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0 plus E誌非掲載
 
 
ピートと秘密の
友達』
(ウォルト・ディズニー映画)
      (C) 2016 Disney Enterprises, Inc.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [12月23日よりTOHOシネマズ日劇他全国ロードショー公開中]   2016年12月24日 TOHOシネマズ二条
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  類似作品は多いが,シンプルで良質のファンタジー  
  しっかりCG/VFX多用作であるのに,2017年1月号で紹介できなかった作品だ。試写会が締切に間に合わなかったのではない。そもそも東京でも大阪でも,マスコミ試写会が全くなかったのである。広告宣伝もあまり熱心ではない。単館系の小作品ならともかく,メジャーの中でも,いま興行的に最も成功しているディズニー映画の主力作品の1つであるのに,何という扱いの小ささだ。 
 その理由がいくつか考えられる。同じディズニー配給網で1週間早く『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(17年1月号)が公開されるので,広報宣伝費をかけることも,エネルギーを割くことも控えたのであろう。もう1つは類似作品が多く,公開年度が最悪であったことだ。これは,予告編を観ただけですぐ分かる。両親を交通事故で亡くし,深い森林の奥に1人取り残された少年が,森に棲むドラゴンと共に暮らし,深い絆で結ばれる。これじゃ,同じディズニー映画の『ジャングル・ブック』(16年8月号)とライバルのDreamWorks Animationのヒット作『ヒックとドラゴン』(10年8月号)をくっつけただけじゃないか。加えて,少年が崖からジャンプするシーンは,『ターザン:REBORN』(16年8月号)のそれともソックリである。
 本作の原題は『Pete's Dragon』で,仮の邦題は『ピートとドラゴン』となっていた。『ヒックとドラゴン』の原題は『How to Train Your Dragon』でかなり違うのだが,この邦題は紛らわしい。さすがに最終的には,表記の邦題に落ち着いたようだが,仮題とはいえ,ライバル社の表題もどきの安題をつけるとは安直過ぎる。絶好調のディズニーは何を血迷ったのか,企画力や構想力もそんなに衰えてしまったのかと驚いた。
 と思ったのだが,これには背景があり,少し弁護しておきたい。実は,同じくウォルト・ディズニー映画として1977年に製作された旧『Pete's Dragon』があり,本作はそのリメイク作ということだ。実写の少年や森林の映像に対して,手書きアニメ(カートゥーン)調のドラゴンを合成して作成した(当時としては画期的な)映画である(写真1) 。後年3部門でオスカーを得た『ロジャー・ラビット』(88)と同じ制作手法を,10年以上前に実現していた訳だ。この映画のことは,全く知らなかった。それもそのはず,日本では劇場未公開であり,1980年代に入ってからVHSビデオが発売されただけなのである。その邦題が『ピートとドラゴン』であった。自社の過去の作品をリメイクして何が悪い,その当時の邦題を今回の仮題とするのも自然じゃないかと言われれば,全くその通りだ。であれば,じゃんけん後出しの『ヒックとドラゴン』の方が安易な邦題だったと言える。
 
 
 
 
 
写真1 これが1977年製の『ピートとドラゴン』
 
 
   さて,前置きが長くなったが,本編紹介を始めよう。5歳で森の中に残され,不思議な生物のエリオットと仲良く森で暮らして11歳になった少年ピートは,森林の伐採が進んだことから,人間たちに見つかってしまう。やがて,彼を探しに出たエリオットも見つかってしまい,麻酔銃で撃たれ,捕えられてしまう。森で出会った少女ナタリーとピートは,エリオットが姿を透明にできる特技を利用して彼を逃がそうとするが,ハンター達に追いつかれてしまう……。物語は単純明快,全くのファミリー映画で,ディズニー・ブランドだけで集客が見込めるジャンルだが,脚本が良く出来ていて,飽きさせない。環境破壊への警鐘を鳴らしつつ,誰も傷つけず,暴力もなく,ハートウォーミングな結末に至る優等生的な童話だが,小学生対象ならこれでいい。
 監督は,『セインツ −約束の果て−』(13)のデヴィッド・ロウリー。製作・脚本・編集も手がける新進の映画人であるが,本作は監督と共同脚本だけを担当している。主人公の少年ピートを演じるのは,オークス・フェグリー。撮影時の実年齢は役柄と同じ11歳だ。女子重量挙げの五輪メダリスト三宅宏美選手に似た顔立ちである。森を大切にする森林警備隊員でピートを助ける女性グレース役には,ブライス・ダラス・ハワード。『スパイダーマン3』(07年5&6月号)『ターミネーター4』(09年7月号) 『ジュラシック・ワールド』(15年8月号)等,当メイン欄の作品では助演で登場することの多かった女優だが,本作は事実上の主役で,キャストのトップにクレジットされている。彼女の父親役には,名優ロバート・レッドフォード。既に80歳のはずだが,とてもそうは見えない。本作でも重要な役柄で登場し,渋い味を出している。残念だったのは,最寄りのシネコンで上映されていたのは2D日本語吹替版だけであり,吹替俳優(宮内敦士)の声が,全く彼のイメージと異なっていたことだ。
 以下,CG/VFXを中心とした,当欄の視点での感想と評価である。
 ■ もう1つの主役は,ドラゴンのエリオットだが,勿論CGで描かれている。大きな翼をもつ翼竜タイプの西洋風ドラゴンで,『ドラゴンハート』(96)のドレイコ,『アバター』(10年2月号)のバンシー, 前述『ヒックとドラゴン』のトゥース等はこの類いだ。他に当欄に取り上げただけでも,『エラゴン 遺志を継ぐ者』(07年1月号)『ベオウルフ/呪われし勇者』(同12月号)『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』(11年8月号)で類似のドラゴンが登場する。大きさはまちまちだが,本作のエリオットの大きさは,写真2を見ればすぐ分かる。
 
 
 
 
 
写真2 本作の主テーマは,ホログラムでも登場
 
 
  ■ このエリオットの独自の特徴は,体毛がふさふさしていることで,約260万本の毛で表現されている(写真3)。他に比べて優しい顔立ちで,少し『シュレック』(01年12月号)に似ている(写真4)。表情の表現も豊かだ。ニュージーランドで撮影され,本物の森林を使っているが,この森林風景と見事にマッチしている(写真5) 。ピートと川で戯れる際の水飛沫や口から噴き出す火炎の表現も見事だ。10年前なら,最高レベルのCG/VFXと絶賛したところだが,今やこれくらいは当たり前だ。見慣れた姿とはいえ,大きな翼を拡げて飛翔するシーンは,やはりカッコいい(写真6)
 
 
 
 
 
写真3 本作のエリオットは豊かな体毛がご自慢
 
 
 
 
 
 
 
 
 
写真4 シュレックに似た顔立ちで,表情も豊か
 
 
 
 
 
写真5 森林風景に見事にマッチさせている
 
 
 
 
 
写真6 この雄大な飛翔シーンは,ほれぼれする
(C) 2016 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
 
 
  ■ 他にもCG製の動物は登場し,鹿,狼,熊,兎等々が描かれているが,『ジャングル・ブック』の多彩さには敵わない。CG/VFXの担当はたった2社である。ニュージーランドでの撮影だけあって,主担当はWeta Digital。飛翔するドラゴンの表現は手慣れたものである。副担当は英国の雄Double Negativeだ。プレビス担当にはProofが参加しているので,VFXクオリティが悪かろうはずはない。終盤の攻防がくどくないので,たったこれだけの布陣でも十分な訳である。それでも,「少年以外はすべてCG」という新版『ジャングル・ブック』には話題性で負けてしまう。まだしも公開が逆順であれば良かったのに,米日とも本作が数ヶ月後で,同じディズニー・ブランドでとなると,興行的成功が見込めないと判断したのも無理はない。とはいえ,ファミリー・ムービーとしてはかなり上質なので,時期をおいたDVDでの観賞には自信をもって勧めておきたい。   
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