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O plus E誌 2010年2月号掲載
 
 
 
ラブリーボーン』
(パラマウント ピクチャーズ
&ドリームワークス映画)
 
      (C)2009 DW STUDIOS L.L.C.  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]  
 
  [1月29日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開予定]   2010年1月14日 梅田ピカデリー  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  展開もビジュアルも映画ファンの予想を覆す意外性  
   今月は秀作・話題作が多かったが,積み残しの『アバター』に紙数を費やしたため,他の作品が圧迫されてしまった。迷った挙句,『インビクタス/負けざる者たち』を短評欄に追いやって,最後に残ったのが本作品だ。あのピーター・ジャクソン監督の『キング・コング』(06年1月号)以来の監督作品である。製作総指揮の中にはスティーブン・スピルバーグも名を連ねている。VFXの主担当は,勿論Weta Digitalである。『アバター』の傍らの作業だったと分かっていても,これだけのビッグネームが揃うと見逃す訳には行かない。
 14歳で殺された少女が,天国から残された家族や友人たちを見守る話だという。それじゃ,CGの活躍の場面はどっさりあるだろう。原題は『The Lovely Bones』で,原作は米国の作家アリス・シーボルトが2002年に著した同名小説である。主人公の少女スージー・サーモン役に起用されたのは,『つぐない』(08年4月号)で物語の語り手ブライオニー(キーラ・ナイトレイの妹役)の少女時代を演じていたシアーシャ・ローナンだ。清楚な感じの美少女だが,演技力も確かで,将来が楽しみだ。彼女の父親役にマーク・ウォールバーグ,母親役にレイチェル・ワイズ,そして母方の祖母がスーザン・サランドンで,オスカー俳優が助演陣に並ぶのは壮観だ。
 設定は少し奇抜でも,P・ジャクソン,S・スピルバーグという組合せからは,分かりやすい,映画らしい盛り上がりのオーソドックスな物語を想像した。意外にも,この予想が大きく外れた。難解というほどではないが,そうすんなりと理解できる作品ではない。セールスポイントは,感動ドラマの演出なのか,考えさせる思索的な作品なのか,それともひたすらビジュアル面での斬新さを狙った映画なのか,今一つ判然としない。以下,大きなネタバレではないが,この映画の展開に関する記述が続くので,そう理解して読んで頂きたい。
 スージーが殺された後の話であることは分かっている。ならば,冒頭ですぐに死ぬのかと思えば,殺人事件までに結構時間がかかる。犯人はしばらく顔を明らかにしない。これは徹底して見せない作戦かと思えば,途中で明らかになり,後はずっと出ずっぱりだ。死後,すぐに天国に行くのかと思えば,これがそうでもない。弟や父親が彼女の存在を感じるシーンがあるから,『ゴースト/ニューヨークの幻』(90)のように生者と交信するロマンチックな話かと思えば,そうでもない。犯人を疑い出した妹の身に危険が及ぶサスペンスかと思えば,これも途中で立ち消えになる。父親が死んで天国で再会するのかと思わせておいて,結局そうはならない。
 ここまで来ると,徹底して観客の予想を裏切る作戦だと気がつく。クライマックスで彼女の遺体が発見されるのか息詰まる場面が続くが,見事に裏切られる。伏線として登場していたつららが犯人の頭上にあり,これが結末かと思いきや……。うーん,最後まで騙された。
 死後の世界を描いたビジュアル面も同様だった。どう見ても天国に見えたが,まだ天国と現世の間なのだという(写真1)。明るく輝かしい世界かと思えば,一転してダークな描写も登場する(写真2)。それでも大半はいかにも死後の世界だが,全く現実世界と変わらない自然な光景も存在する(写真3)。その自然な光景から,木の葉がかけ落ち,山が動き,トウモロコシ畑が割れるなど,VFXのオンパレードだ(写真4)。この演出の変幻自在も全く予想がつかなかった。これは完全主義者P・ジャクソンが綿密に計算したものなのか,それともアーティスト達にやり放題にさせた結果なのだろうか?
 この映画の中で,ヒッチコックばりに,P・ジャクソン監督が一瞬登場するシーンがある(ように見えた)。彼にとって,この作品はある種のお遊びだったのだろうか。それにしては見応えがあり,アカデミー賞ノミネート予想にも名前が挙がっている。
 
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写真1 ここは光り輝く天国かと思ったのだが……
 
   
 
写真2 だからといって,ダークな地獄でもない
 
   
 
写真3 ごく自然に見えるスージーの心象風景
 
   
 
 
 
写真4 こちらはシュールだが,物理的には全くの異次元世界
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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