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O plus E誌 2011年5月号掲載
 
    
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『抱きたいカンケイ』:才能や資産に恵まれたリッチな男女の惚れたハレたを描くお気楽なラブコメディだが,娯楽映画として嫌いではない。日本人の若い男女のセリフには何か気恥ずかしさを感じるが,外人の男女の絵空事なら平気なのだろうか。それも,映画の魅力の1つだ。何でもない映画のはずが,製作・主演が,別稿で論じたナタリー・ポートマンとなると注目せざるを得ない。セックス・フレンド役のアシュトン・カッチャーは単なる添えものだ。エンドロール前半に付加された後日談がいい。楽しく,幸せな気分にさせてくれる。ただし,この邦題は何とかならないか。これじゃ中年以上は勿論,若いカップルだって口に出してチケットを買い難い。今やネットで予約する時代ということか。
 ■『メアリー&マックス』:3月号の『ファンタスティック Mr. FOX』から間をおかずに,またコマ撮りのクレイ・アニメーションだ。フルCGアニメの全盛時代に,膨大な時間をかけた手作り作品が次々と生まれるのは喜ばしい。豪州出身でオスカー受賞者のアダム・エリオット監督の4作目にして初の長編である。『ファンタスティック…』は肌が合わなかったが,本作は人形の形からも想像できるように,ほのぼのとした秀作だった。物語は,メルボルン在住の8歳の少女メアリーが,NY在住の44歳の偏屈中年男マックスに手紙を送ることから始まり,その後20年間に及ぶ文通での交流が描かれている。マックスの声を演じるフィリップ・シーモア・ホフマンが素晴らしい。エンディングも絶妙だ。これが実話だという。この監督は,実写やフルCGであっても,この物語を成功させただろうと感じた。
 ■『まほろ駅前多田便利軒』:原作は,三浦しをん作の直木賞作品。町田市をモデルにした東京近郊都市の便利屋が主人公で,仕事を持ち込む奇妙な人々との交流や問題解決の顛末を描く。多田啓介(瑛太)と行天春彦(松田龍平)というバツイチ・コンビが魅力的だ。何事にも覚めた感じでありながら,依頼人の人生に関わってしまう。別稿の『キッズ・オールライト』と似た設定ながら,本作の方が人間味に溢れている。人を見る目が優しい。それでいて,人生の本質を突いた鋭いセリフが胸を刺す。原作には続編が存在し,3作目が週刊文春誌上で連載中だ。映画もシリーズ化を期待しよう。
 ■『少年マイロの火星冒険記 3D』:ロバート・ゼメキス製作,ディズニー映画配給のフルCGアニメと聞くと,世界市場に通用する良質のファミリー映画を期待する。火星が舞台で,3D作品なら,きっと素晴らしいSFなのだろう。実際,3Dは見やすく,パフォーマンス・キャプチャを駆使したキャラクターの動きも上々だ。それだけのブランドと技術力をもってしても,満足度は今イチだった。母と息子の親子愛がメインテーマだが,さほどの冒険でもなく,火星が舞台であることを生かせていない。火星人は『アバター』のパンドラ星人に似ていて,基地内はデススター内部を思い出す。そう感じるだけで,登場人物に魅力がなく,物語も騒々しかった。ほんの少しバランスが悪いだけなのだが……。
 ■『鬼神伝』:「おにがみでん」と読む。この表題から, 当然邦画で,鬼といえば平安時代だろうと予想した。実際,余りにもストレートで,15歳の少年が1200年前の京都にタイムスリップし,救世主として様々な鬼と戦うという設定だった。物語は平凡だが,これが和風セル調アニメーションで,劇場用アニメでは初めて「平安京」を壮大なスケールで描いたことがウリだ。「手書きアニメの極限」というだけあって,冒頭の京都の町の絵は素晴らしかった。3D-CGや実写映像も下敷きにしているようで,映画風カメラワークもふんだんに登場する。これは凄い,まさに芸術の域だと感じていたら,現代から平安時代にタイムスリップして以降は,並みのジャパニメーションのレベルに下がってしまった。コストの制約なのだろうが,実に惜しい。
 ■『豆富小僧』:GW公開のアニメ3本目は,ソニーピクチャーズの『鬼神伝』に対して,ワーナー・ブラザース配給の和製フルCGアニメである。GWの映画興行市場は,普通の洋画では勝てないので,家族連れ相手には邦画のアニメで対抗するしかないという計算なのだろうか。この時期定番の『名探偵コナン』『クレヨンしんちゃん』の圧倒的な強さやディズニー・ブランドに立ち向かうには,相当なクオリティが要求されると思う。その解は,和製アニメ初の3D作品であり,和風の妖怪ものという設定だったようだ。原作は,京極夏彦の「豆腐小僧双六道中ふりだし」で,主人公の気弱な妖怪の文字を「豆富小僧」に変え,心温まるファンタジーに仕立てている。選択肢としては悪くないが,中途半端な作品だった。まず,キャラの顔をセル画調のままCG化し,3Dにしたのが大失敗だ。『鬼神伝』のような2D映画なら,背景はフルCGでキャラのみセルタッチで合成できるが,それをポリゴン表現し,立体映像にするのに無理がある。ポリゴン化するならゲーム・キャラ風にすべきだ。対象年齢層が曖昧で,物語は退屈なのも失敗原因の1つだろう。声の出演では,武田鉄矢が好い味を出していたが,主演の深田恭子の甲高い声が耳障りで,早く終わって欲しいとまで感じた。
 ■『キッズ・オールライト』:女性同性愛者の家庭に子供が2人いる。それぞれが体外受精で生んだ女の子と男の子だ。この姉弟が実の父親(精子提供者)を探し当て,親しく交流し始めたことから,倖せな家庭内がきしむ模様をヒューマンドラマ化している。家族愛,家庭のあるべき姿を描いているというが,こんな奇妙な家族関係が対象では,まともに感情移入できない。母親の1人アネット・ベニングがオスカーの主演女優賞候補で注目を集めたが,さほどの演技とは感じなかった。これなら『愛する人』(11年1月号)の母親役の方が好演だった。もう1人の母親ジュリアン・ムーアの方が熱演だと思うが,セックス・シーンが多過ぎる。リアリティを高めたつもりだろうが,醜悪なだけだ。
 ■『八日目の蝉』:邦画としては,力作の部類に入るだろう。「優しかったお母さんは,私を誘拐した人でした」のキャッチコピー通り,愛人の子を誘拐した女に4年間育てられた少女の成長後の葛藤が主題だ。監督は『孤高のメス』(10)の成島出。この監督はうまい。脚本もいい。角田光代の原作がしっかりしているせいか,女性同士の想いもさもありなんと感じさせてくれる。主演の井上真央も永作博美も好い味を出している。ただし,あまり幸せな気分にはなれない。この映画でもまた,こんな変な家庭は見たくない気分になる。文学としてはこれで良くても,映画としてはもう少し躍動感と感動が欲しかった。原作を崩してでも,誘拐犯と少女の結末を変えた方が良かったのではと感じた。
 ■『スコット・ピルグリムVS.邪悪な元カレ軍団』:カナダ製の人気コミックの実写映画化作品である。主人公がロック・バンドのベーシストなので,全編でロック・ミュージックが鳴り響き,画面には「Zzzzz…」「Bang! Bang!…」といった漫画風効果音が重畳描画される新感覚映像だ。コミックや音楽が好き,映画も大好き,その上CG/VFXもしっかり使われているとなれば,筆者のお気に入りのはずなのだが,さっぱり乗れなかった。日本のゲーム&漫画のパロディー満載らしいが,全く理解できなかった。これがゲーム世代のノリなのだろう。想定観客のセグメントは狭いが,当欄の評価など気にせず,肌が合う世代は積極的に観に行けば良い。感動ものだけでなく,これもまた映画である。
 ■『四つのいのち』:ユニークな芸術作品である。映像による自然の抒情詩とでも呼ぶのだろうか。セリフは全くないドキュメンタリー調の映像だが,ちゃんと脚本があり,犬や山羊にも演技させているらしい。本作での4つの命とは,人間・動物・植物・炭であり,カラブリア地方の山村を舞台に,山羊を飼う老牧夫の生活,大きな樅の木が育つ様や,それが切られて木炭となる様子を淡々と描いている。美しい個性的な映像だ。映画館の大きなスクリーンで観て欲しいが,これで大勢の客を映画館に呼ぶことは難しいだろう。後日Blu-rayディスクを買って,大きめのTVモニターで見ても価値はある。各場面が印象派の絵画のようにも見える。それはカメラ固定での長回しを多用しているためだろう。
 ■『アンノウン』:思索的な役柄が多かったリーアム・ニーソンが,『96時間』(08)の元CIA工作員役で新境地を見せてくれた。本作はその延長線上にあるアクション・サスペンスで,夫婦で海外の学会に参加する学者が陰謀に巻き込まれる設定は,ヒッチコックの『引き裂かれたカーテン』(66)を思い出す。荒唐無稽と思える描写はなく,謎解きのひねりは適度で,アクションもカーチェイスも小気味いい。女性たちの使い方も上々で,バランスの良い極上エンターテインメントに仕上がっている。当初の邦題は『身元不明』だったが,大震災の余波で原題の片仮名表記に改題された。『行方不明』ではないのだから,そこまで自粛する必要はないと感じた。ただし,この内容にピッタリなのは,むしろ『正体不明』だろう。中身は,正真正銘面白い。
 ■『少女たちの羅針盤』:原作は「ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」を受賞した水生大海のミステリー小説。女子高生4人の演劇ユニット「羅針盤」を巡る青春映画であり,4年前の殺人事件の真相を探るミステリーである。最初から犯人は現在女優であることは明かされているが,「衝撃のラスト!」というほどのサプライズはない。もう一ひねりか二ひねり欲しかったところだ。脚本も原作も弱いせいだろう。新進女優たちの演技もまだぎこちないが,監督の演出は悪くない。最初,リーダー格の少女(成海璃子)以外の3人(忽那汐里,森田彩華,草刈麻有)は茫洋としていて,見分けがつかなかったが,次第に1人ずつ個性を引き出して行く手際は見事だ。監督は『西の魔女が死んだ』(08)の長崎俊一。この監督の今後の作品と4人の誰がこの世界で末長く生き残れるかは,楽しみにしておこう。  
   
   
  (上記のうち,『豆富小僧』『少女たちの羅針盤』はO plus E誌には非掲載です)  
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