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O plus E誌 2013年11月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『死霊館』:極上のオカルト・ホラーだ。米国東部の古い一軒家に移り住んだ一家が不可解な怪現象に悩まされる。その家は,邪悪な霊に呪われた家であった……。という前提は陳腐だが,これは実話で,居住者のペロン一家も,調査を引き受ける心霊学者のウォーレン夫妻も実在の人物というのがミソだ。心霊現象の証拠集めや科学的分析は見ものだし,きちんとキリスト教の「悪魔祓い」の儀式に則っている点でも説得力がある。単に大音響や残虐なシーンで怖がらせる安易なB級ホラーとは一線を画している。監督は『ソウ』シリーズのジェイムズ・ワン。絶妙の脚本で,家族愛との絡め方も上手い。ホラー嫌いの観客にも通用するA級作品だが,欠点は余りにチープな邦題だ。これじゃ怖がって腰が引ける観客が少なくないだろう。もったいない。
 ■『ゴースト・エージェント R.I.P.D.』:こちらも悪霊が登場するが,ホラーとは無縁だ。ジャンル的には刑事もののバディムービーで,世界観は『メン・イン・ブラック』シリーズに似ている。「R.I.P.D.」とは「Rest In Peace Department」の略で,成仏できずに現世に潜む悪霊を逮捕し,霊界に送還する警察組織という想定で,主演のライアン・レイノルズとジェフ・ブリッジスの捜査官コンビ自身がゴーストだ。彼らは生きた人間からは,中国人の爺さんやブロンド美人に見えるという設定が面白いし,悪霊を見分ける手段がインド料理というのも楽しい。となると,かなり面白い映画にできたはずなのに,少し欲張りすぎ,アクの強い演技で,観客の好みは分かれることだろう。3D作品で,CG/VFXも盛り沢山だったが,余り特筆すべき点はなかった。
 ■『ダイアナ』:1997年にパリで交通事故死した元英国皇太子妃の愛と苦悩を描いた作品だ。最も驚いたのは,真の恋人は同時に事故死した富豪の子息ではなく,心臓外科医ハスナット・カーンだったと描かれていたことだ。まるで,本作を後押しするかのように,今夏この男性の存在が女性誌等に報道されていた。ダイアナ・ファンとしては,彼女を捨て,あんなクソババアと再婚した英国皇太子を人非人に描いて欲しかったところだが,さすがにそれは憚られたのだろうか,全く彼は登場しない。主演は,英国出身の美人女優のナオミ・ワッツ。髪形,衣装,上目使いの表情で,必死に似せようと熱演しているが,やはり少し無理があり,とてもあのオーラまでは出せていない。在りし日の姿が,まだ世界中の人々の脳裏に焼き付いているだけに,この映画を作るのは20年ほど早過ぎたと思う。
 ■『キタキツネ物語 -35周年リニューアル版-』:1978年に大ヒットしたドキュメンタリー作品の再編集版。前作は北海道の大自然を背景にミュージカル映画風の味付けであったが,ナレーションも音楽も一新し,キタキツネ一家の構成員7匹それぞれにセリフをつけ,物語性を増している。物語の骨格そのものはほぼ同じだが,残虐なシーンを少しカットし,冗長度を減らして,約20分短縮したことで,全体が分かりやすくなっている。吹替俳優のクオリティはそう高くないが,西田敏行が情感たっぷりに聞かせる柏の木の語りが素晴らしい。改めて観ても,動物に演技をさせずに,観察映像だけでこの作品を作ったのかと驚く。
 ■『ニューヨーク・バーグドルフ 魔法のデパート』:こちらはニューヨークを舞台にしたドキュメンタリーだが,対象は人間でも動物でもなく,マンハッタンの5番街にある高級老舗デパート「バーグドルフ・グッドマン」そのものだ。1901年創業で,既に110年以上の格式ある伝統を誇り,世界のファッション界を牽引してきた神話的存在の舞台裏を,創業者一族,一流デザイナー,顧客のセレブ達が語る。なるほど,米国の繁栄と世界の富豪が集まる町のシンボルである。登場人物の内,最も印象に残ったのはパーソナル・ショッパー(買い物アドバイザー)のベティとウィンドウ・デザイナーのデヴィッドだ。ただし,総勢100名弱へのインタビューは長過ぎる。劇場公開映画としては,この長さ(94分)にせざるを得なかったのだろうが,45~50分程度のTV特番として放映した方が,もっと引き締まったと思う。
 ■『スティーブ・ジョブズ』:同じく世界中が知る有名人の伝記映画でも,上述の『ダイアナ』と異なり,こちらは主演のアシュトン・カッチャーが実に良く似ている。とりわけ,アップル創業期から株式上場の頃までの顎髭のある顔は,生き写しと言えるほどだ。米国での評判は芳しくなかったが,それは観客が期待したiPhoneやiPadの開発秘話,スタンフォード大学での名講義,癌と闘う姿等が一切含まれていなかったからだろう。その分,Apple IIでの成功,ジョン・スカリーとの確執,アップル社復帰とiMacでの成功等の逸話が中心で,当時の開発現場の熱気が伝わってくる。「NEXT」や「ネクスト」と書かず,「NeXT」と記した字幕翻訳者の拘りも嬉しい。このカリスマ創業者が波乱万丈の人生の幕を下ろして2年,アップル社の株価時価総額は昨年度も今年度上期も世界一だった。この映画はいつ製作・公開すべきだったかといえば,「今でしょう!」と断言できる。
 ■『恋するリベラーチェ』:本作も伝記ドラマだが,本作を観るまで,1950年代から70年代まで,TV出演やラスベガス公演で名をはせたこのエンターティナーのことは知らなかった。華麗なピアノ演奏と派手な衣装がウリだったという。レイ・チャールズの『Ray/レイ』(04)やジョニー・キャッシュの『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』(05)等,個性的なミュージシャンの私生活はいずれも破天荒だが,本作の愛憎劇はとびきり個性的だった。主人公のリベラーチェ(マイケル・ダグラス)はゲイであり,彼と愛し合う恋人役は,何と先月号の『エリジウム』で男臭さを撒き散らしたマット・デイモンだ。監督は,スティーヴン・ソダーバーグ。流し目とオネエ言葉で熱演する両俳優の演技もさることながら,顎のとがったM・デイモン,死期が迫ったM・ダグラスの老醜を描いた特殊メイクの出来映えに感心した。
 ■『2ガンズ』:『R.I.P.D.』同様,こちらもバディムービーだが,デンゼル・ワシントンとマーク・ウォールバーグの豪華競演作だ。舞台はメキシコの片田舎で,2人はマフィアの麻薬取引を捜査すべく潜入したDEAの麻薬取締官と海軍情報部の下士官で,互いの正体を知らずにコンビを組んでいた。組織の金300万ドルの強奪を狙ったところ,CIAの隠し金4,000万ドルを奪うことになってしまい,複数の組織から追われる破目に……。表題通り全編派手な銃撃戦の連続で,2人の軽妙なやり取りと派手なガンファイトがウリだが,敵方の設定が安易過ぎないか? いくら何でも,CIAも海軍もここまで腐敗してはいまい。週末のポップコーン・ムービーは単純に観客を楽しませるものでも,このリアリティを感じないバトルには白けてしまう。
 ■『四十九日のレシピ』:「表題に数字が入った映画にハズレなし」というのは,当欄独自のジンクスだが,本作も例外ではなかった。原作は伊吹有喜作の同名小説で,監督は『百万円と苦虫女』(08)のタナダユキ。主人公は,突如妻を亡くして戸惑う古風な男・熱田良平(石橋蓮司)と,結婚生活に破綻し実家に戻って来た娘の百合子(永作博美)で,亡き妻(母)が残したイラスト入りのレシピに従い,四十九日の法要までに人生の再生を図る物語である。不器用な生き方しかできない父と娘を演じる2人の俳優の呼吸がピッタリだ。この2人に,更生施設出身の風変わりな少女イモ(二階堂ふみ)を絡ませたのが,物語の厚みを増す効果を果たしている。女性作家の作品を女性監督が描いた作品らしさは,優柔不断なダメ男,百合子の夫(原田泰造)の描き方に如実に表われていた。好い映画だ。
 ■『タイガーマスク』:言うまでもなく,かつて絶大な人気を博した覆面レスラーの物語だが,これが初の実写映画化である。実在のプロレスラー・佐山聡とは無縁で,少年誌の連載漫画,TVアニメ,劇場版アニメと同様,孤児院出身で「虎の穴」で修行を積んだ伊達直人(ウェンツ瑛二)が主人公である。原作者・梶原一騎の実弟である真樹日左夫が企画・監修というので,正統派のスポ根もの,迫真の格闘技映画を期待したのだが,誰に見せたいのか,意図不明の低予算映画だった。伝統的な虎マスクではなく,金属光沢のマスクとロボット風のコスチュームを身につけての格闘も今イチだ。何で,今頃こんな映画を作ったのだろう?
 ■『サプライズ』:堂々たるB級ホラー映画だ。そうと分かっていて観るなら,残虐な連続殺人のチープ感もB級度も納得が行くし,展開のテンポの良さには爽快感すら感じる。両親の別荘に集まった4人の子供達とそのパートナーの計10人が,次々と殺されて行く。少しミステリー的要素もあり,ホラーからやがてサスペンス・スリラー,バイオレンス・アクションの度合いが増してくる。監督も出演俳優も無名で,当初誰が主演なのか分からないが,次第に頭角を現わす主演女優が,なかなか魅力的だ。ラスト10分の落とし方が見事で,このラストシーンに,『ファイナル・デスティネーション』シリーズのファンなら拍手喝采することだろう。
 ■『マラヴィータ』:脚本・監督のL・ベッソンが,元マフィアのボス役にR・デ・ニーロを起用し,オマージュの意を込めてM・スコセッシに製作総指揮を依頼したという。組織を裏切って密告したことから,主人公一家はFBIの証人保護プログラム監視下でフランスに潜伏中との設定である。夫人役はM・ファイファー,一家を監視するFBI捜査官役にT・L・ジョーンズというのは,これ以上ないハマリ役のキャスティングだ。となると,クールでダンディなクライム・サスペンスかと思いきや,豪快なアクション・コメディで,さすが『96時間』(08)の監督と感心する。劇中上映される映画が『グッドフェローズ』(90)というのも大笑いだ。最後は当然銃撃戦となるが,上述の『2ガンズ』よりもずっと感情移入できる。こういう家族の絆もいいものだ。
 ■『ミッドナイト・ガイズ』:映画に小難しい思想的背景や芸術性を求めず,物語に没頭して楽しめる語り口,観終って爽快感を味わいたい観客にはピッタリの作品だ。円熟した俳優たちの渋い演技,人生の機微を感じさせるようなセリフを期待する向きには,さらにオススメの映画である。主人公は,アル・パチーノ,クリストファー・ウォーケン,アラン・アーキンの3人組で,平均年齢74歳の老名優たちのスーツ姿もキマっている。28年振りに再会した彼らが夜を徹して破目を外す様は,さしずめシルバー版『ハングオーバー』だが,夜が明けてからは,哀愁を伴うギャング・ストーリーとなっている。ラストの描き方も見事だ。3人の中では,A・パチーノが格上だが,最年少(70歳)のC・ウォーケンが絶品で,彼の晩年の代表作となるだろう。
 
  (上記のうち,『タイガーマスク』はO plus E誌に非掲載です)  
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