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O plus E誌 2013年10月号掲載
 
 
許されざる者』
(ワーナー・ブラザース映画)
      (C) 2013 Warner Entertainment Japan Inc.
 
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [9月13日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開中]   2013年8月20日 松竹試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  出色のリメイク作で,渡辺謙に高倉健を見た  
  これまでにこの題で公開された映画・ビデオ作品は,洋画・邦画合わせて5本もあるが,いずれも全く独立した物語である。本作は,その中で最も著名な1992年のハリウッド映画『Unforgiven』をベースに日本映画としてリメイクされている。クリント・イーストウッド製作・監督・主演で,アカデミー賞には9部門でノミネートされ,作品賞・監督賞など4部門でオスカーを獲得した西部劇である。それまでに10数作でメガホンをとっていたC・イーストウッドだが,この映画で監督としても大きな称賛を浴び,その後,映画人として類い稀なる輝かしい功績を挙げることになる。
 この記念すべき傑作(以下,原作と呼ぶ)の日本版リメイクに挑んだのは,『フラガール』(06)『悪人』(10)の李相日監督だ。自らの企画を原作の版権をもつワーナー・ブラザースに持ち込み,同社とイーストウッド監督の製作許可を得たという。逆はあっても,ハリウッド映画でオスカー受賞作が邦画としてリメイクされるのは初めてのことだ。よほど自信があってのことだろう。
 舞台となるのは,1880年の北海道中部の寒村であり,原作と全くの同年で,米国ワイオミング州とほぼ同緯度の地が選ばれている。主役の釜田十兵衛を演じるのは,イーストウッド監督作品『硫黄島からの手紙』(06年12月号) で主演した渡辺謙。これなら,許可を得やすいキャスティングだ。モーガン・フリーマンが演じた賞金稼ぎの相棒には柄本明,ジーン・ハックマンが演じた敵役の保安官(警察署長)には佐藤浩市が配された。
 幕末期に人斬りとして名をはせた下級武士が,11年前に妻と出会って改心し,家庭を築き,2児を得るが,3年前に妻は他界する。未開の地で生活が困窮する中,遊女の顔を切り刻んだ男にかかった賞金を得るため,再び錆びついた刀を手にする……。という風に物語の骨格は原作に忠実で,人物関係から数字に至るまでを踏襲しているが,それでいて見事なまでに日本の時代劇に仕上がっている。馬にまたがった姿(写真1),銃を手にした構えなどは西部劇が下敷きにあると感じさせながら,登場人物の心情は日本の魂そのものだ。リメイク大成功作であり,文句なく,今年の邦画ベスト1である。
 
 
 
 
 
写真1 こうするといかにも西部劇風。服や馬の色も原作に似せている(組合せは違う)。
 
 
  とりわけ素晴らしいのが,大雪山を中心とした北海道の自然風景だ(写真2)。上川町に作られたオープンセットは原作の2倍で,何もない土地にライフラインまで引いての撮影だったというから,これもハリウッド級だ。登場人物中で,十兵衛の妻や賞金首を一緒に追う青年(柳楽優弥)はアイヌ出身という設定なので,原作のインディアンをそのまま置き換えたものかと思ったが,原作にそんな設定はなかった。この点では,原作の2年前にオスカーを獲得した西部劇映画『ダンス・ウイズ・ウルブス』(ゲヴィン・コスナー監督・主演)の要素を取り入れているのだろう。広大な自然風景は『ダンス…』をも彷彿とさせてくれる。
 
 
 
 
 
 
 
写真2 雄大な大雪山の麓に設営されたオープンセット。雪の中での撮影は,さぞかし過酷だっただろう。
 
 
  さて,本欄の主目的であるCG/VFXはと言えば,全く関係がない。エンドロールには10数名の名前があったが,一体どこで使われていたのだろう? 燃え盛る建物と人物の合成だろうか,それとも不自然な人工物の除去だろうか? 年に1度程度,メイン欄でCG/VFXとは無縁の佳作を取り上げる筆者の我が侭である。
 ところで,寡黙な主人公が俯き加減で話したあるセリフが,高倉健そっくりだったのに驚いた(写真3)。もともと筆者は,C・イーストウッドの枯れた役柄を演じられるのは,歳もほぼ同じ健さんだと感じていた。なるほど,北国の地で妻に先立たれ,無口で不器用な生き方をする本作の主人公は,彼にぴったりの役柄ではないか。相棒を虐殺され,敵地に単身で乗り込む姿は,健さんの仁侠物そのものだ。さすがに,20年前のイーストウッドを演じるのに現在の健さんでは無理だから,セカンド・ベストの謙さんになったと考えておこう。
 
 
 
 
 
写真3 寡黙で,ぼそっと吐き出すセリフが高倉健に似ている
(C) 2013 Warner Entertainment Japan Inc.
 
 
  ラストシーンで,傷つき,1人馬に乗って去って行く十兵衛の姿に,これを洋画化するならイーストウッド主演が最適だなと感じてしまった。ムムム,待てよ…?? 元はイーストウッド監督・主演作品だから当然のことなのだが,リメイクであることを忘れ,見事な邦画として見入っていたという次第である。
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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