でT・ブレア首相,『フロスト×ニクソン』(09年4月号)でインタビュアのD・フロストを演じていた英国俳優である。もう一方の悪魔のクロウリーを演じるのは,デヴィッド・テナント。英国の舞台俳優出身で,彼もまたTVシリーズへの出演が主だったようだ。全6話だと多数の出演者が登場するが,余り名のある俳優は起用されていない。
 著名な俳優では,『ファーゴ』(96)と『スリー・ビルボード』(18年2月号)で2度オスカー女優となったフランシス・マクドーマンドが,神の声として,全編で個性的なナレーションを披露している。もう1人,『ドクター・ストレンジ』(17年2月号)のベネディクト・カンバーバッチも出演しているというので,どんな役かと思ったら,巨大な悪魔の「サタン」の声を演じていた。
 1人だけ目を惹いた俳優を挙げるなら,魔女の予言者アグネス・ナッターの子孫であるアナセマを演じていたアドリア・アルホナだ。なかなかの美形で,男性観客を魅了する。今後,多数のメジャー作品で起用されると予想しておこう。と思ったら,早速,マーベル作品の『モービウス』(今年7月公開予定が来年3月公開に延期)のヒロイン(主人公の婚約者)に抜擢されているようだ。
 全6話は,この種のシリーズものとしては短い方だが,当然,緩急の付け方は劇場用映画とはだいぶ違う。ブラックユーモア満載であるが,正直なところ,余り笑えなかった。英国流の笑いは,日本人の感性とは少し違うのだろう。旧約聖書や新約聖書の知識がないと,パロディもしっかり理解できていない気がした。人類を救おうとする天使と悪魔の掛け合いは,ある種のバディものと言える。2人の友情は,日本人男性から見ると,少し気恥ずかしく感じてしまう。
 
 
  TVシリーズでも,今やここまでのVFXという見本  
  以下では,本シリーズのCG/VFXについて論じておこう。映画におけるCG/VFXを同時代進行で書き留めることが目的の当欄としては,TVシリーズのCG/VFXは現時点でどのレベルに達しているかを確認するのが,本作を取り上げた主目的である。
 ■ 第1回の冒頭は,大きな醜悪な蛇が,エデンの園にいる裸体のイブを誘惑し,林檎の果実を食べさせるエピソードから始まる。この大蛇に化けていたのが,悪魔のクロウリーだ。続いて,イブと結ばれた最初の人類のアダムに,うっかり炎の剣を与えてしまうのが天使のアジラフェルである。そして,白と黒の大きなCG製の翼をもった2人の並んだ姿が,本シリーズの象徴であり,シリーズ中でも何度かこの姿で登場する(写真1)。ここまでのオープニング・シーケンスで,このシリーズはCG/VFXがウリですよと宣言しているかのようだった。
 
 
 
 
 
 
 
写真1 天使のアジラフェル(白)と悪魔のクロウリー(黒),そして反キリストの少年アダム(下)
 
 
  ■ 全6話の合計は6時間弱で映画3本分に相当する。当然,時間単価の製作費は劇場用映画より低いから,CG/VFXに投じられる予算も相対的に少ない。CGの利用率という点では,上述の『神と共に』の方が圧倒的に上だった。それでも,本シリーズでも随所で効果的なVFXシーンが見られる。写真2は,クロウリーが愛車に乗って現代のロンドンにやって来るシーンのメイキング過程である。しっかりSoho地区を模したセットを作り,実物のクルマやバイクを配した上で,CG/VFX合成を施している。さほど高度なVFXではないが,劇場用映画のクオリティをクリアしている。目立たないインビジブルVFXシーンも随所に使われているようで,写真3はCinefex誌を観るまで気がつかなかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
写真2 現代のロンドンSoho地区を模した光景は,スタジオ内セットに
実車数台を配した上で,CGを加えたVFX処理で実現
 
 
 
 
 
 
 
写真3 ドローンでの空撮から,山の形を少し変え,住宅の大半を消し去ってデジタル森林に
 
 
  ■ 最も感心したのは,クロウリーが約90年間乗ったという愛車の1934年型ダービー・ベントレー・クーペである。アップのシーンはどう観ても実物のクラシック・カーであり,市中や高速道路を時速190kmで爆走するシーンはどう考えてもCG製のはずだ。このクルマを徐々に炎上させるシーンも,実車に炎を描き加えたようには見えなかった。このヴィンテージ・カーの実車を手配した上で,見分けがつかないレベルのCG描写も達成しているのは褒めていいだろう(写真4)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
写真4 (上)写真2のセット内では実物の車輌で撮影
         (中)高速走行で用いたのはCG製の1934年型ベントレー
      (下)一旦CG化してしまえば炎上させるのも容易
 
 
  ■ 人類の歴史を辿り,ノアの箱船,キリストの磔刑,アーサー王と円卓会議,シェークスピアのハムレット上演,フランス革命の舞台裏,ロンドン空襲等を茶化して登場させるかと思えば,アトランティス大陸を現代に隆起させることまでやってのける。その大半でVFXが使われている。修道院の炎上,大嵐の洋上シーン(写真5),悪魔の仕業で芋虫(?)の大群に女性が飲み込まれるシーン(写真6)等も無難にこなしていたが,あまり斬新なVFXシーンではない。天上の世界はどんな風に描いているのかと思えば,思いっきりモダンで,窓からピラミッドやエッフェル塔が見えるガラス張りのオフィスルームをソフトフォーカスで描いていた。デザインコストをかけない描写とも言えるが,ビジュアルセンスは悪くない。
 
 
 
 
 
写真5 時化での大波シーンも無難に描写
 
 
 
 
 
写真6 悪魔の仕業で無数の芋虫に飲み込まれるシーン
 
 
  ■ クリーチャー類では,カタツムリやナメクジ等々の小動物は随所で登場し,可もなく不可もなくと言ったところだ。宇宙船や宇宙人のデザインはプアだったが,これは意図的のような気もした。ボス・キャラは,アダムの実の父親のサタンで,これも無難にこなしていた(写真7)。B・カンバーバッチの声にピッタリだと感じたのは,彼の容貌を意識してデザインしたからかも知れない。天使や悪魔が使う魔法は,人間や事物を粉にして消滅させたり,炎上させるパターンが殆どだ。定番ではあるが,安易過ぎるやり口は,限られたVFX制作費のせいだろうか。一昔前ならハリウッド・メジャー作品でも上級と言えるレベルであるが,全く新しさを感じないのは,長尺のTVシリーズの限界だとも言える。CG/VFXの主担当はMilk VFX社で,副担当はMolinare社で,いずれも英国のTVドラマ・シリーズのポスプロが主業務である。
 
 
 
 
 
 
 
写真7 最終話に登場する巨大な悪魔のサタン。声はベネディクト・カンバーバッチ。
(C) Amazon Studios
 
 
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