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O plus E誌 2019年5・6月号掲載
 
 
空母いぶき』
(キノフィルムズ配給 )
      (C)かわぐちかいじ・惠谷治・小学館/「空母いぶき」フィルムパートナーズ
 
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [5月24日よりTOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー公開中]   2019年4月17日 東宝試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  配役や演技は上々なのに,脚本とVFXが減点対象  
  かなり待ち遠しかった邦画の戦闘大作である。このメイン欄で邦画を取り上げるのも久し振りだ。昨年2月公開の『空海―KU-KAI― 美しき王妃の謎』,4月公開の『いぬやしき』は,いずれも隔月刊の狭間でWebページ専用記事にせざるを得なかったから,誌面上となると『DESTINY 鎌倉ものがたり』(18年1月号)以来である。メイン欄に邦画が少ないのは,もはやCG/VFX的には注目作が殆どないことを示している。残念だ。
 本作を待ち遠しかったのは,そのためだけではない。原作コミックが連載されている「ビッグコミック」誌上では,半年以上前から,繰り返し制作過程の模様が報じられていたからである。コミックが原作となると,主要登場人物のキャスティングや(公開後には)原作とは異なる結末を巡って,ネット上が炎上するのは日常茶飯事だ。本作の場合,垂水総理役の佐藤浩市の誌上発言に関して,批判的な書き込みが相次いだ。全くの下らない非難で,却って宣伝になったことだろう。
 むしろ否定的な意見を心配したのは,筆者自身に対してだ。原作者かわぐちかいじの飛び切りのファンで,連載は1号残らず熟読しているフリークゆえ,公平な評価を下せるか自信がない。よって本作は,脚本や演技に対しては熱烈ファンの個人的視点,CG/VFXは当欄の客観的視点での感想と評価となることを断っておきたい。
 監督は『ホワイトアウト』(00)『沈まぬ太陽』(09年11月号)の若松節朗。この監督の手腕は信用できる。脚本は,伊藤和典と長谷川康夫の共同執筆だ。主役は,艦長・秋津竜太役の西島秀俊,副長・新波歳也役の佐々木蔵之介のW主演である。助演陣は,上述の佐藤浩市の他に,中井貴一,嶋政宏,玉木宏,藤竜也,吉田栄作,斉藤由貴,本田翼等の豪華キャスティングである。通常とはスタイルを変えて,項目別に評価しよう。

【映画化の企画と製作】☆☆+
 映画の規模,キャスト&スタッフからすると,東宝配給作品と思うのが普通だ。キノフィルムズの単独配給作品というので,少し驚いた。木下工務店系列の同社の配給作品には,この数年大いに注目している。上映館数は多くないが,洋画のラインナップが質・量ともに半端ではない。余程の目利きが,海外から買い付けているのだろう。邦画も『ギャングース』(18)『半世界』(19)と意欲作が続いた後に,この大作だ。オーナー社長ゆえにできる決断だろうが,是非興行的に成功して欲しい。

【脚本:設定と結末】☆
 余りにも残念な設定と結末だった。原作の連載開始は2014年の夏で,中国船が尖閣諸島の南小島に上陸し,固有領土を主張した上に,与那国島も占拠し,一般島民をも人質にしてしまう。物語は中国海軍と海上自衛隊との武力衝突であり,自衛官に戦死者も出ている。2013年頃から中国船舶の領海侵犯が頻発する時代に,堂々と中国を仮想敵国として描き,我が国の防衛問題を真剣に考えるテーマが注目を集めた。政府決定より先に,かわぐち作品では自衛隊に空母を持たせているのである。
 ところが,本作では,中国よりも遥か南に「東亜連邦」などという意味不明の国をデッチ上げ,これを敵国としている。これは政治的配慮のつもりか? ハリウッド映画なら,昔から堂々とソ連やドイツが,今ならロシアが仮想敵国である。ネタバレになるので書けないが,結末の軟弱さにも呆れた。日本は社民党政権なのか?

【キャスティングと演技】☆☆+
 西島秀俊と佐々木蔵之介のキャスティングは絶妙だった。かわぐち作品は「沈黙の艦隊」「ジパング」でも,性格の異なるエリート自衛官2人をライバルとして登場させている。本作でも全く同じ構図だが,本作の2人は過去作品の主人公の性格も併せ持っているようにも感じた。熱烈ファンが見てもイメージはピッタリだった。彼らの演技も合格点だ。その他では,護衛艦いそがぜ艦長・浮船武彦役の山内圭哉がいい味を出していた。原作では「ちょうかい」の艦長だが,関西弁での「いてまぇ!」の連発はご愛嬌で,大笑いできた。

【美術セットとCG/VFX】★
 余り期待していなかったのだが,CG/VFXはそれ以上にお粗末だった。この種の作品では自衛隊の全面協力で本物イージス艦等を撮影するのが常だが,本作の第5護衛隊群はすべてCG製だろう。自衛隊がようやく空母化することを決めた「いずも」と「かが」は,スキージャンプ型の甲板ではないから,「いぶき」はCGで描くしかない(写真1)。ならば,他の護衛艦,潜水艦もCGで描き,航跡を付すのもさほど難しくはない(写真2)
 
 
 
 
 
写真1 スキージャンプ甲板をもつ空母いぶき。まだ現実の自衛隊には存在しない。
 
 
 
 
 
写真2 いぶきを中心とした第5護衛隊群。ここには見えないが,潜水艦「はやしお」も含まれる。
 
 
  お粗末なのは,砲撃戦や空中戦の描写だ。かわぐち作品は戦闘場面こそ絶品だというのに,まるでその迫力を再現できていない。敢えて名前を出さないが,VFX主担当社の実力のなさゆえだ。少し観られたのは護衛艦はつゆきの炎上シーンくらいだ(写真3)。それに比べると,艦内のCIC(戦闘指揮所)やタッチ型ディスプレイは上々で,美術班の頑張りが感じられた(写真4)。 
 
 
 
 
 
写真3 護衛艦はつゆきの炎上シーン
 
 
 
 
 
 
 
写真4 艦内CICの美術セットも,レーダーモニター上のCG表示も,無難な出来映えで合格点
(C)かわぐちかいじ・惠谷治・小学館/「空母いぶき」フィルムパートナーズ
 
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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