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O plus E誌 2010年9月号掲載
 
    
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『東京島』:桐野夏生のベストセラー小説の映画化作品。無人島に漂着した23人の男とたった1人の女性のサバイバル生活を描いた人間ドラマだ。問題作であり,おそらく力作の部類に入るのだろう。「現代社会の縮図」「官能と混沌」といった文言が並ぶが,この映画からは何の感動も教訓も得られなかった。したたかに生きる「清子」を演じた木村多江は熱演と評されるのだろうが,彼女には全く感情移入できなかった。いや,誰に対してもできなかった。窪塚洋介演じる「ワタナベ」を初め,不愉快な奴ばかりじゃないか。原作が悪いのか,脚本家の力量不足なのか,監督の演出が今一歩なのか。おそらくそのすべての合わせ技だろう。
 ■『オカンの嫁入り』:突如若い男との再婚宣言をした母(大竹しのぶ)と戸惑う一人娘(宮崎あおい)の葛藤を中心に,家族と隣人の濃密な人間関係を描く。主要登場人物は5人だが,しっかりと人物が描けていて,料理にも家庭内の小道具にも目配りが行き届いている。舞台は京都周辺だろうか,セリフの関西弁が完璧だ。思わず,大竹しのぶと宮崎あおいまで関西出身だったのかと調べ直した。原作者は大阪出身で香港在住の咲乃月音,監督は大阪芸大卒の呉美保という女性コンビだ。物語の結末としては少しメッセージ性に欠けるが,この監督の演出力には今後とも注目だ。
 ■『君が踊る,夏』:これも期待外れの残念な作品だった。難病で余命わずかな少女のため,5年ぶりにチームを再結成し,土佐の「よさこい祭り」に出場しようとする仲間たちのハートフル・ドラマという設定だ。若手俳優の演技は児戯,物語は予定調和で凡庸,演出も平板で退屈。せめてクライマックスの踊りのパフォーマンスくらいは大迫力,と言いたかったが,これもさほどでなかった。あー,時間を損した。
 ■『ミレニアム2 火と戯れる女』:大ベストセラー・ミステリー3部作の2作目で,前作の事件解決から1年後の設定だ。天才ハッカーにして,謎の女リスベットがいよいよ物語の中心となる。その個性は強烈で,映画史に残る実にユニークなヒロインだ。彼女の過去が徐々に明らかになるが,意外性は少ない。観客を欺くサプライズに偏したハリウッド流とは明らかに異なった描き方で,好感が持てる。それでいて,ハラハラドキドキ,手に汗握る展開で,このヒロインのタフさには恐れ入る。欠点は,登場人物の名前が覚えにくく,少し混同してしまうことだろうか。3作目への余韻を残しつつ,2時間10分を観終えて,ぐったり疲れてしまった。
 ■『ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士』:続いての3部作の完結編は,逮捕されたリスベットが被告席に座る法廷劇が中心だ。3作それぞれに力点を変え,バラエティをもたせているのが嬉しい。本作の裁判シーンもハリウッド流とは異なり,派手な弁論の応酬もなければ,サプライズもない。少し驚くのは,デーモン小暮かと思うようなリスベットの衣装くらいか。手の内をすべて観客に見せた上での堂々たる法廷ドラマだ。裁判が終わった後には,気になる人物の後始末もきっちり用意されている。2時間28分を退屈せずに観ていられるのは原作の骨組みがしっかりしているからだろう。まだまだ4作目,5作目も作れそうだが,既に原作者が逝去していてそれが叶わないのが残念だ。デヴィッド・フィンチャーのメガホンでリメイクされるハリウッド作品がどんな映画になるのか,楽しみにしておこう。
 
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