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O plus E誌 2013年10月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『ビザンチウム』:この映画の表題も元素名ではない。主人公母子が一時身を寄せる古い海辺のホテルの名前だ。ヴァンパイアの少女と人間の青年の恋物語だと言えば,『トワイライト』シリーズの裏返しであり,男女の組合せでは『ぼくのエリ 200歳の少女』(08)と同じある。名前もエレノアで似ているし,本作でも200余歳である(ただし,人間としては16歳の風貌)。両作に比べてロマンス度は落ちるが,ホラー・タッチでの物語進行で,スリラー度はぐっと高い。主演は,『ラブリーボーン』(09)『ハンナ』(11)のシアーシャ・ローナン。彼女のために書かれたかのような役柄で,陰のある孤高の少女役が実によく似合っている。クラシックの名曲の数々が,ゴシック・ホラーの香りを漂わせる。VFXの登場場面はそう多くないが,鳥の群れの飛翔や真っ赤に染まった滝の表現など,効果的に使われていた。
 ■『怪盗グルーのミニオン危機一発』:最後発ながら,ユニバーサル配給のフルCG&S3Dアニメ『怪盗グルーの月泥棒 3D』(10年11月号)は,ピクサーやドリームワークス製とは一味違った欧州テイストのスマッシュ・ヒットとなった。その続編も,監督&スタッフ,声優,登場キャラもほぼそのままで,家族連れで安心して観ていられる良作だ。怪盗グルーが引き取った孤児3姉妹も,それぞれの個性にあった役柄(とりわけ,末っ子のアグネスが可愛い)で登場するし,バナナから生まれたキャラ,ミニオンたちも絶好調だ。相変わらず,3Dの立体感演出は上手いし,髪の毛のCG表現等も向上している。スラップスティック調のアクション・コメディとしての質も高い。では,なぜメイン欄で取り上げなかったかといえば,余りに無難で,まとまりも良く,映画評としては,敢えて語ることもなかったためである。
 ■『クロニクル』:ジャンルはSFアクションだが,メイン欄に取り上げるような,豪華なメジャー作品ではない。監督は,これが長編デビュー作となる新鋭のジョシュ・トランク。PVがSNSで話題になり,「クロニクル現象」を引き起こしたと言われるだけあって,若者の日常生活と心情を描いた青春映画だ。突如,スーパーマン並みの超能力を得た若者3人の生態を粗削りな演出で描く前半は,ちょっとついて行けない感もあった。その無軌道な行動が引き起こす騒動を描く後半は,息をもつかせぬ展開で,先が読めない。CG/VFX使用量もどんどんエスカレートする。その破壊の様子も,斬新かつ小気味いい。なるほど,これは若さゆえの新感覚だ。
 ■『そして父になる』:是枝裕和監督・脚本,福山雅治主演という組合せだけでも興味津々だったが,カンヌ国際映画祭の審査員賞受賞で話題に火がついた。どの回も試写会は超満員だった。出生児の取り違え事件が6年後に発覚したことで,傷つき,戸惑う2組の家族の苦しみを描くヒューマンドラマだ。なるほど,受賞に値する好い映画で,随所でこの監督の演出の進歩が感じられる。とりわけ,最後の父と子の描き方が秀逸だった。キャスティングも悪くないが,福山雅治では,人生の勝ち組の冷徹なエリートに見えないのが,少し気になった。両家とも母親が美人すぎる。電気店の主婦は,真木よう子でなく,もっと田舎のオバちゃん風の女優が良かったと感じた。主人公の父親役の夏八木勲が渋く,まだ出演作が残っていたのかと驚くとともに,つくづく得難い助演男優を亡くしたことが惜しまれる。
 ■『パッション』:久々のブライアン・デ・パルマ監督・脚本作品。最近余り名前を聞かないなと思ったら,既に御歳72歳だった。「魅惑の二大女優レイチェル・マクアダムスとノオミ・ラパスの競演」「サスペンスの魔術師が紡ぎ上げた殺人と官能のミステリー」のキャッチコピー通り,いま旬の女優の個性を活かしつつ,自らの映像作りの技巧を楽しんでいるかのような作品だ。前半は主要登場人物たちの複雑な関係の描写,中盤に殺人事件が起きるが,誰もが犯人に思える設定,そして終盤はその種明かしというミステリーの定番の展開である。観客を欺こうという魂胆はミエミエだから,観る側も僅かな断片を見逃すまいと構えてしまう。それを超えるだけの作品に仕上がっていたかは疑問だ。なるほど達者な演出ではあるが,あまり技巧に走らず,もっとシンプルにまとめた方が,ストーリーを楽しめたかと思う。
 ■『マリリン・モンロー 瞳の中の秘密』:死後50年に当たる昨年の製作作品で,初公開されたマリリン・モンロー(MM)自筆のメモ・詩・手紙を基に,彼女の実像に迫ろうとするドキュメンタリーである。出演映画の代表シーンや記録映像での彼女の姿を軸に,ユマ・サーマン,リンジー・ローハン,グレン・クローズ等々,10人の女優たちに,感情を込め,表情豊かに彼女の言葉を語らせるという手法が斬新だ。年齢も髪の色,肌の色も違う,この10人の人選が興味深い。それだけMMに色々な側面があったというアピールなのだろう。MM自身の映像集も貴重であるし,何と可愛い女性なのだろう。特に,最後の夫,アーサー・ミラーと熱愛中,新婚時代の姿が愛らしい。女性監督リズ・ガルバスの年齢は不明だが,少なくとも生前のMMをまともに知らないはずの彼女が,このドキュメンタリーを製作・監督したことに,もう1つの意義がある。
 ■『ランナウェイ/逃亡者』:今年77歳になるロバート・レッドフォードの5年ぶりの監督・主演作だ。1970年代に反体制運動を展開した実在の過激派グループ「ウェザーマン」をモデルとした物語で,30年間身を隠して生活していた主人公が新たな危機に直面する。ジュリー・クリスティ,スーザン・サランドン,ニック・ノルティ,クリス・クーパー,リチャード・ジェンキンスといった60代,70代の豪華助演陣が素晴らしい。深い政治的メッセージは残さず,それでいて,若き日の活動への想いとその後の人生を振り返るセリフにしびれる。日本の全共闘世代なら,彼らの主義主張に共感を覚えるはずだ。原題は『The Company You Keep』。今なお仲間を裏切らない同志たちを描いた物語に,もう少しマシな邦題をつけて欲しかった。
 ■『フローズン・グラウンド』:1980年代に発覚した「アンカレッジ売春婦連続殺人事件」をもとにした刑事ものだ。何と,24人以上を殺害し,17人の遺体が発見され,そのいずれもが残虐な殺害方法だったという。映画の冒頭から犯人は分かっているが,退職間際の刑事(ニコラス・ケイジ)と猟奇殺人犯(ジョン・キューザック)の虚々実々の駆け引きが面白い。実際には,事件発覚後そう苦労なく犯人逮捕に結びついたようだが,映画としては少し脚色し,暗い極寒の地で繰り広げられるクライム・サスペンスとして仕上げている。魔の手から逃げ出して来た生き証人の娼婦(ヴァネッサ・ハジェンズ)をいたわる刑事の心遣い,彼の家庭の描写がいい。何か救われた想いがして,こういう脚色なら大歓迎だ。その半面,この犯人は懲役461年,保釈なしの終身刑で,今も刑務所内で生きているという事実を知り,死刑廃止制度に大いなる憤りを感じる。
 ■『トランス』:『スラムドッグ$ミリオネア』(08)『127時間』(10)のダニー・ボイル監督の最新作で,主演には『つぐない』(07)のジェームズ・マカヴォイを起用している。ギャング一味と結託して40億円の名画を盗み出した競売人が,暴行を受けて記憶喪失となり,隠し場所を忘れてしまうという,ワクワクする設定だ。表題は,心理学でいう「変性意識状態」のことで,催眠療法で主人公の記憶を復活させようとする。どこまでが夢想状態でどこまでが真実か,区別が付かない幻惑モードは,『インセプション』(10)に似た味付けだ。結末が全く読めないが,元々観客を翻弄するのが目的であるから,素直に監督の仕掛けを楽しんでおこう。催眠療法士を演じるロザリオ・ドーソンが強烈な体当たり演技で,フルヌードまで披露してくれる。その魅力の虜になったのか,最近,監督は彼女と交際中だという。
 ■『陽だまりの彼女』:原作は,越谷オサム作の同名小説で,「女子が男子に読んでほしい恋愛小説No.1」だそうだ。主演の男女は,松本潤と上野樹里。上野樹里は,NHK大河ドラマ主演の時よりも,小柄で可憐に見える。形式的には主演の男子の語りで進行するが,実質はヒロイン視点の物語とも言える。実に他愛もない恋愛物語で,最近の若者の軟弱さはこのレベルで終始するのかと思ったら,少し捻った伏線が用意されていた。典型的な低予算映画だが,ヒロインのジャンプシーンなど,少しはVFXの力で豪華に見せて欲しかったところだ。映画の中でビーチ・ボーイズの「素敵じゃないか (Wouldn't It Be Nice)」が3回も流れる。監督が余程のファンなのかと思ったら,原作中にも登場する。原作者がこの曲の歌詞を気に入っているようだ。それなら,エンドロールで流れる主題歌に(BB5フリークである)山下達郎を採用したことは,理にかなった選択だ。
 ■『人類資金』:原作・福井晴敏×監督・阪本順治というコンビは佳作『亡国のイージス』(05)と同じで,大いに期待が持てた。原作小説は現在進行形で,本作の脚本は2人で執筆している。主役の佐藤浩市は,阪本作品出演10作目で,3度目の主演となる。巷間しばしば耳にする旧日本軍の秘密資金「M資金」とそれにまつわる詐欺事件を真正面から扱った大作で,外国人を含む助演陣も豪華だ。ロシアのハバロフスク,タイのカンチャナブリでの大規模ロケも敢行されたが,特筆すべきは,国連本部に実際にカメラを入れての撮影だ。日本映画でここまでやったことは評価できる。その半面,話のスケールが大き過ぎて,細部の詰めが追いついていないと感じた。「人類資金」なる構想も,綺麗ごとに過ぎず,感動を呼ぶだけのリアリティがない。劇中に登場するPDAのデザインに至っては,全く魅力がない。
 ■『ブロークンシティ』:舞台はニューヨーク。テーマは,剛腕で悪徳な市長(ラッセル・クロウ)の汚職と,市長選再選をめぐる対立候補との虚々実々の駆け引き,そこに陰謀に基づく殺人事件が噛んでくるという構図だ。悪役を演じた時のR・クロウには凄みがある。この悪に対するは,過剰防衛による殺人の疑いで警官の職を追われた二流私立探偵(マーク・ウォールバーグ)というから,善悪の役柄は明らかだし,結末も大体見えてくる。となると,娯楽作品としての妙味は,中盤から終盤にかけての人間関係の二転三転だが,上述の『パッション』同様,この脚本も少し技巧に走り過ぎだ。最も楽しめたのは,市長候補同士のTV討論の迫力だった。いや,米国の政治家の弁舌はすごい。多少の誇張はあるにせよ,政治家に求められる資質は,情熱や誠実さではなく,屁理屈と演技力だと改めて納得した。
 
   
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