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O plus E誌 2020年3・4月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   『一度死んでみた』:主演は広瀬すずと吉沢亮。といっても,若者向きのキラキラ映画ではない。広瀬すず初のコメディ映画主演で,ウザくて臭い,大嫌いな父親に「一度死んでくれ!」とシャウトしていたら,本当に死んでしまった。それも2日間だけ…という奇抜な設定のコメディだ。いきなり,彼女がデスメタル・バンドのリードヴォーカルで絶叫するシーンから始まる。父親は堤真一で,母親は木村多江。助演は,小澤征悦,リリー・フランキー,松田翔太だけでも結構豪華だが,妻夫木聡,佐藤健,竹中直人,古田新太,城田優,でんでん,大友康平らが続々とチョイ役で登場する。おまけに郷ひろみまでが…。これが松竹作品というのにも意外感があった。監督・浜崎慎治,脚本・澤本嘉光は,ヒットCMのクリエータ・コンビだ。父娘のお涙頂戴映画にせず,最後までこのタッチで通したのがエライ!
 『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』:素晴らしいドキュメンタリーで,痺れた。よくぞ半世紀以上前の記録映像を復刻し,見事なインタビューコメントを編集したものだ。安田講堂落城後の1969年5月,東大全共闘が三島由紀夫を駒場に招いて行った討論会を再現し,全共闘,楯の会,三島研究者ら13人へのインタビューを交えている。大半は筆者と同年代であり,少し個人的事情が違っていれば,その会場に居た可能性が大ゆえに,余計に感慨を覚えた。三島由紀夫がこれほどユーモアに溢れ,チャーミングな人物とは,正に再認識した。討論は噛み合っていないが,これは三島の圧勝だと思う。全共闘側は学生運動用語を羅列して自己陶酔に浸っているだけで,これで論客とは笑止千万だ。13人中で印象に残った人物は2人だ。1人は似非論客の芥正彦。50年経って,これだけ反省も成長もしない人物は珍しい(多分に,これも演技か?)。もう1人は,芥川賞作家の平野啓一郎。当時まだ生まれていない世代なのに,この洞察力と分析力に脱帽だ。三島と彼に惚れた!
 『世界でいちばん貧しい大統領 愛と闘争の男,ホセ・ムヒカ』:名前は聞いたことがあるが…程度の記憶だったが,立て続けに彼を讃える2本のドキュメンタリーを観て,すっかりファンになってしまった。南米ウルグアイの活動家・政治家で,第40代大統領として臨んだ2012年の国連会議での意表をつく名演説で,一躍有名になったようだ。徹底したリベラリストで,常に民衆の味方であり,13年間の勾留生活経験者で,好々爺然とした風貌等々,色々な面で南アのネルソン・マンデラ大統領と印象がかぶる。収入の大半を貧しい人々に寄付する清廉潔白ぶりを賞賛することは容易いが,簡単に真似できることではない。本作は,彼に心酔するエミール・クストリッツァ監督の目で観たムヒカ像であり,大統領就任中から任期満了の瞬間までを克明に記録している。映画中で何度も登場する淡青色のVWビートルが印象的だった。彼にぴったりのクルマだ。
 『ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領から日本人へ』:本作は,同じくムヒカ氏を敬愛する田部井一真監督が日本人に送る映像メッセージだ。TV局ディレクター時代に,番組制作でムヒカ大統領を取材した折,彼が日本の歴史や文化に詳しいことに驚き,この政治家の思想や行動に共鳴し,深い尊敬の念を抱く。本作は,監督のその想いがそのまま伝わってくるドキュメンタリーで,分かりやすい。ムヒカの経歴や業績を語る部分で,上記の作と重複もあるが,菊を愛する農家の一面,ウルグアイに移住した日本人家族との交流,被爆した広島・長崎への想い,西洋化しすぎた日本に対する批判と警鐘等々,まさに副題通りの内容が詰まっている。最大の見どころは,2016年の初来日時に,東京外国語大学で行った講演会の記録映像だ。学生からの質問に応えるムヒカの答弁中に,チェ・ゲバラを師と仰ぐ彼の活動家の側面が垣間見える。見事な人生哲学の持ち主だ。
 『エジソンズ・ゲーム』:『The Current War』(電流戦争)が原題だが,邦題は主人公の発明王トーマス・エジソン(ベネディクト・カンバーバッチ)の名前を表に出している。本格的な電力送配電システムを巡って,直流を主張するエジソンと交流での実用化を目指すウェスティングハウス社のビジネス戦争を描いていて,ゲーム的要素はない。結末は分かっているが,当時の技術事情や,19世紀後半の開発競争の様子を格調高く描いている。物語には,交流技術を支えた技術者ニコラ・テスラ(ニコラス・ホルト)や投資家JPモルガンも登場する。「後援:電気学会」の表記から分かるように,技術的解説はしっかりしているが,見慣れない技術用語でもったいをつけている感じがした(電気工学科出身の筆者には理解できたが)。映像的には,19世紀の描写は魅力的だった。多数の電球がつくシーン等,VFXも随所で使われ,格調高さを強調する役割を果たしていた。
 『ポップスター』:壮絶なカリスマ・ポップスターを演じる主演女優はナタリー・ポートマン。『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』(18)の母親役では,アラフォーながらますます綺麗になったと感じたが,本作では厚化粧の険しい顔つきで登場する(若い頃の浅丘ルリ子を思い出す)。少女時代に銃撃されたトラウマを抱えるが,映画は過去から順に時代を辿っている。人気歌手に育ったというのに,一向にステージで歌うシーンが登場しない。全曲Siaが作曲した歌を歌うはずなのに,これじゃまるで詐欺だ。と思ったのだが,(ネタバレを恐れずに記すならば)最後にまとめて何曲も歌う。その一方で,エンドロールは無音で,映像は逆送りだ。余り気をてらわず,素直な音楽映画であって欲しかった。監督・脚本は,若手俳優のブラディ・コーベットで,これが監督作2作目である。ウィレム・デフォーがナレーションを務めているが,このキャスティングは悪くない。
 『白い暴動』:1970年代後半の英国の人種差別に対する音楽家たちの抗議活動記録のドキュメンタリーだ。パンクロック+レゲエが中心の音楽映画でもある。個人的には70年代中盤以降のロックに興味をなくしていたので,この活動は全く知らなかった。その意味では,80年以降に生まれた世代と同じレベルの視点で観た。RAR(ロック・アゲインスト・レイシズム)なるスタンスは,黒人音楽がルーツのロック・ミュージシャンなら当然だと思っていたのに,デヴィッド・ボウイ,エリック・クラプトン,ロッド・スチュワートらが,白人至上主義の極右団体NF(国民戦線)を支持していたとは驚きだった! 当時のこの抗議運動自体は成功し,首謀者や参加者の達成感,自己陶酔感が伝わってくる。それを導き出したのは,ドキュメンタリー映画としては合格だ。この時期に映画化されたのは,ブレグジットで道を誤った英国への痛烈な批判だと受け取れる。
 『悲しみより,もっと悲しい物語』:韓国映画で難病ものの悲恋物語と聞けば,またかと思う。その2009年のヒット作を,台湾がリメイクし,国内では断然No.1,香港やシンガポールでも大ヒットしたという。邦題も「,」が入っただけで,日本人にとっては韓国でも台湾でも大差はないが,自国の人気俳優を起用することに意義があるのだろう。前日にDVDで予習してから,本作と見比べたが,展開も見どころもほぼ同じだった。じゃんけん後出しなので,韓国版の疑問箇所を分かりやすくし,涙も出やすくなるよう演出強化している。韓国版では,利用された歯科医や元婚約者はどうなったと突っ込みたくなったが,その点も補ってある。ネタバレになるので書けないが,1年後を少しアレンジしている。結末を知ってもう一度観るよりも,韓国版⇒台湾版の順に観るのがオススメだ。ロインは韓国版の方が美形だが,主題歌は歌姫A-Linが歌う台湾版の方が絶唱だった。
 『高津川』:舞台となっているのは,清流・高津川沿いにある島根県のある過疎の村で,山・川・畑の田園風景は,日本のどこにでもある光景だ。これを明るく,少し強めのコントラストがある美しい映像で描写している。まるで絵はがきだ。夕焼けがバックの山並み,澄んだ川のせせらぎ,美しい庭木,伝統工芸のお面作り,見事な料理人の包丁さばき等々に,邦画にしては少し多めの音楽が寄り添う。監督・脚本は錦織良成で,主演は甲本雅裕と戸田菜穂。小学校が廃校になる機会に久々の同窓会が開かれ,最後の運動会があり,そして伝統行事の石見神楽を演じる会が催される。日本の美しい風景が失われつつあることに警鐘を鳴らす映画だが,筆者には,都会に出て成功した弁護士と認知症の父親のエピソードが胸に沁みた。故郷がある45歳以上の日本人のための映画だ。最初から都会育ちの若者たちは,この映画に何を感じるのだろう? ある意味で,不幸な世代だ。
 『ようこそ,革命シネマへ』:初めてみるスーダンの映画だった。何処にある,どんな国なのかの興味と,刺激的な題で,どんな革新的な映画なのかの関心が同時に湧いた。アフリカで,エジプトのすぐ南にあり,ナイル川の上流が流れている国だ。イスラム教が中心で,1956年に独立したが,1989年のクーデターで独裁政権になり,今も内紛が続くという。この政権下で映画も映画館も国の中から失われてしまった。欧米に学び,70~80年代に映画を作っていた老映画人4人が再会し,民衆の手に映画文化を取り戻そうと,屋外劇場(その名前が「革命」)で一夜限りの上映会を企画する。その意気込みに感銘した若手監督が,上映に至る準備過程を記録したドキュメンタリー映画である。映画愛,4人への尊敬の念に溢れ,和気靄々と楽しそうに交流する4人の姿を活写している。政権への批判,文明破壊へのプロテスト映画でありながら,哲学的,思索的な香りもする。
 『新喜劇王』:チャウ・シンチー監督の最新作となれば,自ら主演で,CG/VFXもたっぷりかと期待したのだが,それは叶わなかった。自らのヒット作『喜劇王』(99)が原点で,主人公を女性にした復刻の新章だという。彼の映画が日本上陸したのは大ヒット作『少林サッカー』(02年5月号)だから,前作を知らないのも無理はない。映画界を舞台にした内幕もので,前半は抱腹絶倒のコメディだった。売れない大部屋女優のサクセスストーリーで,他愛もない映画なのだが,中盤以降は主人公のモン(エ・ジンウェン)に感情移入し,応援したくなる。即ち,低予算映画のベタな物語なのに,しっかり楽しませてくれ,演出が上手いということになる。一見突き放しながらも暖かく見守る両親の姿にじんと来る。かつての大スターで,現在は落ちぶれた俳優のマー(ワン・バオチャン)のエピソードもいい。彼がこういう役で出て来るだけで,中国人は大喜びなのだろう。
 『フェアウェル』:後述の『ポルトガル,夏の終わり』と比べて観ると,味わい深い映画だ。舞台は中国の長春(かつての満州の新京)で,祖国を離れて海外生活を送っていた親族が,老いた祖母の余命が僅かなことを知って帰郷する。家族間のいがみ合いは似たようなものだが,本作では,末期癌の進行する祖母に真実を告げるか否かの意見対立がポイントだ。結婚式の様子,披露宴での余興,親族の会話,墓参り等々の描写は,我々日本人にも興味深い。旧習と西洋化が入り交じる現代中国社会の様子に,一人っ子で海外移住した中国人が,自己のアイデンティティで悩む様子は,ルル・ワン監督自身の体験,心情なのだろう。孫娘ビリーを演じる主演オークワフィナはラッパーで,この2年間数々の映画に出演している売れっ子タレントだ。シンプルな物語ながら,味のある演出・演技で,数々の映画祭で作品賞,主演女優賞を獲っただけのことはある。
 『プラド美術館 驚異のコレクション』:世界最高峰の美術館の1つであるプラド美術館は,スペインのマドリードにある。約8,700点の美術作品は,15世紀から17世紀にかけて世界を制覇したスペイン王国の威力を反映した,まさに驚異の収集品だ。本作は,開館200周年記念を祝って,昨年作られたドキュメンタリー映画である。筆者は,出張で欧州は10ヶ国に滞在経験があり,その殆どで美術館にも訪れた。残念ながら,スペインには行ったことがなく,この美術館も未体験である。それゆえ,殊更興味をもって,本作を細部まで熟視した。ナビゲーターは名優ジェレミー・アイアンズで,オスカー男優の渋いナレーションが,この大美術館の格調の高さと符合している。いきなり歴史講話から始まり,その後も随所で歴史的人物と,画家や絵画との関わりが解説されている。館長や学芸員へのインタビューの他に,収蔵品の保存や修復の作業風景も興味深かった。
 『一度も撃ってません』:阪本順治監督のハードボイルド・コメディというだけで,映画通は見たくなる。主演は74歳の伝説のヒットマン役に,何と石橋蓮司。実は売れない小説家がその正体だ。自宅では妻(大楠道代)に責められ続けの気弱な男というから,中村主水を思わせるが,実は人を撃ったこともない。元ヤメ検役の岸部一徳,元ミュージカル女優役の桃井かおりまでが凖主役級で,佐藤浩市,妻夫木聡,豊川悦司,井上真央,柄本明&佑等々の豪華助演陣に驚く。この豪華さは上記の『一度死んでみた』に匹敵する。もっとオフザケ映画かと思ったが,意外と渋い。大都会のバー「Y」が舞台で,シネスコの横長画面を活かした構図が生きている。看板の「Y」の字体は,故原田芳雄の書だそうだ。流れるジャズ,桃井かおりの歌唱が,大人の香りを振り撒く。大人のお遊び映画で,色々なパロディが含まれている。大監督だから許される「やりたい放題」だ。
 『ポルトガル,夏の終わり』:原題はシンプルな『Frankie』。主人公の老女優フランソワーズ・クレモンの愛称だが,観光映画の側面もある本作に,上手い邦題をつけたものだ。舞台となるのは,ポルトガルの世界遺産のある避暑地のシントラで,余命僅かを知ったフランキーが,この地に家族や親しい友人を招く。短い逗留中に明かされる様々な人間模様,愛憎劇が描かれている。主演は,フランスの大女優のイザベル・ユペール。『エル ELLE』(17年9月号)の女社長,『グレタ GRETA』(19年Web専用#5)のストーカーほど強烈な個性の役柄ではないが,気位の高い女優役にはピッタリだ。もう1人の物語を左右する重要な女性は,ヘアメイク職人役のマリサ・トメイ。『スパイダーマン新シリーズ』で,少し若くなったメイ叔母さんを演じているが,本作でも実年齢(55歳)よりかなり若作りで登場し,男性たちを翻弄する。ラストの海の見える丘の光景が美しい。
 『ペトルーニャに祝福を』:イタリア映画で,女性プロデューサー,女性監督が作った,女性主演の女性のための映画と言える。北マケドニアの小さな町が舞台で,女人禁制のキリスト教の伝統儀式に紛れ込んでしまった女性が引き起こす騒動を描いている。女性解放運動の堅苦しい社会派映画ではなく,鋭い風刺精神に富んだ,愉快な物語である。ペトルーニャは,大学で歴史を学んだが,無職で,デブで,全くモテそうにない32歳の独身女性だ。彼女が男性にしか許されていない「幸せを呼ぶ十字架」を得たことから,町中が大騒動になる。中世からのキリスト教の規範,警察権力,マスコミ報道,既製の価値観等々を思いっきり虚仮にしている。主たる女性の登場人物は,彼女と旧世代代表の母親,TV局女性レポーターの3人で,描き分けが面白い。映画の最後では,彼女は美しく魅力的な女性に見える。女性の幸せをこの形で締め括ること自体が風刺なのだろう。
 『薬の神じゃない!』:中国での大ヒット作で,輸入禁止のジェネリック薬品の密輸販売事件がテーマだ。2014年に起きた実際の「陸勇事件」が基になっていて,本作の主人公名は「程勇」で,人気俳優のシュー・ジェンが演じている。強壮薬の輸入業者だったが,国内では高価で暴利の白血病の薬が買えない患者のために,インド製の安価なジェネリック薬品を密輸・格安販売したため,正規品の製薬会社から疎まれ,逮捕までされてしまう……。主人公が結成する購入グループのメンバーがユニークで,コメディタッチの前半は大いに笑ってしまうが,後半は社会派映画の様相になり,終盤は感激してしまう,という映画脚本の王道を踏んでいる。中国,インドともに貧富の差が大きいが,両国の貧民層の描写に胸を打たれる。「陸勇事件」と本作が,中国の医療制度を変えたという。単なる独裁政権だと思った中国政府にも良心があるのかと見直した。
 
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