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O plus E誌 2017年9月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   『パッション・フラメンコ』:当欄がしばしば取り上げる音楽&ダンス関連のドキュメンタリーである。現在フラメンコ界最高のダンサーと言われるサラ・バラスに焦点を当て,わずか3週間しか準備期間がないパリ公演に向けて,その製作過程を密着取材している。なるほど,驚異的な足さばきだ。身体の回転と手の使いも絶妙で,これぞ超絶技巧!まさに天才だ!衣装も型にとらわれずユニークで,フラメンコ界に革命を起こしたというのも頷ける。サックス,ギター,パーカッションとの呼吸も見事にマッチして,まるで楽器と踊りが対話するかのようだ。1曲終わる毎に,思わずスクリーンに向かって拍手したくなる。まだ新人ダンサーの頃,日本に2度長期滞在していたらしい。彼女の想い出話とともに,日本の象徴として,高層ビル群や渋谷スクランブル交差点が登場する。この映画に現代日本の風景が登場したことが,ちょっと誇らしい気分になった。
 『ベイビー・ドライバー』:ちょっと大作化し過ぎた『ワイルド・スピード』シリーズに代わって,その当初の精神を受けついだかのような鮮烈なカーアクション映画で,銀行強盗常連たちのクライム・ムービーでもある。前評判の高さが各方面から伝わってきていたが,なるほどと納得できる出来映えである。公開初日の初回にシネコンで観たが,ほぼ満席だった。配給会社が宣伝費をケチって,ロクにマスコミ試写をしなかった作品としては,異例である。まず,全編で音楽を聴き続けている主人公の愛機が黒のiPod Classicで,Apple製の白のヘッドホンを使っていることに痺れた(筆者と全く同じだ!)。おいおい,Sony製の映画なのにそれでいいのかと思ういとまもなく,音楽と同期したカーアクションが炸裂する。この編集と選曲にも注目だ。監督は,エドガー・ライト。主人公のベイビー(アンセル・エルゴート)は強盗後の逃走を担当する天才ドライバーだが,ウエイトレスのデボラ(リリー・ジェームズ)とのラブロマンスのぎこちなさが微笑ましい。ケヴィン・スペイシー,ジェイミー・フォックス,ジョン・ハムら助演陣のワルぶりが2人を引き立てる。ただし,彼らを一掃するのは,やはり劇的なカーアクションで決めて欲しかった。若干軟弱なエンディングも,筆者の好みではないので,満点からは少し減点した。
 『草原に黄色い花を見つける』:驚くほど素朴な映画だ。現代の童話というか,童話をモチーフにした思春期の少年少女の物語である。児童映画の範疇に属するのだろうが,アニメ一辺倒の今の日本映画にはない実写映画である。21世紀版『小さな恋のメロディ』かと思ったが,時代は1989年,ベトナムの農村が舞台である。既にベトナム戦争は終わった平和な時代のはずだが,その貧しさに驚く。まるで日本の昭和20年代の様相で,現在のホーチミンやハノイからは想像もできない。農村風景は頗る美しく,少年少女は呆れるほど純粋で無邪気だ。監督のヴィクター・ヴーは南カリフォルニア育ちで,ハリウッドで映画製作を学んだという。その彼が,両親の母国に拠点を移し,こうした映画を作るのは,まだ穢れていない国民性,先進諸国にはないイノセンスに郷愁を感じるからだろうか。ある意味で羨ましい。
 『エル ELLE』:監督は『トータル・リコール』(90)『氷の微笑』(92)のポール・ヴァーホーヴェン。しばらく名前を聞かなかったが,久々に鬼才監督の意欲作だ。フランス人俳優を起用し,全編フランス語で撮っているとは珍しい。自宅で暴漢に襲われたゲームソフト会社の女社長が,警察に届けず,自らレイプ犯を探し始める物語である。かなり強烈な個性の持ち主だが,父親は殺人犯で終身刑服役中,気味の悪い母親,そしてダメ息子と,家族も異常だ。やがて犯人は判明するが,その犯人と深い関係になる……。鬼才らしい強烈な印象を残してくれるサイコスリラーだ。主演はフランスの名女優イザベル・ユペールで,欲望と衝動で周囲を混乱に巻き込む熟年女性を熱演している。アカデミー賞主演女優賞にノミネートされていたが,筆者はもっと若くセクシーな女優を起用した方がスリラー度は上がったと思う。
 『きみの声をとどけたい』:当欄では余り紹介しない邦画アニメだが,昨年取り上げた『この世界の片隅で』(16年12月号)が余りに素晴らしかったので,ついその再来を期待して観てしまった。湘南を走る江の電の片瀬江の島,腰越付近の風景を描いたイラストの素晴らしさにも惹かれた。誰が見ても明らかなのに,地名は変更してある。蛙口寺は龍口寺をもじったものだろう。物語は『海街diary』(15)風のハートフルドラマを期待したが,中身は全く他愛もないアニメだった。画調は結構リアルな,味のある風景画で,たかせせいぞう風の夏の風景も登場する。一方,登場人物は漫画風で,昔の少女漫画を思い出す。女子高校生役のはずなのに,主人公ののぞみ役の声が幼稚で,まるで小学生にようだ。声優コンテストで選ばれたにしてはお粗末すぎる。歌は中学生レベルのJ-Popで,全体としても子供だましだ。
 『パターソン』:見るからに低予算映画ながら,実に味わい深い作品だった。ジム・ジャームッシュ監督の4年ぶりの新作である。田舎町の普通のバスの運転手の1週間を描いている。町の名も彼の名も「パターソン」だが,運転手役の主演がアダム・ドライバーというのも洒落だろうか? ニュージャージー州の小さな町での平凡な生活の中に,美しく,詩的な要素が盛り込まれている。ローラ夫人の白黒パターン好きには圧倒されるが,微笑ましい。バーのマスターのチェス,愛犬のブリティッシュ・ブルの熱演も印象的だが,どうせなら白黒ブチの犬を起用して欲しかった。クレジットされているのに一向に登場しない永瀬正敏が気になったが,出番は終盤だった。その演出が絶妙で,彼の演技も素晴らしい。東京での試写は10回,大阪はたった1回だったが,これは困る。大阪はさほど詩的な町ではないが,なぜもっと大阪を重視すべきなのかは,劇中の会話で判る。
 『ボブという名の猫 ~幸せのハイタッチ』:他愛もないストーリーだが,副題通り少し幸せになれる映画だ。舞台はロンドン,主人公のジェームズ(ルーク・トレッダウェイ)はホームレスで,薬物中毒のストリートミュージシャン。宿だけでなく,毎日の食事にも困る生活を送っている。拾った野良猫と暮らし,路上演奏にも連れて行っている内に,町の人気者になり,そしてやがて書籍まで出版するという僥倖に……。そんなお気楽で,調子のいい話はリアリティがないと思ったら,何とこれが実話だった。ベストセラーとなったそのノンフィクション出版物自体が,原作である。猫のカメラ目線やハイタッチは名演技だ。映画撮影用の猫ではなく,実の相棒のボブ自身が演技しているらしい。最近のペット市場では,犬よりも猫人気らしいが,この映画でさらに猫優勢になるだろう。ジェームズの歌は下手だが,シンプルな演奏曲はどれも魅力的だった(別項参照)。
 『スキップ・トレース』:ジャッキー・チェンの最新作で,久々のハリウッド製の主演作である。アカデミー賞で特別表彰されたように,半世紀以上に及ぶ活躍で,もはやレジェンドだ。かつてシャープなカンフー・アクションで鳴らした彼も,最近は癒し系と言える存在である。香港のベテラン刑事が米国人詐欺師と共に追われる身となって世界中を逃げ回る設定だが,まるで観光映画だ。サービス精神も随所に見られる。中国人美女2人(ファン・ビンビンとシー・シー)の登場が嬉しい。監督はベテランのレニー・ハーリン,相棒の詐欺師役はジョニー・ノックスヴィルだが,騒々しいだけで,呼吸が合っていないと感じた。全編コメディタッチで,エンドロールのNGシーン集も恒例だが,全体として余り楽しくなかった。もう少し緊迫感がある展開の方が,ジャッキーのコミカルな持ち味が生きたと思う。
 『新感染 ファイナル・エクスプレス』:韓国映画で,列車内のパンデミックを描いたパニック映画であり,ゾンビもののホラー映画でもある。韓国内を走る高速列車はフランスのTGVを導入したもので,我が国の新幹線ではないが,邦題を「新感染」とした命名者に座布団2枚進呈したい。この駄洒落からはコメディタッチを想像するが,全くその要素はなく,緊迫感溢れる展開だ。VFXも結構使われていて,照明やメイクに工夫がある。複数の家族やカップルが登場するグランドホテル形式だが,構成が複雑過ぎず,素直に没入できる。1人ずつ感染し,落命して行く展開は容易に予想できるが,ラストは悪くない。弾丸列車だけでなく,操車場や機動車も登場するので,鉄ちゃんにもオススメだ。上から降ってきたり,大勢で追跡したり,ゾンビ役の大勢のエキストラ達はご苦労さんだが,ゾンビものとしては中の上で,列車パニック映画としては傑作だと思う。
 『二度目の夏,二度と会えない君』:邦画各社のラインナップで,若い観客対象の青春映画の比率が増している。試写を観る機会はあっても大半はスルーしていることは何度か書いた。当欄の読者の関心は薄いし,筆者も興味は湧かないが,それでも役目柄,当世映画事情の一端は把握しておくべきだと自分に言い聞かせて,何本かは足を運んでいる。本作を選んだのは,題名に少し惹かれたからだ。原作は赤城大空作のライトノベルで,その後漫画化され,今回が実写映画化という運びである。主人公の女子高生・森山燐(吉田円佳)は不治の病を患う転校生で,バンドを結成し,文化祭での演奏で,リード・ボーカルを務めることを夢見ている。彼女に想いを寄せる男子高校生・篠原智が,彼女の死後,半年前にタイムリープして再会を果たすというから,今様青春ラブストーリーのエッセンスを丸ごと詰め込んだような設定である。定食コースそのものだけあって,出来映えも全く想定の範囲内だった。よって,特に論じることもなく,本誌掲載を断念した。強いて言えば,上述の『きみの声をとどけたい』よりも,歌唱力,演奏力は上と言える。この手に青春映画の平均水準であり,特に劣っている訳ではないので,当欄の読者でこのジャンルの熱烈ファンがおられるなら,入場料を払って観るのを止めはしない。
 『ギミー・デンジャー』:音楽ドキュメンタリーは当欄が好んで取り上げるジャンルだが,本作は少したじろいだ。対象が筆者の最も嫌う当世風ロックの元祖であり,監督が上記『パターソン』のジム・ジャームッシュ監督だったからだ。筆者のロック歴は60年代終盤で終わっていて,それ以降のロックは生理的に受け付けない。本作は,1967年に結成し,74年に解散したバンド「ザ・ストゥージズ」のボーカリスト,イギー・ポップのロングインタビューである。「パンクのゴッドファーザー」だそうだが,名前すら知らなかった。いや,上半身裸で暴れ回る,奇行のミュージシャンのことは聞いたことがある。見始めるとたちまち引き込まれた。監督の話題進行,編集の巧みさゆえである。思えば,イギーと筆者は同い年,同じ50年代後半から60年代の音楽シーンを体験し,体制に反発する価値観を共有して来た訳だ。2003年に再結成,2010年に殿堂入り,最後に「俺は俺だ」と語る姿を,素直に恰好いいと感じた。
 『散歩する侵略者』:邦画の意欲作が2本続く。黒沢清監督のカンヌ出品作というと,少し難解な映画通向き作品を想像するが,本作は純然たるエンタメだった。それも,地球侵略を目論む宇宙人の到来というから驚きだ。近年様々なジャンルに挑戦している意欲は買うが,当欄の評点は1作毎に乱高下している。SFの『リアル~完全なる首長竜の日~』(13)は大失敗作だったが,サイコ・サスペンスの『クリーピー 偽りの隣人』(16)は演出力が光っていた。本作は劇団イキウメの舞台劇を映画化したもので,黒沢作品にしてはセリフが多い。接触した地球人から「概念」を奪ってしまうという着想がユニークで,面白い。数日間行方不明で,別人のようになって戻って来る主人公を,松田龍平が演じる。無表情で飄々とした宇宙人は,まさにハマリ役だ。対する長谷川博己の演技も鮮烈だった。侵略時のCGは少しプアだが,この監督にそれを求めても仕方がない。
 『三度目の殺人』:対するは,同じく単館系の出身で,ヴェネチアやカンヌで名を上げたが,最近は一般向けヒューマンドラマでも進境著しい是枝裕和監督の最新作だ。本作はオリジナル脚本の法廷サスペンスで,弁護士役に『そして父になる』(13)の福山雅治,被害者の娘役に『海街diary』(15)の広瀬すずと,お気に入り俳優を起用している。そこに殺人犯役で役所広司が加わり,一気に重厚さが増している。遣り手弁護士と不可解な被告の丁々発止の息詰まるやり取りが,演出面での腕の見せ所だ。その一方で,真相究明よりも判決重視の司法界の実態をあぶり出している。ガラスに映った像と実像で2人を並べる特殊撮影,ドローンカメラで雪原の3人を捕える映像等,この監督が新たな撮影技法に挑戦していることが嬉しい。改めて役所広司の演技力に感心するが,広瀬すずの出番がもう少し多くても良かったかと思う。表題の意味は最後に分かる仕掛けだ。
 『あしたは最高のはじまり』:主演は『最強のふたり』(11)でブレイクし,一躍人気者になったオマール・シー。その後,出演作が相次ぎ,その殆どが本邦で公開されている。フランス語を話す黒人俳優という少しユニークな存在で,コメディもアクションもこなし,その上ヒューマンドラマでも好い味を出す。その魅力のすべてが登場する映画だ。名うてのプレイボーイが,1年前に一夜をともにしただけの女性から,いきなり身に覚えの無い赤ん坊を娘だといって押し付けられる。前半は,この子を必死で育てる8年間が描かれる。テンポのいいコメディタッチのドタバタ子育て劇だ。後半は一変して,余命宣告,親権を巡っての法廷劇が展開し,そして涙,涙のエンディングを迎える。ホモの映画ディレクター,連続TVドラマに熱中する女性校長等,助演陣の人物設定も上手い。難を言えば,邦題が陳腐過ぎる。
 『ナインイレヴン 運命を分けた日』:今年もまたあの日がやって来る。世界中の人々が16年前の9月11日のあの時間,どこで何をしていたか覚えていることだろう。米国民なら尚更だ。チャーリー・シーンやウーピー・ゴールドバーグら,NY出身の俳優たちが発案し,出演した作品で,あの運命の日を忘れまいという思いが込められている。WTC北棟にジェット機が激突した際,衝撃でエレベータ内に閉じこめられた男女5人の運命を描いたパニック映画として構成されている。離婚寸前の裕福な白人夫婦,黒人独身男性,白人独身女性,妻子あるヒスパニック系のビル保全技術者の5人で,これが同時多発テロ事件に遭遇した人々の平均的分布のようだ。危機的状況での各人の言動,安否を気づかう家族との会話もまた,当時の米国国民の典型例なのだろう。密室ものの,ほぼワンシチュエーション・ドラマで,米国製パニック映画としては少し迫力不足に感じた。
 『スクランブル』:『96時間』(08)の監督が製作を担当し,脚本は『ワイルド・スピードX2』(03)のコンビ,そして主演はクリント・イーストウッドの息子のスコットというから,それだけで食指が動く。垂涎のクラシック・カーを盗み出すクライム・アクション映画で,全編エンターテインメントに徹している。舞台はスペインのマルセイユで,本作も観光映画の色合いが強い。『ワイルド・スピード』+『オーシャンズ11』という触れ込みだが,大風呂敷でなく,両シリーズのファンも十分満足できる内容だ。邦題の意味がよく分からない。原題の『Overdrive』の方が良かったと思う。嬉しくなるような名車揃いだが,コレクターから借りてきたらしい。多数の真っ赤なフェラーリも壮観だ。最初の妻の長男だというスコット・イーストウッドは,確かに親父によく似ている。横顔,はにかんだ笑顔が生き写しだ。
 
 
  (上記の内,『ベイビー・ドライバー』『きみの声をとどけたい』『二度目の夏,二度と会えない君』は,O plus E誌には非掲載です)  
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