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O plus E誌 2013年6月号掲載
 
 
リアル〜完全なる首長竜の日〜』
(東宝配給)
      (C)2013「リアル〜完全なる首長竜の日〜」製作委員会
 
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [6月1日よりTOHOシネマズ有楽座他にて全国ロードショー公開予定]   2013年4月30日 東宝試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  実力派監督初のSF大作は,予想通り問題作  
  予告編を観て,すぐにこれは是非当欄で紹介しなくてはならない作品だと感じた。仮想空間での出来事であるだろうが,都市が崩壊し,一瞬ではあるが首長竜が登場する。果たして,邦画でこれをどこまでの迫力の映画に仕上げているかが気になった。「仮想と現実が崩壊する中で,真実を知った時……」というキャッチコピーからも放ってはおけない。現実世界と仮想世界を融合する「複合現実感 (Mixed Reality)」の命名者であり,当該技術の研究開発推進を本業とする筆者としては,捨て置けない言葉だ。あちこちから意見を求められること必至であるから,それなら先に当欄で語ってしまいたい。
 主演が筆者の大好きな綾瀬はるかであることで,興味は倍増した。原作は,2010年に発表された乾緑郎作のSFミステリーで,同年の「『このミステリーがすごい!』大賞」の受賞作である。しかも,めったにない審査員全員の意見一致での受賞だという。これで興味は3倍増となった。さっそく文庫本も買ってきた。そして,何より驚いたのが,監督が黒沢清だということだ。この硬派で,インデペンデント系の代表のような監督が,人気俳優でメジャー配給映画を撮るとは,一体どういう心境の変化なのだろう?「世界のクロサワ」のSF映画,CG多用作品というのも聞いたことがない。日頃からハリウッド系大作を酷評している監督だけに,お手並み拝見という向きも少なくないことだろう。これで興味は4倍増だ。
 綾瀬はるかの役どころは,人気漫画家の和淳美で,自殺未遂で昏睡状態という設定である。恋人の浩市役には,『るろうに剣心』(12年9月号)の佐藤健。俳優の佐藤浩市とは何の関係もなく,何かのジョークかと思ったが,原作小説通りの名前であるから,これは仕方ない。淳美の父親役が松重豊で,編集長役でオダギリジョーまで登場するのは,まるでNHK大河ドラマ『八重の桜』の便乗商法だ。他に中谷美紀,堀部圭亮,小泉今日子,染谷将太とくると,いかにもこの監督好みの人選である。
 SFとしては,昏睡状態の患者と「センシング」なる方法で仮想空間を共有し,意思疎通するというのがミソである。技術的には,現実空間の実体を遠隔制御する訳ではないので,『サロゲート』(10年1月号)『アバター』(同2月号) のようなテレプレゼンスではない。深層心理に入り込むという意味では『インセプション』(10年8月号)がすぐ思い浮かぶが,それを治療に役立てようという点では『ザ・セル』(01年2月号)に近い設定である。これも原作の用語なので止むを得ないが,この「センシング」なる名称は野暮で,語彙が貧困過ぎる。その装置のデザインもお粗末だ(写真1)。別掲の『オブリビオン』の機器デザイン力とは雲泥の差である。
 
 
 
 
 
写真1 これがセンシング装置の外観
 
 
  さて,肝心の黒沢作品の評価であるが,色々な意味で問題作である。賛否両論,大きく分かれることだろう。以下,それぞれの視点から,模擬的に考えてみた。
 【ネガティブ派】素直な大作映画としては撮らないだろうと思っていたが,案の定である。その上,原作とは全く違う。小説と映画は別物とはいえ,ここまで変えてしまっていいのだろうか? 姉と弟が,恋人同士の男女になったのでは,2人の意思疎通の意味や関係が全く違うではないか。脚本は田中幸子との共同執筆であるが,あの名作『トウキョウソナタ』(08年10月号)を共に書いた2人とは到底思えない。
 CG/VFXは期待していなかったとはいえ,やっぱりプアだった。街が融けて崩壊するシーン(写真2)は,次なる『G.I.ジョー バック2リベンジ』の足元にも及ばない。その他,仮想空間へのワープ部分なども,チープ極まりない。それでいて,最後の部分で首長竜はしっかり長い尺で登場する。スチル写真も見せないのなら,こんなに長い登場場面も必要ないと思うのだが……。
 
 
 
 
 
 
 
写真2 浩市の意識下で起こる街の崩壊シーン
 
 
  【サポート派】黒沢清一流のアンチテーゼとしての大作批判映画だということが理解できないのだろうか? センシング世界への移動はもとより,何気ないクルマでの移動シーンも車外がいかにも嘘っぽい作りで,これは非現実の世界であるとのヒントだろう。飛古根島の外観(写真3)が奇妙なのに対して,島内の廃墟(写真4)が極めてリアルであることからも意図的だと分かるはずだ。
 
 
 
 
 
写真3 余りにも嘘っぽい形状の飛古根島
 
 
 
 
 
写真4 その半面,島の廃墟は極めてリアル
(C)2013「リアル〜完全なる首長竜の日〜」製作委員会
 
 
  頭の中に潜入する設定の面白さ,人の心理を可視化する難しさの表現には成功していたと思う。元来,ホラーには一家言ある監督だが,本作でもホラー的要素の語り口の上手さが出ていたと感じられた。
 
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