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O plus E誌非掲載
 
 
 (2D/日本語吹替版)
(IMAX 3D/字幕版)
マイティ・ソー
バトルロイヤル』
(ワーナー・ブラザース映画)
      (C) Marvel Studios 2017
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [11月3日よりTOHOシネマズ日劇他全国ロードショー公開予定]   吹替版:2017年10月29日 GAGA試写室(大阪)
字幕版:2017年11月12日 TOHOシネマズ二条
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  VFXは充実の一途だが,お笑いモードが馴染めない  
  お馴染みマーベル・コミックスのヒーローにして,「アベンジャーズ・チーム」の主要メンバーの1人である雷神マイティ・ソーを主人公にしたシリーズ3作目である。『アイアンマン』(08年10月号)以降,マーベル・スタジオズが独立製作を始めた「マーベル・シネマティック・ユニバース」シリーズとしては17作目に当たる。
 マーベル・ヒーローのオールスター映画『アベンジャーズ』シリーズは3年おきに製作され,その間にアイアンマン,キャプテン・アメリカ,マイティ・ソーが単独主人公の作品を配する見事な営業政策を展開している。W杯の代表チームの国際試合と各国のリーグ戦のようなものという譬えは,前作『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』(14年2月号)でも書いた。いずれもCG/VFX満載の上に,どの作品もハイレベルなので,VFX史の同時代記録を標榜する当欄としては紹介しない訳には行かない。それでも,さすがにアメコミものには飽きてきた。今年に入ってからだけでも,マーベルもので『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』(17年6月号)『スパイダーマン:ホームカミング』(同8月号)が公開され,ライバルのDCコミックが『ワンダーウーマン』(同9月号)と『ジャスティス・リーグ』(次号掲載予定)をぶつけて来ているためである。他にもSFアクションが多数あるから,同系統の映画が余りにも多過ぎる。
 気がつけば,『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(15年7月号)の後,『アイアンマン4』は製作されなかった。『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(16)と上記『スパイダーマン:ホームカミング』で,アイアンマンは準主役級の活躍をしている。さすがに他に2作品も出ていては,単独主演作の余裕はなかっただろう。もう1点気になったのは,その『シビル・ウォー…』は『アベンジャーズ2.5』とでも呼ぶべき準オールスター映画だったのに,雷神ソーと超人ハルクは登場しなかったことである。ということは,本作でこの2人が揃い踏みするのだろうと予想していたが,これは的中した。
 監督は1作毎に違っていて,今回抜擢されたのはタイカ・ワイティーティ。脚本家やコメディ俳優として知られているらしい。後述する惑星サカールの囚人コーグ役も演じている。出演陣は,神々が住むアスガルド国の王子であるソー(クリス・ヘムズワース)を中心に,父親の王オーディン(アンソニー・ホプキンス),裏切り十八番の弟ロキ(トム・ヒドルストン),浅野忠信を含むアスガルドの三勇士らは続演している。その一方で,恋人の天文学者ジェーン(ナタリー・ポートマン)や地球上の共演者は本作では登場しない。
 ソーが地球上で父オーディンと再会するのに,ドクター・ストレンジ(ベネディクト・カンバーバッチ)が仲介役を果たすというのは,マーベルゆえのご愛嬌だろう。初出演陣の目玉は,死を司る美しき女神ヘラを演じるケイト・ブランシェットだ(写真1)。ソーやロキの姉であり,復讐心から,アスガルドを支配し,さらには世界の崩壊(Ragnarok)を目論む敵役である。ソーの究極の武器であるハンマー「ムジョルニア」を簡単に破壊してしまい,ソーを宇宙の辺境にある惑星サカールへと追いやってしまう。この星で,ソーは賞金稼ぎの女戦士ヴァルキリー(テッサ・トンプソン)に捕縛され,独裁者グランドマスター(ジェフ・ゴールドブラム)に売り渡されてしまう。ヴァルキリーはいかにも肉食系女子も肝っ玉ネエちゃんで,底なしの酒豪というのも現代風女性の設定だ。
 
 
 
 
 
写真1 これが姉で死の女神のヘラ。大貫録の敵役だ。
 
 
  グランドマスターは無類の格闘技マニアで,彼が主催する格闘技大会の強者はこの星に流れていたハルク(マーク・ラファロ)で,ソーは再会を果たしたハルクと戦う破目になる(写真2)。原題は『Thor: Ragnarok』であるのに,邦題の副題を「バトルロイヤル」としたのは,この格闘技大会を強調したかったからだろう。全編でビデオゲーム風のノリが目立つが,この邦題も便乗の悪ノリとしか思えない。この大会を切り抜けたソー,ロキ,ハルク,ヴァルキリーの4人はヘラが支配するアルガルトへと向かうが,このチームに「リベンジャーズ」と名乗らせているのも軽過ぎる。
 
 
 
 
 
写真2 サカール星で格闘技対決するソーとハルク
 
 
  日米同時公開で,公開日近くまで試写がなかったため,Webページだけでの紹介になったのは仕方ないが,その上,字幕版でなく,日本語吹替版を観ることになった。筆者は日本語吹替版がさほど嫌いでないことは何度も書いている。むしろフルCGアニメなどは,積極的に吹替版を選択するほどだ。ところが,この吹替版は一見しただけで,違和感を覚えた。ソーの声が軽過ぎて,マッチョなC・ヘムズワースの体躯にも,神々の世界の(いい意味での)重厚な描き方に合わないと感じた。声質の違和感は次第に慣れてくるものだが,主演も相手役の口調も気に食わなかった。コメディタッチというのを通り過ぎて,まるでお笑い番組風の悪口やジョークだらけだ。これはコメディアンである監督の意図なのか,それとも若者受けを狙って,日本語吹替版だけをこういう口調にしたのだろうか? 前2作のDVDを見直してみたが,声優陣(三宅健太,平川大輔等)は同じで,本作ほど軽口は叩いていなかった。字幕版を観ていないので比べようがないが,この吹替版のお笑いモードは,最後まで筆者には馴染めなかったと断っておこう。
 さて,紙幅制限のないWebページなので,ついつい前置きと苦言が長くなったが,当欄の主題であるCG/VFXに関する感想である。
 ■ 前々作,前作以上にCG/VFXの分量は増している。5年前と比べても,計算コストが減り,CGクリエータは質・量ともに向上し,VFXプロダクションの経営も上安定していることを考えれば当然とも言える。それを考慮しても尚,この分量は圧倒的だ。前2作と比べて地球上の描写が殆どなく,大半がアルガルドとサカールが舞台ゆえ,ますまずCGセットでのシーンが増えている。その半面,特に目立った斬新なシーンが見当たらない。いずれもレベルは高いのだが,どこかで観たようなシーンの連続だった。
 ■ デザイン的にユニークだったのは,ヘラの頭部の鹿のような角だ(まさか,「ヘラ鹿」という駄洒落じゃないだろうが(笑))。とてもじゃないが,大女優が毎回この角の冠り物を身につけて全シーンを演じたとは思えないから,大半はCGの角を後で描き加えたのだろう(写真3)
 
 
 
 
 
写真3 この角は後でCGを描き加えたのだろう
 
 
  ■ 一方,パイプオルガンのような形状の宮殿はアスガルド国のシンボル的存在で,その基本デザインは同じだ。それでも,アスガルドの都市空間の描写は1作毎に精巧になり,迫力を感じる(写真4)
 
 
 
 
 
 
 
写真4 アスガルドの描写は1作毎に豪華になっている
 
 
  ■ 終盤は,リベンジャーズ・チームがアスガルドに戻り,ヘラの軍団と一戦を交える。このバトルの激しさもVFXのボリュームも,ほぼ予想通りの出来映えであった。新登場のヴァルキリーは,元々アスガルドの戦士であったが,ヘラに破れた過去があり,復讐のための大活躍の場が与えられている(写真5)。ハルクもしっかり存在感を示している(写真6)。その意味では,斬新さはないが,堅実で安定したVFXの活躍の場となっている。
 
 
 
 
 
 
 
写真5 女戦士のヴァルキリーは,かつて天馬を率いてヘラと戦い,破れた
 
 
 
 
 
写真6 炎の巨人スルトに立ち向かい,超人ハルクも存在感をアピール
(C) Marvel Studios 2017
 
 
  ■ CG/VFXの主担当は,1作目のDigital DomainとBUF, 2作目のDouble Negativeから,本作では老舗ILMに移り,かなりの人数をかけている。他には,Base FX, Method Studios, Digital Domain, Rising Sun Pictures, Luma Pictures, D Negative, Framestore, Iloura, Image Engine, Ironhead Studios, Trixter等々,多数のスタジオが参加している。ILM主担当で始まったシリーズが,途中から他社に変わることは少なくないが,その逆は珍しい。もっとも,『アベンジャーズ』『キャプテン・アメリカ』両シリーズや,『ドクター・ストレンジ』の主担当はILMであるから,さほど不思議な交替ではない。マーベル社の信頼は厚く,多数社への分担作業依頼もILMの管理に任せているのだろう。  
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  付記:IMAX 3Dでの字幕版は,映像も音響もまるで別の映画  
   吹替版のお笑いモードがどうにも馴染めず,きっと元はこんな調子ではあるまいと思ったので,公開後に映画館で字幕版を観ようと決めていた。どうせならと少し奮発して,IMAX 3Dのシアターで観ることにした。
 映画が始まり,少し経っただけで,まるで別の映画に思えた。映像も音響も,そしてセリフの印象も全く違う。こちらを評価にしたいところだが,さすがに同じ映画で2ランクアップは無節操に思えるので,2Dの吹替版はおまけでギリギリ評価,こちらは限りなくに近いということにしておこう。
 ■ まず,吹替版でのお笑いモードだが,字幕版では全くそうは感じない。確かにコメディタッチではあるが,主要人物の何人かが剽軽で,軽口をたたくと言ったレベルだ。007やイーサン・ハントが敵に捕まった時,親玉に向かって口にする,あの軽口の類いである。本作では,敵に対してだけでなく,ソーとロキ,ソーとハルクの掛け合いにも多用されている。吹替版は少し大げさな訳語を当て,声優はそれを過剰に演じたのではないか。CG満載のアクションシーンが大迫力で緊張するので,その狭間の洒脱なジョークや軽口が心地よい。物語にメリハリが利いていると感じる。吹替版だとお笑いモードが勝ち過ぎていて,緊迫感を殺いでしまったのだと思う。
 ■ 音響効果に魅せられたせいもある。改めてIMAXシアターの音響は素晴らしいと感じた。競技場,宮殿内,その他,広々とした屋内シーンの音はサラウンド効果をフルに活かしていて,残響感も高い。映像とぴったりマッチした音像空間の設計がなされていると感じた。
 ■ 映像もマスコミ試写時よりも数段上に感じた。オープニング・シーケンスのテンポの良さ,CG/VFXの魅力全開なのは,最近の大作のお決まりパターンだが,3D映像の立体感演出もレベルが高い。巨大化したスルトとソーの大きさの違いは,3D上映で一層際立っている。惑星サカールの競技場の大観衆もIMAX画面だと細部までよく見える。ハルクに投げられ,ソーが競技場の端まで吹っ飛ぶシーンも,観客の目の前を横切る感がある。IMAXスクリーンならではの迫力だ。
 ■ 終盤のバトルシーンも,冗長過ぎず,過剰過ぎず,大作映画の風格を漂わせていた。写真5写真6なども,3D上映を意識したCGオブジェクトの配置である。前後方向だけでなく,上下方向での立体感演出を巧みに取り入れているシーンもあった。2D→3D変換の担当はStereo 3D社で,既に相当ノウハウが蓄積されているなと感じた。
 
 
 
   
   
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