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O plus E誌 2014年4月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   『ローン・サバイバー』:久々の本格的な戦争映画だ。2005年米海軍の特殊部隊ネイビー・シールズ4名がアフガニスタンの山岳地帯で200名のタリバンと戦ったレッド・ウィング作戦の模様を映画化し,リアルな戦闘アクションとして描いている。題名どおり,たった1人の生還者を,最近出演作が目白押しの売れっ子マーク・ウォールバーグが演じている。中盤からの約40分間の銃撃戦の描写が圧巻だ。映画としての誇張はあるだろうが,崖を転げ落ちるシーン等,1秒たりとも気の抜けない緊迫感に圧倒される。それに比べると,終盤30分はオマケのような逸話だが,後味は悪くない。生還兵の証言に基づく実話で,この種の映画は,米軍の士気を鼓舞する広報の一環だと分かっていながら,やはりこの壮絶な戦闘は,よくぞ描いたと褒めざるを得ない。
 『ワン チャンス』:冴えない携帯電話販売員のデブ男が,英国の人気オーディション番組で優勝し,オペラ歌手になるという夢を叶える物語だ。この実話をご存じなく,スーザン・ボイルを男性に置き換えただけの二番煎じかと思われたら,それは違う! 彼ポール・ポッツは第1回(2007年)の優勝者であり,S・ボイルは第3回(2009年)の準優勝者だから,彼の方が先駆者なのだ。表題は大ヒットしたデビュー・アルバム名と同じで,映画化企画が一度お蔵入りし,遅れていたに過ぎない。結果が分かっているので,終盤のワクワク感は少ないが,メル友であった彼女との初デートや憧れのパヴァロッティの前での大失態など,ほのぼのとした物語を丁寧に描いている。監督は『プラダを着た悪魔』(06)のデヴィッド・フランケルで,サクセス・ストーリーの語り口が巧みだ。留学先のベニスの町も頗る美しい。主演は,体形が似ているジェームズ・コーデンだが,歌唱部分はP・ポッツ自身の声に吹き替えられている。
 『ウォルト・ディズニーの約束』:名作ミュージカル映画『メリー・ポピンズ』(64)の誕生秘話を描いたドラマだ。英国児童文学の映画化を熱望する製作者ウォルト・ディズニーと,簡単に許可しない頑固で偏屈な原作者との度重なる交渉は,あのほのぼのとした映画の舞台裏でこんな激しい攻防があったのかと感慨新ただ。原作者P・L・トラヴァースを演じるのは英国女優のエマ・トンプソンで,『ナニー・マクフィー』シリーズの脚本・主演ゆえに,イメージはぴったりだ。一方のW・ディズニーは,筆者らが子供の頃のTV普及期に,隔週の金曜日の夜,『ディズニーランド』(プロレス中継と交互に放映)でお茶の間に登場したお馴染みの人物だが,一見ルックスは違うものの,名優トム・ハンクスは情熱家の一面を見事に演じている。助演のポール・ジアマッティも好い味を出している。映画の大半をアナハイムのディズニーランド内で撮影したというが,ほぼそのままで半世紀前の1960年代が描けたというのが興味深い。
 『白ゆき姫殺人事件』:『告白』(10)『北のカナリアたち』(12)の原作者として知られる主婦作家・湊かなえの新作ミステリーの映画化作品だ。美人OLの殺人事件の犯人探しがインターネット上のツイッターで話題となり,容疑者への誹謗・中傷が膨れ上がる様を克明に描いている。原作も電子書籍として配信されているし,初めから映画化を前提に書かれたと思える展開だ。監督は『ゴールデンスランバー』(10)の中村義洋で,邦画ミステリーとしてはかなり上出来の部類に入る。主演の井上真央の演技はつくづく上手いなと感じるし,助演陣の綾野剛,貫地谷しほりも好い味を出している。難を言えば,謎解きの部分が淡泊過ぎる。ネット社会の残酷さを問題視し,TV番組製作の薄っぺらさを嘲笑う姿勢は,もっと強烈であっても良かったと感じた。
 『ジャッカス/クソジジイのアメリカ横断チン道中』:この映画も邦題に,何とも凄まじい副題が付いているのに驚いた。映画が始まり,86歳のエロ爺さんと8歳の小生意気な孫の過激な振る舞いを観ると,この題にすっかり納得する。さて,弱ったのが,この映画をどう紹介するかだ。『ジャッカス』が何たるかの予備知識なしに観た観客は憤慨し,気分を害することだろう。さりとて,余りネタバレも書けないし……。是非,当欄の『ジャッカス3D』(11年4月号)の評を観て頂きたい。元々下ネタや排泄物ネタ満載で,下品かつ過激なアクションがウリのシリーズだ。本作は一応ストーリーがあるが,各場面で驚きの表情をする人々は一般人だと言っておこう。このジジイは,実は同シリーズの名物男,42歳のジョニー・ノックスビルである。この老けメイクで,今年のアカデミー賞メイクアップ部門にノミネートされていた。エンドロールのメイキングを観れば,もう一度最初からこの映画を熟視したくなる。
 『リベンジ・マッチ』:老アクション俳優を集めた『エクスペンダブルズ』シリーズを率いるシルベスター・スタローンと,『マラヴィータ』(13)でトミー・リー・ジョーンズ,『キリング・ゲーム』(13)でジョン・トラボルタと共演して益々意気軒昂なロバート・デ・ニーロが,本作ではボクサー役で共演する。ボクシング史に残るライバル同士で,引退後30年振りにリング上で決着をつけるという設定だ。それぞれの代表作『ロッキー』シリーズとオスカーを得た『レイジング・ブル』(80)でのボクサー姿が懐かしい。とはいえ,何しろ67歳と70歳の戦いだから,体躯の衰えは見るも無残だ。それをシリアスに捉えるような作品ではなく,自虐的なギャグやパロディ満載の老人パワー・コメディに仕上げている。何を演じても一本調子で大根役者のS・スタローンが,ボクサー姿だと生き生きして見える。
 『ワレサ 連帯の男』:ポーランドの独立自治労組「連帯」の議長で,同国の民主化運動を率い,後に大統領になったレフ・ワレサの半生を描いた伝記映画だ。監督は同国が生んだ巨匠アンジェイ・ワイダで,88歳でまだ現役である。第2次世界大戦時の虐殺事件を描いた『カティンの森』(07)は,父親がその犠牲者であったゆえに,ワイダ監督が描くべき宿命を背負った運命の作品であった。その意味では,ワイダ監督自身が参加し,映画協会会長の座を追われる原因となった「連帯」運動を,リーダーのワレサの活動を通して描くこともまた,この監督の宿命だとも言える。映画は,ワレサを美化し過ぎることなく,多数の記録映像を交えて歴史的経過を力強く語っている。一介の労働者から次第に指導者としての才能を開花させるワレサの人間性を,美人で気丈な夫人とのやりとりの中で描写しているのも印象的だ。
 『アクト・オブ・キリング』:何というドキュメンタリーだ。題材は1960年代のインドネシアにおける大量虐殺事件だが,共産主義者の排除の名目で100万規模の処刑が行われたという。単なる関係者へのインタビュー集ではない。何と,当時の加害者たちに記録映画を作ると言って,再演劇を演じさせ,その制作過程を克明に映像化している。こんな手法での映画を作ろうともちかける監督も監督だが,嬉々として当時の殺戮の方法を解説する実行者達の神経にも呆れる。英雄気取りのリーダー,嬉々として何役もこなすギャング,全く罪の意識もない現政府の要人等々,恐ろしさを通り越して,滑稽にすら思えてくる。そして,ラスト30分弱の思い掛けない証言に再び驚く。各国の映画祭での数々の受賞もむべなるかなである。その半面,佐村河内事件があったゆえに,このラスト自体も演技の一部じゃないかと疑いたくなってくるほどだ。
 『8月の家族たち』:舞台は米国オクラホマ州の片田舎の夏,父親の葬儀で再会した三姉妹とそれぞれに問題を抱えた家族たちが,赤裸々に本音をぶつけて,傷つけ合うドラマだ。個性的な母(メリル・ストリープ)と辛辣な長女(ジュリア・ロバーツ)が,アカデミー賞の主演女優部門と助演女優部門にノミネートされて注目を集めたが,男優陣もユアン・マクレガー,クリス・クーパー,ベネディクト・カンバーバッチら豪華キャストが加わり,存在感のある演技合戦を繰り広げる。それ自体には感心するが,余り愉快な映画ではない。人間の内面を描くのが文学なら,その映画化作品にも大いに存在意義はある訳だが,ここまで来ると殺伐とした気分になる。舞台劇に向いた内容だなと思ったら,原作自体が戯曲で,既にその舞台はトニー賞等を受賞していた。C・クーパーとB・カンバーバッチがしっかり親子に見えるほど似ていることは,新発見だった。
 『ファイ 悪魔に育てられた少年』:7歳で殺人強盗集団「白昼鬼」に誘拐され,5人の父親から犯罪の英才教育を受けて育った17歳の少年の過酷な現実を描いている。この前提だけでも異常そのものだが,描き方も惨い。集団のリーダー役は,『チェイサー』(09年5月号)で圧倒的存在感を示したキム・ユンソク。同作の評では,「恋愛もの以外の韓国映画は,何でこんなに汚い世界を描くのか。(中略)この結末は納得できない。観客を不快にさせるだけだ」と書いたが,これはそっくりそのままこの映画にも当てはまる。この映画には,文学的香りはもとより,思想性も社会的意義も全くない。娯楽映画なら,もっと後味のいい映画にして欲しいものだ。筆者には,製作意図も存在意義も全く認められない。これが韓国映画のNo.1作品とは,観客の品性を疑う。人畜無害のTV番組の焼き直しで満足している日本映画の平均的観客層と比べて,どちらがマシなのか。
 
   
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