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O plus E誌 2002年3月号掲載
 
 
『エネミー・ライン』
(20世紀フォックス映画)
 
(c)2001 TWENTIETH CENTURY FOX
       
  オフィシャルサイト日本語][英語   (2001年12月26日 20世紀フォックス試写室)  
  [3月9日全国東宝洋画系にて公開予定]      
         
   
    
 
 
『ブラックホーク・ダウン』
(コロンビア映画/東宝東和配給)
 
Mill Film & Columbia Tristar Pictures
       
  オフィシャルサイト日本語][英語   (2002年2月7日 イマジカ試写室)  
  [3月30日全国東宝洋画系にて公開予定]      
         
 
  
 戦争映画はVFXのお得意様 
  魔法使いや怪獣・恐竜に加えて,戦争映画もVFXにとっても大きな活躍の場となってきた。『プライベート・ライアン』(98)のノルマンディ上陸や『パール・ハーバー』(01)の零戦の真珠湾攻撃はVFX史上に残る記念碑であったし,『スターリングラード』(01)のドイツ軍侵攻も語るに足る出来栄えだった。これまで模型に頼ってきた戦闘機や軍艦も,CGやディジタル複製と組みあわせれば,動きの激しいシーンも加えることができる。『ブラックホーク・ダウン』のヘリの墜落シーンもこの歴史に加えられるべきもので,多重合成を駆使した映像はこの映画の見せ場の1つとなっている(写真1)。
 世界中の米軍基地やキャンプに住む軍人や家族の最大の娯楽は映画だというから,それだけでも相当な安定顧客である。米軍ご用達の企業関係者や戦没者の親族まで考えれば,軍隊・戦争映画は毎年かなりの数が企画されるのも頷ける。歴史ものにも,人間ドラマにも,アクションにもなり得るので,脚本家としても扱いやすい題材だといえる。
 平時ならそれでよかったのだが,何を描いても時節柄とかく論議の的になってしまった。ここで取り上げる2本は,同時多発テロよりずっと先に計画され,既に大半撮り終わっていた作品だが,ある意味でタイムリー過ぎるテーマを扱っている。一見似ていて,その実まったく印象の違う対照的なこの2作品を比較しながら論じよう。
 
   
 
写真1 多重合成で制作されたブラックホークの墜落シーンは前半最大の見もの。ヘリのローターはCGで描かれている。
(提供:Mill Film & Columbia Tristar Pictures)
 
   
 
 前倒し公開は成功 
  テロの影響で公開延期になった映画は少なくないが,『エネミー・ライン』はむしろ年明け公開を前倒しして11月末のハイシーズンにぶつけ,興行的には成功した部類だ。時期的にはアフガニスタン戦線のピークで,次々とタリバンが拠点を失いつつある頃だ。愛国心を高揚させ,この映画のような軍事活動には賛同が得られるとの判断だったのだろう。
 旧ユーゴスラビアの民族紛争が一段落し,和平が結ばれているとの想定のボスニアが舞台である。平和維持の軍事活動に意義を見出せないクリス・ハーネット大尉は,硬骨漢のレイガート司令官と衝突し,除隊を申し出る。ところが,除隊目前の偵察飛行中にセルビア人の地対空ミサイルに撃墜され,緊急脱出装置で敵地の真っ只中に不時着する。停戦協定のため,海兵隊が救出できるポイントまで到達するには,山々を越え地雷原を突破しなければならない。そんな極限の脱出行の中で,必ず救出すると約束する司令官との心の触れ合いが生まれる,というのがストーリーの骨子だ。
 監督はこれがデビュー作のジョン・ムーア。主演のオーウェン・ウィルソンは,『ホーンティング』(99)『シャハイ・ヌーン』(00)では,甘っちょろいマスクの大根役者だと思ったが,性根の座らないこの少尉役は似合っていた。一方のレイガート司令官を演じるジーン・ハックマンは,海兵隊経験者だけにハマリ役だし,その右腕オマリー曹長役のデイビッド・キースも気骨のある軍人役がよく似合う。それぞれ,『クリムゾン・タイド』(95)『エネミー・オブ・アメリカ』(98)と『U-571』(00)『ザ・ダイバー』(00)で軍人役を好演していた。
 ロード・ムービー仕立ての脱出行は生々しく,緊急脱出までのコックピットでの操作手順,地雷発火のメカニズムのシーン等がよく出来ていて,勉強になった。テンポも悪くないが,最後の観客サービスは少し臭かった。ここまで胸のすく結末は,きっと基地内の映画館では拍手喝采だったろうが,この映画を少し薄っぺらなものに見せている。
 案の定,この映画に関して,アメリカの独善姓や平和維持行為の偽善姓などを問題視する批評が少なからず登場した。「セルビア人だけが残虐に描かれている」「こうしたハリウッドを利用した米国のプロパガンダが,テロリストの反感を買い,悲劇を生むもとだ」等々の表層的な批評である。もともと戦争映画は,よく出来ていても賛否両論となる宿命をもっている。ところがテロ後は,ここぞとばかり,今までにも増してステレオタイプでしたり顔の批評が目立つ。
 戦争映画を娯楽として扱うのは不謹慎かも知れないが,この作品は痛快活劇でカタルシスを感じさせる類いの標準的ハリウッド映画である。政治的メッセージ性はない。程度の差こそあれ,観客は通常正義の味方に感情移入するもので,どんな場合も敵は大抵極悪非道で傲岸不遜だ。観客がその程度にしか見ていないのに,そこにまで目くじらを立てるのは大人げない。
 
   
 映像だけで語るリドリー・スコットの最高傑作 
  他方の『ブラックホーク・ダウン』は,年内に限定公開しておき,年明けに拡大公開という所謂アカデミー賞狙いだ。それならお涙頂戴のベタッとしたドラマかと思ったら,ドキュメンタリー調の淡々とした描き方だった。
 舞台は1993年10月民族間紛争中のソマリアで,ババルギディアル族の指導者アイディード将軍の副官2名の捕獲作戦のため,米軍特殊部隊100名が首都モガディシオに降り立った実際の軍事行動に基づいている。1時間以内に終了するはずだったこの計画は,思わぬ事故と民兵の激しい迎撃に会い,強いアメリカの象徴である軍用ヘリ「ブラックホーク」2機が市中に墜落する。後は,混乱と激しい戦闘の中で,米軍の救出作戦も困難を極めるというストーリーである。
 不測の出来事に対して,死傷者も含めて全員救出・収容という指令は『エネミー・ライン』に似ているが,映画としての味つけはまるで違う。『エネミー・ライン』は主役2人の人間性や心境の変化がじっくりと描いてあるのに対して,こちらは多数の将官・兵士が登場するタイプの戦争映画だ。強いていえば,主演は『パール・ハーバー』のジョシュ・ハートネットと『ムーラン・ルージュ』(01)のイアン・マクレガーだが,ハートネットは前作とは打って変わって引き締まった好演だ。
 製作は『パール・ハーバー』の汚名挽回を期す辣腕のジェリー・ブラッカイマー。監督は『グラディエーター』(00)『ハンニバル』(01)で復活が著しいリドリー・スコッで,スタッフも彼のいつものクルーが担当している。
 作戦開始前の背景説明と人物紹介の導入部は,よく観ていないと理解出来ない早いテンポだった。音楽も多彩で騒々しく,もう少し大人しい入り方がいいのにと感じた(それにしても,アメリカ人はエルヴィスが好きだ)。ところが,そのままのテンポで戦闘に突入すると,これが俄然生きてくる。音楽はなくなり,銃声と爆発音と怒号が飛び交う中で,次を考える余裕のない戦争状態に引きずり込まれてしまう。傷ついた戦友を傍らに,容赦ない判断と行動が要求される。この没入感を与える演出は,最初からすべて計算づくだったのだと分かる。
 戦闘の激しさは,明らかに『プライベート・ライアン』を意識している。それでも,この映画にも十分に存在意義がある。このように1つの戦場だけを描いた映画も珍しい。息もつかせぬ緊張感の中で,最後まであっという間に2時間25分が過ぎてしまった。
 戦争とは政治ではなく,殺し合いだということを映像で示した映画だ。見終わった後の印象は,『西部戦線異常なし』や『ジョニーは戦場に行った』に近いが,映像の持つ意味は,何倍,いや何十倍になっているだろう。もちろん米軍サイドからの描き方であるが,敵の民兵側,第3者である民衆側から見れば,この戦闘がどう映るかは容易に想像できる。「これは,観客に問いかける作品であって,答えを提供する作品ではない」というリドリー・スコットの意図は,映像の中に込められている。彼の最高傑作と言っていいだろう。『エネミー・ライン』を批判した映画評論家たちは,この映画をどう評価するのだろうか。
 
   
 印象的だが勝ち過ぎていないVFX 
  さて,映像作りの方はといえば,物理的特殊効果担当はニール・コーボルト,ディジタル視覚効果担当はMIll Film社という布陣は前2作と同じだ。モガディシオ市内に見立ててモロッコに作ったという巨大オープンセットは効果的で,R・スコットの映像美学がよく出ている。
 この映画の主役でもあるヘリの大半は,実機や1/6の模型を撮影した実写映像をディジタル合成したと考えてよい(写真2)。これによって,市街地を縦横無尽に飛ぶヘリやその墜落シーンが活き活きと描かれている。それでいて,他の映像も迫力があり,VFXが勝ち過ぎている訳ではない。
 あえてケチをつければ,筆者はどうもこのMill Film社のディジタル合成が好きになれない。この映画では,ブラックホークが画面内で大きな位置を占め,飛行するシーンが数多く描かれている。側方あるいは後方上部で並んで飛行するヘリからの映像という想定だが,勿論これは模型を中心に据えた合成である。中央で微動だにしない構図は余りに不自然だし,例によって光学的な合わせ込みが甘いのが気になる。せめて,モーションブラーや小刻みな振動,画面内での移動くらいは入れたらいいのにと感じた。
 一方の『エネミー・ライン』のVFXの担当は,Pixel Magic社やReality Check Studioで,『ブラックホーク・ダウン』に比べるとぐっと少ないが,見どころは2つだ。
 (1) F-18戦闘機と迎撃ミサイルとの空中戦には力が入っていて,今までにない空中戦を見せてくれる。模型とCGの合わせ技だが,速いテンポで誤魔化せる分を割り引いても,なかなかの迫力だ。
 (2) ハーネット少尉の居所を探す偵察衛星からの熱赤外映像は印象的だった。この使い方は面白い。現実にはここまで迅速な探知能力はないだろうが,軍事衛星ではこの解像度は可能なのだろうか?
 むしろ米軍の協力を得ての本物指向の撮影が目立った。空母カール・ヴィンソンや艦上での戦闘機をここまで生々しく写した作品はそうない(写真3a)。その分,空母から発着するシーンなかった。さすがにそこまでは撮影させてくれなかったのだろう。一方,自前でも調達できるクライマックスのヘリ3台は本物のようだ(写真3b)。『エネミー・ライン』を見ながら,さぞかし基地内はカタルシスを感じているだろうな想像したが,『ブラックホーク・ダウン』はどう受け止められるのだろう?まだ戦場経験のない米軍兵士や日本の自衛隊員は,この映像を冷静に正視できるのだろうか? 後方で勝手な意見を述べる政治家や評論家にもこの戦闘シーンを見せたいものだ。
 
   
   
 
 
 
写真2 『ブラックホーク・ダウン』のヘリは大半がディジタル合成(右が最終映像)。
(提供:Mill Film & Columbia Tristar Pictures)
 
   
 
 
 
(a) 海軍の協力を得て空母カール・ヴィンソン上での撮影風景 (b) こちらのヘリ3機は本物
 
 
写真3 『エネミー・ライン』は実物指向
(c)2001 TWENTIETH CENTURY FOX
 
  
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