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O plus E VFX映画時評 2023年6月号

『M3GAN/ミーガン』

(ユニバーサル映画/東宝東和配給)




オフィシャルサイト[日本語][英語]
[6月9日よりTOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー公開予定]

(C)2022 UNIVERSAL STUDIOS


2023年5月11日 東宝試写室(大阪)

(注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています)


SFX, VFX, 実演まで総動員で, AI人形の暴走を描く

 当欄で是非語りたい注目作が,ようやくやって来た。キャッチコピーは「新感覚のSFホラー」「AI人形が引き起こす惨劇を描いたサイコスリラー」であり,「来たるべきAI社会の暴走への警鐘」と書いている記事もある。革新的な技術が登場するたびに,文系の評論家たちは「警鐘」という名の「難癖」とつけたがる。それは割り引いて考えて良いが,問題は「ホラー」や「サイコスリラー」として,この映画が面白いかどうかである。
 配給はユニバーサル映画だが,製作会社はジェームズ・ワン率いる「アトミック・モンスター」とジェイソン・ブラムが創業者の「ブラムハウス」である。『ソウ』シリーズ,『死霊館』シリーズのジェームズ・ワンのホラー映画での実績・名声は言うまでもないだろう。一方,先月号の『ソフト/クワイエット』(23年5月号)でも触れたように,J・ブラムの最近のヒットメーカーぶりも目覚ましい。創業はブラムハウスの方が古く,『パラノーマル・アクティビティ』シリーズ等を手がけてきた。この両巨頭が製作でタッグを組むからには,駄作であるはずがない。加えて,脚本が『マリグナント 狂暴な悪夢』(21年Web専用#5)のアケラ・クーパーとなると,さらに期待が持てるではないか。
 子供の遊び相手として購入した人形が凶暴化し,残虐なな殺人事件を起こすとなると,誰もが思い出すのは2018年に製作された『チャイルド・プレイ』(19年7・8月号)のチャッキー人形のはずだ。男の子と女の子の違いはあれ,じゃんけん後出しなら,本作のミーガン人形の方が進化しているはずである。その分,ホラー度も向上し,楽しませてくれるのかが注目ポイントだ。筆者は,ここまでの予備知識でマスコミ試写会に出向いた。映画としての面白さも大切だが,当欄としては,チャッキーとミーガンの違いを意識し,どうやって映像化しているかが必須の点検項目であった。その結果は,筆者の予想を上回る撮影テクニックが使われていて,少なからず驚いた。
 以下では,それを項目に分けて詳述するが,撮影/映像化に関して,ネタバレが含まれることを断っておきたい(物語の展開や結末のネタバレはない)。この記事を読む読者は,以下のいずれかであることを想定している。
 ①筆者と同程度の事前知識で映画館に向かい,観賞後にこの記事を読むケース
 ②他の映画評やネット上の感想記事を読み,さらに当欄のこの記事もしっかり読んだ上で,話題作をじっくり眺めてみようというケース

【物語の概要,登場人物,M3GAN人形の位置づけ】
 物語の主人公は9歳の少女ケイディで,交通事故で両親を亡くし,叔母のジェマに引き取られる。ジェマは玩具メーカー「ファンキ社」に勤務する科学者で,最新AIを搭載したお友達人形「M3GAN」を開発中であった。子育てに慣れないジェマは,少女の姿をしたM3GANを実験的にゲイディに与え,話し相手としてケイディの心を癒すように仕向ける。優しく寄り添ってくれるM3GANにケイディは心を開き,実験は成功したかに見えた(写真1)。ところが,あらゆる出来事からケイディを守るようプログラムされていたM3GANは,学習機能によって恐るべき存在となり,想像を絶する惨劇を繰り返すようになる……。製作者の意図としては,アナベル(『死霊館』シリーズに登場する少女人形)+ターミネーターを想定したというが,物語の展開自体は,『チャイルド・プレイ』に酷似していた。


写真1 ケイディ(右)は心を開き,打ち解けた関係に

 なぜ「M3GAN」を「ミーガン」と読むのか不思議であったが,2文字目は「E」を左右裏返した文字が正式である。「3」のようにも見えるので,「3」で代用しているとのことだ。即ち,表記上は「M3GAN」であり,発音的には「MEGAN」なのである。玩具量販店の「トイザらス」の英語ロゴ表記は「ToysRUs」の「R」が左右反転文字になっているので,それと同じ流儀である。もっとも,本作の場合は「3」にも意味を持たせていて,「M3GAN」の正式名は「Model 3 Generative ANdroid(第3型生成系アンドロイド)」だと称している。なかなか洒落っ気のある命名なので,以下では「M3GAN」を使うことにする。

【スタッフ&キャスト】
 製作者2人と脚本担当は上述の通りだが,両巨頭が監督に抜擢したのは,長編デビュー作のホラーコメディ『Housebound』(14)で頭角を表わしたジェラルド・ジョンストンである。日本未公開のニュージーランド映画らしいが,当然内容は知らない。彼自身もニュージーランド生まれの若手監督のようだ。
 科学者の叔母ジェマ役には,ブラムハウス製作の『ゲット・アウト』(17年11月号)のアリソン・ウィリアムズが起用されている。同作では,黒人青年の恋人を自宅に連れていった大学生の白人女性ローズを演じていた。本作では,終盤のクライマックスシーンで,M3GANを破壊しようと奮闘しているが,そこそこ美形で,知的なリケジョに見える女優であれば,誰でも良かった気がする。M3GANの商品化に熱心なファンキ社の上司デヴィッドを演じていたのは,中国系マレーシア人の男優ロニー・チェンだ。『ゴジラvsコング』(21年5・6月号)や『シャン・チー/テン・リングスの伝説』(同Web専用#4)にも出演していたそうだが,殆ど記憶にない。この上司役も,少し強欲でデリカシーのないビジネスマンに見えれば,誰が演じても問題ない役柄だ。そして,少女ケイディ役のヴァイオレット・マッグロウは,『ブラック・ウィドウ』(21年7・8月号)でナターシャの妹分エレーナの子供時代を演じていたというが,こちらも全く記憶にない。ただし,本作のケイディはかなり登場場面も多く,セリフも多い。どんな子役でもいいと言う訳ではなく,かなり演技力のある子役俳優でないと務まらない。既に製作が決定している続編『M3GAN 2.0』(2025年公開予定)でも,彼女が引き続きケイディ役を演じるようだ。  何といっても,最も出番が多く,真の主役と言えるのはアンドロイドのM3GANである。実物大人形とCGモデルデータの併用だと思ったのだが,実はM3GANを演じている子役俳優がいたのである。エイミー・ドナルドで,彼女も監督と同じニュージーランド人であり,ケイディ役のV・マッグロウと同年齢のようだ(写真2)。この起用には全く気がつかなかった。後でプレス資料を読み,メイキングビデオを見て,初めてその存在を知った次第である。彼女がどんなパートを演じていたかは後述する。


写真2 ニュージーランド生まれのエイミー・ドナルド

【M3GANの機能とチャッキーとの違い】
アンドロイドとしてのM3GANの機能を論じるのに,まず少年型人形のチャッキーの機能を振り返り,それと比較することにしよう。チャッキーの殺人マシン化は,悪霊が取り憑いたからだと思っている映画ファンも少なくないようだが,厳密にはそれは違う。上述の2018年公開の映画はリブート作であり,元は同名の『チャイルド・プレイ』(88)で,6本もの続編が作られていた。その第1作では,警官に射殺された悪人の怨念が偶然近くにあったチャッキー人形に乗り移り,凶暴化して殺人を犯す。破壊してもゾンビのように復活し,続編では別の人形にも乗り移っていた。まさに悪霊なので,変幻自在であり,映像的には人形を動かすか,人形メイクを施した少年が演技していた。
これに対して2018年版のチャッキーは,既にAI機能を搭載した量産品のハイテク人形として描かれていた。画像認識機能や音声対話機能があり,スマホアプリからWi-Fi経由で遠隔制御できるいう設定は,当時のIT技術からすれば,実現可能と納得出来るレベルであった。チャッキー人形には心があり,アンディ少年に遊んで貰えなくなったことを恨みに思い,復讐として凶暴化するという描き方であった。現実にはあり得ないが,SFホラーであれば許せる設定だと言える。本来なら,人間を傷つけないリミッタスイッチが入る筈だが,際限なく暴走するのは,上司に不満をもつ作業員が工場出荷時に「行動は無制限」に書き換えていたからである。なかなか上手い理屈付けだ。
チャッキーの躯体はと言えば,ルックス的には88年版をベースとしていた。動作・行動は,すべてアニマトロニクス(リモコン制御のパペット)で実現していた。CGは全く使っていないという。併用しても問題ないと思うが,それがウリなのだから仕方がない(一部のシーンは,VFX加工しているように見えた)。
このチャッキー2018に対して,本作のM3GANは,より進化したAIを採用しているように思える。単なるケイディの遊び相手ではなく,時にはセラピストであり,時に母親の役目も担っている。女性脚本家のアケラ・クーパーは,自らが姪や甥の子守をした経験を基にM3GANのケイディへの接し方を決めたという。話題のChatGPTの対話能力を考えれば,この程度のケイディへの応対は十分できそうに思えてしまう。M3GANの「G」はGenerativeであるから,最新の「Generative AI」を意識していることは明らかだろう。「行動は無制限」ではなくても,学習データが大量にあり,ケイディに不利益をもたらす要因を分析できるのであれば,それを排除する行動パターンを自ら生成してしまうことは,ソフトウェア的には有り得ると考えられる。そこまで出来るなら,それが犯罪であるかどうかも判断して,自己規制できるはずだが,そこはSFホラー映画では問わないことにしておこう。
M3GANの躯体のビジュアル化,物理的具現化に関しては,実物大人形のパペット操作,アニマトロニクス操作,CGによる描画を併用していることが公表されている。場合よって使い分けるのは,賢明な選択である。
物語の前半で,ジェマの研究室でのM3GANの原形モデルが登場する(写真3)。これを装飾して行けば,リアリティの高いアンドロイドが作れると思わせてくれる。大阪大学・石黒浩教授の分身であるジェミノイドを見たことがある観客なら,現在の技術でM3GAN人形の躯体を作ることは全く難しくないと分かるはずだ。ルックス的には,チャッキーのような前作の縛りはないので,M3GANのデザインの自由度は高い。まず,欲しくなるような金髪の美形の少女の人形を作り,次第に気味悪く見えるようにし,殺人マシンと化してからは凶悪かつ醜悪なルックスに変化させているのは,さすがホラー映画の達人たちと思える演出だった。


写真3 ジェマのラボにあったM3GANの原形モデル

【SFX, CG/VFX,実演の出来映え】
 ■ 現在のCG技術は,コストを考えなければ,どんな表情も行動も生成することができると言って過言ではない。本作の巧みなのは,意図的にM3GANを人形だと感じさせたい場合に,パペットやアニマトロニクスを使っていることだ(写真4)。実写の質感の高さを逆に利用して,所謂「不気味の谷(Uncanny Valley)」を演出しているように思える。生身のケイディが至近距離にいるシーンでは,人形らしさが強調され,「キモ可愛くて,怖い!」という声が出て来る訳である(写真5)。目を人工的に見せること,髪の毛を作り物らしく見せることで,この効果を強調している。


写真4 質感は高いが,すぐに人形だと分かる

写真5 至近距離では,こうやって人形を操作する

 ■ 複雑な動きや激しい動きのシーンは,パペットやアニマトロニクスでは表現できない。ケイディの髪を優しくなでる場面,ピアノの演奏,森の中での犬走り等々は,人間の俳優の実演か,MoCapデータでCG躯体を動かしているのだと容易に想像できる。現在の自律型ロボットでは本作のM3GANのような滑らかな二足歩行は無理であるし,実装できるアクチュエータでは,怪力は発揮できない。バッテリーも,劇中の行動に耐えるだけの時間はもたない。その意味では,ソフトウェア的には凶暴化して殺人を犯すことは有り得ても,物理的にこんな殺人鬼の行動をとれるアンドロイドの実現は難しいと考えられる。
 ■ M3GANの逃走時に,クルマを奪って自ら運転するシーンがある。M3GANにハンドル操作やアクセル,ブレーキ操作ができるのかと言えば,現実のロボットには難しいが,高度なAI機能を備えていて,手足も十分な精度で制御できるなら,可能ということになる。ただし,この脚本は馬鹿馬鹿しく思えた。M3GANを技術的に実現できる近未来社会であれば,自動車はすべて自動運転であろうから,自分で運転する必要はないはずだ。
 ■ 話題になっているのは,廊下でM3GANが奇妙な動きをするシーンである。1月の全米公開前に、TikTok等でこの映像を公開したところ,これがバズって,再生回数は15億回を超えたという。現在は,予告編やYouTube等でも見ることができ,「くねくねダンス」と呼ばれている。人形にこんなダンスを踊らせることはできないので,試写を見た時には,これはCGであり,それもMoCapデータではなく,手づけアニメーションだと思っていた。この部分が,エイミー・ドナルドによる実演であり(写真6),完成版では彼女の顔をCG製に差し替えられていたことを後で知った(写真7)。それが想像できなかったのは,こんなことができる子役俳優がいるとは思えなかったからである。エイミーは元々ダンサー志望であり,運動能力抜群の少女ゆえに実現できたシーンとのことだ。そうだと分かれば,CGだと思っていたシーンの半分以上は,彼女の演技によるものだと考えることができた(写真8)。勿論,顔は常にすげ替えているが,その他も部分的にVFX加工しているに違いない。パペットやアニマトロニクスのシーンも同様に,VFX加工は普通に有り得る後処理である。


写真6 後でCGに置き換えやすいよう,帽子を被っての演技

写真7 首から上を置き換えた完成映像。ここから奇妙なダンスが始まる。

写真8 リハーサル風景。上:M3GAN人形,下:よく見ればエイミーが演じている。

 ■ 終盤に凶暴化してジェマと戦ったM3GANは,髪も抜け,皮膚も傷ついている(写真9)。この外観や,M3GANを破壊するため体内の基板が露出する場面はCGだろうと想像したが,既に公開されているメイキング映像を観ると,予想通りであった。同じく終盤に大型ロボットの「ブルース」が登場するが,これも当然CG製である(写真10)。どんな役割なのかは,観てのお愉しみとしておこう。本作のCG/VFXの主担当は「Fin Design + Effects」で,オーストラリアのVFXスタジオである。他に,FathomとMasters of Realityの2社も参加しているが,こちらはニュージランドの会社である。ツールが完備しているので,今やどこでも見事なVFX作業を遂行できるが,しばしば当欄に登場する大手のAnimal Logic社やWeta FX社が担当していないということは,本作のCG/VFXの分量はさほど多くなく,伝統的なSFXの方に重きが置かれていたと考えることができる。


写真9 戦って傷ついたM3GANはCG映像

写真10 終盤に登場する大型ロボット
(C)2022 UNIVERSAL STUDIOS

【総合評価】
 SFホラーの物語設定としては,2018年版の『チャイルド・プレイ』と大差がなく,ホラー,スリラーとしての怖さは一級品ではなかった。ただし,セールスポイントであるM3GANの登場のさせ方,外観や描写方法の使い分けは見事だったと評価できる。それが嬉しくなって,本稿も長々と書いてしまった。製作費は高額でないのに,かなりのヒット作となったので,当然シリーズ化されることだろう。既に『ハロウィン』シリーズが終わってしまったユニバーサル映画にとっては,ブギーマンに替わる格好のホラー・スターの誕生である。
 既に続編『M3GAN 2.0』(仮題)の製作が発表されているが,登場人物はどうなるのだろう? 少女ケイディは少し身長が伸びていても,後日談として撮れば済むが,気になるのはM3GANの挙動を演じた少女E・ドナルドの方である。彼女も,身長が伸びることは避けられない。それでは,M3GANのサイズと合わなくなってしまう。別の子役俳優を探してくるのか,それともVer.2.0のM3GANは,E・ドナルドの身長に合わせてサイズアップしたアンドロイドになるのだろうか? それだと,「第3型生成系アンドロイド」でなくなってしまい,困るはずなのだが…。


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