head
titlehome略歴表彰学協会等委員会歴主要編著書論文・解説コンピュータイメージフロンティア
| TOP | CIFシネマフリートーク | DVD/BD特典映像ガイド | 年間ベスト5&10 |
title
 
O plus E誌 2016年6月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』:米国の銃社会ぶりを痛烈に批判し,現職大統領(ジョージ・ブッシュ)の無能さをこきおろし,さらに医療保険制度への無策ぶりや巨大金融資本の拝金主義を告発してきたマイケル・ムーアの最新監督作品である。一体この題は何なのかと思ったら,米国防総省の依頼で,国威掲揚のため,欧州諸国やアイスランド,チュニジア等を「侵略」,各国の常識(良識)を米国に持ち帰ることを依頼されたのだという。勿論,この設定自体がジョークそのものだ。他国の進歩的な慣習・制度を褒め,米国の遅れをなじる形のブラック・ユーモアである。既存作品では,この異色監督の映画の特質は,テーマ選択,突撃取材の対象人物選びが巧みで,編集能力が抜群だ。思わず引き込まれ,ムーア節に感心してしまう。本作もユーモアたっぷりで,面白かったが,本来の告発ものに比べると,毒が少なく,やや物足りなさを感じた。
 『エンド・オブ・キングダム』:3年前に米国大統領官邸が襲撃される同工異曲の映画が2本公開されたが,ジェラルド・バトラー製作・主演で,完成度が高かった『エンド・オブ・ホワイトハウス』(13)の続編である。彼とアーロン・エッカートは前作同様,護衛官と大統領を演じるが,下院議長役だったモーガン・フリーマンは副大統領に昇格し,このトリオは健在だ。本作は,急死した英国首相の葬儀が営まれるロンドンが舞台で,弔問の各国首脳を狙った同時多発テロが起こる。独・仏・伊・加・日の首脳が殺害される中で,米国大統領だけが生き残る結末は誰もが予想できる。そこに至るノンストップ・アクションの迫力,痛快さは,全くレベルダウンしていない。娯楽作品としてはまたもメデタシ,メデタシの大満足だ。ただし,護衛官マイクの超人的有能さは既に織り込み済みで,前作ほどの驚きはない。
 『オオカミ少女と黒王子』:当短評欄では,映画文化の変遷をウォッチし,記録に残すため,意図的に邦画も紹介するようよう務めている。となると,圧倒的に多いのが,人気コミックが原作の映画化作品であり,ある一定数の観客が見込めるからだろう。ハリウッドがアメコミ原作のスーパーヒーローものに席捲されているのに対して,本邦でシェアを誇るのは,若い男女カップルを対象とした青春恋愛映画,それも少女コミックが原作の女性主体のラブロマンスである。この表題の映画は比較的最近観た気がしたのだが,探してみると,該当作品がない。しばらくして,それは『黒崎くんの言いなりになんてならない』(16年3月号)だったと分かった。冴えない女子高生が,横暴な黒王子に支配され,やがて恋するのは,ほぼ同じだ。最近の女子高生はよほど強い男子に支配されたいらしい。同工異曲だが,特筆すべきは,主役が若手演技派代表の「二階堂ふみ」だという点だ。現役大学生であり,もっと大人の映画でつっぱり役か崩れた役を演じていたのに,この服装とメイクだと,高校生に見えなくもない。大して可愛くないのは,役柄的にもぴったりだが,演技力はさすがだ。こんな映画のヒロインもできることはよく分かった。だから,彼女は今後このレベルの他愛もない映画に出演しなくても良い。しっかり,シリアスな映画や異色作品に出て,演技賞を狙って下さい。
 『植物図鑑 運命の恋,ひろいました』:邦画の青春恋愛劇が続く。題名からして,男性はワイルドでなく,草食系男子かなと想像できる。最近のTVドラマやバラエティ番組を殆ど観ないので,映画だけでは,若手女優やアイドルの顔を覚えられない。熟年や初老のオヤジ世代は大抵そうだろう。この女優は,桐谷美玲か有村架純だったっけ? いや,高畑充希というらしい。OL役だが,女子高生でも通用する。誰にもそこそこ好感を持たれるタイプだ(後で気がついたが,いま朝のNHK連続テレビ小説に主演していた)。有川浩作の人気恋愛小説の映画化で,全くベタなラブストーリーである。余りにストレート過ぎて,好感が持てる。羽毛田丈史の音楽が立派で,主演男女優の稚拙な演技にそぐわない。それが,中盤以降,しっかり物語が追いついて,好い雰囲気を醸し出す。物語の起承転結がはっきりしていて,彼女にしっかり感情移入してしまった。そうそう,相手役の男優は,三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBE の岩田剛典というダンサーらしい。この手の男優は誰でもよく,もっと覚えられない。
 『ロイヤル・ナイト 英国王女の秘密の外出』:原題は「Royal Night Out」で,「王室の夜間外出」だ。行きずりの男との冒険を楽しみ,少し恋に落ちる展開は,誰もが『ローマの休日』を思い出す。何とこの主人公は,実在の英国エリザベス女王の若き日の姿で,当時19歳,欧州の戦勝記念の夜(1945年5月8日)のことである。お忍びの外出自体は史実らしいが,物語は勿論ほとんどフィクションだ。主演の王女役は,サラ・ガドン。『ドラキュラZERO』(14年11月号)で,筆者も一目惚れした,あの美人女優である。これじゃ美形過ぎるというと不敬罪になるだろうが,この髪形だと,若き日の王女に見えなくもない。英国人でなく,カナダ出身だというのが気になるが,同国の元首もエリザベス女王だから,まぁ許せる範囲と言える。楽しく,チャーミングな映画で,いかにも女性監督の作品だと分かる。
 『シークレット・アイズ』:主演は『それでも夜は明ける』(14年3月号)で自由黒人役を演じたキウェテル・イジョフォーで,元FBI捜査官の主人公が13年前の殺人事件の容疑者を追いつめるサスペンスドラマだ。2大女優ニコール・キッドマンとジュリア・ロバーツが助演という豪華キャスティングで,映画は2002年と2015年を行きつ戻りつする。N・キッドマンとJ・ロバーツの実年齢は同じ48歳だが,13年後も前者はずっと美人であり,後者は老いて見る影もない。この対比は演出上のメイクのせいだが,他の2人は13年前と見かけが変わらないので,しばしば回想シーンと現在の区別がつかず,少し戸惑う。黒人捜査官が同僚のシングルマザーでなく,婚約者のいる高嶺の花の検事補に恋をするのが少し不自然だ。ましてや女性側の想いはもっと不自然に感じた。事件の真相究明は思わぬ方向に進むが,結末は説得力があり,納得する。
 『アウトバーン』:かなりド派手なカーアクションがウリの映画だ。もはや多少のバイオレンスぶりでは目新しさを感じないが,目の肥えた観客を満足させられる水準に達している。天才的運転技術をもつ元自動車泥棒の青年がドイツに渡り,そこで知り合った恋人の難病を救うため,裏社会が仕掛けたゲームに乗る…という物語だ。原題は『Collide』で,速度制限なしのアウトバーンを突っ走るという設定にしたかったのは分かるが,敢えて舞台をドイツにする必然性はあったのかは疑問だ。主演は,ニコラス・ホルト。『X-Men』シリーズのビースト役,『マッド・マックス 怒りのデス・ロード』(15)で全身白塗りの男を演じた男優で,まともに素顔を観るのは初めてだ。劇中で「バート・レイノルズ」とからかわれているが,そこそこ似ている。これは,彼のヒット作『トランザム7000』『キャノンボール』シリーズのカーアクションを想起させるためだろう。
 『マネーモンスター』:表題は,株価予想や投資助言をするTVの財テク番組名である。その生放送のスタジオに拳銃をもった男が乱入し,人気キャスターの身体に爆弾を仕掛けたことから起こる騒動を描いたリアルタイム・サスペンス・ドラマだ。犯人は番組の情報を信じて全財産をなくしたことに憤慨しての行動だったが,意図的な株価操作のからくりやTV局での番組収録の模様など,興味深いネタを巧みに鏤めている。アドリブが得意な人気キャスター役にジョージ・クルーニー,番組の辣腕プロデューサー役にジュリア・ロバーツという大人の男優&女優の組み合わせで,軽妙なやり取りながら,緊迫感の盛り上げもなかなかのものだった。監督は,大女優のジョディ・フォスター。これが監督としての4作目だが,女性監督の作とは思えぬ,歯切れの良さと緩急の付け方の上手さを感じた。自ら何本のもサスペンス映画に出演して来たゆえに,身体に染み込んだ演出のテンポなのだろうか。強いて欠点を挙げれば,音楽が少々煩いが,映像的には満足だ。娯楽作品として観て,損はない。
 『二ツ星の料理人』:もうこの題名だけで,腕の立つシェフが主人公で,美味しそうな料理が次々と出てくる映画が想像できる。まさにその予想通りの映画で,その点では直球勝負だ。主人公は米国人の天才料理人で,パリで修業し,ミシュランのを得た後にトラブルを起こして挫折する。3年後に復活し,今度はロンドンでを目ざすという設定だが,このキザで短気な料理人役にブラッドリー・クーパーはよく似合う。かつては味音痴の代表格だった英国だが,最近のロンドンはグルメ・ブームで,高級レストランも出店ラッシュらしい。本作に登場する料理もカラフルで,もちろん食欲を大いにそそる。特筆すべきは,戦争状態のような厨房のリアルな描写だ。主要登場人物を演じる俳優は手さばきの特訓を受け,セリフのない役柄にはプロを登場させたという。評点はでも良かったのだが,ここは邦題に敬意を表して,に留めた。
 『シチズンフォー スノーデンの暴露』:3年前に世界を騒がせた「スノーデン事件」の顛末を内側から描いた実録映画である。米国CIAとNSA(国家安全保障局)に所属した29歳の男が,国家が個人のプライバシーを侵害して情報収集していると内部告発し,ロシアに亡命した事件だ。「シチズンフォー」と名乗る彼からの連絡を受け,香港でインタビューを行なったのが本作の監督のローラ・ポイトラスと友人のジャーナリスト,グレン・グリーンウォルドである。後者の報道はピューリッツアー賞を受賞し,本作はアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞しているが,筆者は本作を全く面白く感じなかった。E・スノーデンの人となりには興味をもったが,映画としては退屈だった。編集が稚拙で,話題の取捨選択も平板過ぎる。NSAが世界中で通信傍受し,それに大手通信会社や最大手検索会社が加担していることは今や常識であり,それを「驚くべき事実」や「最高の国家機密」と騒ぐ方が時代遅れだと感じた。
 『教授のおかしな妄想殺人』:ウッディ・アレンの脚本・監督による最新作だが,この邦題だけで,彼の本領発揮の個性派作品だと予想できる。米国東部の大学に赴任した哲学教授のエイブ(ホアキン・フェニックス)が主人公で,人生の不条理を滑稽に描いたとなると,もう全くのアレン節の世界だ。彼の作品は,特に好きでも嫌いでもないが,作品毎に出来不出来の差が大きいと感じる。好みに合うか合わないかの問題だとも言える。本作は,ヒロインのジルを演じるのが,筆者のお気に入りのエマ・ストーンだというので,大いに食指が動いた。「人生は無意味である」という結論に達して以来,慢性的に孤独で無気力人間であった主人公が,ある判事を殺害する完全犯罪を思いつき,その妄想から生きる喜びを見い出す……という内容だ。問題なのは,彼が(夫がいる)同僚の女性教授と(彼氏がいる)教え子のジルの両方から想いを寄せられるという設定だ。前者はともかく,魅力的な女子学生が,さほどイケメンでもない,偏屈な中年男の教授に恋心を抱くことが理解できない。これは,アレン監督自身の願望なのか? 個人的にそういう妄想を持つのは勝手だが,映像化して,文系の中年男性教授たちに見せないで欲しい。ただですら,最近の大学では,女子学生との間でセクハラ問題を起こす40~50代の教授達が多いのに,本作を観て,益々勘違いする連中が増えたら困るじゃないか!
 『10 クローバーフィールド・レーン』:前作『クローバーフィールド/HAKAISHA』(08)は,宇宙からの侵略者による破壊攻撃がテーマで,被害者が記録したビデオという想定の擬似ドキュメンタリーだった。全編手持ちカメラによる撮影が,新時代の映像という感覚に溢れていた。本作は,シネスコサイズで普通に撮影された映画だが,登場人物はたった3人という密室もののサスペンス・スリラーである。製作は前作同様,J・J・エイブラムスで,SF大作を撮れる監督として,この8年間にすっかり著名人になった。本作で,彼が監督に抜擢したのは,これが長編デビュー作となるダン・トラクテンバーグ。中盤過ぎまでは,シェルター内での3人の息詰まる心理劇だが,終盤は一気呵成の展開で,この緩急を見事に描き切っている。設定は『サイン』(02)に似ているが,あの凡作よりは遥かに面白い。
 『帰ってきたヒトラー』:昨年以来,ヒトラーものの映画が多いが,没後70年ということもあったのだろう。本作は,その前年に製作されたドイツ映画で,スタッフもキャストもドイツ人で,堂々とアドルフ・ヒトラーを名乗る主人公が,ナチの偉大なる総統ぶりを発揮する。ホロコーストものなら,もう観たくもないという読者も多いだろうが,本作にはそんな陰惨なシーンは全く登場しない,あっと驚く設定のコメディで,どこに帰ってきたのかと思えば,ヒトラーが生き返り,タイムスリップして2014年の現代に登場する。物真似芸人と誤解されて,TVやイベントに登場するという展開だが,彼の弁舌の巧みさ,煽動能力の高さを描き,思いっきり現代社会を風刺している。全くのブラック・ジョークとしか思えない内容で,その点では,上記のマイケル・ムーア作品よりもずっと毒がある。デヴィッド・ヴェンド監督の脚本・演出も,原作小説と全く違うというオチの付け方もなかなかのものだ。
 『レジェンド 狂気の美学』:何が伝説なのかと思ったら,主人公は1960年代にロンドンで暗躍したギャングのクレイ兄弟で,英国ではかなり有名らしい。かなり性格の違う双子の兄弟を,トム・ハーディが1人2役で演じる。1作毎に全く違った魅力を見せるトム・ハーディだけに,演じ分けには期待した。実際,2役と分かっていながら,全く別人物と感じてしまうシーンも多い。兄のレジーは男の色気を感じる。役柄的には『欲望のバージニア』(12)の次男に似ている。弟ロンは変人,ある種の狂人で,こちらも見事に演じている。レジーの恋人役はエミリー・ブラウニング。主人公が一目惚れするには,もう少し美形の方が良かったが,純粋無垢な感じを出すには,彼女でも良かったと思う。ギャング映画ながら,暗くなく,ユーモアもあり,快適なテンポで物語は進行する。彼らに感情移入するが,この種のビジネスが続く訳はなく,最後はやはり破滅する。実話ゆえ,それは変えられないが,結末は少し悲しく,淋しい。
 『クリーピー 偽りの隣人』:原作は,現役大学教授&作家の前川裕著のサイコサスペンスで,日本ミステリー文学大賞新人賞の受賞作である。その原作をかなり変形し,犯罪心理学者の主人公を元刑事という設定にし,登場人物を減らしている。監督は,国際的評価が高い黒沢清。あまり好きになれない監督で,筆者の評価は1作毎に乱高下するが,本作はサイコ・スリラーとして出色で,緊迫感の演出は上手いと認めざるを得ない。主演は西島秀俊で,謎めいた隣人を香川照之が演じている。変質者を演じさせたら,香川照之はハマリ役で,怖い。女優陣は竹内結子,川口春奈,藤野涼子だが,不思議な少女役の藤野涼子が気に入った。原作よりもすっきりした脚本だが,結末が今イチで,もう一工夫欲しかった。複数の結末を作っておき,観客への覆面予備調査で,最も反応が良かったものを選択するハリウッド方式を採用すれば,もっと素晴らしい作品になったと思う。
 
  (上記の内,『オオカミ少女と黒王子』『植物図鑑 運命の恋,ひろいました』『マネーモンスター』『教授のおかしな妄想殺人』は,O plus E誌には非掲載です)  
  ()  
   
  Page Top  
  sen  
 
back index next