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O plus E誌 2009年5月号掲載
 
    
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『ミルク』 :ショーン・ペンが2度目のアカデミー賞主演男優賞を得た話題作だ。時代は1970年代のアメリカ,ゲイであることを公言して運動を続け,凶弾に倒れた政治家ハーヴィー・ミルクの人生をドキュメンタリー・タッチで描く。なるほどショーン・ペンは達者な演技を見せてくれるが,驚くほどのものではなく,想定の範囲内だ。映画全体は社会科の教科書を読むようで,同時代の米国史に興味がない限り,平板で退屈だ。そんなに欲しいならゲイ達にも公民権を与えてやってもいいが,男同士の濃厚なキス・シーンは止めてくれ! 他人には気味悪いだけで,甚だ迷惑だ。
 ■『バーン・アフター・リーディング』 :昨年『ノーカントリー』(07)でアカデミー賞作品賞・監督賞等に輝いたコーエン兄弟の最新作。同作品で少し新境地を拓いたが,またまた良くも悪くもいつものシニカル・コメディに逆戻りだ。オスカー監督の勲章を得て,まさにやりたい放題,コーエン節が高らかに響き渡り,個性派俳優たちが毒を撒き散らす。エンドロールで流れる人を小馬鹿にしたような曲「CIAマン」などはその極致だ。根っからのファンには改めて語ることはないが,『ノーカントリー』で初めてコーエン兄弟を気に入った観客には,この味付けも賞味してみることを勧める。
 ■『レイン・フォール/雨の牙』:こちらもCIAものだが,テーマはまるで違う。洋画配給会社が出資して製作する邦画で,日系ハーフの殺し屋の主人公が椎名桔平,ヒロインが長谷川京子という組み合わせだ。東京が舞台だが,タッチはまるで洋画のハードボイルド・サスペンスだ。監督・脚本はオーストラリア出身のマックス・マニックス,撮影・編集にも豪州人スタッフを起用しただけで,ここまで洋画になってしまうものか。CIAアジア支局長を演じるゲイリー・オールドマンの登場だけで,作品全体が引き締まっている。では,ハリウッド製洋画と思って評価すると,可もなく不可もない標準レベルだ。これじゃジェイソン・ボーンには勝てないな。
 ■『グラン・トリノ』:カー・レースを想像させるような表題だが,自動車工を引退した主人公が今もこよなく愛す'72年製のスポーティ・カーの車名だ。クリント・イーストウッド監督・主演の人間ドラマである。気難しく口の悪い老人役は,俳優としてのイーストウッドにぴったりで,隣人のアジア系移民一家と心を通わせ行く下りの心地よさは,監督としての彼の真骨頂だ。前評判通りの良作で,衝撃的な結末には会場からすすり泣きが聴こえた。エンディングに流れる主題歌には痺れた。その半面,オスカー候補となるには何かが足りなかったと感じた。物語が一直線過ぎて,コクが足りない。別の監督・主演男優なら,全くの凡作だったと思う。
 ■『デュプリシティ ~スパイは,スパイに嘘をつく~』:今度は元CIA諜報員(ジュリア・ロバーツ)元MI6諜報員(クライヴ・オーウェン)が共に産業スパイに転じ,トイレタリー業界の企業戦争で虚々実々の頭脳戦を繰り広げる物語だ。脚本・監督は『フィクサー』(07)で鮮烈な監督デビューを飾ったトニー・ギルロイ。「ジェイソン・ボーン」シリーズの脚色で名をなしただけあって,本作も練りに練った脚本だ。どこまでが嘘か駆け引きか,終始幻惑される。結末を書く訳に行かないが,副題がヒントとだけ言っておこう。主演の美男美女の衣装も小粋で,颯爽とした出で立ち,洒落た会話も楽しめるが,何よりもサングラス姿が決まっている。
 ■『ビバリーヒルズ・チワワ』  :動物がしゃべり,冒険する典型的なディズニー流ファミリー映画だ。ビバリーヒルズ育ちのチワワが盗賊団に誘拐されるが,逃げ出し,メキシコを旅するロード・ムービー仕立てになっている。ブランド名に恥じない,楽しい健全な映画で,同伴の保護者も安心して見ていられる。ただし,それ以上のものではない。CGもふんだんで,アニマルトークも改善されているが,特筆することはない。メキシコ観光映画として,どのシーンもカラフルでリッチに作ってある。美術班は楽しんで作ったことだろう。ただし,いくら何でも,ここまで警察が暇で親切な訳がない。その点は子供だましだが,ディズニーランドのアトラクションと考えて観るなら,全く不満はない。
 ■『チェイサー』  :連続猟奇殺人事件を描いた韓国映画だ。何の予備知識もなく観たが,これが抜群に面白い。韓国アカデミー賞6部門の受賞作品で,しかも新人監督の作だという。冷酷・残虐な殺人鬼を追う緊迫感の演出は大したものだ。それにしても,恋愛もの以外の韓国映画は,何でこんなに汚い世界を描くのか。実話とはいえ,筆者はこの結末は納得できない。観客を不快にさせるだけだ。韓国人俳優を観ると,ついつい誰に似ているのかを探してしまうが,元刑事の主人公は桑田佳祐に,殺人犯は山崎貴監督に似ている。
 ■『THE CODE/暗号』  :一貫して探偵映画を作り続ける林海象監督は,『探偵事務所5』シリーズをインターネット配信している。その劇場版だけあって,少し贅沢な作りになっている。主人公は暗号解読の天才・探偵507(尾上菊之助)で,中国人顧客からの依頼で上海に出向くが,旧日本陸軍の財宝探しに巻き込まれ……。異国情緒豊かで映像的にも見どころは多く,時代不詳のアナクロ的な描写も計算づくだ。意外性を持たせようとする展開の意図は分かるが,終盤の二転三転は詰め込み過ぎで,少ししつこく感じた。とはいえ,尾上菊之助が結構いいし,ベテラン俳優・宍戸錠と松方弘樹の対決シーンはなかなかの見ものだった。
 ■『60歳のラブレター』  :達者な脚本だ。演出もオーソドックスで悪くない。還暦にさしかかった3組の夫婦の人間模様と人生の機微を,30代の脚本家と監督が描く。青春アイドルだった中村雅俊・井上順も,もうこういう歳かと感慨深い。中村雅俊・原田美枝子組は中村雅俊がカッコ良過ぎて,結末がちょっとベタ過ぎる。むしろ,イッセー尾形・綾戸智絵組のギターのエピソードの方がいい。万人に理解できる感動系のドラマではあるが,強いて難を言えば,「団塊の世代」特有のテイストが入っていない。それでも,いい人間讃歌,夫婦善哉だ。3話ともしっかり泣かせてくれる。この映画を見れば熟年離婚は減るだろう。では夫婦揃って観に行くかと言えば,団塊の世代は気恥ずかしく,1人ずつ別々に観に行くことだろう。
 ■『鈍獣』  :売れっ子脚本家・宮藤官九郎が書き下ろした舞台劇は,演劇界で岸田國士戯曲賞に輝く伝説の舞台だったという。その当人が脚本を担当した映画なのに,どうしてこんな無残な結果になるのかと不思議だ。『舞妓Haaaan!!!』(07)のような楽しさを期待してはいけない。ギラギラした室内装飾にも超個性的な登場人物にも,まるで魅力が感じられない。ドイツ生まれの日本人監督は,これを前衛アートのつもりで撮ったのか? とても入場料を払って観るエンターテインメントとは思えない。
 ■『重力ピエロ』  :伊坂幸太郎作の同名小説の映画化で,監督はこれがデビュー作となる森淳一。少し重いテーマの家族愛の物語だが,それをさらりと描いた手腕も主要キャストの演技も悪くない。イケメンの次男を演じる岡田将生がいいし,父親役の小日向文世に至っては,これが彼の個性を最も活かした作品となるだろう。難を言えば,少し淡泊で綺麗に描き過ぎだろうか。(少しネタバレになるが)クライマックスの炎上シーンは,もっと激しいアクションがあってもいいのではないか。そもそもこれだけの犯罪が発覚しないで済む訳がないと感じてしまう。そのリアリティのなさが欠点だ。
 ■『レスラー』  :何という素晴らしい心に残る演技だ。この名演にオスカーを与えなかったアカデミー会員の目は節穴だ。胸を鷲掴みにされるという表現は,この映画のためにあるかのようだ。ミッキー・ローク演じる中年プロレスラーが無茶をする度に,観ている側の心臓が痛む。自分が肌にホチキスを打たれたような痛みまで感じる。前半のプロレス・シーンは生々し過ぎて目を背けたくなるが,その後に感動の人間ドラマが待っていた。栄光と挫折,これほど1人で生きて行く淋しさを感じさせる映画はない。ストリッパーとの愛が実りかけた時,命を賭けて試合に臨む姿が痛々しい。そして,迎えるエンディング……。解説は無用だ。自分で映画館で観て,何かを感じるべきだ。
   
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