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O plus E誌 2013年8月号掲載
 
 
パシフィック・リム』
(ワーナー・ブラザース映画)
      (C) 2012 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
AND LEGENDARY PICTURES FUNDING, LCC

 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [8月9日より丸の内ピカデリー他にて全国ロードショー公開予定]   2013年7月3日 梅田ブルク7[完成披露試写会(大阪)]
       
   
 
ワールド・ウォーZ』

(パラマウント映画
/東宝東和配給)

      (C) 2012 PARAMOUNT PICTURES
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [8月10日よりTOHOシネマズ日劇他全国ロードショー公開予定]   2013年7月4日 TOHOシネマズ梅田[完成披露試写会(大阪)]  
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  夏の3D大作の代表は,怪獣とゾンビの2作品  
  今年も夏休みの公開作品は娯楽大作が目白押しで,当欄にとって見逃せないCG/VFX多用作の揃い踏みだ。何本かを次号に回してもなお,メイン欄に5作品が残ってしまった。中でも,昨年の『アベンジャーズ』&『プロメテウス』(12年9月号)に匹敵するのが,当欄の2作品である。いずれ劣らぬ娯楽大作で,いくつか共通点がある。まず,ともに地球規模の大惨事,人類滅亡の危機をテーマとしたパニック・アクション映画で,前者は地球外生物の侵略,後者は大規模感染症(いわゆるパンデミック)による恐怖を描いている。いや,怪獣もの,ゾンビものと言った方が分かりやすいだろうか。
 この種の映画は平穏な日々から始まり,予兆が現われ,中盤から一気に大惨事へと発展するのが常だが,両作品とも冒頭からいきなり危機が到来する。息をもつかせぬハイテンポで物語が進行し,予定通り,終盤のクライマックスでは一段とボリュームアップする
 ともに主力は3D上映だが,この3Dはいずれも2D映像を後処理したフェイク3Dである。この2作だけでなく,春の『アイアンマン3』(13)以降,次号の紹介作品も含め,実写映画のCG/VFX大作はほぼすべてフェイク3Dなのである。昨年夏,3.5次3Dブーム到来で,ほぼすべてがリアル3Dだと論じたばかりなのに,一体どうしたことなのだろう? 今月は紙幅がないので,この問題は次号で論じることにしよう。
 
 
  レトロな感覚のバトルと徹底した破壊が爽快だ  
  まず『パシフィック・リム』では,映画が始まった時,既に地球は深海の裂け目から登場した巨大エイリアン「KAIJU」の攻撃により壊滅的被害を受け,それに対抗するため,環太平洋諸国は団結して防衛組織を設け,人類の英知を結集した人型巨大兵器イェーガーが開発され,地球を守っていた。それが5年,10年と続く中,次第にKAIJUの威力が増し,残されたイェーガーはわずか4機。果たして人類は存続できるのか……。
 監督・脚本・製作は,『ヘルボーイ』シリーズ,『パンズ・ラビリンス』(07年10月号) の鬼才ギレルモ・デル・トロ。独特の映像美学を持つ上に,日本のアニメ,特撮映画も知り尽くしているという。言うまでもなく,KAIJUは怪獣であり,エンドロールの最後には,ゴジラ映画の監督「故・本多猪四郎に捧げる」とのメッセージもあった。KAIJUの姿は一定せず,イェーガーも開発した都市に由来する仕様になっているというが,提携するビデオゲームやキャラクター・グッズのために,それぞれ何体も作る口実に過ぎない。要するに,怪獣対ロボットのバトルを描きたかっただけだと思う。
 各イェーガーは,高さ75〜85mの鋼鉄製ロボットで,少しレトロなデザインだ(写真1)。往年の鉄人28号を思い出す。その頭部に2人のパイロットが乗り込み,互いの神経回路を接続してシンクロさせ,イェーガーを操縦する(写真2)。神経制御によるテレプレゼンス型ロボットと言えなくもないが,遠隔操縦ではない。マジンガーZのような内部操縦式を採用したのは,操縦者も苦痛を体感する様を描きたかったためだろう。『リアル・スティール』(11年12月号)のロボット格闘技の基本がボクシングであったのに対して,本作のKAIJU対イェーガーの戦いは,言わばプロレスである。雨中や海上での戦いは,正しくゴジラ映画そのものだ(写真3)。このバトルが実に爽快で,見事な娯楽大作である。
 
 
 
 
 
 
 
 
写真1 これがKAIJUに立ち向かう人型兵器イェーガー
 
 
 
 
 
 
写真2 2人が乗り込み,神経回路を同調して操縦する
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
写真3 KAIJUや旧式イェーガーの造形も,その海上での対決も,既視感に溢れていて,懐かしい
(C) 2012 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND LEGENDARY PICTURES FUNDING, LCC
 
 
  CG/VFXの主担当はILMで,大きな見どころは2つあった。まず,シャッタードームと称するイェーガーたちの基地の内部の描写である。いくら大きなスタジオとはいえ,この実物大は表現できないから,CG/VFXを最大限に駆使して描写している。最新機器を配した上で,全体は少しレトロなデザインで,そのバランスが絶妙だ。3D上映を意識して,カメラも縦横に動き回る。事前にプレビスでしっかり確認した上での構図だろう。
 もう1つは,両者の戦いで東京や香港の町を無残に破壊するシーンだ。かつての怪獣映画とは,このリアリティが違うと言わんばかりの壊し方だ。音響効果も凄まじい。何事もここまで徹底すれば気持ちがいい。
 主演は,KAIJUとのバトルで兄を失ったパイロット役にチャーリー・ハナム。彼と新たなコンビを組む日本人研究者・森マコ役に『バベル』(07年4月号)の菊地凛子が抜擢され,回想シーンでの幼女役には芦田愛菜が登場する。こうした大きな役で日本人女優が起用されるのは喜ばしいが,これもゴジラのお蔭だろう。
 
 
  随所にリアリティを感じるバランスの良い娯楽大作  
   一方の『ワールド・ウォーZ』は,マックス・ブルックス原作の同名ベストセラー小説の映画化で,Zは最終の世界戦争を意味しているそうだ。ウィルスの蔓延,パンデミックの恐怖とその対策を克明に描いていることが興味深いが,その感染の結果,人間が凶暴化し,ゾンビになるという設定がユニークと言える。
 別の見方をすれば,ヴァンパイアとゾンビは,最近の映画界で二大人気モンスター・キャラだが,ジョージ・A・ロメロ流ゾンビの約束事を踏襲した上で,凡庸なホラーでなく,一級のパニック映画として描いている。加えて,主人公が元国連捜査官で,最初の感染者と感染経路を突き止めるべく,米国フィラデルフィアから,韓国,イスラエル,そして英国ウェールズへと世界を駆け巡る。即ち,主人公の判断力・行動力は,スパイ・アクション級であり,その点でも大いに楽しめる。色々な面でバランスの良い娯楽大作だ。
 監督は,『チョコレート』(01)『ネバーランド』(04)の俊才マーク・フォスター。アクション大作は『007/慰めの報酬』(09年1月号)で経験済みだ。主演は,自らの企画会社プランBで製作も担当したブラッド・ピット。意欲満々ぶりが映像からも伺える。
 CG/VFXの主担当はMPCで,FramestoreやCinesiteが脇を固めている。その見どころは大きく3つあった。まず,世界主要都市での暴徒による異変の描写だ(写真4)。『パシフィック・リム』のような徹底した破壊でなく,今ある都市が炎上して行く様の臨場感が秀逸だ。高い視点からの3D映像は効果的で,フェイク3Dでありながら,立体感は上々だった。次に,感染症の研究機関,研究実験設備の描写が見事で,この点でも物語のリアリティと斬新さを高めている。
 
 
 
 
 
写真4 世界中の大都市で同時多発する異変
 
 
   最後に,何といっても多数のゾンビの描写である。アップの場面は勿論,顔面特殊メイクだが,同様なメイクを施したディジタル・ヒューマンが,随所に登場する。メイクや動きは画一的でなく,写真5, 写真6のような多数のゾンビに対しても丁寧に描かれている。航空機内で突進するゾンビとの戦いも見応えがあった。
 
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写真5 一体ごとにゾンビらしい動きをつけて合成
 
 
 
 
 
 
 
 
 
写真6 この圧倒的な数は,もちろんCGでの生成
(C) 2012 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.
 
 
 
  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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