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O plus E誌 2012年10月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『天地明察』:こうした邦画が作られることが嬉しい。原作は,本屋大賞を受賞した冲方丁の同名小説で,『おくりびと』(08)の滝田洋二郎監督による映画化作品である。先月号で『るろうに剣心』の新感覚の殺陣を絶賛したが,こうしたチャンバラの全くない時代劇もいいものだ。その意味での先輩,『武士の家計簿』(10)が会計処理専門家を描いた作品であったのに対して,本作は算術指南や天文方が登場する徹底した理科系映画である。囲碁棋士で天文暦学者の安井算哲(=渋川春海)をV6の岡田准一が演じるが,和服姿もよく似合う。渾天儀(天球儀)や算木等の小道具がきちんと製作され,困難な気象条件下での天体観測もロケ中心でしっかり描かれている。その上,水戸光圀(中井貴一),保科正之(松本幸四郎),関孝和(市川猿之助)といった助演陣のキャスティングや,衣装,オープンセット等にも,正統派時代劇の香りを残している。
 ■『ロック・オブ・エイジズ』:ブロードウェイのヒット・ミュージカルの映画化作品で,1987年のロサンジェルスを舞台に,音楽での成功を夢見る若者たちの生態を描いている。若い男女の恋物語も歌も悪くないが,話題の中心は,落ちぶれた伝説のロックスターを演じるトム・クルーズだ。歌は吹き替えかと思いきや,どう聴いても本人の声だった。週5日間,1日5時間の特訓で臨んだというが,見事にロックしていて,頗る上手い。これじゃ,映画で主演を張れなくなっても,ロックバンドを率いてやって行けるだろう。キャサリン・ゼタ=ジョーンズのダンスの迫力にもたまげた。これぞプロだ。全編80年代のヒットナンバーのオンパレードだというが,ロック歴は60年代で止まっている筆者は1曲も知らなかった。それでも,中盤の「I Wanna Rock」はじめ, 数々の歌曲にロック魂を感じた。80年代も悪くないと感じ始めたが,軟弱なJ-Popしか聴かない最近の草食系男子には通じるかどうか……。
 ■『ソハの地下水道』:1943年ナチス・ドイツ占領下のポーランドで,迫害から逃れて地下に逃げ込んだユダヤ人たち……。と聞いただけで,またかと気が重くなりかけたが,直接ホロコーストを描いていないのが救いだった。盗品を地下水道に隠していたポーランド人水道工事労働者ソハが,命がけで彼らを守った実話をもとにしている。監督はワルシャワ生まれで,フランス在住のアグニェシュカ・ホランド。「この話をハリウッド映画にだけはしたくなかった」と語るだけあって,登場人物のセリフはすべて自国語(ポーランド語,ドイツ語,イディッシュ語,ロシア語,ウクライナ語)で通している。当時を再現した地下水道のセットも秀逸で,市街地部分にもリアリティの高さを感じる。欧州各国の映画祭で高い評価を得たのも納得できる。実話ゆえに物語の結末にも重みがあるが,可能なら,最後に語られる各人の後日譚は聞きたくなかった。
 ■『アシュラ』:何で,あのグロテスクな主人公のコミックを,今更劇場映画化するのかと思ったが,先入観は禁物だった。原作は,1970年に週刊少年マガジンに連載されたジョージ秋山作の漫画で,物議を醸し出し発禁処分にもなった問題作である。それが,たった75分のセル調アニメながら,映画のエッセンスがぎっしりと詰まっていた。優しい少女・若狭を慕うアシュラの成長や嫉妬心には感情移入できるし,後半のアクション部と仏教の教えを説く下りのバランスも絶妙である。このテーマには,フルCGアニメも実写映画も似合わない。日頃,ジャパニメーション嫌いの筆者も,水墨画風で描いたセル調描画とCG製の炎の合成には感心し,高い評価を与えておきたい。
 ■『最終目的地』:インディペンデント系映画の名匠ジェームズ・アイヴォリー監督の2008年製作の作品である。こうした佳作を探してくる配給会社に拍手したい。舞台は南米のウルグアイで,自殺した作家の伝記執筆のため遺族の許可を得ようとする米国人作家の出現により,それぞれの人生の最終地点が微妙に変化して行く様を描く。会話も物語展開も,主要登場人物6人(男女各3名)に絞られている。日本人観客には,アンソニー・ホプキンスのゲイのパートナーを真田広之が演じているのが気になるところだ。国際的俳優として,こういう役柄を演じられることが嬉しい。明るく美しい映像も,それにマッチした音楽も上質で,編集も絶品だ。ウィットに富んだ会話の隅々にも,監督の職人技が感じられる。エンディングを愛し合う2人の映像でなく,別の2人のその後に焦点を当てたのも巧みだ。
 ■『ロラックスおじさんの秘密の種』:メイン欄で取り上げるかを迷ったが,同じユニバーサル作品なので『ボーン・レガシー』に譲り,短評欄に留めたフルCGアニメである。実制作はクリス・メレダンドリ率いるIllumination 社担当で,これが『怪盗グルーの月泥棒 3D』(10年11月号)『イースターラビットのキャンディ工場』(11年8月号)に続く3作目だ。前作は,フルCGでなく,「実写+VFX」の2D作品だったが,本作では原点回帰を果たし,3D効果もハイレベルをキープしている。米国で著名は児童文学者Dr.スースの原作を基にしているだけあって,当たり外れなしである。世の中で最後の一粒となった木の種をめぐる少年の冒険も,心温まる物語にも卒がない。その分,低年齢層向けに徹したきらいがあり,敢えて同伴者以外の大人が観るほどの映画ではないと言える。
 ■『アウトレイジ ビヨンド』:世評は高くても,筆者にとって肌が合わない監督が何人かいる。日本人なら,宮崎駿と北野武がその双璧だ。決して食わず嫌いではない。何本か観ているのだが,俳優ビートたけしはそこそこでも,毎度監督としての腕は感心しない。暴力団組織の内部抗争を描いた前作『アウトレイジ』はおよそ食指が動かなかったが,初めての続編というので,今回DVDで観てから本作に臨んだ。「全員悪者」のキャッチコピーを踏襲しているが,拷問の残虐性はなくなり,ヤクザの怒号と銃撃を全編で羅列しただけの駄作だった。この人の映画は,ゆとりも遊びもなく,コクがない。俳優は,学芸会並みに,台本通りのセリフを口にしているだけという印象は今回も変わらなかった。
 ■『推理作家ポー 最期の5日間』:推理小説の祖エドガー・アラン・ポーを主人公にしたサスペンス・ミステリーで,彼の著作を模した密室殺人事件,猟奇殺人事件が次々と起こり,彼自身が事件解明に乗り出し,殺人鬼を追うという設定である。19世紀半ば,石畳と街灯,猫の死体にカラス。馬車に仮面舞踏会といった古色蒼然とした時代描写は,まさに彼の著作の印象そのままだ。ポーとフィールズ刑事のやりとりは,ホームズとワトソン,ポワロとヘイスティングズのコンビを彷彿とさせる。まさに古典的ミステリーファンを意識した演出だが,かつてのティム・バートン作品も思い出す。前半少しかったるいが,終盤の盛り上がり,緊迫感はさすがだ。公園のベンチで発見され,変死を遂げたとされるポーの最期にもうまく繋げている。
 ■『SAFE/セイフ』:当代きってのアクション・スターにして,禿頭族の星,ジェイソン・ステイサムの最新作である。彼のアクションだけが目当ての痛快バイオレンス・ムービーであるから,時代背景や物語展開はどうでもいいようなものだ。一応,NYが舞台で,ロシアン・マフィアと中国系マフィアの抗争に巻き込まれた,計算や数字記憶が天才的な少女を助けるというのが,少し珍しいところだろうか。例によって,何度も危機に遭遇して,最後は敵をボッコボコにするという定番の展開だ。映画評論としては,この種のワンパターン映画に高い点数はつけられない。ただし,個人的には大好きで,また次回作もきっと観ることだろう。
 ■『桃(タオ)さんのしあわせ』:原題は『桃姐』,英題は『A Simple Life』で,邦題も含めて,すべてこの映画の本質を表わしている。13歳から60年間メイドとして働き,病に倒れた「桃さん」の老人ホームでの生活とそれを見守る雇い主の男性の家族以上の絆を,素直に淡々と描いている。本作の映画プロデューサーの実体験に基づく著書の映画化だという。この映画の桃さんの晩年は,確かに幸せだが,その他の多くの高齢者はそうではないことも併せて思い知る。もはやメイドのなり手などいない豊かになった社会,老人ホームや介護ビジネスの実態は,そのまま日本にも当てはまる。いや,高齢化が忍び寄る多くの先進国に共通の話題だろう。
 ベテラン女優ディニー・イップも好演だが,香港映画の大スター,アンディ・ラウが老メイドの介護に奔走する姿が意外であり,かつ微笑ましい。
 
   
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