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O plus E 2022年11・12月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています)  
   
   『ザ・メニュー』:まずは,グルメ映画にして,新感覚ホラー・サスペンスのこの映画からだ。舞台は米国北西部の太平洋岸の小さな島にある高級レストランで,極上の創作ディナーを作る風変わりなシェフ役はレイフ・ファインズ。まさに適役だ。ヒロインは若い女性のマーゴ(アニャ・テイラー=ジョイ)で,料理オタクのタイラー(ニコラス・ホルト)に同伴して島に来たものの,他のセレブからは完全に浮いていた。各皿の盛りつけも蘊蓄も見事で,自分ならどう振る舞うべきか,緊張しながら彼女の視点で料理の進行を観てしまう。次第にホラー仕立てになり,今度はどうやってサバイバルするかが焦点だ。残虐一辺倒も無理のあるドンデン返しも許さないぞと思いながら観たが,見事なエンディングだった。終盤登場する特製のチーズバーガーが絶品で,誰もが食べたくなる。ただし,インフレが進む米国で,これは絶対に$9.95では買えない。
 『ミセス・ハリス,パリへ行く』:実に楽しく,チャーミングなファッション映画で,1958年発行の長編小説の映画化作品である。時代設定は原作通りの1950年代で,主人公は戦争未亡人で家政婦のハリス夫人(レスリー・マンヴィル)だ。ディオール製のドレスの美しさの虜となった彼女は,長年の蓄えを携え,ドレス購入にロンドンからパリへと向かう。オートクチュールでの採寸や仮縫いには時間がかかるため,長逗留を余儀なくされるが,誰にも好かれる彼女は,出会った人々を巻き込んで問題解決へと向かう…。監督はアンソニー・ファビアンで,まだ身分格差も大きく,人種差別もあった時代を踏まえつつ,古き良き時代のコメディの「ほのぼの感」を醸し出している。数々美しいドレスが登場するのは勿論だが,その縫製の工程や現場の様子もよく分かる。若いモデルのナターシャ役のアルバ・バチスタの美しさも,ドレスに引けを取らない。
 『ナイトライド 時間は嗤う』:次は94分1ショットのアイルランド映画だ。かつてオスカー受賞作の『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(15年4月号)が1テイク風に見える偽装撮影していたが,本作は本物の1テイクらしい。しかもずっと高速道路走行中で,大半は車載カメラで運転中の主人公を固定視点撮影している。ドラッグディーラーのバッジ(モー・ダンフォード)は,裏社会から足を洗うため,最後の大口取引に挑むが,思わぬ事態に遭遇し,真夜中のベルファストの街を奔走する……。運転しながら車中から携帯電話をかけまくり,物語は分単位で様相が変わる。当初は1ショットでなくても,実時間進行で十分だと思ったが,緊迫感が抜群で,違和感があった固定視点もやがて気にならなくなる。劇中で姿を見せるのはたった4人だが,他に声だけの登場が数人いる。監督はこれが長編2作目のスティーヴン・フィングルトンで,見事な演出の極上クライムサスペンスだ。
 『ファイブ・デビルズ』:フランス映画の異色作で,こちらも新鋭監督レア・ミシウスの長編デビュー2作目である。不思議な能力(鋭い嗅覚)をもつ少女の物語で,ダーク・ファンタジー,ホラー・サスペンスであり,タイムトラベルもの,LGBTQ映画でもある。主人公の少女ヴィッキー(サリー・ドラメ)は大好きな母(アデル・エグザルコプロス)の香りを集めて小瓶に蓄えていた。謎めいた叔母ジュリアが現れたことで,ヴィッキーの超能力が開花し,自分が生まれる前の母と叔母の記憶の世界にタイムスリップしてしまう…。舞台はフランスの片田舎で,アルプスの麓の壮大な風景が頻出する。登場人物の肌の色の対比も意図的で,ビジュアル的にも凝っている。その一方,音楽もユニークで,母と叔母のカラオケ・デュエットの場面は圧巻だった。それなら嗅覚でなく,「鋭い聴覚」でも良かったのにと思うが,単に監督が嗅覚に興味があったからだそうだ。
 『ある男』:事故死した再婚相手の亡き夫が戸籍とは全く別人だったと判明する。未亡人(安藤サクラ)からの依頼を受け,弁護士(妻夫木聡)が奇妙な過去の調査に乗り出す…。原作は平野啓一郎作の同名小説なので,単に過去の謎を追うミステリーの訳がないと思って観たが,見事なヒューマンドラマ,かつ社会派ドラマでもあった。上記2人のキャスティングに惹かれたが,助演陣の人物描写も素晴らしい。収監中の詐欺師(柄本明),温泉旅館を継いだ兄(眞島秀和),弁護士の同僚,ボクシングジム関係者…。この監督(石川慶)の演出力に改めて感服した。映画は2人のぎこちないラブストーリーから始まり,事故死までの幸せな数年間が冒頭30分強で描かれる。それゆえ,この家庭が壊れたことへの無念さに観客が感情移入する。そして,一見蛇足に思えるラストシーンで,この物語が引き締まり,テーマの重みを感じる。筆者の評価は,本年度邦画のBest 1だ。
 『母性』:こちらも邦画の力作だ。原作は湊かなえの同名小説なので,最初からミステリー映画だと予想できる。となると,同じ2文字の『告白』(10)並みの出来映えを期待してしまう。映画は女子高生の首吊りシーンから始まるが,これは自殺なのか事故なのか…。未解決事件の顛末を「娘を愛せない母」を戸田恵梨香,「母に愛されたい娘」を永野芽郁が演じ,それぞれの立場から振り返る形で物語は進行する。同じ時点の出来事が2人の視点で異なる,所謂「薮の中」方式だ。ともに難役を好演しているが,戸田恵梨香にこの役は似合わない。一方の永野芽郁は自然体で,また芸域を拡げたと感じた。「イヤミスの女王」の作なら結末が不愉快なのは覚悟の上だが,劇中もずっと不快感の連続だった。それだけ姑役の高畑淳子の演技や,廣木隆一監督の演出が見事だったことになる。総合評価が『ある男』より低くなったのは,原作小説の文学性の差だと感じた。
 『グリーン・ナイト』:寡作ながら異色作を製作・配給するA24製のダーク・ファンタジーだ。時代不祥だが,老いたアーサー王が登場し,主人公はその甥というから6世紀頃だろうか? 原作は14世紀に書かれた作者不明の物語「サー・ガウェインと緑の騎士」で,約2,500語からなる頭韻詩だという。いきなり椅子の座った男の顔が燃えるが,当然CGだろう。しっかり円卓での宴席があり,そこに現れた緑色の騎士の首が飛ぶ。もうダーク度全開で,音楽もそれを助長する。物語の中心はそれから1年後の主人公ガウェイン(デブ・パテル)の旅で,道中には盗賊,精霊の少女,妖婦,巨人,キツネ等々が登場する。広大な自然景観は,アイスランドでの撮影だ。終盤の目まぐるしい展開もオチが納得でき,不思議な映画を観たという充実感に浸ることができる。監督・脚本・編集はデヴィッド・ロウリーで,彼のストーリーテリング力はかなりのものだ。
 『シスター 夏のわかれ道』:このシスターは修道女ではなく,単に姉の意だ。中国映画のヒューマンドラマで,主人公アン・ランは病院勤務の看護士だが,家庭事情で断念した医学部大学院への進学を目指している。疎遠だった両親が交通事故死したことから,突然会ったこともない弟の面倒見を強いられる。6歳の弟の我が侭に振り回される彼女が,次第にこの弟を愛おしく感じるようになる過程の描き方が絶妙だ。姉を演じたチャン・ツィフォンは清楚で可愛いが,気が強く,自分を大切にする現代女性として描かれている。弟ズーハンを演じたダレン・キムが愛らしく,この1作で人気沸騰のようだ。映画からは,現代中国の生活形態・住宅事情や,男尊女卑が根強いことも分かる。親友が書いた脚本で若手女性監督イン・ルオシンが撮ったこの映画は,家父長制や一人っ子政策への痛烈な批判となっている。ラストシーンには観客全員が涙することだろう。
 『人生クライマー 山野井泰史と垂直の世界 完全版』:昨年11月に登山界のアカデミー賞たる「ピオレドール生涯功労賞」を受賞した日本人登山家のドキュメンタリーである。「世界最強のクライマー」で,今まで生き残っているのが奇跡だという。10歳で登山開始,凍傷で手足の指を計10本切断,熊に襲われたこともあるそうだ。妙子夫人も著名な登山家で,2人とも現役なので,夫婦での本人の語り,現在のトレーニング姿も登場する。単に偉業を辿るだけでなく,1996年の敗退の記録も収められている。映像作品としては同系統の『フリーソロ』(19年7・8月号)『アルピニスト』(22年Web専用#4)ほどの迫力はなかった。これは,殆どスポンサーを付けない挑戦であったため,映像記録を残すチームが同行していなかっただけのことだ。その分,拘りの小物,昔岸壁に刻んだ穴,日記やスマホでの交信記録等々,人物像を知る数々のエピソードが充実している。
 『ビー・ジーズ 栄光の軌跡』:ここから3本,英国が世界に発信した文化に関する映画が続く。まずは音楽映画で,半世紀以上に渡り数々の名曲を生み出した「Bee Gees」の軌跡を辿るドキュメンタリーだ。長男バリー,双子の弟ロビンとモーリスのギブ3兄弟からなる人気コーラス・グループで,美しいハーモニーに定評があった。英国マン島生まれ,豪州育ちだが,レコードデビュー後早々に帰英し,1960年代の英国発の音楽シーン,70年代のディスコ・ブームで大きな足跡を残した。とはいえ,ビートルズほど曲作りや演奏シーンのエピソードが語られることはなかったので,貴重なドキュメンタリーと言える。監督は,ベテラン映画プロデューサーのフランク・マーシャル。録音風景,ライブステージ,エリック・クラプトン等のインタビューから構成されるオーソドックスな作りだが,登場するヒット曲が数多く,さながら証言映像つきのベストアルバムだ。
 『マリー・クワント スウィンギング・ロンドンの伝説』:懐かしい名前に再会した思いだ。ミニスカートを生んだ英国の女性デザイナーの伝記ドキュメンタリーである。既成概念を打破するファッションで旋風を巻き起こした服飾デザイナーで,配色センスが抜群だった。1960年代から70年代にかけての,自由と変化の時代のアイコン的存在で,日本でも多数のMQブランドの商品が発売され,人気を呼んでいた。本作では,生い立ちや時代背景を描き,夫と2人で始めたブティックが引き起こした熱狂を関係者へのインタビューで綴っている。このカラフルさが,今も懐かしい。当時,髪型や顔立ちは女ポール・マッカートニーだと感じたのだが,今観ても同じ思いだ。英国の新潮流を世界に発信したという点でも共通している(年齢はマリーが12歳上)。監督は,英国人女優のサディ・フロスト。彼女にとってもMQは永遠の憧れの存在らしい。好い時代だった。
 『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』:上記2作品とは時代がかなり前で,1880年代から20世紀初頭にかけて活躍した英国人画家の生涯を描いた伝記映画である。ドラマ仕立てで,ベネディクト・カンバーバッチが主人公を演じている。ネズミを捕る存在としてしか意識されていなかった猫を,擬人化した愛らしい姿で描き,一躍ペットとしての存在感を高めた(猫にとっての)恩人と言える。映画は葬儀シーンから始まるが,時代は若き日の1881年へと戻る。発明の時代で,主人公はイラストレーターとして収入を得る以外に,発明家として一獲千金も狙っていた。前半はコメディタッチで,19世紀の街の描写や音楽で心が和んだ。身分差を乗り越えて結婚したエミリーは美しく,猫のピーターも可愛かった。実話の伝記映画ゆえ仕方がないが,心を病んだ晩年の描かれ方に少し淋しさを感じた。狂人的な人物を演じた時のB・カンバーバッチの演技は絶品だ。
 『月の満ち欠け』:佐藤正午の直木賞受賞作の映画化作品だが,監督が廣木隆一というので呆れた。『あちらにいる鬼』(22年Web専用#6),上記の『母性』,本作と,ほぼ同時期に3本公開というのに驚く。【愛し合っていた一組の夫婦】と【許されざる恋に落ちた恋人たち】を,それぞれ大泉洋と柴咲コウ,目黒蓮と有村架純が演じている。ラブ・ファンタジーとでも言うべき映画で,流行のタイムリープの変形版だ。数十年の時をおいて,前世の記憶をもった少女が別の親子の間に生まれ,しかも同じ名前である。登場人物の年齢を計算しながら観ていたが,時間関係は正確に合っていた。7歳で記憶が正確に伝達される。テーマ的には,浅田次郎作品であってもおかしくない。映画は当然原作より少しスリム化し,少し違う味付けになっているが,大泉洋の役柄が大きくなっている,相変わらず上手い。これも力作ではあるが,有村架純のベッドシーンは今回もお粗末だ。
 『あのこと』:フランス映画で,1960年代,まだ中絶が違法であった頃の出来事を描いている。思わぬ妊娠で,狼狽し,誰の助けも得られない中,戦い抜く女子大生アンヌが主人公だ。原作の短編小説「事件」の作者はアニー・エルノー。本作のオンライン試写は10月5日の夜に観たのだが,翌日この作家がノーベル文学賞に選ばれたのに驚いた。彼女の実体験を描いているというので,尚更驚く。監督はこれが2作目となる女性監督のオードレイ・ディヴァン。腹部が目立ち始めた主人公に手持ちカメラが密着し,妊娠7週目,9週目,10週目まで進む。そして,アンヌの思い切った行動に唖然とする。特撮とはいえ,よくもこんなシーンを映画で描いたものだ。若い女性は卒倒するかも知れない。目をかけてくれた大学教授に将来歩みたい道を尋ねられ,主人公は「教師でなく作家になる」と答える。その結果,世界最高の栄誉を得たのだから,見事という他ない。
 『MEN 同じ顔の男たち』:本作もA24製作の異色作だ。不思議な映画で,監督はSFスリラー『エクス・マキナ』(16年4月号)のアレックス・ガーランド。ホラー度,気味の悪さでは,本作の方が圧倒的に勝っている。驚くべきは,股から口から得体の知れない生物が登場する奇妙なシーンで,よくぞこんな出産シーンを思いついたという意味では,上記の『あのこと』の比ではない。同作があくまでリアルな描写で追求したのに対して,本作はCGクリーチャーで醜悪さを強調している。物語は,夫の死を目の当たりに見たハーパー(ジェシー・バックリー)が,心の傷を癒すため訪れた田舎町で遭遇する不思議な出来事を描いている。題名通り,同地で出会う男は,家の管理人,警官,少年,牧師等々,すべて同じ顔をしていた…。『007』シリーズでMの補佐役ビルを務めたロリー・キニアが1人で演じている。何か哲学的な意味を描きたかったのかと思われるが,筆者には理解不能だった。
 『ハッピーニューイヤー』:男性8人,女性6人,計14人が織りなす集団ラブストーリーで,韓国版『ラブ・アクチュアリー』である。こちらはクリスマスだけに留まらず,新年のカウントダウンまで物語は続く。大都会の高級ホテル「エムロス」(外観はCG製)が舞台なので,まさにグランドホテル形式の群像劇である。最後はどのカップルも上手く行くハッピーエンドであることは題名からも予想できるが,三角関係も自殺騒ぎも盛り込まれていて,楽しませてくれる。「黄昏流星群」を意識した熟年カップルの40年ぶりの再恋愛も盛り込まれている。挿入曲の半数以上は,定番のXmasソングを様々なアレンジで聴かせてくれるが,他のポップス・ナンバーも明るく楽しい。K-Popファンにはオススメだ。監督は恋愛映画の巨匠クァク・ジェヨンなので,安心して観ていられるが,セリフは韓国語の駄洒落の連発だったので,字幕翻訳家泣かせだったと思われる。
 『Never Goin' Back ネバー・ゴーイン・バック』:高校中退の若い女性2人が主人公の青春お馬鹿映画だ。無責任で下品で,知性のかけらもないが,若く明るく楽しい。俳優のオーガスティン・フリッゼルが自らの体験で脚本を書き,勢いで撮った監督デビュー作だという。なるほど細部までリアルだ。憧れのビーチリゾートで過ごすことを目指して,アンジェラ(マイア・ミッチェル)と親友ジェシー(カミラ・モローネ)は日々ダイナーでのアルバイト生活を送っている。ルームシェアする2人の役だが,実際に同居している女優2人を選んだというから,呼吸もピッタリだ。刑務所に入れられたり,大麻入りのクッキーを食べてしまったり,下ネタも排便ネタも登場する大騒動だが,不思議と許せるのは西洋人の若い女性だからか。これが邦画だと若者の生態に嫌悪感,脱力感を感じ,スーパーで出会った老男性のように思わず小言を口にしてしまうことだろう。
 『ケイコ 目を澄ませて』:女性ボクサー映画には名作が多く,まずオスカー受賞作『ミリオンダラー・ベイビー』(05年5月号),安藤サクラ主演の『百円の恋』(14)を思い出す。脱北者の女性が主人公の韓国映画『ファイター,北からの挑戦者』(21年Web専用#5)も佳作だった。本作のボクサー役は岸井ゆきの,ジムの会長役は三浦友和で,ヒラリー・スワンク,C・イーストウッドの演技と比べて観てしまう。ただし,主人公ケイコは聴覚障害で耳が聴こえないボクサーという難役だ。台詞はないので,表情と目の動きで,見事に揺れ動く心を表現している。本作には劇伴音楽はなく,音は健聴者が発する声と丁寧に調整された効果音だけで構成されている。副題は試合中のケイコに向けての言葉だが,筆者は劇中の会話や効果音に「耳を澄ませて」観賞してしまった。監督は『きみの鳥はうたえる』(18)の三宅唱。演出力は確かだが,もう少し劇的な展開の物語で,この主人公の葛藤を観たかった。
 『戦場記者』:『人生クライマー…』と同じくドキュメンタリー作品の新ブランド「TBS DOCS」の1作だ。こちらはTV放映はなく,2022年3月の映画祭上映の「戦争の狂気 中東特派員が見たガザ紛争の現実」をベースに,その後の取材映像を加えた劇場版である。題名通り,世界の戦場をかけめぐるTBS特派員・須賀川拓が戦地で実体験したリアルな映像のオンパレードだ。前半は彼が格別の思い入れで取材を続ける中東のガザ地区での体験で,夜に空から(イスラエルの)ロケット弾が目の前に降ってくる。迎撃システム「アイアンドーム」の解説が詳しい。バス停がシェルターで,取材も命がけだ。後半は,ウクライナとアフガニスタンの直近を描いている。TVニュースで散々見聞きしているウクライナだが,彼が伝える現地の声と映像は一味違う。アフガニスタンでは,麻薬で汚染された地区に暮すホームレス達の地獄のような生活ぶりに,言葉を失う。
 『フラッグ・デイ 父を想う日』:「 Flag Day」とは,国旗制定の記念日で,米国では6月14日だ。この日に生まれたジョン・ヴォーゲルが,米国最大級の紙幣偽造事件を引き起こし,逃亡・自殺するまでの顛末を描いている。父が犯罪者と知った娘・ジェニファーが自らの葛藤を綴った回顧録を基にした映画作品だが,父娘の濃密なヒューマンドラマとして描いている。監督・主演は,オスカー男優のショーン・ペン。既に監督としての実績は十分だが,主演を兼ねるのは本作が初めてだ。見どころは,実の娘ディランと息子ホッパーを起用していることで,終盤の父娘のやりとりに目が放せない。ディラン・ペンの好演が光り,本作で一躍注目されると思われる。父が成長した娘を誇らしげに見る目は,物語も撮影中も同じだったに違いない。一方,破滅型の父に娘ジェニファーが抱く感情は複雑だが,娘ディランは父ショーンの監督手腕,演技指導力を頼もしく感じたことだろう。
 
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  (このページは,O plus E誌本文を転載しています。この転載の際,誤って後半の9作品の評点を誤って複製していました。お詫びして,訂正させて頂きます)  
   
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