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O plus E 2021年7・8月号掲載
 
 
ブラック・ウィドウ』
(ウォルト・ディズニー映画)
      (C)Marvel Studios 2021
 
  オフィシャルサイト [日本語]    
  [7月8日より全国映画館で公開中,7月9日よりDisney+プレミアアクセスで配信中]   2021年6月28日 大手広告試写室(大阪)
2021年7月14日 Disney+プレミアアクセスを視聴
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  MCUフェーズ4の長編ならではの完成度  
  久々に映画館で公開されるマーベルのVFX大作である。MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)としては,集大成の『アベンジャーズ/エンドゲーム』(19年Web専用#2)の後,『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(同Web専用#3)までが「フェーズ3」とされていて,Disney+で配信された『ワンダヴィジョン』(21年3・4月号)『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』『ロキ』の中編シリーズ3作品からが「フェーズ4」とされている。本作もその1つだが,コロナ禍による公開延期がなければ,「フェーズ4」のトップバッターを果たす長編作品であった。営業政策上,劇場公開とDisney+配信の両方が行われているが,元々は劇場公開専用の作品であり,中編シリーズとは比較にならない出来映えである。
 主役は,スカーレット・ヨハンソン演じる「ブラック・ウィドウ」ことナターシャ・ロマノフで,これがアベンジャーズ・チームを離れての,初めての単独主役作品である。と聞けば,彼女は『…エンドゲーム』で落命したはずでは? それは偽装ではなく,実際に命を賭してインフィニティ・ストーンを取り返したゆえ,サノスを倒せたはずでは? と問われるに違いない。ま,MCUなら,いくらでも後付けの理由で生き返らせられることはできそうだが,少なくとも現時点ではそれはない。
 実は本作の設定は,2016年の『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(16)の直後から,『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(18年Web専用#2)までの間,彼女がチームを離れて単独行動をしていた期間とされている。劇中の会話でも,他のスーパーヒーロー達の名前も頻出し,完全に物語としての整合はとれている。本作では,ナターシャの生い立ち,ロシアのエージェントがどうしてアベンジャーズのメンバーになったかが明かされる。同時に,ロシア側の殺人者養成機関「レッドルーム」の秘密も明らかになる。即ち,ブラック・ウィドウ(BW)というのは,ナターシャだけでなく,この養成機関で生み出される多数の殺戮エージェントがBWなのである。
 本作の冒頭シーケンスは,ナターシャが父,母,妹と米国オハイオ州で暮す少女時代の1995年から始まる。やがて,この家族に血縁関係はなく,ロシアの諜報機関が送り込んだ偽装家族であったことが判明し,21年後に彼らが再会して物語が一気に進展する。
 監督は『ベルリン・シンドローム』(18年3・4月号)のケイト・ショートランド。単独主役が女性だけあって,女性監督を起用している。偽装家族の父アレクセイにデヴィッド・ハーバー,母メリーナに大女優のレイチェル・ワイズ,妹エレーナに若手実力派のフローレンス・ピューが配されている。エレーナは,今年後半に配信予定の『ホークアイ』にも登場する。アベンジャーズ・シリーズにとっても重要な存在になりそうだ。
 ナターシャの少女時代は,エヴァー・アンダーソンが演じている(写真1)。意志が強そうで,存在感があるという意味でスカーレット・ヨハンソンの子供時代と言えなくもないが,通常,この種の子役はもっと顔立ちが似ていることが多い。彼女は,ミラ・ジョヴォヴィッチとポール・W・S・アンダーソンの娘だそうだ。既に『バイオハザード:ザ・ファイナル』(17年1月号) では,母親のミラが演じるアリスの少女時代を演じていたようだ。それじゃ,存在感があるのも当然だ。来年公開のディズニー映画『Peter Pan & Wendy』ではウェンディ役を演じるようだ。これからどういう女優に育つのかが楽しみだ。
 
 
 
 
 
写真1 ナターシャの少女時代を演じているのはミラ・ジョヴォヴィッチの娘
 
 
  映画としては,隠されていた秘密が明らかになるストーリーパートとアクションシーンのバランスが良い。ヒーロー単独の独立作品であっても,シリーズ全体での位置づけがはっきりしていたり,単独のエンタメとしての完成度が高いというのも,MCU作品の特長と言える。
 以下は,当欄の視点からの論評と感想である。ただし,VFXシーンはたっぷりあるのに,その殆どが公開されていないので,それを承知の上で読んで頂きたい。
 ■ アベンジャーズ・メンバーでもナターシャは超能力者ではなく,ロシアで受けた訓練により高い身体能力を有しているだけだ。妹エレーナもほぼ同等で,外壁をつたって走り降りる程度のことは簡単にやってのける(写真2)。21年後に再会した姉妹2人の会話が楽しい。ナターシャの決めポーズ(写真3)を揶揄するセリフには思わず苦笑した。偽似家族4人の再会後の食事シーンはもっと興味深かった。父は元ロシア版ヒーローの剽軽なデブ男であり,母は科学者で彼女が解説するレッドルームの秘密には一々辻褄が合っていた。本作の作品としての完成度の高さは,こうした会話部分の脚本の良さに表われている。この食事場面で登場するマインドコントロールされたブタは,当然CG製だろう。このブタなどは,当然画像を載せたかったところだ。
 
 
 
 
 
写真2 高い運動能力で建物の外壁を駆け降りる 
 
 
 
 
 
写真3 いつもの決めポーズも妹エレーナに嘲笑される
 
 
  ■ アクションシーンは,前半のブダペスト市中のバイクチェイス(写真4)と中盤のノルウェー山中の刑務所から父アレクセイを救出するシーケンスで展開する。あからさまには分からないが,前者の大半はVFXの産物だろう。女優2人がバイクに乗ったままアクロバット走行はできないから,背景の町中は合成に違いない。後者は見るからにスケールの大きなVFXシーンだ。実写パートのアクションからヘリに宙吊りされて移動する間の繋ぎが見事だった。さらにこのシーケンスでは,大規模な雪崩まで起こして描き加えている。一方,本作に登場する強敵は,生きていたドレイコフが作った「タスクマスター」(写真5)なるロボット風の戦士で,目にした敵の身体能力をそっくりコピーして戦える能力をもっている。厄介な相手だ。
 
 
 
 
 
写真4 バイクチェイス・シーンもVFXの産物
 
 
 
 
 
写真5 仮面姿で登場する強敵のタスクマスター
 
 
  ■ クライマックスは,やっと突き止めたレッドルームに潜入してのラストバトルである。まずは,洗脳された多数のウィドウズ達との戦いだ(写真6)。彼女らも高い身体能力があるので厄介だが,荒唐無稽な身体アクションではないので心地よい。そして,圧巻は巨大なレッドルームを破壊しての脱出劇だが,スケールが大きいだけでなく,高所から落下しながらのアクションが多用されていた(写真7)。本作のCG/VFXの主担当はILMで,副担当がDigital Domain 3.0とWeta Digital,他にTrixter VFX,Scanline VFX,Lola VFX, Cinesite, Rising Sun Pictures, Perception等,多数社が参加している。
 
 
 
 
 
写真6 洗脳されたウィドウズたちとも戦う
 
 
 
 
 
 
 

写真7 終盤のバトルは,大きなスケールのVFX
(C)Marvel Studios 2021

 
 
  ■ 上記のレッドルームから脱出シーンをはじめ,本作の全編で3D上映を意識した構図が目立っていた。最近国内ではほぼなくなってしまったが,米国内の映画館では,アクション大作は3D上映がしっかり残っている。ネット配信のシェアが増えれば増えるほど,映画館は大スクリーンで観る価値を訴えるため,IMAX上映や3D上映の比率を増やしているのだろう。ここで論じたいのは,立体視を意識した構図だと思えるだけでなく,2D上映なのに(即ち,両眼立体視ではないのに)単眼で立体感を感じてしまうシーンのことである。この映画では,それが何度もあった。おそらく,前景と背景のクリアさが調節されていて,前景が少し浮き上がったように見えるのだろう。この種の擬似立体感は,視覚心理学の分野でも認められている現象である。最近の3D映像は,2台のカメラで視差のある映像を撮ることはせず,ほぼすべて「2D→3D変換」に頼っている。即ち,撮影時に少し条件をつけておき,それで得た単眼の2D映像から,巧みなコンピュータ処理で恣意的に両眼視差のあるステレオ対を生成する「フェイク3D」である。技術が進んだおかげで,このフェイク3Dで十分通用するようになった。最近の3D上映はその方式で作られているとして,では同じ映画の2D上映はどうしているのだろうか? 従来は,撮影時の2D映像をそのまま利用するか,VFX合成が加わっている場合は,左右いずれか(大抵は左)の単眼映像を使っていたはずだ。本作の場合は,そうした単純な単眼方式ではなく,フェイク3D変換の処理過程で,左右両眼の中心位置の単眼映像を新たに生成しているのではないかと想像している。背景と人物を一旦選り分けて再配置しているのなら,中央位置の映像でも人物と背景を再合成できる。それゆえ,前景の人物像が少し浮き上がって見えるのではないかというのが,筆者の仮説である。
 ■ 主演のスカーレット・ヨハンソンのことについても述べておこう。上述のように,本作は『…エンドゲーム』の前日譚であり,ナターシャ・ロマノフが同作で自ら命を絶ったこととは矛盾しない。エンドロール後の次回予告クリップでも整合が取れていた。実際,S・ヨハンソン自身も本作がBWを演じる最後だと,MCUからの卒業を明言している。折角,こんなに見事なヒロインぶりを見せてくれたのに,これで終わりとは,何というもったいないことだ。マーベルとしては,今後はエレーナを新BWとして売り出すつもりだろうが,女優としての絶対的な魅力が違う。所詮はエンタメなのだから,何とか屁理屈をつけてナターシャ生き返らせないものか…。と思っていたのだが,既に彼女の復帰話が持ち上がっているようだ。果たして当欄の希望通りに行くのかどうか,楽しみにしておきたい。

 
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  (O plus E誌掲載分に加筆し,画像も追加しています)  
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