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O plus E誌 2015年7月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   『画家モリゾ,マネの描いた美女 名画に隠された秘密』:巨匠エドゥアール・マネが描いた名画「すみれの花束をつけたベルト・モリゾ」(オルセー美術館所蔵)のモデルであり,自らも印象派の画家であった女性が主人公の伝記映画である。姉エドマと共にコローに師事する画学生であったベルトが,売り出し中のマネと惹かれ合い,何年にも渡って絵のモデルを務め,印象派の中心人物の1人となり,やがて彼の弟ウジェーヌと結婚するという,数奇な人生を描いている。マネの画家としての立ち位置や時代背景,当時の上級階級の生態がよく描けている。名画「笛を吹く少年」「バルコニー」等の元となったシーンを随所にちりばめ,映画全体が絵画のようだ。現代女性にも通じるベルトの芯の強さを表現しているのは,勿論,女性監督のカロリーヌ・シャンプティエだ。ベルト・モリゾを演じるのは,仏女優のマリーヌ・デルテリムだが,絵画に近い,目の大きな美女を起用した方が良かったのにと感じた。
 『約束の地』:ヴィゴ・モーテンセン主演のロード・ムービーと言えば,名作『ザ・ロード』(09)を思い出すが,本作はかなり設定もテーマも違う。時は19世紀後期,アルゼンチン政府の先住民掃討作戦に参加したデンマーク人将校が主人公で,同国南部のパタゴニア地方の荒野が舞台だ。現地人の若い兵士と恋に落ち,駆け落ちした15歳の娘を追う父親が遭遇する摩訶不思議な物語である。終盤,岩山で老婆が登場して以降の不可解さは,『2001年宇宙の旅』(68)のそれに匹敵する。なるほど,カンヌで批評家連盟賞を受賞したが,一般観客の評判は今イチだったというのも理解できる。監督は「南米の鬼才」と言われるリサンドロ・アロンソ。4隅が丸いスタンダード・サイズという珍しいフレームで描く,幻想的で美しい映像は,一見の価値がある。
 『ラブ&ピース』:余りに平凡で記憶に残らない題名だが,ポスタービジュアルは個性的で,物語は奇想天外だ。鬼才・園子温監督が25年間暖めていたオリジナル脚本だという。ロックミュージシャンを夢見る冴えない青年が1匹のミドリガメと出会ったことから,大変身を遂げ,一躍人気スターとなる摩訶不思議なコメディ&ファンタジーだった。イケメンの長谷川博己にダメ男,オタクの主人公を演じさせ,笑いを誘おうとする前半が,全く面白くない。演技も演出もわざとらしい。中盤の地下のオモチャ部屋も,いかにもの臭いファンタジー世界だった。ところが,このわざとらしさに慣れてくると,バカバカしさに親しみが湧いてくる。ミドリガメのピカドンがどんどん大きくなり,最後は街を闊歩する。まるで怪獣ガメラだ。CGでなく,古風な特撮を使っているが,その拙さ,チープ感がむしろ魅力となっている。結末も納得の行く落としどころだ。
 『ストレイヤーズ・クロニクル』:原作はてっきりコミックだろうと思ったが,本多孝好作の小説だという。コミック世代が対象のテンポの良い,バイオレンス・アクションであることには違いない。1990年代に政府の極秘作戦として,2グループに分けた人体実験で特殊能力が備わった子供たちが,死期が迫った20年後に激突する物語である。SFとして良くできた設定なのに,脚本も演出も低レベルだ。両グループのリーダー役の岡田将生と染谷将太だけがまともな演技で,他の若手俳優たちの演技が酷過ぎる。まるで学芸会だ。超能力者達のバトルなのだから,もっと製作費をかけ,VFXで強化すれば,映像的にもしっかりした作品になったと思われるのに,少し残念なクオリティに留まっている。同じネタでハリウッド資本が再映画化したら,かなり見応えある大作に仕上がると思う。
 『チャイルド44 森に消えた子供たち』:老匠リドリー・スコット製作で,原作は「このミステリーがすごい!」の1位作品とくれば,面白くない訳がない。 時代はスターリン圧政時代のソ連で,9歳から14歳までの子供たち数十人が変死体で発見された猟奇殺人事件を,秘密警察の捜査官たちが追うサスペンスミステリーだ。主演の男女にトム・ハーディ+ノオミ・ラパスという異色の組合わせも見ものだが,ゲイリー・オールドマン,ヴァンサン・カッセルら,助演陣も充実している。T・ハーディも,上述の『マッドマックス 怒りのデス・ロード』よりも好演している。理想国家に殺人はあり得ないという馬鹿げた政治の時代で,チェコを当時のソ連に見立ててロケ撮影し,車,衣装等の時代考証も万全だ。主人公がここまで事件解決にのめり込む正義感がやや不自然だが,緊迫感の演出は見事で,しっかりした骨太の映画を観たという充実感に浸れる。
 『バケモノの子』:日頃から「ジャパニメーション(和製セル調アニメ)は苦手だ。とりわけ,宮崎アニメは大嫌いだ」と公言していた筆者であるが,前者の苦手意識が解消しつつある。今やすっかりビッグブランドになった細田守監督作品のおかげである。長編2作目の『サマーウォーズ』(09)から注目し始め,『おおかみこどもの雨と雪』(12)ですっかりファンになってしまった。最新作『バケモノの子』は,試写会でなく,直接観客の反応を肌で感じたくなり,公開後すぐに映画館に足を運んだ。人間世界で孤独から心に闇をもつようになった少年・蓮が,渋谷の街から繋がっているバケモノの世界「渋天街」に迷い込み,そこで成長するというファンタジーである。「何で渋谷だ。何でわざわざバケモノなんだ。普通の異境と近くの町でいいのに,若者ウケを狙い過ぎだ」と感じつつ観ていたが,この設定がなかなか良い。道路標識から飲食店の看板まで,すべて実写の光景そのままに登場する渋谷の街が,人間世界の生々しさを強調している。細田監督自らの脚本だが,語り口が上手い。青春ラブロマンス,父子ヒューマンドラマ,格闘技アクション等々を見事に融合させている。知識欲,勉学意識と向上心,保護者への感謝の念など,文科省関係者が泣いて喜びそうな教育的メッセージを,臭くならない程度に振りかけている。伝統的なセル調アニメだが,アクションシーンでのキャラの動きはMoCap利用であり,クライマックスの鯨は3D-CGをベースに描かれたことは明らかだ。そこまでデジタル技術をとり入れているなら,いっそフルCGで,3D映画として制作していたら,もっと素晴らしい映像作品になっていたと思う。それなら満点で,世界で通用する。
 『チャップリンからの贈りもの』:1978年に逝去した喜劇王チャールズ・チャップリンの遺体を盗み出し,身代金請求を目論んだ事件の顛末が描かれている。スイスで本当に起こった驚愕の事件であり,物語にリアリティを増すため,遺族の協力を得て,実際のチャップリン邸や墓地での撮影が行われた。その上,息子ユージーンと孫娘ドロレスもカメオ出演しているから話題性には事欠かない。実話ベースの犯罪劇なら,犯人と家族の交渉,身代金の受け渡し場面等,緊張の連続かと思いきや,2人組の犯人たちはドジそのもので,物語はコメディ・タッチで進行する。どこまでが実話か疑わしいが,この映画はクライム・サスペンスではなく,チャップリン映画に込められていたヒューマニズムをメッセージとしたハートフル・ドラマなのである。勿論,チャップリン映画の名場面が,オマージュされている。音楽担当はミシェル・ルグランで,チャップリン自身が作曲した『ライムライト』(52)の主題歌が美しい。
 
  (上記の内,『バケモノの子』は,O plus E誌には非掲載です)  
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