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O plus E誌 非掲載
 
 
シン・ゴジラ』
(東宝配給)
      (C) 2016 TOHO CO., LTD.
 
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [7月29日よりTOHOシネマズ新宿他全国ロードショー公開中]   2016年8月5日 TOHOシネマズ二条
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  8月号に載せられず,愛読者から叱られた  
  当Webサイトの愛読者である知人に,このページをアップするのが遅いと叱られた。米国西海岸のアナハイムでのSIGGRAPH 2016開催中(7/24 - 7/28)に出会った旧知の映画業界人からの直接のクレームである。「8月号の(工事中)が外れるのを待って見たのに,『シン・ゴジラ』が取り上げられていない」「この夏の邦画最大の話題作で,フルCGゴジラが登場するというのに,それを外すとは何ごと」というお叱りであった。
 いやいや,意図的に嫌って外した訳ではない。8月号は洋画の夏のCG大作が沢山あったので,紙幅がなく,元々優先順位は低かったのである。加えて,分かっていたのは題名・監督名・主演級の俳優名程度であって,物語や見どころに関する情報がほとんど流れていなかった。完成披露試写は公開日(7/29)の数日前までなく,マスコミ用試写はあるかないか分からないというので,早々と8月号掲載は諦めた。かくなる上は,アナハイムから帰ってから映画館でじっくり観て,Webページにだけ掲載することにした。
 偏見はないつもりだが,これまでの経験から,「脚本・総監督:庵野秀明」×「監督・特技監督:樋口真嗣」という組み合わせでは,いくら話題作であっても,当欄で高評価を与える作品になるとは思えず,食指が動かなかったことも事実である。よって,帰国後すぐの多忙な週末にシネコンに向かう気になれず,ようやく観たのは公開1週間後の8月5日(金)の夕方の回であった。
 既に興行成績では大ヒットしていることや,ネット上でのフィーバーぶりも知っていたので,2週目とはいえ,座席はほぼ満席で,会場は盛り上がると想像していた。実際は,座席は4割程度の入りで,観客は若いカップルか,学生風の男数名のグループばかりだった。年配者は,筆者の他には熟年夫婦が1組だけだった。これは,どうしたことだろう? 中高年には根っからのゴジラ・ファンが数多くいるはずなのに,彼らは金曜日の宵に映画館に足を運ばないというのか!? 本編が終了しても拍手はなく,退場時の会話もさほど興奮状態ではなかった。その会話からすると,彼らはゴジラ・ファンではなく,大半はエヴァ・ファン,庵野秀明ファンのようだった。
 
   
  エヴァンゲリオンとの明白なコラボレーション  
  ゴジラ生誕60周年を記念して2度目のハリウッド製の『GODZILLA ゴジラ』(14年8月号)が作られ,本邦では本家東宝が配給していた。監督は若手のギャレス・エドワーズだったが,本人がゴジラ・オタクというだけあって,CG的にも作品的にもなかなかの出来映えだった。
 それに対して,本作は東宝製作のゴジラシリーズの29作目であり,50周年記念の『ゴジラ FINAL WARS』(04)以来12年ぶりの復活だという。思い出せば,過去28作品は「昭和ゴジラシリーズ」「平成ゴジラシリーズ(vsシリーズ)」「ミレニアムシリーズ」と分類されているように,かなり企画・製作方針が変わり,粗製乱造気味であった。ホラー映画の「貞子シリーズ」もそうだが,大事な人気キャラクターを安易な企画で何度も映画化して,ファン離れを起こしているような気がしてならない。
 ともあれ,久々に邦画として製作されるこのゴジラ映画に関しては,営業面でもかなり気合いが入っていると感じられた。事前に過去28作品を特定の劇場で一挙上映したり,全作品をネット配信したりする等が試みられている。夏休みのお子様向け企画の定番は「恐竜展」だが,今夏はそのいくつかが「ゴジラ展」に置き換えられたようだ。
 庵野秀明に脚本を依頼した時点で,庵野作品を渇望しているエヴァ・ファンの目を意識した広報戦略が採られたようだ。本作の公式サイトでは,『新世紀エヴァンゲリオン』全26話のLIVE配信へのリンクが貼られていた。「ゴジラ対エヴァンゲリオン」なるWebサイトも存在し,徹底したコラボ作戦が採られている。物語の展開が庵野流になるのは当然だが,美術スタッフや音楽までも,エヴァンゲリオンの影響をかなり受けているようだ。
 
 
  パニック大作としては,さほどの出来ではない  
  ネット上では賛否両論との報道もあるが,概ね賛意,好意的評価の方が多い。日本映画史に残る大作と熱く語るファンもいる。それを知った上での当欄の評価はである。既にあちこちで語られているので,作品紹介は少なめにし,当欄独自の視点での評価を詳しく語ろう。
 主演は,内閣官房副長官役に長谷川博己,首相補佐官役に竹野内豊,米国大統領特使役に石原さとみである。中でも,クォーターでバイリンガルという想定の石原さとみが,珍しい役柄で好い味を出していた。その他,もの凄い数の出演者で,約300名が登場する。そこまで多数を配する必要があったのか疑問であり,これは出演料の無駄使いとしか思えなかった。
 物語は,東京湾アクアライン付近で大量の水蒸気噴出があり,続いてトンネル崩落事故が発生するところから始まる。原因は海底火山活動,大型水棲生物へと二転三転し,やがて巨大生物が海上に現れ,上陸して二足歩行を始め,放射性物質が放出され,多大な被害が出るに及んで,ようやく自衛隊が出動して迎撃作戦が展開される。この間の関係省庁による対策会議のシーンが延々と続く上に,この会議での討議内容が滑稽極まりない。急ぎ召集される生物学者3人も,お笑いとしか思えない。元々,怪獣映画では,警察や政府高官は愚かな存在として描かれ,奇妙な博士が登場するのが定番だが,極端な描き方ならまだ救いがある。それを大真面目な重要会議と描いたのでは,これが実情だと本気にし,政治や行政を馬鹿にする若者が増えるのではないかと懸念する。
 樋口監督の演出は,ヒューマンドラマには向かなくても,怪獣映画なら何とかなると思ったのだが,本作は感心しなかった。いや,監督の演出力以前に,元の脚本がプアだと感じた。セリフの大半は,出動指令やその復唱,状況報告ばかりで,ドラマとしての盛り上げに欠ける。あまりの単調さに,(昼下がりでもないのに)途中2度も睡魔を覚えたほどだ。
 以下,CG/VFX中心の感想である。話題作で絶賛する声が多いゆえに,辛めの評価となっている。
 ■ 初めてのフルCGというのは,日本製のゴジラ映画で,全編通じてゴジラ単体をCGで描いたという意味だ。2度のハリウッド製ゴジラ映画では,1998年版から既にCG描画であった。邦画でも「ミレニアムシリーズ」では部分的にCGを使っていたはずで,全編でCGというのが遅過ぎたくらいだ。CGでデザインの自由度を得た本作のゴジラは,途中で何度も変身し,次第にパワーアップする。最初に地上に姿を見せた時の間抜けな顔は,冗談としか思えない。最終的には,体高118.5mでハリウッド版より大きく,過去最高である(写真1)。第1作のゴジラのイメージを残しているが,尻尾が格段に長いデザインとなっている。皮膚表面は火山爆発による溶岩流の跡のようだ(写真2)。意図的なデザインなのだろうが,CGの質感の高さをアピールできる設定だとは思えない。
 
 
 
 
 
写真1 体高は過去最大で尻尾も長いが,あまり恐怖は感じない
 
 
 
 
 
写真2 皮膚表面はまるで火山の溶岩流の跡のよう
 
 
   ■ ゴジラの動きは人が演じてMoCapしているが,演じているのは,何と狂言師の野村萬斎とのことだ。狂言舞台上のように,跳んだり撥ねたりする訳ではないので,特にその違いを感じるほどの動作だとは感じなかった。多分に話題性ゆえの人選だと思う。さらに,防衛省・自衛隊の全面協力もウリにしている。確かに,戦車・戦闘機・ヘリのリアルな映像も登場するが,それはごく一部であって,大半はCGだと見てとれた(写真3)。CG/VFXシーンは,出来不出来の差が目立った。白組の他,多数のVFXスタジオが参加しているが,実力が均質でないためだろう。まるでミニチュアかと思えるシーンも所々にあった(写真4)。CGのモデリングの精細さが足りないか,ライティングのミスマッチが原因で,そう見えたのかと想像する。
 
 
 
 
 
写真3 ヘリもビルもほとんどCG製
 
 
 
 
 
写真4 対岸のビルやゴジラがミニチュアのように見えてしまう
(C) 2016 TOHO CO., LTD.
 
 
   ■ ゴジラがビルを破壊するシーンも少なからず登場するが,ハリウッド製の最近のディザスター・ムービーほどの迫力がない。壊れることは壊れるのだが,同じような引いたアングルからの映像が多く,アップでの映像,破壊シーン間でのカット割りが余りない。そのために破壊シーンでの恐怖や迫力が今イチなのである。プレビズには複数社が参加しているようだが,破壊シーンそのもののデザイン経験が少ないため,効果的なカット割りやキャメラワークを思いつけないのだと思う。この10数年間で,ハリウッド大作と大きな実力差がついてしまった。本作で大きな恐怖,物凄い破壊のリアリティを感じたという観客は,日頃から当欄で取り上げている作品群は殆ど観たことがないのだろう。
 
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