head
titlehome略歴表彰学協会等委員会歴主要編著書論文・解説コンピュータイメージフロンティア
| TOP | CIFシネマフリートーク | DVD/BD特典映像ガイド | 年間ベスト5&10 |
title
 
O plus E 2018年Webページ専用記事#2
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   『レッド・スパロー』:中年男性に断然人気のジェニファー・ローレンス主演のスパイ映画で,監督は彼女が主役の『ハンガー・ゲーム』シリーズ4作中の3作を担当者したフランシス・ローレンスだ。気心は知れているはずだが,血縁関係はない。本作では,事故でバレリーナの夢を断たれたロシア人女性ドミニカ役で,情報庁の特訓を受け,米国相手の諜報員になるという役柄である。若くしてオスカー女優になった彼女だが,随分大人になり,綺麗になった。ネット上で全裸写真が派手に出回って話題になったが,本作では堂々とヌードシーンを演じ,ハニートラップまで仕掛ける。ロシアの女スパイとなると,上記シリーズなみのアクションシーンを期待したのだが,それは裏切られた。原作は元CIA職員が書いたスパイ小説なので,設定はリアルなのだろうが,物語展開は少し退屈だった。上映時間140分は長い。ドミニカの叔父役のマティアス・スーナールツはでプーチン大統領そっくりだが,彼以外は,J・ローレンスも他の俳優たちも全くロシア人に見えないのもマイナス点だ。ロシア人同士の会話までが全部英語であることも興醒めである。そう言いながらも,拷問シーンのリアリティは高く,思わず身がすくんだ。内通者の正体を巡って,物語は終盤ぐっと盛り上がり,意外な結末も見事にキマっていた。
 『アンロック/陰謀のコード』:一方こちらは元CIAの女性取調官が主人公で,バイオテロから世界を救うため敵と戦うアクション映画だ。主演は『ミレニアム』3部作のノオミ・ラパス。助演陣が,マイケル・ダグラス,オーランド・ブルーム,ジョン・マコビッチ,トニー・コレットと豪華で,もうこの面々が脇を固めるというだけで,物語が二転三転し,楽しめそうと期待できた。実際,上記『レッド・スパロー』とは対称的で,98分の短尺ながら,テンポが良く,中身はぎっしり詰まっていた。中盤以降,N・ラパスの痛快アクションが炸裂する。上記シリーズ以降,『プロメテウス』(12年9月号)や『チャイルド44 森に消えた子供たち』(2015年7月号)では重要な役を与えられ,タフな演技を見せていたが,今一つしっくり来なかった。本作では,鼻ピアスはしていないものの,あのリスベットが帰ってきたかのような痛快なアクションを披露してくれる。『レッド・スパロー』の翌日観ただけに,「そうだよ,これこれ! 女スパイのJ・ローレンスに期待していたのも,これだよ」と叫びたくなった。映画賞とは無縁で,映画史には全く残らないが,入場料を払ってスカッとしたいなら,こういうエンタメ作品に限る。
 『ホース・ソルジャー』:ジェリー・ブラッカイマーと言えば,観客の嗜好を掴むのが上手い辣腕プロデューサーで,当欄でも何度かその名を記した。1980年代に『ビバリーヒルズ・コップ』シリーズ,今世紀に入ってからは『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズをヒットさせているが,さすがに古稀を過ぎたからか,製作ペースは落ちている。本作は,9・11同時多発テロ直後にアフガニスタンのタリバン拠点制圧に挑んだ米国陸軍特殊部隊(グリーンベレー)12名の活躍を描いている。『12 Strong』なる原題がどう変わるのかと思ったら,表題のように「馬」を入れた表題になり,ポスター等では馬上で銃を構える兵士たちの画像が前面に出てきている。まるで西部劇だ。陸軍がこんな騎馬部隊を海外派兵するのかと思ったら,山岳地帯では馬が最大の武器になると教えられ,現地で急遽騎馬隊編成を組んだようだ。本作の緊迫度と戦闘描写のリアルさは,ブラッカイマー作品中で最も硬派の『ブラックホーク・ダウン』(02年3月号)に近い。主演は『マイティ・ソー』シリーズのクリス・へムズワース。彼の部隊統率力や作戦成功譚は,『七人の侍』(54)を思い出した。いや,西部劇風で騎馬での戦いとなると,同作のリメイク作『荒野の七人』(60)の印象に近いと言うべきか。
 『サバービコン 仮面を被った街』:監督はジョージ・クルーニー,脚本がコーエン兄弟というので,洒脱でシニカルな映画を期待した。主演はマット・デイモンで,共演にジュリアン・ムーア,オスカー・アイザックが配されている。舞台は1950年代の米国の豊かな郊外の町で,白人中心主義の真っ只中に黒人家族が転入してくることにより,町は大騒動に陥る。50年代のクルマ,衣装,住宅内部の再現が見事だ。かなり古くさいが,それでも当時の日本と比べると,米国がかなり豊かだったことを再認識する。人種差別だけを強調した映画かと思ったが,保険金殺人がからむクライムサスペンスだった。犯人は分かっていて,迫り来るサスペンスを盛り上げる展開は,ヒチコック映画を意識したペース配分と見てとれた。音楽もしかりで,この映画がTV放映されたら,きっと本当に50年代から60年代前半の映画だと思ってしまうことだろう。1950年代の映画業界内の白人至上主義を,こんな風に揶揄して描かなかったことは確実だ。
 『ラブ×ドック』:絶対に観たいというほどではなかったが,吉田羊主演,大人のラブコメディというので,トライしてみることにした。なるほど,パスティエとして腕の独身女性の3回の恋物語だから,若者対象のキラキラ映画ではない。初主演の『嫌な女』(16)では陰気な女弁護士の役であったが,本作は屈託のないコメディというので,彼女の新しい側面が見られることを期待した。と気軽に言えるのは,ハイミスの恋愛話など他人事の思える外野の立場だからで,想定観客層であるアラフォー女性にとっては,結構マジな等身大の映画なのかも知れない。「ラブドック」というのは,「遺伝子で男女の相性を診断する恋愛クリニック」という設定だが,これ自体が眉唾で,まさしくコメディ・ネタである。脚本・監督は『ハンサム★スーツ』(08)等の脚本担当であった鈴木おさむで,これが初監督作だ。後半少しウルっとさせる箇所があり,説教や教訓めいた話になりかけるが,それを貫かず,踏みとどまったのが正解だ。ケーキや食事がカラフルなのは楽しめるが,音楽がもっと軽やかであった方が盛り上がったと思う。
 『モリーズ・ゲーム』:実在の辣腕女性経営者モリー・ブルームの回想録を映画化した作品だが,GG賞には主演女優賞と脚本賞部門に,アカデミー賞では脚色賞部門にノミネートされていた。ジェシカ・チャステインが演じる主人公は,モーグルのオリンピック候補選手だったが,負傷で選手生命を絶たれる。その後,弁護士を目指すが,回り道してポーカールームの経営者へと転身し,大成功を収めた後,FBIに逮捕されるという波乱万丈の半生だ。本人のナレーションで進行する物語はもの凄いハイテンション,ハイテンポで,何ごとにも頭が切れ,経営センスも度胸もある女性だと感じさせる。まさに新時代の女性像だ。監督はオスカー受賞者の脚本家アーロン・ソーキンで,これが監督デビュー作である。父親役をケビン・コスナー,弁護士役をイドリス・エルバが演じている。回顧シーンのモーグルも終盤の法廷戦術もリアリティが高いが,何よりも,ハリウッドスターや大企業の経営者らのセレブが法外な金額を賭けるポーカーゲームの異様な雰囲気に幻惑される。
 『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』:賞獲りレースを賑わした作品が続く。フロリダ州オーランドのディズニー・ワールドの隣接地のモーテルで暮らす貧民たち(実質はホームレス)を描いた映画である。筆者が何度も行った地域だが,こんな現状は知らなかった。これも米国の実態の1つなのだろう。大半は35mmカメラでの撮影だというが,手持ちカメラ風の映像で,まるでドキュメンタリーだ。殆どが母子家庭だが,子供たちのハシャギぶりが印象的だった。母親や子供たちも素人風で,これは演技なのか,そのままカメラを回しているだけじゃないかと感じる。音響も含め,リアルだ。GG賞,アカデミー賞の助演男優賞部門にノミネートされたウィレム・デフォーは,モーテルの管理者(支配人)役が絶賛されていたが,そこまで凄い演技とは感じなかった。存在感はあるので,これじゃ主演じゃないかと思ったが,ラスト10分弱の展開で,少女ムーニーが主役だと認識した。3歳で女優デビューし,7歳で本作に出演したブルックリン・キンバリー・プリンスは,すごい演技力だと感嘆する。
 
 
     
  ()  
   
  Page Top  
  sen  
 
back index next