head
titlehome略歴表彰学協会等委員会歴主要編著書論文・解説コンピュータイメージフロンティア
| TOP | CIFシネマフリートーク | DVD/BD特典映像ガイド | 年間ベスト5&10 |
   
title
 
O plus E 2019年Webページ専用記事#3
 
 
ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』
(ワーナー・ブラザース映画/東宝配給 )
      (C) 2019 Legendary and Warner Bros. Pictures.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [5月31日より全国東宝系にて世界同時公開中]   2019年5月31日 TOHOシネマズなんば (IMAX 3D上映)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  宿敵キングギドラの他,ラドン,モスラも登場  
  ゴジラ生誕60周年の年に公開されたハリウッド製『GODZILLA ゴジラ』(14年8月号)の続編,シリーズ2作目である。例によって,世界同時公開なので5・6月号の締切には間に合わず,『アベンジャーズ/エンドゲーム』(19年Web専用#2)と同様,公開初日の午後,シネコンのIMAX 3Dで観た。残念ながら,『アベンジャーズ…』と比べると観客は半数程度だった。日本の映画ファンは,日本が生んだ「怪獣の王」よりも,既にアメコミ大作の方が好みという訳なのか? これは完結編をウリにした同作と,粗製乱造気味の怪獣映画との違いと思いたい。
 米国レジェンダリー・ピクチャーズ製作の怪獣映画シリーズ「モンスター・バース」は,前作『GODZILLA ゴジラ』から始まり,その後『キングコング:髑髏島の巨神』(17年4月号)が続いたので,本作が同シリーズ3作目となる。既に来年公開の4作目『Godzilla vs. Kong』(原題)の制作が進んでいて,日本からは小栗旬が出演すると報じられている。楽しみだ。
 前作の監督ギャレス・エドワーズは飛び切りの怪獣オタクであり,『モンスターズ/地球外生命体』(10)の成功により抜擢された。「テーマは,リアル」と称するだけのCGクオリティで,当欄では☆☆☆を与えている。この抜擢の後,『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(17年1月号)のメガホンも任されたことは記憶に新しい。当然,引き続き本作の監督も務めると思っていたのに,なぜか監督・脚本はマイケル・ドハティに変わっていた。『X-MEN2』(03年6月号)『スーパーマン リターンズ』(06年9月号)『X-MEN:アポカリプス』(16年8月号)等の大作の脚本を担当していた人物だが,監督経験は余りないようだ。
 前作から5年,ゴジラ生誕65周年というから,ゴジラも還暦から年金受給年齢に達した訳だ(笑)。物語も前作で巨大生物MUTO倒してから5年後に設定されている。武装テロ集団が,南極に眠る大怪獣キングギドラを覚醒させ,これを操って世界制覇を目論むという筋書きである。同時に世界各地の怪獣達も目を覚まし,日本人にはお馴染みのラドンやモスラも登場するというのが見どころである。
 この5年の間に,日本では和製の『シン・ゴジラ』(16)が公開され,大きな話題を呼んだ。当欄は低評価しか与えなかったが,熱心な愛読者からは「よくぞ,言った!」「日頃ロクに映画を見ない連中に比べて,しっかり見ている」「世評に迎合せず,偉い」等,お褒めの言葉(?)を頂戴した。褒めてもらうほどではないが,特に偏見はなく,普通に感じたままを書いただけだ。強いて言えば,邦画だから点数を甘くせず,敬意を表して,映画全体は国際的に通用するか,CG/VFX的に当欄の基準で評価したに過ぎない。
 では,本作の総合評価はと言うと,前作『GODZILLA ゴジラ』と『シン・ゴジラ』の中間になってしまった。前号の『空母いぶき』(19年5・6月号)で項目別の解説と部分評価点を与えたところ,これが好評だったので,本作でもこの方式を踏襲することにした。

【キャスティングと演技】☆☆+
 前作に引き続き,米国政府の未確認生物特務機関「モナーク」の存在が大きな役割を占めている。その職員エマ・ラッセル博士(ヴェラ・ファーミガ),元職員の夫マイク(カイル・チャンドラー),娘マディソン(ミリー・ボビー・ブラウン)の一家が主演俳優陣という位置づけのようだ。V・ファーミガが科学者なのはハマり役だが,拉致された妻子の救出役のK・チャンドラーの存在感が薄い。所詮は脇役俳優で,彼にこの役は重過ぎた。
 前作に引き続き,モナークの実質的リーダー・芹沢猪四郎博士役で渡辺謙が再登場する(写真1)。セリフも多く,存在感は抜群だ。『名探偵ピカチュウ』(19年Web専用#2)でもヒデ・ヨシダ警部補役で出演していたので,同じ月に2本もハリウッドのCG大作に登場し,代表的日本人を演じている訳だ。英語のセリフも聞きやすい。
 途中から芹沢博士に代わって,怪獣対策を担当するのはアイリーン・チェン博士で,中国の至宝チャン・ツィイーが演じている(写真2)。久々のハリウッド映画での重い役だ。既に四十路に達しているはずだが,ショートカットにして初々しく,改めてその美形ぶりに惚れ直した(笑)。というのは,別項の短評欄の『The Crossing ザ・クロッシング Part I & II』(14 & 15)で疲れた顔の娼婦役を演じていて,さすがに老けたなと感じていたからだ。
 怪獣映画に登場する人間は大抵添え物で,とりわけ科学者は滑稽な世間知らずというのが定番だが,上記3人の博士はいずれも存在感があり,いいキャスティングだ。
 
 
 
 
 
写真1 芹沢博士として続投の渡辺謙(右)。存在感も大きい。 
 
 
 
 
 
写真2 ショートカット・ヘアーで初々しくなったチャン・ツィー(中央) 
 
 
 【脚本と演出】☆
 ずばり言って,脚本も演出も前作よりも劣化していると感じた。脚本家としてのM・ドハティは経験豊かなはずなのに,怪獣映画は苦手なのだろうか? 思い出せば,『X-MEN2』は各ミュータントの性格づけは優れていたが,物語展開はやや複雑で分かりにくかった。『スーパーマン リターンズ』『X-MEN:アポカリプス』はCG/VFX的には大作であったが,わくわくする物語ではなかった。
 そもそも科学者一家3人の家族模様や救出劇を盛り込む必要があったのかと感じた。全体として,地球制覇の野望を阻止するサスペンス映画なのか,怪獣同士のバトルを楽しむモンスター映画なのかの性格づけが中途半端だ。前者なら,もう少し緊迫感溢れるストーリー展開であるべきなのに,巨大怪獣を倒す救世主役にゴジラを使おうという構図自体が,もう食傷気味だ。ゴジラに大した演技は期待できないし,どうやって地球を救うのかのアイディアで新規性を打ち出すこともできない。
 その限界は分かっているゆえに,色々中途半端に詰め込み過ぎた感じだ。

【CG製怪獣の出来映え】☆☆☆
 前作で既に絶賛するレベルであったCG製のゴジラは,ますます精悍さを増している(写真3)。勿論,『シン・ゴジラ』とは比べものにならないハイ・クオリティだ。心なしか,背びれが大きくなったように感じたが,1954年の第1作に合わせたという。この背びれを強調するようなライティングやカメラアングルも採用されている。
 脚本や監督の決定以前に,キングギドラ(写真4),ラドン(写真5),モスラ(写真6)の使用権を東宝から得ていたのは,企画製作陣の大ヒットだ。いずれも,一流のCGスタジオが最新技術で描くとここまで見応えがあるかと嬉しくなる出来映えだ。とりわけ,モスラが美しく,素晴らしい。中国雲南省での誕生シーンは前半最大の見どころであり,幼虫からさなぎを経て,成虫として飛翔する姿も絶品だ。
 CG製ゴジラの歩く姿(写真7)は,前作同様,俳優が演じ,MoCapデータをCGモデルに食わせている。ラドンの飛翔姿も同様だが,キングギドラの3つの頭部は3人で同時に演じ,胴体は別の俳優が担当したという。
 本作の造形上の主役はキングギドラで,そのシルエット姿での登場シーンには痺れた(写真8)。本作のCG/VFXの主担当はMPCで,副担当はDNEGとMethod Studios。他にRodeo FX,Ollin VFX,Hydraulx, Raynault VFX等も参加している。プレビズは最大手のThird Floor,3D変換はDNEGの3D部門が請け負っている。
 
 
 
 
 
写真3 皮膚の質感も背びれの描き方も一段と向上 
 
 
 
 
 
写真4 3つの頭部と巨大な翼をもつ宿敵キングギドラ 
 
 
 
 
 
写真5 メキシコの火山に眠っていたラドン。翼長は265.5m。 
 
 
 
 
 
写真6 飛翔姿が美しいモスラ。翼長は244.8m。 
 
 
 
 
 
写真7 救世主ゴジラの歩く姿はMoCap演技 
 
 
 
 
 
写真8 シルエットだと竜に見えるキングギドラの頭部。このシーンの美術デザイナーに座布団2枚。 
 
 
 【ラストバトルからエンディング】☆+
 これだけの大作であるから,ラストバトルは勿論CG/VFXのオンパレードだ。当欄の読者なら既にご存知のように,この部分のCGクオリティはもはや問題ではない。長過ぎず,いかに巧みなアクション演出で満足させてくれるかだ。その観点では,本作は「中の中」か「中の下」の評価しか与えられない。怪獣個々のCG描写は見事でも,上手いと思える演出も巧みなカメラワークもなかったからだ。
 大半が夜の雨中のシーンであることもラストバトルを楽しめなかった要因の1つだ(写真9)。特撮やVFXが未熟だった頃には,夜の雨で誤魔化すのが定番であったが,もはやそんな必要は全くない。昼間の見やすい状態で,各怪獣の得意技をしっかり見せてくれるべきだろう。
 ゴジラが勝つことは最初から分かっているが,最後に「キング・オブ・モンスターズ」たる尊敬を受けるシーンが,少し斬新だった。さあ,次はキングコングとの対決だが,どちらをどうやって勝たせるのだろう?

 
 
 
 
 
写真9 ラストバトルは雨中の対決。悪くはないが,新しくもない。
(C) 2019 Legendary and Warner Bros. Pictures. All Rights Reserved. 
 
 
  ()
 
 
Page Top
sen  
back index next