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O plus E誌 2014年8月号掲載
 
 
GODZILLA ゴジラ』
(ワーナー・ブラザース映画 /東宝配給)
      (C) 2014 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. & LEGENDARY PICTURES PRODUCTIONS LLC
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [7月25日よりTOHOシネマズ日劇他全国ロードショー公開予定]   2014年6月23日 東宝試写室(大阪)
       
   
 
イントゥ・ザ・ストーム』

(ワーナー・ブラザース映画)

      (C) 2014 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [8月22日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開予定]   2014年6月27日 梅田ブルク7[完成披露試写会(大阪)]  
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  怪獣に対する怪物,果たしてどちらがリアル?  
  映画としてのジャンルも少し違うし,公開時期も1ヶ月近く違う。本来,冒頭で2本並べて語る対象ではないのだが,敢えて比較し語りたくなった2作品だ。
 片や怪獣映画の世界的スターである「ゴジラ」をハリウッドが真正面から再映画化した大作であり,もう1本は米国中西部,南部に発生する強大な竜巻を描いたパニック映画である。強いて共通点を探せば,いずれもワーナー・ブラザース製作作品だが,『GODZILLA ゴジラ』は我が国内では本家の東宝が配給する。本家も認定の本格ゴジラ映画である。まとめて語る本当の理由は,もう1本のキャッチコピーが「地球史上最大の"怪物"が襲来!」であったためだ。勿論,この"怪物"は例えに過ぎないが,果たしてどちらが怪物らしいか,緊迫感やリアルさはどうか,比べてみたくなった次第である。
 
 
  生誕60周年,ハリウッド再映画化で極リアルに  
  ライオンが「百獣の王」なら,「怪獣の王」とも呼ばれるゴジラ,その名を知らぬ日本国民はいないだろうし,世界中に熱烈なマニアがいる。これまでに東宝作品として28作品が公開されている。第1作の公開が1954年だったから,今年で60周年,ゴジラも還暦だ。その記念すべき作品は,2度目のハリウッド映画化だ。
 米国で公開は5月16日で,週末Box Office成績1位で,評論家筋の評価も上々であったことは,すぐに日本でも報じられた。それから夏休み初めまでの2ヶ月余,早く観たいファンの飢餓感を煽ってから,本邦で公開しようという営業戦略のようだ。既に,様々な雑誌でゴジラ回顧特集が組まれている。公開直前にはTVでの特番や旧作の再放送が相次ぐことだろう。
 ハリウッド第1作『GODZILLA』(98)は,期待外れの駄作だった。既に『ジュラシック・パーク』(93)『タイタニック』(97)でCGの威力は映画界に浸透していたし,監督ローランド・エメリッヒ,脚本ディーン・デヴリンのコンビの起用は,『インデペンデンス・デイ』(96)の成功で,最適任だと思われた。結果は,日本製ゴジラと全く似ていない容姿(まるで,イグアナ?)に批判が集まり,パニック映画としての出来も凡庸であった。
 それから16年,本作の映画化権を得たワーナー・ブラザースとレジェンダリー・ピクチャーズの組合せは『ダークナイト』シリーズで大きな成功を収めている。何より昨年夏の『パシフィック・リム』(13年8月号)でゴジラ映画への畏敬の念が感じられた。そして,監督に抜擢されたのは,『モンスターズ/地球外生命体』(10)でデビューしたばかりのギャレス・エドワーズ。日本版全28作品を完全制覇しているゴジラオタクというから,その点でも安心だ。何よりも,出演陣の中に,日本代表として,渡辺謙の名があるのが嬉しい。彼が演じる芹沢猪四郎博士が物語を引き締めている(写真1)
 
 
 
 
 
写真1 日本人代表として登場するだけで嬉しい(この博士の名「芹沢猪四郎」は,第1作に登場する科学者「芹沢大助」と初代監督「本多猪四郎」にちなんでいる)
 
 
  以下,当欄の視点での見どころである。
 ■ ポスターや予告編に登場するサンフランシスコ市街地でのゴジラの立姿(写真2)だけで,怪獣王に対するリスペクトの念を感じる。このプロポーションは,ゴジラ人形そのものだ。アップの場面(写真3)での質感も上々で,ワニのような鱗が度重なる核攻撃で硬度が強化したとの説明が頷ける。ゴジラの動きは,人の動作をMoCapで収録したものと見て取れた。オリジナルの着ぐるみの動きも参考にしていると思われる。
 
 
 
 
 
写真2 シスコ市街地での雄姿,これぞ世界の大スター
 
 
 
 
 
写真3 アップの場面では,皮膚の質感表現もしっかり
 
 
  ■ 本作でゴジラの敵となるのはMUTOなる巨大生物である。核燃料や放射性廃棄物を飲み込んで成長した牡牝2体は,ちょっと滑稽なルックスだ。彼らを排除するため,突如ゴジラも復活する(写真4)。もっとじっくり観たいのに,このゴジラの全身をなかなか見せてくれないのは,意図的な焦らし作戦だ(写真5)。一方,音響は素晴らしく,ゴジラ映画らしい重厚感を醸し出している。
 
 
 
 
 
写真4 たったこれだけの露出で,ゴジラだと分かる
 
 
 
 
 
 
 
写真5 意図的だろうが,まともに全身を見せてくれない
 
 
  ■ 「テーマは,リアル」と言うだけあって,全編を通してCG/VFXで加工された映像の質感は高い(写真6)冒頭のフィリピンの鉱山での人,人,人……から圧倒される。ホノルルの壊滅,ラスベガスでの戦い,そしてサンフランシスコでのクライマックスまで,圧倒的な映像の連続だ。「最高の恐怖」「極限の絶望」というが,全く恐ろしさは感じない。ゴジラがMUTOを倒して人類を救うのが分かっているからで,どことなく壮大な紙芝居を観ているかのようだ。CG/VFXの主担当はMPCで,他にDouble Negative, Pixel Playground, Lidar VFX, Hammerhead Productions等も参加している。
 
 
 
 
 
写真6 いたるところで水の表現もリアルだった
(C) 2014 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. & LEGENDARY PICTURES PRODUCTIONS LLC
 
 
  竜巻が迫り来る恐怖は,怪獣の破壊よりもずっと上  
  さて,もう一方の"怪物"である。竜巻をCGで描いた映画としては,何と言っても『ツイスター』(96)だ。「ストームチェイサー」と呼ばれる竜巻観測研究者の夫妻が主人公で,ギリギリのところまで竜巻を追跡する様がリアルに描かれていた。監督は『スピード』(94)のヤン・デ・ボン,脚本は『ジュラシック・パーク』(93)の原作者マイケル・クライトン,CGは老舗ILMが担当という布陣で,当時のヒットメーカー達が集結して作った娯楽大作であり,予定通り大ヒットした。
 観測装置を積んだ専用車で竜巻とともに疾走する姿が印象に残っているが,本作はまさにその既視感をなぞるかのような映画だ(写真7)。即ち,どう観ても『ツイスター』の二番煎じであり,女性気象学者アリソンを演じるサラ・ウェイン・キャリーズは,『ツイスター』のヘレン・ハントに雰囲気が似ている。ワーナー配給のVFX大作としては,先月号紹介の『オール・ユー・ニード・イズ・キル』があり,年末にはC・ノーラン監督の『インターステラー』が控えている。その挟間に公開され,上映時間は89分ということからも,あまり広報宣伝に力が入っていない中級作品と映った。ところが,この種の作品の中に予想外に面白い映画がある。まさに期待しなかった分,余計に楽しめた作品の典型だ。
 
 
 
 
 
写真7 ストームチェイサー達のこの姿は,しかと既視感あり
 
 
  監督は『ファイナル・デッドブリッジ』(11年10月号)のスティーブン・クォーレ。これが監督第2作目だが,『ターミネーター2』(91)の第2班撮影監督,『タイタニック』(97)『アバター』(09)の第2班監督など,ジェームズ・キャメロン監督の映画作りを間近で学んだだけあって,ストーリーテリングの才能があり,CG/VFXの使いどころを心得ている。主演のシングル・ファーザーを演じるのは,『ホビット』シリーズでドワーフ族の指導者トーリンを演じたリチャード・アーミティッジ。本作では,勿論,普通の背丈で登場する。彼の他は余り名の通った俳優は登場しない。
 下敷きとなった『ツイスター』からは20年弱が経過し,その間のCG技術の進歩は,まさに当欄が同時代進行で語り続けてきた通りだ。『ツイスター』とは一歩も二歩も,いや格段に進歩した竜巻のCG描写を見せてくれて当然だが,これは難なく達成されていた。予め相当進んだ竜巻を予想していたが,そうと分かっていても,やはり凄いなと感じるレベルに到達している。
 断続的に何度か竜巻シーンが登場する(写真8)。だんだん凄くなり,最後は史上最大級の竜巻が到来する。直径1km,時速600kmというから,なるほど,これはモンスターだ(写真9)。90分弱の短尺ながら,その間の緩急の付け方が見事だ。CG的には,竜巻自体の表現だけでなく,大粒の雹や漏斗雲の表現も絶妙であるし,家やビルが破壊される過程,破壊された街の残骸も絶品である。筆者が最も感心したのは,炎が竜巻の渦に引火し,空まで火焔が巻き上がるシーンだ(写真10)。これをCGで描かせる監督のセンスの良さが気に入った。
 
 
 
 
 
 
 
写真8 竜巻だけでなく,漏斗雲や破壊物の描写も上々だ
 
 
 
 
 
 
 
写真9 そして,史上最大級の竜巻がやって来る
 
 
 
 
 
写真10 炎が吸い込まれ,巻き上がる光景に息を呑む
 
 
   この映画の怖さは,ゴジラやエイリアンの襲撃とは全く違う。同じように破壊され,生命の危険が迫っても,生活感,実体感が違うのである。怪獣や恐竜に襲われても映画内だけの恐怖であり,絵空事であるが,竜巻の恐怖は,自分が本当に遭遇したらどうしようかと感じてしまう恐怖である。大型トレーラーやジャンボジェット機が吹き飛ばされ,宙を舞うシーン(写真11)は,滅多にない出来事と分かっていながら,「有りそうだ。どうしよう?」と感じさせてしまう。この没入感が素晴らしい。その点では,ゴジラがどんな怪獣と激しく戦っても,この竜巻のリアリティには叶わない。
 
 
 
 
 
写真11 大型トレーラーやジャンボ機も吹っ飛ばされる
(C) 2014 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC
 
 
   CG/VFXの担当社は,Method Studios,Hydraulx,Digital Domain, MPC, Scanline VFX, Cinesite, Prime Focus Worldと多彩だが,各社の参加人員はそう多くない。それぞれに得意技を出させたのだろう。
 
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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