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O plus E誌 2010年10月号掲載
 
    
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『終着駅 トルストイ最後の旅』:82歳にして家出し,旅先で病死した文豪トルストイの最期を描く。今年で没後100年らしいが,もっと古い時代の大作家だと思っていた。主人公は悪妻として名高いソフィヤ夫人だが,彼女の名誉挽回とも言える愛の物語である。 偶像視と教条主義に蹂躙された夫婦愛というテーマは,現代風の解釈なのだろうが,重厚かつ魂を揺さぶる物語に仕上がっている。オスカーにノミネートされたヘレン・ミレンの気品ある演技に対して,助演陣の好演ぶりも負けていない。惜しむらくは,独・露合作なのにセリフが英語であることだ。可能なら,DVDはロシア語吹替え,日本語字幕で観られるようにして欲しい。
 ■『食べて,祈って,恋をして』:ジュリア・ロバーツ主演のレディース・ムービー。全世界の女性の支持を得て,700万部を売ったというベストセラーの映画化作品だ。一方的に旦那を捨てて離婚し,自分探しの旅に出て,食べて恋して,それを綴ってベストセラーじゃ,笑いが止まらないだろう。これじゃ,誰だって憧れる。恐らくこの本は,通勤電車でたっぷり読書の時間があるOLが読むのに適している。140分の映画は,平板で長過ぎて退屈する.「映像版 地球の歩き方」としては,イタリアまでは良くできているが,中盤のインド,後半のバリ島の部分が,ダラダラ長くて苦痛だ。
 ■『TSUNAMI -ツナミ-』:『日本沈没』(06年7月号)に触発されて製作したという韓国製の災害パニック映画で,サザンのレコード大賞受賞曲とは何の関係もない。日本海で地震が起き,高さ100mの大津波が釜山のリゾート海岸に押し寄せるという設定だ。『デイ・アフター・トゥモロー』(04年7月号) のVFXスーパバイザーを招いて指導を受けたという。今どき津波をCGで描くことはそう難しくないが,人々が濁流の中を逃げ惑うシーンや破壊された街の描写は良くできていた。CGの一部に安っぽいところはあるが,VFXの規模は韓国映画としては出色だ。それに比べて,前半はどうしようもなく退屈だし,人間模様も薄っぺらだ。何で韓国人はいつもこうして怒鳴り合っているのだろう。騒々しくてかなわない。例によって,美形の女優とそうでない俳優の容貌の差があり過ぎる。
 ■『十三人の刺客』:日本映画界を代表する奇才・三池崇史監督。惜しむらくは,どんな作品でも引き受ける多作で,作品の質にバラツキがある。もう少し数を絞って佳作を生み出して欲しいと願っていたが,多作の中のままで上質の娯楽作品を生み出した。1963年公開の同名映画のリメイクだが,原版の13人対53人で30分の戦いが,200人以上との50分の激闘にスケールアップされている。冒頭から本格派時代劇らしい風格があり,かつ三池作品らしいバイオレンスも冴えている。きちんと殺陣をデザインせず,自由に立ち回りさせたのを撮ったらしいが,そのワイルドさが伝わって来る。戦いの舞台となる落合宿のオープンセットも素晴らしい。『七人の侍』へのオマージュと思しきシーンの数々も嬉しい。これぞ映画だ。本年度の邦画有数のエンターテインメント快作だ。
 ■『シングルマン』:こちらは,コリン・ファースがアカデミー賞主演男優賞部門にノミネートされていた作品だ。愛するゲイのパートナーを失った中年男性が,絶望から命を断とうとする最期の日の行動を描く。監督は,これが映画デビューとなるトム・フォード。ファッション・デザイン界ではかなり高名な人物のようだ。なるほど,構図,色調,音楽の使い方等,類い稀なる美意識と才能を感じる。純文学調で,論評に値する作品ではあるが,感情移入はできない。1962年という時代設定に疑問を感じるし,ゲイの心情は筆者には到底理解不能だ。女性や1962年にまだ生まれていなかった人々は,この映画をどう受け止めるのだろう?
 ■『アイルトン・セナ~音速の彼方へ』:80年代から90年代前半にかけて,日曜日の深夜,仕事をしながらF1レースの大半を観ていた。94年に「音速の貴公子」セナがイモラ・サーキットに散った日のことは,今でも鮮明に覚えている。あれから16年,そのスーパースターの生誕50年を記念して製作されたドキュメンタリーは,アラン・プロストやFIA委員長との確執や,事故当日の不安な表情までを克明に描く。ドライバーズ・ミーティングでの発言,プライベートな映像など,貴重な記録もあるが,全体的に映像の画質も音質も悪く,レースの迫力が伝わって来ない。もう一工夫欲しかった。
 ■『死刑台のエレベーター』:1957年製作の仏ヌーベルバーグの名作を邦画としてリメイクするのも異例なら,冒頭のセリフから,物語展開,印象的なカット,ラストまでほぼ同じという。そう聞いたので,先にこの映画を観てから,未見であったオリジナルを観た。なるほど,そっくりだ。予備知識なく全くの新作として観れば,洋画の香りがする上質のサスペンス映画だ。リメイクというより,絵画の模写,いや音楽のカバー版に相当する。舞台となるエレベーターで,横浜の古い洋館を選んだのが成功要因だ。うまく現代日本に置き換えているし,テンポも音楽も良い。プロットの面白さはオリジナル版に依存している等々,種々批判はあるだろうが,それをモノともせず挑戦したことは評価できる。
 ■『半次郎』:鹿児島県出身の俳優・榎木孝明が企画・主演し,同県のバックアップを得て完成させた作品。西郷隆盛の腹心として,幕末から明治維新期を生きた薩摩藩士・中村半次郎(桐野利秋)が,西南戦争で憤死するまでの生涯を演じる。日頃,歴史の表舞台には脇役としてしか登場しないこの人物や,同戦争で果てた同僚,永山弥一郎・村田新八・篠原国幹・別府晋介らにスポットライトが当たるのは,時代劇ブーム/幕末ブームゆえだろうか。インディペンデント系らしいタッチで物語は進行するが,幕末動乱期の描写が短く,彼らが自らの死に場所と定めた政府軍との戦いに多くの時間を費やしている。鹿児島県人ならずとも,見応え十分だ。
 ■『桜田門外ノ変』:『半次郎』とは好一対の幕末もので,こちらは茨城県が支援する地方創生映画だ。井伊大老暗殺事件の実動部隊の指揮者であった関鉄之介(大沢たかお)を中心に,襲撃に関与した水戸藩士・浪士たちの事件後の行方を追う。堂々たるドキュメンタリー・タッチの描写は,「その時歴史が動いた」の拡大劇場版の趣きがある。監督は『男たちの大和/YAMATO』(05)の佐藤純彌。美術監督・松宮敏之も同じで,今度は実物大の戦艦大和でなく,彦根藩上屋敷から桜田門に至る見事なオープンセットを作って見せた。その他の武家屋敷,江戸城内,町家,農家の内外装・調度類にも一部の隙もない。徳川斉昭役の北大路欣也の堂々たる演技も含めて,さすが時代劇の東映だ。これが伝統というものか。
 ■『インシテミル 7日間のデス・ゲーム』:原作は米澤穂信作の本格派ミステリー。いわゆるクローズドサークルものだが,登場人物12名が映画では10名に減っている。同数のインディアン人形が出て来ることから,これはアガサ・クリスティーの「そして誰もいなくなった」へのオマージュだと分かる。藤原竜也主演で,『デスノート』(06)『カイジ』(09)『ライアーゲーム』(10)と続いた「心理戦ムービーの決定版」とのことだが,さして高度な心理戦でも謎解きでもない。若者向けの邦画としては平均レベルの出来映えで,ミステリー映画入門にはなるだろう。ただし,古今東西のこの種の作品の中では,中の下程度の評価に留まる。
 ■『エクスペンダブルズ』:シルベスター・スタローンが監督・脚本・主演を務めるアクション大作。彼の作なら,ひねりも暗示もなく,単純明快で分かりやすいこと保証付きである。凄腕の傭兵部隊が主人公で,表題は「消耗品軍団」の意とのことだ。共演者にジェイソン・ステイサム,ジェット・リー,ミッキー・ロークらがいて,B・ウィリス,A・シュワルツェネッガーまでカメオ出演させるというサービスぶりだ。過激な銃撃戦や肉弾戦は予想したが,爆発や銃弾の数が凄まじい。快感だけが目的の娯楽作とはいえ,やり過ぎじゃないか。これでは,騒音だらけのロック・コンサート,深夜の暴走族の振る舞いと大差がない。映画なら,少しは感動や感激を生むものにできないものか。  
   
  (上記のうち,『TSUNAMI -ツナミー』『十三人の刺客』はO plus E誌には非掲載です)  
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