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O plus E誌 2014年9月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   『めぐり逢わせのお弁当』:インド人サラリーマンは,愛妻弁当を出勤時に持参せず,昼食前に自宅から勤務先までの弁当配達サービスがあるようだ。往路だけでなく,食後の弁当箱を戻す復路までサポートされていることに,少し驚いた。その中で「600万分の1」の確率で起こった誤配送から,妻を亡くして孤独な初老のサージャンと夫の愛を得られずに悩む若妻イラが,弁当箱を介した文通を始める。心を込めた手料理で2人の繊細な心が通い合う展開は,まさに「乙な味」の物語だ。中年以上の男性観客は,この先2人はどうなるのだろうと,我が事のように見守ることだろう。その期待を巧みにかわす,身の程をわきまえた大人の映画であり,少し余韻をもたせた結末は巧みだとだけ言っておこう。大都会ムンバイの公共交通,オフィスや家庭の様子等,経済的に伸び盛りのインド社会の描き方も興味深い。
 『ローマ環状線,めぐりゆく人生たち』:大都市ローマを囲む全長70kmの高速環状道路GRAの周辺に住む人々の暮らしを描いたノンフィクション作品である。ヴェネチア国際映画祭史上初めて金獅子賞を受賞したドキュメンタリー映画だというので,少し構えて観てしまった。さほどのものかと思ったのが第一印象だが,植物学者,没落貴族,救急隊員,ウナギ漁師等の生活や発言を描く手法は,強いインパクトを与えてくれる。感動はないが,印象的だ。所謂インタビュー形式ではなく,ナレーションもない。深く彼らと交流し,信頼を得て,カメラやマイクをセットしているゆえに捉えることができた映像だ。それぞれが,人生の切り絵だと言えようか。次項で述べる芸術的な町もローマなら,この映画で描かれる日常生活もまたローマである。
 『グレート・ビューティー/追憶のローマ』:イタリア映画が続く。イタリアの日(6月2日)に,イタリア大使館主催の特別上映会で本作を観た。周りには,いかにもイタリア好きと思しき女性観客の姿が目立った。主人公は60代の作家で,初恋の女性の死の報を受け,喪失感からローマの街を彷徨う。まるでガイド抜きの名所観光,美術館巡りだ。監督は,パオロ・ソレンティーノ。明らかに,同国の名匠F・フェリーニの『甘い生活』(60)を意識している。筆者はこの映画を高校生の時に観たが,難解で,全く理解できなかった。それを意識した本作の美学も,やはり難解だ。最も大きな違いは,本作はカラー作品で,ローマの魅力を美しい映像で捉えている。とりわけ,エンドロールは出色だ。これは,理解などしようとせず,ただただ感じれば良いのだろう。宣伝文句は「息を飲むほど美しい」だが,こと映像に関しては,本編の前に上映されたイタリア観光のPVの画質の方が,はるかに美しかった。
 『グレート・デイズ!-夢に挑んだ父と子-』:3種競技トライアスロンの各距離を大幅延長した耐久競技「アイアンマンレース」に,何と脳障害がある車椅子生活の息子が,父を誘って挑戦する。過酷で無謀な挑戦の過程で,不器用な父と反抗期の息子が,次第に心が通い合う様は,当然感動ものだ。まさか表題を「アイアンマン」にする訳には行かなかっただろうが,この邦題は陳腐過ぎる。物語は至ってシンプルで,終盤を前にもう一ひねりあっても良かったかと思う。フランス映画で,この家族はアヌシー地方に住んでいる。練習時に見えるアルプスの山々が頗る美しく,レース開催地のニースの光景も印象的だ。余談だが,母親役の仏女優(アレクサンドラ・ラミー)がキャメロン・ディアスに似ていて,どうも最後までそれが気になって仕方がなかった。
 『クライマー パタゴニアの彼方へ』:こちらは,ロック・クライミングでの難攻不落の山への挑戦ドキュメンタリーだ。目指すは,南米パタゴニアの鋭峰セロトーレ。標高3,102mというから,前々号の『ビヨンド・ザ・エッジ 歴史を変えたエベレスト初登頂』に比べていかほどのものかと思ったが,岩山を鉈で割ったような山頂の形状を見て,難易度の高さを納得した。ここを命綱と素手の「フリークライミング」で登るのは,若き天才クライマー"デビッド・ラマ"をもってしても,3度目で決死の挑戦だ。その登頂過程を収めた映像に息を呑む。ヘリから撮った周囲の山々,同伴者や撮影クルーが捉えたラマのクライミング姿,それを切り替える編集技術のどれもが素晴らしい。ラマ自身の挑戦心とスキルもさることながら,タッグを組んだペーター・オルトナーや撮影クルーも,よくぞこの鋭峰を登り切ったものだ。山頂に立つ彼らの爽やかな姿に,思わず拍手したくなる。
 『わたしは生きていける』:名子役として登場した少女が,女優として大成して行く過程を見守るのは,映画ファンの愉しみの一つだ。筆者の最近の注目株は,クロエ・グレース・モレッツとエマ・ワトソン,そして本作で主演のシアーシャ・ローナンである。出演時には19歳,役柄は16歳だが,随分大人になったものだ。舞台は英国の田園地帯のブラッケンデール。派手な化粧のヤンキー娘で登場し,従兄との恋に落ちるとともに素朴な少女の表情になる。ただの青春ドラマかと思いきや,中盤以降,何と第3次世界大戦が勃発し,戒厳令下のサバイバル物語と化す。こうなると彼女の本領発揮で,今度は次第にクールでタフな女に変身し,テロリスト達と戦いながら,戦火の中を生き延びる……。まるで,彼女の演技力を測るために企画されたような映画だ。物語の骨格がしっかりしていると感じたが,原作小説は,英国の権威ある児童文学賞受賞作品だった。
 『イヴ・サンローラン』:言うまでもなく,20世紀後半のファッション界をリードした天才デザイナーの伝記映画である。2008年に71歳で没したが,YSLのイニシャルをフィーチャーしたロゴマークは今も新鮮だ。マスコミ用試写には,カラフルで奇抜な出立ちの業界関係が多数いて,筆者などは場違いの感すらあった。映画としては,数年前に立て続けに公開された『ココ・シャネル』(09年8月号)『ココ・アヴァン・シャネル』(同9月号)と比べたくなるが,若くしてクリスチャン・ディオールに見出され,21歳で後継者となったゆえに,成功譚はなく,物語性は希薄だ。「モードの帝王」としての名声を得てからは,孤独,薬物使用,アルコール依存症…と,著名人のお決まりのパターンだ。では,退屈極まりないかと言えば,1976年の発表会は白眉で,女性ファッションには無縁の筆者が観ても圧巻だった。随所に登場するパリの光景が美しい。
 『チング 永遠の絆』:2001年に製作され,大ヒットした韓国映画『友へ チング』の続編である。劇中では17年が経過していて,親友ドンスの殺人教唆で収監された主人公ジャンソク(ユ・オソン)の服役中から物語は始まり,出所後の裏社会での攻防が描かれる。前作の前半は,子供時代からの親友4人組を描いた青春物語の側面もあったが,本作は徹底したノワールアクションだ。所々で父親イ・チョルジュ(チュ・ジンモ)の若き日の前日譚が挿入される手口は,『ゴッド・ファーザー PART II』(74)を意識してのものだろう。存在感のある準主役は,ジュンソクと刑務所内で知りあったソンフンで,若手有望株のキム・ウビンが好演している。彼の出自が,予告編や解説で明かされているが,余計な配慮だ。未見の読者はそれを知らずにこの映画を観た方が,それだけ衝撃度も大きく,楽しめるかと思う。
 『フライト・ゲーム』:主演は,『96時間』(08)で,知性派から一躍アクションスターに変身したリーアム・ニーソン。同系列の『アンノウン』(11)も面白かったが,その製作チームが,NYからロンドンに向かう旅客機内の連続殺人事件に,機内警備担当の連邦保安官が立ち向かうサスペンス・アクションを送り出した。「真面目ヅラの秘密兵器」「アガサ・クリスティと『ダイ・ハード』の邂逅」なる評は,言い得て妙だ。ジョディ・フォスター主演の『フライトプラン』(05)の美術チームが担当した機内セットには磨きがかかっているし,不時着時の機体の破損を描いたVFXも上出来だ。共演のジュリアン・ムーアも好演している。面白さは本年度公開映画のベスト3に入るし,エア・パニック映画史上のベスト1だろう。難点は凡庸な邦題で,これでは印象に残らない。『エアポート2014』と付ける訳には行かなかっただろうが,それなら別の刺激的な題が欲しかった。
 『フルスロットル』:主演は,昨年秋に自動車事故で急逝したポール・ウォーカー。出世作『ワイルド・スピード』シリーズの7作目が遺作で残っているが,登場場面はわずかとのことなので,本作が最後の主演作品である。時代は近未来の2018年,舞台は犯罪都市化したデトロイト郊外の無法地帯で,役柄は大量破壊兵器の利用を阻止する潜入捜査官というから,まさにハマリ役だ。彼に相応しい邦題がついているし,フォード・マスタングで疾走するカーアクションもしっかり用意されている。競演は「パルクール」の達人ダヴィッド・ベル。映画『YAMAKASI』(01)で一躍有名になった屋根から屋根への移動や跳躍技術である。この身体能力抜群の相棒を得て,P・ウォーカーも負けじとエンジン全開で活躍する。そのノンストップ振りは,次なる『サスペクト』と好勝負だ。強くて無敵なのは爽快と言えるが,表現が漫画的過ぎ,リアリティに欠けるのが難点だ。
 『サスペクト 哀しき容疑者』:何しろ凄まじいノンストップ・アクションで,スピード感ではこちらの方が上だ。主人公は,妻子を殺された元北朝鮮特殊部隊のエリート工作員。真犯人を探すため,脱北して韓国で孤独に暮らしている。ところが,国家的陰謀に巻き込まれ,殺人事件の容疑者に仕立て上げられてしまう。追跡者かつ容疑者の二重の宿命で,チェイス・アクションも倍増している設定だ。主演のコン・ユは,上川隆也似のナイスガイであるだが,アクション演技も様になっている。演出は,多分に「ボーン・シリーズ」を意識していると感じられた。とにかくスピード感たっぷりで,目まぐるしい展開だ。あまりの過激さに,もう少しじっくり見せて欲しいと言いたくなる。映像としては,デパート内でのチェイス・シーンが抜群に面白かった。
 
   
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