O plus E VFX映画時評 2026年4月号掲載
(注:本映画時評の評点は,上から![]()
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(4月前半の公開作品はPart 1に掲載しています)
■『ソング・サング・ブルー』(4月17日公開)![]()
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素晴らしい音楽伝記映画であった。映画の題名を見た時に,すぐにNeil Diamondのヒット曲を思い出した。若い頃,彼のLPレコードは数枚買っていたし,ベスト盤で何度も聴いた曲だったからである。ただし,この曲にまつわる映画だという確信はなかった。“Song Sung Blue”は「ブルーな気持ちで歌った唄」という意味だが,英語の決まり文句かも知れないし,主人公のそんな気持ちを描いた映画に過ぎない可能性もあったからである。
ところが,やはりN. Diamondの自作曲の題名だった。1972年のヒット曲である。日本での知名度は低いが,米国人なら大抵は知っているかつての人気歌手だ。主演は,『X-Men』シリーズのウルヴァリン役でお馴染のヒュー・ジャックマンだという。なるほど,男くさい野性的なルックスは似ている。抜群の歌唱力も『レ・ミゼラブル』(13年1月号)『グレイテスト・ショーマン』(18年2月号)で証明済みだ。だとしても,なぜ“Song Sung Blue”なのだろう? N. Diamondの最大のヒット曲は,“Sweet Caroline”であり,映画ファンはフルCGアニメ『シュレック』シリーズのエンディングに使われていた“I’m A Believer”の方が耳慣れているはずだ。
N. Diamondの伝記映画ではなかった。彼のトリビュートバンドである「Lightning & Thunder」なる夫婦デュオの馴れ初め,コンビを組んでの大成功,2人に起こる衝撃的な出来事を描いている実話ベースの映画だった。既に彼らの音楽活動を描いた同名のドキュメンタリーあり,それを改めてドラマ化した伝記映画なのである。本作の映画評で,この2人を「中年の物真似バンド」「そっくりさん歌手カップル」と書いている解説があったが,それは全く正しくない。何が違うのか,N. Diamondの曲を聴いたこともなければ,デュオのステージ映像を観たこともない素人評者の戯言であることは後述する。
ミルウォーキー育ちの歌好き青年のマイク・サルディーナ(H・ジャックマン)は「Lightning(稲妻)」なる芸名で長年ステージに立ち,様々な歌手の歌真似をして来たが,既に中年に差しかかり,スターになる夢も潰えていた。いつものように懐メロ歌唱ショーに出演した時,同じような歌手クレア(ケイト・ハドソン)と出逢い,意気投合する。彼女からN. Diamondの曲を歌うことを勧められる。マイクはN. Diamondを敬愛する余り,彼の歌真似はしなかったのだが,「自分の解釈で歌えば」と提案され,目からウロコが落ちる。2人でデュオを組むことになり,彼女は「Thunder(雷鳴)」と名乗ることになる。2人はそれぞれ娘がいるバツイチ同士だったが,まもなく結婚し,夫婦デュオとなる。
前半は2人の出逢いから,ステージでの成功で人気者になる快適な展開であった。後半は,実話らしく,少し辛い物語だった。(少しネタバレになるが)クレアは大事故で車椅子生活となること,2006年にマイクが落命する顛末を描いている。そして,彼の葬儀での弔事やクレアの歌に誰もが感動する物語として結んでいる。
2008年のドキュメンタリーはマイクの追悼映画と企画された映画であった。彼らのステージ映像や同作の一部はYouTubeで何本も観ることができる。およそN. Diamondとは異なるアレンジや演出で歌っていることが分かるはずだ。そもそもデュオで歌っている時点で「そっくりさん歌手」ではない。強いていえば,本作のステージ演出は本人たちに似せているが,H・ジャックマンの歌唱はN. Diamondに似ていて,マイクよりも圧倒的に上手い。K・ハドソンの歌もクレアよりも数段上で,スタイルもルックスも比較にならない。労働者階級の歌手たちが人気者になり,夢を叶えたことへの賛辞としての映画化であるが,それを超一流の人気俳優たちが演じたことで,音楽も演技も最高レベルに達していた。
ただし,ヒロインのK・ハドソンのことは,本作までよく知らなかった。『あの頃ペニー・レインと』(00)で,まさにそのペニー・レインを演じて,GG賞助演女優賞受賞,アカデミー賞にもノミネートという経歴以外は,目立つ大作にも起用されていない。本作は大抜擢に相当するが,歌唱力の確かさにも驚いた。父親が歌手,母親が女優という血のなせる業である。本作の終盤は正に主演であるが,普通に考えれば,主演はH・ジャックマンであり,彼女は助演だろう。今年のアカデミー賞予想記事でも書いたが,彼女が「主演女優賞部門」にノミネートされたのが残念でならない。「助演女優賞部門」でのノミネートなら,間違いなくオスカーを手にしていたと思う。
(以下,4月後半の公開作品を順次追加します。)
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