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O plus E 2018年Webページ専用記事#2
 
 
いぬやしき』
(東宝配給)
      (C) 2018「いぬやしき」製作委員会
(C) 奥浩哉/講談社

 
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [4月20日よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国東宝系にてロードショー公開中]   2018年2月20日 TOHOシネマズ梅田
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  和製コミックのスーパーヒーローは,実写でも大成功  
  奥浩哉作の人気コミック「GANTZ」が2011年に実写映画化された時,異星人がテーマのCG多用作であることは知っていたが,当欄では取り上げなかった。前後編に別れていて,その間3ヶ月も空いているので紹介しにくかったのと,若者が怒鳴りあっているだけの予告編を観て,食指が動かなかったと記憶している。その後,DVDで観たところ,予想していたより物語に入りやすかった。これは,佐藤信介監督の腕,語りの上手さゆえだと感じた。その後,同監督の『アイアムアヒーロー』(16年5月号)を観て,その思いを強くした。コミック原作ものを実写映画化することに殊更長けているようだ。
 『GANTZ』と同じ原作者・監督の組み合わせで,再び実写映画が製作されていると知った時,今度こそ外せないなと思った。予告編を観て,まずますその思いが強くなった。これは和製スーパーヒーローものであり,しかも超能力をもつ主人公が冴えない初老のサラリーマンである。その彼が同じ能力をもつ悪役の高校生と空中バトルを繰り広げる様子は,まさに当欄で語るべき題材ではないか。
 生憎,隔月刊となった最初の3・4月号のメイン欄は満杯であり,過去最大のページ数をもってしても本作を押し込む余地はなかった。となるとWebページ専用記事にならざるを得ないので,少し時間をとって,ゆっくり予習することにした。
 月2回刊の漫画雑誌「イブニング」に掲載の原作コミックは,既に2017年7月に連載が終了していて,単行本は全10巻である。雑誌連載ものとしては,かなり少ない方だ。これを基にしたTVアニメは30分番組で全11話構成である。いつもは原作コミックを半分弱読んでから映画の試写に臨み,その後,残るコミック全巻を読了するスタイルであることは,長年の読者はご存知の通りだ。今回は第1巻を読み終えたところでアニメ版ビデオを観たところ,遥かにテンポが良いので,アニメ版に切り替えた。半分でやめるつもりが,余りに面白く,不覚にもAmazonプライムで全話一気に観てしまった。それくらい原作はワクワクするものだった。当欄で紹介するアメコミ映画化作品のファンなら,絶対に本作は見逃せないと先に断言しておこう。
 題名は「いぬやしき」であるが,迷い犬の「花子」が少し登場するだけで,多数の犬が登場したり,犬が人間に変身したり,超能力をもっている訳ではない。初老の主人公の氏名が「犬屋敷壱郎」というだけである。白髪に皺だらけで実年齢よりも老けて見え,娘にも馬鹿にされる彼は,末期ガンで余命3ヶ月の宣言を受ける。愛犬との散歩中に宇宙人の事故に巻き込まれた彼は落命するが,宇宙人に肉体改造され,兵器ユニットを搭載し,超能力をもった身体となって生き返る。彼はこの能力を不治の病の重病患者を救うことに使うが,同じ場所で同じ体験をした高校生・獅子神皓は,その超能力を連続殺人や集団殺戮に使ってしまう。やがて,互いの存在を知った2人は,新宿の上空で対決する……。
 死んだはずの2人が,異星人の力で生き返るという設定は『GANTZ』とそっくりだ。違うのは,同級生の2人ではなく,スーパーヒーローの片方が冴えない老人だということだ。この設定が本作を格段に面白くしている。アミコミにもない設定である。TVアニメ版では主人公の声を小日向文世が演じていたので,そのまま彼が本作でも演じるといいと思ったのだが,映画での主役は「とんねるず」の木梨憲武であった。映画の主演は16年ぶりだという。コミックやアニメの風貌とは,およそイメージが合わない。話題作りだけでの起用で,これは失敗だと思ったのだが,どうしてどうして,これが絶妙の演技であった。既に彼も56歳。少しのメイクで見事に「犬屋敷壱郎」に化けている。
 一方の獅子神皓役には,『るろうに剣心』シリーズの佐藤健。役柄的には『亜人』(17年10月号)の主人公に近く,ハマリ役だと思う。それでも原作ほどは悪人に描かれてはおらず,そこが少し不満に感じた。原作からの映画化では,エピソードや登場人物をかなり削減せざるを得ないのは当然だが,それでも犬屋敷の奇跡の難病人救済,獅子神の一家連続殺人は,もう1,2例増やした方が,感情移入するのに効果的であったと思う。
 この稿をWebサイトにアップする頃には,もうSNSでの口コミ評価は拡がっていることだろう。恐らく,好評で,支持意見の方が多いと想像する。筆者自身は,最近の青年コミックの実写映画化では出色の出来であり, 邦画のCG/VFX多用作としても抜群の秀作だと思う。
 以下,当欄の視点からの感想と解説である。
 ■ 冒頭の1カットから原作に忠実で,物語に入りやすい。それでいて,やっぱり漫画やアニメに比べて,実写は深味があっていいな,と感じさせる絵作りである。犬屋敷の会社や家庭での存在感のなさ,親友の安堂直行(本郷奏多)がイジメに会うことへの獅子神の憤り等,緩やかな導入部の演出も上手い。そして,宇宙人事故に遭遇し,人体改造を経て甦り,徐々にスーパーヒーロー(とスーパービラン)として超能力を発揮する過程もスムーズだ。アメコミ・ヒーローものでも一番面白いのがこの辺りであるから,それをしっかり研究して,アングルやテンポも工夫しているのだと思う。
 ■ 獅子神や犬屋敷の身体が割れて,中からメカがニョキニョキと登場するシーンからCG/VFXの本格的な出番である(写真1)。このメカの感じは,『GANTZ』の謎の大きな黒球が割れるシーンに似ている(写真2)。空を飛ぶには背中が割れ,そこからジェット・エンジンがむき出しになってくる(写真3)。いずれもさほど高級なCG描画やVFX合成ではないが,ゆっくりとしたテンポで描かれているので,まだヒーローとして未熟,使い方も稚拙という感じがして,それを見守りたくなる気分にさせてくれる。『トランスフォーマー』シリーズのようなケバケバしさがなく,好感が持てる。まだこの辺りまでは実写の身体へのCG合成だろうが,飛翔シーンが多くなると共に,身体丸ごと「デジタル犬屋敷」が増えてくる。メイキング画像を見ると,頭部に位置合わせマーカーを装着したり(写真4),LightStage内で顔の光学特性データ取得中の姿(写真5)があるので,ハリウッド流の最新VFX技術を導入していることが分かる。
 
 
 
 
 
 
 
写真1 前半の見どころは,この2人の身体の一大変化
 
 
 
 
 
写真2 『GANTZ』のこのシーンを思い出す
 
 
 
 
 
写真3 飛行するためのジェット・エンジンは背中から飛び出す。
最初は,犬屋敷の飛行はたどたどしい。
 
 
 
 
 
写真4 頭部の動きをキャプチャーするのに位置合わせマーカーを利用
 
 
 
 
 
写真5 台湾に納入された南加大開発のLight Stageを利用して,顔面の光線反射データを取得
 
 
  ■ 終盤から結末にかけては,原作とはかなり違っていた。警察署の襲撃,航空機事故,隕石墜落の阻止は省かれている。それは仕方ないが,助演陣の二階堂ふみ,伊勢谷友介の使い方が少しもったいないと感じた。最後に犬屋敷が獅子神を倒して危機を救うことは誰でも予想できるが,そのバトルシーンの演出が優れていた(写真6)。首都高トンネル内(写真7)や新宿の市街地でのチェイス(写真8),ビルを突き抜けたり,落下を追って急降下するシーン等,VFX大作なら見慣れたシーンだが,淡泊でもなく,アクションや破壊過剰でもなく,ほど良い心地よさを感じるクライマックスのバトルである。プレビズがしっかり使われていることや,新宿の街を丸ごとデジタルデータ化したゆえの効果も感じられた(写真9)。ハリウッド映画とはまだまだ技術的に雲泥の差はあるが,挑戦心は買える。本作のCG/VFXの主担当はデジタル・フロンティア,副担当がピクチャーエレメントと白組の2社で,他数社と併せて計10数社弱が参加していた。
 
 
 
 
 
写真6 このシーンは2人ともデジタル俳優だろう。この後のバトル展開が終盤の見どころだ。
 
 
 
 
 
写真7 首都高速のトンネルにデジタル犬屋敷を合成
 
 
 
 
 
写真8 新宿駅に向かっての空中チェイスシーン
 
 
 
 
 
 
 
写真9(上)しっかりプレビズでデザインされたシーン。ヘリは当然CGだろう。
  (下)こんなアングルの映像が簡単に作れるのは,新宿の街がデジタル化されているから。
 
 
  ■ 今回の総合評価としては,実写(本作)>TVアニメ>>原作コミックとしておこう。このように,邦画としては出色の出来と褒めながらも,満点のにしなかったのは,海外市場にも通じる,これ以上の作品を目指して欲しいからである。最大の不満は,2D版だけであり,全く3D版の計画すらなかったことだ。本作の終盤は,まさに3D制作にぴったりの題材ではないか(写真10)。日本の映画興行で3D上映の比率が極めて少ないのは,観客のせいだけではない。3Dブームの渦中でも,早々と3D制作への投資を打ち切り,日本での3D上映は流行らないと勝手に決めつけた映画製作業界,映画配給会社のせいである。そのお蔭で,現在では邦画の3D作品は皆無に近い状態だ。今は,ステレオカメラで撮影するリアル3Dの必要はない。Stereo D社等に依頼すれば,2D映像でも簡単に3D変換してくれる。欧米の大作の殆どはそうして作られている。本作のようにCG比率が高い作品なら,その効果は高い。海外市場を狙うなら,その程度の挑戦心はもって欲しいものだ。  
 
 
 
 
写真10 この種のシーンは3Dで見たかった
(C) 2018「いぬやしき」製作委員会 (C) 奥浩哉/講談社
 
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