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O plus E誌 非掲載
 
 
オズ はじまりの戦い』
(ウォルト・ディズニー映画)
      (C) 2012 Disney Enterprises, Inc.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [3月8日よりTOHOシネマズ 日劇ほか全国3D/2Dロードショー公開中]   2013年3月13日 TOHOシネマズ二条
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  あの名作の前日譚は,CG製の脇役たちが大収穫  
  言うまでもなく,ライマン・フランク・ボームの児童文学「オズの魔法使い」(The Wonderful Wizard of Oz)に関連した物語である。この原作は,何度も映画化,アニメ化,舞台化されているが,ビクター・フレミング監督,ジュディ・ガーランド主演で1939年公開の『オズの魔法使』(映画は「い」が付かない。以下,『魔法使』と略す)が,ミュージカル映画史に残る名作として名高い。本作はその前日譚とのことだが,予告編やTVスポットを観ただけで,『アリス・イン・ワンダーランド』(10年5月号)『スノーホワイト』(12年7月号)と同系列の作品だと分かる。それもそのはず,本作もプロデューサーは,その2作と同じジョー・ロスである。
 少し原作と『魔法使』について触れておこう。原作は1900年に初版というから,既に1世紀以上前のことである。1920年までに当人により13編の続編が書かれ,その後も他作家によって20数編の「オズもの」が出版されているというから,一大シリーズである。女性は少女時代によくこのシリーズを読むようだが,筆者は全く未読である。
 当初からカラー挿絵入りのビジュアル本だったというから,映画化は当然の帰結であり,1939年公開の『魔法使』は,当時流行のテクニカラーかつ特撮満載の意欲作だった。製作費が大幅超過になり,それでいて入場者の大半は子供料金だったため,興行収入は芳しくなかったという。その後,TVで繰り返し放映されているし,VHS/DVD等の売上げもかなりあり,結果的には大いにプラスだったと思われる。
 アカデミー賞では,6部門にノミネートされた。作品賞では同じ監督の『風と共に去りぬ』に敗れたが,作曲賞,オリジナル歌曲賞の2部門を受賞している。J・ガーランドが歌った主題歌「虹の彼方に」(Over the Rainbow)は,今やスタンダード曲となり,多数の歌手にカバーされている(筆者のiTunesには,Eric Clapton, Kenny G, Celtic Womanから,美空ひばり,加山雄三,手嶌葵まで,58曲も入っている)。
 筆者は,この『魔法使』をまともに観ていなかった。何度か挑戦したが,いずれも睡魔に襲われ,いずれも挫折した。名作とは聞いていても,この当時の映画はストーリー展開がかったるく,セリフも平板で,途中で退屈してしまう。本稿を執筆するに当たり,Blu-ray Discで購入して再挑戦したが,やはり途中で居眠りしてしまった。止むなく,早送りでざっと眺めた次第である。
 さて,紙数制限がないので前置きが長くなったが,本作は原作や『魔法使』の終盤に登場する大魔法使い「オズ」の誕生秘話たる前日譚である。てっきり上述のシリーズにある話かと思ったが,この映画用のオリジナル脚本とのことだ。とはいえ,『魔法使』中でオズ自身が,「自分は魔法使い(Wizard)ではなく,単なる手品師(Magician)で,気球に乗り,竜巻に飲み込まれて同名の国オズに迷い込んでしまった」と語る下りを基にしている。この制約だけを守り,後は自由に人物設定や物語を膨らませつつ,所々既視感のあるシーンを交えてファンを喜ばせるのだから,巧みなやり方である。少女ドロシーやブリキ男は登場しないが,オズ国の魔女たち(Witch)は3人も登場する。
 監督は,『スパイダーマン』シリーズ3作のサム・ライミ。B級ホラーも得意だが,こうした大作の見せ場も心得ている。主演の手品師オズ役には,同シリーズでピーター・パーカーの親友ハリーを演じたジェームズ・フランコ。S・ライミ監督との呼吸もばっちりだ。その後,『127時間』(11年6月号)『猿の惑星:創世記』(11年10月号) で堂々と主役に配されている売れっ子である。この役は,当初,『アイアンマン』シリーズのロバート・ダウニー,Jr.,続いて『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズのジョニー・デップが予定されていたという。なるほど,少しいい加減で,大言壮語僻のある人物には,彼らの方が似合っている。両人とも実現せず,J・フランコに役が回ってきた。精一杯,この役をこなしている感はあるが,J・デップが演じた『アリス・イン……』の帽子屋を少し意識し過ぎと見て取れた。
 魔女陣たちは,まず善良な南の魔女グリンダ(『魔法使』では,北の魔女)に,『マリリン 7日間の恋』(12年4月号)のミシェル・ウィリアムズ。精一杯演じているが,ヒロインとしては少し弱い。敵対する邪悪な魔女役は2人で,東の魔女エヴァノラにダニエル・クレイグ夫人のレイチェル・ワイズ,その妹の西の魔女セオドラに『ブラック・スワン』(11年5月号)のミラ・クルス。役柄としてはミラ・クルスの方が重いが,美貌と威厳でR・ワイズの存在感の方が上だった。『スノーホワイト』のシャーリーズ・セロンと好一対と言えようか。
 以下,CG/VFXを中心とした見どころである。
 ■ サーカスで働く手品師のオズが,カンザスの町から気球に乗って逃げ出し,竜巻に巻き込まれて不思議なオズの国に辿り着くというのは,『魔法使』での語りの通りであり,少女ドロシーが遭遇したのと同じ展開である。カンザスはモノクロで描き,オズの国に入った途端にカラーになるという演出も踏襲している(写真1)。『魔法使』がともにスタンダード・サイズ(3:4)であったのに対して,本作では音はモノラルからステレオ(ドルビー・サラウンド7.1)に,画面はシネスコ・サイズ(1:2.35)へとジャンプする。どうせなら,ここで2D→3Dに移行すれば良かったのに,3D版は最初から全編3D上映である。即ち,映画の最初はスタンダード・サイズ&3Dという奇妙な上映方式だ。途中でメガネを着用させることを避けたのだろうが,どうせ「ハイ,ここからがオズの国です」と区切りをつけるなら,途中着用の方が賢明だったと思う。
 
 
 
 
 
写真1 さてここからが,ステレオ・サウンド,シネスコ・サイズのカラーで描くオズの国
 
 
  ■ CG/VFXはモノクロ画面の間にも気球や竜巻などの描写でも登場するが,オズの国ではもうCGが満開だ。何にしろ,屋外撮影は一切なく,すべてがスタジオ内撮影というから,背景を描き込んだVFXシーンが約2,000というのも頷ける。西の魔女セオドアが登場し,2人で辿る道筋は,『魔法使』よりも『アリス・イン……』にそっくりだ(写真2)。意図的に似せていて,同じ観客層の動員を狙っていると感じられる。この前半部での良い出来だと感じたのは,川の妖精(写真3)のクリーチャー・デザインだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
写真2 オズの国の印象は,アリスが辿ったワンダーランドそっくり
 
 
 
 
 
 
写真3 オズの国で早速登場する川の妖精
 
 
  ■ 『魔法使』でドロシーのお供をするのは,案山子,ブリキ男,ライオンだが,本作では登場しない。変わって登場するのは,案内役で翼のある猿のフィンリー,孤児でオズに助けられるチャイナ・ガール(中国女ではなく,陶器製の少女),そして歌好きの陽気な小人のナックである。ナックは本物の小人俳優トニー・コックスが演じているのに対して,前2者はCG製だ。最近のCG技術をもってすれば,これくらいは不思議ではないが,いずれも良くできている。フィンリーは表情も,毛並みも,羽の動きも,かなり試行錯誤した結果の産物のようだ(写真4)。それ以上に印象的なのがチャイナ・ガールで,微妙な光沢感が素晴らしい(写真5)。表情も動きも手付けではなく,MoCapだろうが,少しぎこちなく人形らしく仕上げている。CGの脇役たちが最大の収穫だ。
 
 
 
 
 
写真4 CG製脇役の筆頭は翼のある猿のフィンリー
 
 
 
 
 
写真5 微妙な光沢感が素晴らしい陶器の少女
 
 
  ■ 『魔法使』との比較で特筆すべきは,グリンダの魔法で生み出されるシャボン玉だ(写真6)。 『魔法使』ではピンクの不透明の玉が登場するだけで,とても中に人がいるとは見えない奇妙なものだった。戦前の1939年と比較して表現力の大幅アップは当然だが,それを考慮に入れても,実に見事にシャボン玉らしく見せている。単純に透明な球を重畳するだけではこうは見えない。虹色の映り込み,僅かな屈折,人が中にいるゆえの変形なども表現している。その他では,魔女セオドアが発する炎や,彼女が乗って飛び去る魔法の箒と黒煙なども上々の表現だ。VFXシーンは,Sony Pictures Imageworksがほぼ1社で大半を担当している。
 
 
 
 
 
写真6 映り込みや微妙な変形が絶妙
(C) 2012 Disney Enterprises, Inc.
 
 
  ■ 『アリス・イン……』とは異なり,本作はフェイク3Dでなく,2台のカメラで撮影したリアル3Dである。ただし,さほど3D効果は感じられず,可もなく不可もなくと言ったところだろうか。その半面,物語としては見応えがあり,とりわけ終盤の盛り上げはしっかりしていて,娯楽大作としては十分合格点を与えられる。 
 
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