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O plus E誌 2015年1月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   『ガンズ&ゴールド』:ユアン・マクレガー主演のノンストップ・クライム・サスペンスで,「悪の華が乱れ咲き,究極の駆け引きが展開する」という触れ込みだ。舞台はオーストラリアで,なるほど刑務所内でのレイプや暴行,脱獄,金塊強奪計画などが盛り込まれた裏社会の出来事だが,麻薬は登場せず,殺人事件も起きない。大悪党のはずのE・マクレガーも,彼が可愛がる若者役のブレントン・スウェイツも,とても極悪人には見えないのが欠点と言えようか。擬似親子のような師弟関係と,若いカップルの間に生まれた恋愛感情,果していずれを優先するのか,義理と人情の板挟みの日本のヤクザ映画と似たような設定だ。この種の映画の結末は何種類も作ることができるが,少しユニークな予想外の落とし所に,まずまず満足できる。
 『バンクーバーの朝日』:1900年代前半,カナダのバンクーバーに暮らす日系人が結成した野球チーム「朝日」の活躍を描いたヒューマンドラマである。バント,盗塁,エンドランを多用して,現地の白人との体力差を補おうとした「Small Baseball」の描写も興味深いが,貧困と差別の中で健気に生きる人々の生活を克明に描いている。監督は『舟を編む』(13)の石井裕也。主演の妻夫木聡の他,亀梨和也,勝地涼,上地雄輔,池松壮亮らが選手たちを演じ,父親役の佐藤浩市らの豪華助演陣が脇を固めている。何よりも素晴らしいのは,当時の日本人街,野球場,漁港等を日本国内で再現したオープンセットだ。勿論,当時の現地に行ったことはないが,実にリアルだと感じさせる。自動車,自転車,室内装飾品等の骨董品を輸入し,小道具類も完璧に再現した美術班に拍手したい。本年度日本映画のベスト1だ。
 『王の涙−イ・サンの決断−』:堂々たる歴史ドラマで,常に暗殺の脅威にさられていた若き王が,暗殺未遂の陰謀を乗り越え,やがて名君となる分岐点となった運命の1日を描いている。豪華な宮殿,軍司令官の陰謀に権力闘争,宦官の存在を見ると,中国映画かと思ってしまうが,これは韓国映画だ。時代は18世紀,朝鮮の李王朝第22代目国王イ・サンが主人公で,1777年7月28日の出来事である。我々日本人には馴染はないが,韓国ではよく知られた史実を初めて映画化したという。かなりのフィクションを交えて脚色したようで,朝鮮の歴史を知らなくても楽しめる娯楽大作となっている。主演はイケメン俳優ヒョンビンで,これが退役後の第1作だ。凛々しく,時代劇もよく似合う。王に仕える宦官カプス役のチョン・ジェヨンの演技が渋く,この映画を見事に引き締めている。
 『サンバ』:シンプルな題だが,音楽やダンスには関係なく,舞台も南米ではない。主人公の名前を表題にしたフランス映画で,大ヒットした『最強のふたり』(11)の監督と主演男優が再びタッグを組んだというのが,最大のセールスポイントだ。アフリカ出身の移民で,料理人をめざし修行中だった黒人青年サンバ(オマール・シー)が,フランス政府から突然国外退去を命じられ,悪戦苦闘する模様を明るく,コメディタッチのヒューマンドラマとして描いている。恋人となるのは移民協力ボランティアのアリス(シャルロット・ゲンズブール)で,素朴で貧相な女性だが,燃え尽き症候群の女性という役柄には合っていた。不法滞在,日雇い労働者の実態が良く描けている。終盤の盛り上げ,落とし所が上手い。観終わって,幸せな気分にさせてくれる。
 『海月姫』:原作は,東村アキコ作の少女コミックで,既にTVアニメ化されていて,本作が実写映画化作品という定番パターンだ。オタ女子だけが住む男子禁制アパート「天水館」が舞台で,イラストレーターを目指して鹿児島から上京したクラゲオタクの女性・月海が主人公である。この種の映画にはあまり食指が動かないのだが,能年玲奈主演というのが気になった。前作『ホットロード』(14年8月号)では,なかなかの好演で,これなら「あまちゃん」のイメージを払拭できるなと感じたからだ。彼女を含むオタ女集団「尼~ず」の怪演ぶりが見ものだが,それをまとめて凌駕しているのが,女装男子の蔵之介を演じる菅田将暉の美しさだ。正統派の美形であり,ファッショナブルな女装姿が実に可愛い。過去にも何度か女装で登場したことはあるらしいが,彼をこの役に配したのが,本作の最大の成功要因だ。
 『トラッシュ! -この街が輝く日まで-』:3人の貧民少年たちの活躍にワクワクする。舞台はブラジル・リオデジャネイロ郊外のスラム街で,セリフの大半はポルトガル語だ。ゴミ山やスラム住宅の描写がリアルで,その迫力に圧倒される。著名な出演俳優はマーティン・シーンとルーニー・マーラくらいで,他は現地人だ。主演の3名も,実際にスラムに住む素人の少年をオーディションで選んだという。ゴミの山から拾った財布に,とんでもない秘密が隠されていた。大物政治家の贈収賄事件を隠蔽するため,現地警察が彼らを執拗に追う……という設定である。謎を解く暗号解読も楽しいが,彼らが市中を逃げ回るチェイス・シーンが秀逸だ。このスピード感,運動能力は,まるで『ボーン…』シリーズの少年版だと思ったら,実際に製作者たちは同シリーズを意識したらしい。子供の頃読んだ少年向けの冒険小説も楽しかったが,この躍動感は映画ならではだ。
  『96時間/レクイエム』:リーアム・ニーソンがアクション・スターに大変身した『96時間』(09年8月号)は大絶賛したが,続編『96時間/リベンジ』(13年1月号)はちょっと残念な出来だった。名誉挽回を期する本作は,離婚した元妻の殺人容疑をかけられ,担当刑事の執拗な追跡をかわしながら真犯人を追うという『逃亡者』(93)を思い出させる設定だ。ジェイソン・ボーンを上回る知力,戦闘能力をもつ元CIA工作員であり,最後は万事上手く収まるに違いないから,問題はそこに至る過程の面白さ,スピーディさである。リュック・ベッソン渾身の脚本は,熱烈ファンを満足させてくれる出来映えだった。テンポが良く,小道具もたっぷり,カーチェイスも二度あって堪能できる。あまり可愛くなかった愛娘も,そこそこ見られるようになってきた。これが最終章とのことだが,好評を受けて,さらに続編が登場することを期待したい。
 『サン・オブ・ゴッド』:文字通り「神の子」のイエス・キリスト伝である。アダムとイヴに始まり,カインとアベル,ノアの方舟,モーゼの出エジプト等,旧約聖書を簡単になぞった後,救世主待望下で,イエスが誕生し,ヨハネの洗礼,伝道活動,奇蹟の実現,最後の晩餐を経て,ゴルゴダの丘での磔刑,復活までを,急ぎ足で描く。この種の宗教映画の意欲作は,解釈を巡って教会側からの反論・抵抗に合うことが多いが,本作にはそれが全くない。キリスト教の教義に全く興味のない筆者でも知っている逸話や言動が,平々凡々たる調子で並べられているだけだからだ。この映画はどんな観客を想定して作ったのだろう? まるで社会科の教材か,教会内でのPV映像みたいだ。イエス役の男優がかなりのイケメンである以外,何の目新しさも感動もない。
 『ジミー,野を駆ける伝説』:監督は,英国の老匠ケン・ローチ。欧州三大映画祭の常連で,自らリベラル派の左翼であることを公言している。前作『天使の分け前』(12)は,いたずら心を描いた粋な作品でヒットした。本作は,得意の労働者階級を描いた政治的メッセージある作品に戻り,アイルランドで自由のために戦い,民衆に支持された活動家の生き様を描いている。時代は,内戦終結から10年が経過した1932年。人種差別も民族間紛争もない地域ですら,この時代の人々は,まだこんなに窮屈で,不自由な生活を強いられていたのかと,嘆息する。支配階級や教会等の弾圧に,筆者らの世代は,まず憤りを覚えるが,後年の満ち足りた時代の若者は,この映画を観て何を感じるのだろう? 物語としては淡泊なので,こうした時代を映像として記録に留め置く価値すら理解できないのではないか,と案じる次第だ。
 『ビッグアイズ』:ティム・バートン監督の最新作は,1950~60年代に人気を博した,大きな目の子供を描いた絵画がテーマだ。実在の画家マーガレット&ウォルター・キーン夫妻を,エイミー・アダムスとクリストフ・ヴァルツが演じる。この映画を観た日に,ゴールデングローブ賞の候補作発表があり,主演の2人は揃ってノミネートされていた。なるほど,共に好演の部類で,とりわけC・ヴァルツは今までにない剽軽な一面を出していた。妻が描いた絵を,夫がプロモートし,人気画家として大成功を収めるというから,おしどり夫婦かと思いきや,全く絵を描けない夫が名声も独り占めし,やがて離婚から裁判沙汰の泥仕合に及ぶという展開だ。この種の詐欺事件をどこかで聞いた記憶はあったが,すぐには思い出せなかった。帰路に書店に寄ると,佐村河内事件を扱った「ペテン師と天才」が平積みにされていた。そーか,あのゴーストライター事件と相似形なのだ。詐欺師の大仰で滑稽な猿芝居までソックリだ。
 
   
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  (上記の内,『96時間/レクイエム』は,O plus E誌には非掲載です)  
   
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