O plus E VFX映画時評 2026年4月号
(注:本映画時評の評点は,上から![]()
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(当初,論評Part 1に掲載したが,CG製の鳥を見せたいため,加筆して画像入りのメイン欄に格上げした)
昨年夏からメイン記事の執筆方針を変更し,公開後に時間がかかっても,詳しいVFX解説とその事例画像を多数掲載することにした。かなり時間がかかりそうな場合には,早い時期に「概要と感想」を先行公開し,後日「完成版」を掲載しているのが実態である。本作に関しては,この新方針から逸脱し,「概要と感想」なしで,これを最終稿とする。既公開映画の完成版の遅延が著しいが,それらを保留して,本作を先に通過させることにした。その最大の理由は,充実した「完成版」を書く必要がないと感じたからである。極論すれば,文字だけの「論評」でも良かったのだが,今月は他にメイン記事候補がなく,本作をメイン記事で掲載することを宣言してしまったので,止むなく,この対処方法にしたというのが本音だ。
誤解なきように言っておくと,本作のCG/VFXレベルが低い訳ではない。マリオファンに対して,映画館で見る価値はないと主張している訳でもない。フルCGアニメであるから,実写映画に比べてVFXが果す効果は少ないが,純粋なCGレンダリングの後,しっかりVFX加工されている。トータルでは現状のアニメ作品の中でも最高レベルの高品質であると言える。では,なぜメイン記事としての価値が低いかと言えば,技術的に新規性が少なく,登場キャラクターも前作との差が少なく,当映画評で語るべきことがかなり少ないからだ。
本作の前作は『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』(23年4月号)である。世界的にも知名度抜群であるので,もはや任天堂が生み出したマリオやルイージのことを説明する必要はないだろう。ビデオゲームに始まり,このフルCGアニメに至る経緯については同作の紹介記事中で詳述したので,ここでは繰り返さない。実は,その記事の最終パラグラフでかなり辛口のコメントを書いた。要点は,「これは大人が楽しめる映画ではない」と「面白く感じないのは,お子様映画風にまとめ過ぎたからだ」であった。そう啖呵を切った以上,シリーズ2作目である本作はしっかり試写を観て,評価することにした。本作は,マリオシリーズの中でも人気の高い3Dゲームの「スーパーマリオギャラクシー」のアニメ映画化作品であり,宇宙が舞台である。前作は字幕版の完成披露試写を観たのだが,吹替版がかなり印象が違うこともあるので,今回はその両方を見せてもらった。
その結果,素直な視点で本作の評価すべき点を列挙し,その後,前作の紹介記事を読み直したら,見事なまでに同じであった。CGの出来映えは,卒がなく,相変わらず業界トップレベルの高品質であった。悪く言えば,新規性に乏しく,書きたくなることが殆どなかった。当映画評の性質上,『トイ・ストーリー』(95)を嚆矢とする長編フルCGアニメは,ずっとその進化を見守って来た。「もはやフルCGだからと言って,確実にメイン欄扱いはしない」と公言して久しいが,実質は引き続き,大半をメイン欄で紹介してきた。和製やフランス製の2Dアニメに比べて,フルCGは表現力が圧倒的に上だからである。ゲームや3D-CGベースのアニメで培った描画技法は,映画全体のクオリティアップに繋がると信じて,路線変更しなかったのである。
ところが,本作を詳しく視聴した結果,いよいよこの旗を下ろすべき時期が来たかと思うようになった。果してそうなのか,前作と本作の興行成績や他のアニメ作品の観客の人気度合いを考えて,当映画評が果すべき役割を考え直すことにした。
以下では,長く冗長な表記を圧縮し,「スーパーマリオブラザーズ」を「SMB」(ゲーム名及び兄弟名),映画は「SMBM」と書く。同様に「スーパーマリオギャラクシー」とその映画化である本作は,それぞれ「SMG」「SMGM」と表記する。
【本作の概要】
登場キャラは,マリオ,ルイージ兄弟を始め,ヒロインのピーチ姫,キノピオ,悪役のクッパ等々のお馴染みの顔ぶれは再登場で,新たにクッパJr. ピーチ姫の姉のロゼッタ,前作のミッドエンドで予告されていた恐竜のヨッシー等が登場し,大きな役割を果す。いずれもSMBゲーム世界で既出であり,映画ならではの新キャラは創造されていない。また,前作で活躍したドンキー・コングとその一族は,本作には全く登場しない。
記録に残すために,簡潔に「あらすじ」を記しておく。主人公の双子の配管工兄弟マリオとルイージは,引き続きピーチ姫を助け,キノコ王国で平穏な日々を送っていた(写真1)。前作で,カメ一族の大魔王のクッパは,ピーチ姫に恋い焦がれ,力ずくで結婚を迫ったが,マリオたちに破れ,縮小されてキノコ城で暮していた(写真2)。ルイージの助けを借りて,心を入れ替える努力をしていた。
ピーチ姫の姉のロゼッタは,宇宙を移動する「ほうき星の天文台」の持ち主であり,星の子・チコたちに母と慕われていた(写真3)。彼女は宇宙のエネルギーを自由に活用できる超能力の持ち主であった。クッパの息子のクッパJr. (写真4)は,ロゼッタを誘拐し,自らが住むクッパ星に幽閉した。縮小された父を元の大きさに戻し,父親から褒められたいために,彼はロゼッタのパワーを使って宇宙を支配する邪悪な計画を実行しようとしていた。ロゼッタはチコたちをキノコ王国に向かわせ,子供時代に離れ離れになった妹のピーチ姫に助けを求めた。マリオとルイージは,砂漠の町(写真5)で再会したヨッシーと共に,ロゼッタの居場所を突き止める。最終的に,クッパ軍団を倒して,彼女を救出するという物語であった。
映画が始まり,しばらく眺めていて,その多くが明るく色鮮やかで,精細度が高いことに感心した。金属部分や水面への映り込みが特に高画質で,さすがイルミネーション作品だと納得できた。この印象は中盤になっても同じであった(写真6)。途中で,クッパJr.が父親を救出するためキノコ城を王国から引き抜いて宇宙に持ち上げたり,マリオとルイージを赤ん坊にしたり(写真7),キノピオやチコたちが天文台を操縦するシーン等々が登場する。本稿では詳細は省くが,メイン記事にした以上。いくつか代表的シーンは掲載しておく。
◾️ 前半の平穏なキノコ王国で,100年に一度の「星屑まつり」は華やかで,キノコ城のバルコニーから見える流星が頗る美しかった(写真8)。一方,クッパ親子が作り上げたクッパ星は少し不気味だったが,デザイン的にユニークだ(写真9)。クッパJr.が作った遊園地「クッパJr.ランド」がこの星の中にあるが,遊園地は表向きの顔で,実は恐ろしい戦いの拠点なのである(写真10)。ロゼッタの「ほうき星の天文台」の外観のデザインも上々だ(写真11)。ビデオゲームSMGは「ギャラクシー」の名前通り,宇宙が舞台であるが,本格的なSFの物語設定がある訳ではない。それでも,宇宙だと感じさせるシーンはいくつかあった(写真12)。
◾️ ロザッタを救出する物語であるから,それなりにアクションシーンは登場する。写真13はルイージがクッパJr.と戦うシーン,写真14ではピーチ姫がパラソルを使って敵と戦っている。ビデオゲームでのファイトシーンのイメージなのだろうが,お子様映画の粋を出ていない。いや,今やお子様映画とて,しっかり武術を使ったアクションが見られる。ワイドスクリーンで観る映画なのだから,もう少し本格的なバトルを見せて欲しかったところだ。
◾️ 公開されている画像には,様々な脇役キャラクターが含まれているシーンがあったので,一通り紹介しておこう。写真15は狐の操縦士「フォックス・マクラウド」でマリオたちに雇われるが,彼の宇宙船はすぐに撃墜される。写真16はロゼッタを捕獲に来た「メガレッグ」で,ゲームSMGに登場するボスキャラである。ゲームでは自律型だが,映画では巨大な搭乗型兵器で,クッパ軍団の「カメック」が操縦している。写真17では,そのカメックのゲーム時代からの宿敵ヨッシーが一気に呑み込んでしまう。NYブルックリン生まれのヨッシーがワープして迷い込んだのがこの砂の町のアッチーニャ・タウン(写真18)で,右の2人が住民のアッチーニャ人である。
◾️ 写真19は,寝ている巨大なT-Rexの「ダイノ」をベビィ化されたマリオとルイージがからかっているシーンである。この後,目を覚まして怒り狂ったダイノがヨッシーやキノピオを追い掛け回すギャグシーンへと続く。写真20のカラフルな着衣の黒目の生物は,SMBの様々なゲームに登場するサブキャラの「ヘイホー」(英語名:Shy Guy)で,映画ではクッパ軍団の兵士として登場する。以上のように,ゲームで見覚えがあるキャラクターが次々と登場するので,マリオファンの熱心なゲーマーは,「こんなところで出て来るのか!」という思いで喜ぶようだ。換言すれば,徹底してそうしたゲーマーを主要観客対象として作られた映画であるので,一般の映画ファンにはさほど面白くないアニメということになってしまう。
【前作時の発言の検証と考察】
前作の週末の興収ランキングは,北米では公開週から4週連続で1位,日本国内は連続3週1位の後,一旦2位に落ちた後,首位奪還し,2週連続1位となった。かなり珍しいケースであるが,アニメ王国日本発のスーパーキャラクターの映画である以上,不思議ではなかった。これは世界的なメガヒットになるなと思ったが,果せるかな全世界で興収13億ドル(約2千億円)以上を売り上げたそうだ。
上述のように,前作時に「これは大人が楽しめる映画ではない。(中略)面白く感じないのは,お子様映画風にまとめ過ぎたからだ」という苦言を呈したものの,この結果はさほど不思議ではなかった。日本国内では,「お子様映画」(映画会社は「ファミリー映画」と呼ぶ)はドル箱であり,年1作公開の劇場版アニメのシリーズは,『ドラえもん』が45年,『クレヨンしんちゃん』『名探偵コナン』が30年以上も続き,それぞれが興収数十億円を得るだけの市場がある。よって,日本国内に関しては,何の心配もない。元がゲームで,CGアニメという点が本作とは異なるが,それはむしろ全世界で通用するという大きなプラス要因である。
上記の苦言は,「子供に同伴する大人にも満足感を与えるには,もっと大作映画らしい豪華さ,過激さが欲しい。(中略)この内容を確認した大人は次作からは映画館に戻って来ないだろう」と結んでいる。しかし,シリーズ第1作が13億ドルも売り上げた以上,海外マーケッティングに長けた任天堂は絶対に路線変更しないだろうと思った。筆者にとって続編の本作は,その苦言通りになるかを確かめる格好の対象であった。
3週早い4月1日に公開された北米の週末興収は3週連続トップであったが,4週目に『Michael /マイケル』に首位を明け渡している。前作よりも1週短かい結果となった。日本国内は『名探偵コナン』を首位から引きずり下ろしてトップとなった。これは3年前と同じだ(この記事は,それを確認し終えてから書いている)。
公開週末3日間だけの興収と,映画サイトでのランキングを前作と本作で比べてみよう。北米と日本国内とで全く同じ傾向で,前作に比べて本作の興収は10%強の減収である(表1)。筆者の苦言通り,大人の観客が減った訳ではないだろうが,日米ともに物価値上げが顕著な時代だから,誤差の範囲ではなく,間違いなく人気減だと言える。
著名映画サイトの評価値では,一般観客も批評家も厳しい評価を与えている(表2)。筆者の場合,前作も高評価しなかったのだが,今回も同程度に「面白さ」も「ワクワク感」も感じなかった。本作のTomatometerの42%はかなり低い数値である。批評家がアニメ映画を低く見ているのではない。アカデミー賞の長編アニメ賞部門のノミネート作と比べるのは酷かも知れないが,彼らはアニメ作品とて高評価を与えている。同じイルミネーション作品の場合,ミニオン映画は観客人気が高く,批評家はそれより低めであるが,この42%ほどは低くない。やはり,ゲームファンだけに通用する作り方でなく,普通の大人が観て,入場料分の楽しめる映画である必要がある。少なくともアニー賞やアカデミー賞にノミネートされるアニメ映画は,芸術性,新規性,健全な娯楽性のいずれかを備えている。
では,上で触れた『ドラえもん』『クレヨンしんちゃん』『名探偵コナン』等の安定した人気と興行成績をどう解釈するかとい言えば,一旦人気を得て,固定ファンを得たシリーズ特有の強みと言える。海外では,これだけ長く続くアニメフランチャイズはなく,日本映画業界特有の現象と言える。最近では,『ONE PIECE』も『鬼滅の刃』もそのゾーンに入っている。
国籍城はハリウッド映画であるので,公開頻度は異なるが,この2作目で『SMB』シリーズも完全にその仲間入りをしたと考えられる。映画会社やゲーム会社は社業であるから,それを安定収入と考え,固定ファン・サービスに邁進するのは当然のことだ。ただし,この種の長期ファランチャイズを,映画雑誌や映画サイトが積極的に論評しないのは,今も昔も同じである。当映画評としては,これだけ高品質のフルCG映画であっても,今後,本シリーズをメイン欄で扱うことがなくなっただけのことである。
【付記】
書き忘れたので,追記しておこう。本作の「吹替版」に関してである。前作は「字幕版」でしか観なかったが,本作を両方で観たのは,当然「吹替版」の出来映えを確認したかったからである。何度か触れたが,『ソニック』シリーズの「吹替版」が余りに幼稚で酷かったので,ライバルである本作の出来が気になっていた。
結論を先に言えば,ある1点を除いて,「字幕版」も「吹替版」も違和感がなく,しっかりした出来映えだと感じた。当然,英語と日本語で印象はかなり違うのだが,それぞれ登場するキャラクターに合った声と口調であった(当然,プロの俳優/声優がそれらしく演じているのだが)。
となると,一方的に『ソニック』シリーズの「吹替版」だけが不出来だったことになる。これは,『ソニック』シリーズが「実写+CG」映画であり,本シリーズが「フルCG」であったことも影響していると思う。本作のように英語音声のマリオやピーチ姫を観ると,まさに洋画であり,彼らを外国人だと思って観ている自分を感じる。一方,本作のようなフルCGの「吹替版」は,「吹替え」というより,独立した言語を話すキャラクターであり,日本語を話すマリオやルイージたちは,日本人として観ているか,せいぜい日本生まれで日本語が達者な外人のように感じるのだろう。それに対して,『ソニック』シリーズのCG製のソニックたちには違和感はないが,実写で登場するアメリカ人が,子供番組のような口調で日本語を話すことに激しい違和感を感じたのだと思う。
さて,本作の「吹替版」の唯一かつ最大の欠点は,ピーチ姫の声であった。「吹替版」の声優・志田有彩の声質や口調が,落ち着いた大人の女性の声過ぎて,若く可愛いピーチ姫のイメージと全く合わなかった。出番が多いだけに,ずっとそれが気になった。前作からの継続出演なので,ゲームやアニメの既存コンテンツからずっと「ピーチ姫」の声なのかと思ったが,そうではなかった。調べると,英語版での出演者アニャ・テイラー=ジョイの吹替えをずっと担当しているようだ。アニャは現在30歳であるから,実写映画の場合はその年齢らしい声で演じればいいのだが,ピーチ姫にそれでは不味い。声優として技量不足である。当欄がそれを指摘しても,声優交替はないだろうから,次作からは,せめてもう少し高い声,可愛い口調で演じて欲しいものだ。
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