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O plus E誌 2002年1月号掲載
 
 
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『ラットレース』
(パラマウント映画/松竹配給)
 
(c)2001 Paramount Pictures. All rights reserved.
       
  オフィシャルサイト[日本語][英語   (2001年12月4日 松竹試写室)  
         
     
     
 
 
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『オーシャンズ11』
(ワーナー・ブラザース映画)
 
(c)2001 Warner Bros. All Rights Reserved.
       
  オフィシャルサイト[日本語][英語   (2001年12月4日 ワーナー試写室)  
         
 
   
  スター共演とラスベガスが舞台の2作品  
   これは2本まとめて論じよう。いくつか共通点があり,共に多数のスターの共演で,狙うは高額のマネーだ。どちらもラスベガスが重要な役割を占める。片やスラップスティック調のロード・ムービー,片やA級サスペンス犯罪映画で,タッチはかなり異なるが,ともに良質のエンターテインメントに仕上がっている。
 まず『ラットレース』は,ラスベガスのホテルに泊まった6組12人の客が,オーナーの賭けの対象となり,200万ドル(約2.5億円)の賞金目指して,約1,000km離れたニューメキシコ州のシルバー・シティへと我先にと駆けつける。題名からもわかるように,単なる早い者勝ち,何でもありのレースだけに,道中はドタバタの連続だ。
 参加者には,Mr.ビーンのローワン・アトキンソン,『ゴースト ニューヨークの幻』(90)『天使にラブソングを…』(92)のウーピー・ゴールドバーグ,『ザ・エージェント』(96)『パール・パーバー』(01)のキューバ・グッティングJr.らの芸達者が登場する。真面目な見習い弁護士ニックを演じていたのは,ブレッキン・メイヤー。余り目立たない中堅俳優だが,大阪大学産業科学研究所の溝口理一郎教授によく似ていた(といっても,知らない読者も多いだろうが)。大富豪のホテル・オーナー役には,ジョン・クリース。先月の『ハリー・ポッターと賢者の石』で「ほとんど首無しニック」を演じていた俳優だが,こちらも好演だ。実におかしい。キューバ・グッティングJr.も,『ザ・ダイバー』(01)よりこうしたコメディの方がよく似合う。
 監督・製作は,『ゴースト ニューヨークの幻』のジェリー・ザッカーというのでちょっと違和感を感じたが,80年代は「コメディの帝王」だったというから,久々の里帰りのようだ。なるほど,コメディ俳優の使い方は上手いものだ。個々のエピソードもギャグも面白いが,特に笑ったのが,「アイ・ラブ・ルーシー大会」の参加者たちだ。何十人もの中年女性が,懐かしのルーシーのコスチュームで登場する。ひょっとして,アメリカには本当にこんなコンテストがあるのだろうか?
 もう一方の『オーシャンズ11』は,カリスマ窃盗犯のダニー・オーシャンが,仮釈放中に犯罪仲間のプロ達10人を集め,ラスベガスの豪華ホテルの金庫から1億6千万ドルを盗み取ろうとする犯罪映画だ。フランク・シナトラが,ディーン・マーチン,サミー・デイビスJr.らと主演した『オーシャンと十一人の仲間』(60)のリメイク作品である。当時シナトラ一家の『荒野の3軍曹』(62)などは何度も観たのだが,この映画は観ていない。
 監督・撮影は,今を時めくスティーブン・ソダーバーグ。昨年度2作品同時にアカデミー賞候補となり,『トラフィック』で監督賞に輝いたのが記憶に新しい。狙う金額もデカければ,出演俳優も豪華で,ジョージ・クルーニー,ブラッド・ピット,マット・デイモン,ドン・チードルらが,泥棒チームのメンバーだ。ダニーの別れた妻役に,ソダーバーグ監督作品『エリン・ブロコビッチ』でアカデミー賞主演女優賞に輝いたジュリア・ロバーツまで登場するとなると,他人事ながら,ギャラの合計額はいくらになるのか心配になる。
 これだけの豪華スター揃いとなると,各メンバーの腕や前歴を一通り紹介するのにどうしても時間を取られるが,各俳優の個性は良く出ている。とりわけ,小役人に扮したマット・デイモンの生真面目な姿や,ドン・チードル演じる爆破のプロはハマリ役だ。俳優に合わせて脚本を書いたわけではないから,これはソダーバーグ演出の腕だろう。監督自身のカメラワークもラスベガスの豪華ホテルも魅力的で,またラスベガスへ行きたくなった。特に,舞台となったベラージオ・ホテル前の噴水が音楽に合わせて舞い上がるシーンが美しい。
 オリジナル版はコメディ・タッチだったらしいが,リメイク版は軽快でスタイリッシュな犯罪映画に仕立てられている。リーダーのオーシャン(ジョージ・クルーニー)と,右腕のラスティ(ブラッド・ピット)のコンビの妙は,『スティング』(73)のポール・ニューマンとロバート・レッドフォードを彷彿とさせる。スぺシャリストたちの仕事振りは,『スパイ大作戦』ファンの目も満足させられる。それでいて,計画が完璧に進行せずにミスを犯すのが人間的だ。
 オーシャンの親分肌と個性派揃いのチームは,日本人好みの清水次郎長一家に映る。いや,大泥棒だから,むしろ「雲霧仁左衛門」の盗賊団だろうか。そうだ,これは池波正太郎の世界だ。真の泥棒の守るべき3原則などそっくりで,怪盗チームの見事なお盗(つと)めぶりに,思わず拍手を送りたくなること請け合いである。
 
     
 
写真1 これがマッハ1で爆走するロケット車
(c)2001Paramount Pictures. All rights reserved.
 
     
 
  VFXと音楽は1勝1敗  
   肝心のVFXは,両作品ともシネサイト社が担当している。『ラットレース』には,随所にそれと分かる視覚効果が登場する。火がついて燃え上がるバス乗客の髪,下り坂を転がるタイヤ,気球から宙吊りになる牛,音速で走るロケット車(写真1),雲の上でのジェット機のアクロバット飛行などは,明らかにVFXだ。さほど高度ではないが,コメディを盛り上げる効果としては水準に達している。
 一方の『オーシャンズ11』には,期待したような視覚効果シーンはなかった。深夜のラスベガスの灯りが次々と消え,街中が停電になるシーンがある。いくら映画とはいえ,まさかあの不夜城都市の灯り全部は消せないだろうから,ここは視覚効果だろうか。むしろ,強奪計画の説明に登場するラスベガスの街が,ワイヤーフレーム中心の単純なCGで描かれていたのが印象的だった(写真2)。この古さが,却って新鮮に感じた。今でもこの方が一般観客にはハイテクと映るのだろうか。
 
     
 
写真2 狙うはラスベガスの豪華ホテル。画面内のシンプルなCGがむしろ印象的。
(c)2001 Warner Bros. All Rights Reserved.
 
     
   VFXでは負けていても,音楽は『オーシャンズ11』の方が数段勝っている。ファンキーなラップやヒップホップを集めた『ラットレース』も映画には合っているが,『オーシャンズ11』はぐっとクールだ。ジャズ中心のオリジナル・スコアと,ペリー・コモ,エルヴィス・プレスリー,パーシー・フェイス・オーケストラ等の懐かしのナンバーの取り合わせもいい。
 エンディングでも少し差がついた。『ラットレース』のオチは,もう少し工夫がなかったなと惜しまれる。一方の『オーシャンズ11』,犯罪と分かっていても,首尾よく計画が成就することを観客の誰もが期待している。その期待に違わず,スマートにまとめている。
 
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